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イリスの前世

 私はイリス・バーネット十六歳。ウェネーフィカ王国の高位貴族の家に長女として生まれた。しかし生まれてすぐに広大な敷地内の奥にある、森の小さな離れに軟禁されて育てられた。私を育ててくれたのは乳母の婆やだった。

 その日も通いの乳母の訪れを待っていた。しかしいくら待っても乳母はやって来ず、替わりに父の侍従を名乗る男がやって来た。

 男は私の腕を掴むと、引き摺って離れの地下牢に私を放り込んだ。私は閉じた扉にすがりついて叫んだ。


「待って!婆やはどうしたの!?婆やに会わせて!」

「婆さんは死んだ、諦めるんだな」


 男は舌打ちした後そう言い捨てて去って行った。そんなはずはない、昨日までいつも通り挨拶して別れたのだ。婆やが死んだなんて信じられない。






 それから幾日過ぎただろう。私は地下牢で膝を抱えていた。空腹と喉の渇きを我慢できずに、何でも口に入れようとした。ここにはあれから誰も来ない。

 飢えて死ぬように仕向ける程、父は私が憎いのか。私が何をしたというのだろう。ただ生まれてきただけではないか。それが罪だと言うなら、赤子の時に始末すればよかったのに。

 いっそあの侍従に一思いに殺すよう命ずるだけでいいのに。苦しむことを望まれる程、憎まれているのか。


 昼も夜もない暗い牢の中で夢を見た。こことは違う清潔な部屋で、女の子がパソコンに向かって熱心にゲームをしている。

 そのゲームの内容は冒険しながら美少女達と恋愛し、最終的にその美少女達と一夜を共にするという、男性向けのR18要素のある育成シュミレーションRPGゲームだ。

 最近そのゲームが女性に人気だとSNSで話題になり、興味をひかれてダウンロードしたら嵌まったのだ。


 パソコン?ゲーム?あれは私だ。私はイリス・バーネットもうすぐ死ぬ女の子。親に死を望まれた子供。

 いやいや、ゲームの展開だと確かあの侍従がやって来て、奴隷商に売られるんだよね。それで死ぬことはないはずだ。その後どうなるんだっけ?――ああ、私イリスに転生したのね。


 鏡、鏡はないかと見回すと手の平サイズの手鏡がポケットに入っていた。無意識に指先に火を灯す。あれ?私魔法は使えないはずでは?


 魔法の火に照らされた私は、やっぱりイリスだった。真っ直ぐの黒髪が背中まで伸ばされていて、瞳は紫色。弓なりの眉に、アーモンド型のぱっちりな二重を縁取る真っ直ぐな長い睫。唇は少しぼってりしていて、幼さを残しつつ色気がある。今は痩せて顔色も悪いけれど、さすがにヒロイン。文句のない美少女だ。


 イリスは前世でプレイしていたゲーム、『君とドキドキアイランド』の四人いる固定ヒロインのうちの一人だ。


 



 

 

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