表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
我が国最強の魔術師が王女であるわたくしを狙っています!  作者: 古堂素央
第二部 師弟以上恋人未満編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/31

第30話 桜色の攻防

 魔術術式の教本をめくりつつ、ユスティーナは小さくため息をこぼした。

 書かれているのは、初歩的な水魔術の術式だ。

 実際にこの術式を展開できたら、どれほど気持ちがいいことだろうか。


(それをするだけの魔力を、わたくしはちゃんと持っているのに)


 しかしユスティーナはそんな簡単な魔術すら扱えないでいる。

 亡き母が施した魔力封印の禁呪によって。


 向かいに座る家庭教師の顔を盗み見た。

 国最強の魔術師であるシルヴェステルは、先ほどから異国の本を読みふけっている。


「ユス? さぼっていないで真面目に課題をこなしてください」


 ふいに視線を向けられて、ユスティーナはシルヴェステルと見つめ合った。

 ユスティーナの封印された魔力を知る者は、このシルヴェステルだけだ。

 そしてその封印の扉の鍵を開けられるのも――。


「ねぇ、シルヴェステル」

「駄目です」


 テーブル越しに身を乗り出したユスティーナに、すかさず冷たい声が返される。

 手をついて胸を教本に乗せたまま、ユスティーナは桜色の唇を尖らせた。


「まだ何も言ってないじゃない」

「どうせ封印の扉を開けろとでも言うのでしょう? 絶対に駄目です」

「どうして? ちょっとくらい魔力を使わせてくれたっていいじゃない。今なら誰も見ていないのだし」

「そういう問題ではありません。先日三日間も寝込んだことをお忘れですか?」


 シルヴェステルが言っているのは、魔によって破られそうになった防壁をユスティーナの魔術で見事修復してみせた日のことだ。

 その功績はシルヴェステルのものとなってしまったが、ユスティーナは確かに自らの力で魔術を行使することができた。

 そのときの高揚感をユスティーナは忘れられないでいる。


「あの時みたいに大きな魔術は使わないもの。ね、ちょこっと。ちょこっとだけでいいから」

「駄目です。さっさと課題の続きを」


 そっけなく返されて、ユスティーナの唇がますますとんがった。


王女(わたくし)の命令よ」

「魔術に関してはユスティーナ様はわたしの弟子です。師匠の言葉には絶対服従するのが魔導院の掟。王女とは言え、黙って従っていただきます」

「なによ、シルヴェステルの強情っぱり! この石頭っ!」


 ずいと身を乗り出して、更に顔を近づける。

 机の上から至近距離でシルヴェステルを睨みつけた。


「なんですか、そのはしたない真似は」

「そうさせているのはシルヴェステルじゃない」

「また随分と子供じみたことを。ユス、今すぐそのアヒルのような口を引っ込めなさい」

「あ、アヒルってなによっ。子供扱いしないでったら!」


 適当にあしらわれ、ユスティーナの頬がかっと上気する。

 そんなユスティーナを見て、シルヴェステルからすっと表情が消え去った。


「でしたら言い方を変えましょう。これ以上その姿勢でいるのなら、今すぐユスに口づけますよ」

「なっ」


 熱を帯びた真剣な瞳を向けられて、ユスティーナの声が上ずった。

 ぼんっと顔を真っ赤にして、ユスティーナは元いた椅子へと瞬時に舞い戻った。

 収まらない動悸に、無意識のまま胸に手を当てる。


「聞き分けのいい生徒で助かります。さぁ、課題の続きをどうぞ」


 それだけ言うと、普段通りの態度でシルヴェステルは読書を再開した。

 その余裕の表情を前に、混乱したユスティーナの頭がいくらか冷えてくる。


(し、し、し、シルヴェステルの馬鹿ぁ……!)


 ようやくからかわれたことが分かり、涙目で唇をかみしめるしかできないユスティーナだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ