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魔女学園のTS生徒〜被検体の俺は美少女の皮を着せられ、魔女学園(女子校)へ編入する事に〜  作者: 海神 アリア
第3章 聖なる乙女の光と闇

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第3章4話 悪魔の夜と聖なる乙女

今回の話では前半部分に、人によっては『残酷な描写』、『闇が深い描写』と感じると思われる箇所があります。予め、ご容赦くださいませ。

(東京都内のとある一軒家にて)


 東京の街で発生した悪魔事件と時を同じくして、この場所にもまた悪魔が出没しようとしていた。具体的に言えば、とある一軒家の地下室で『悪魔を召喚する儀式』が行われている。


 地下室の状態は、端的に言って酷い有様だった。

 まず目をひくのは、其処彼処(そこかしこ)に散らばっている動物の死体だ。犬、猫、鳩、鶏、猪、熊……多種多様な動物達は首を切り落とされている。

 次に、床一面に描かれた真っ赤な魔法陣だ。そのインクは何を隠そう、先述した動物達の血を用いている。

 他にも髑髏のオブジェクトや積み上げられた魔導書、人の手を模った悪趣味な燭台などが置かれているが、悪辣さで言えば魔法陣の中央に横たわる『二人の子供』に勝るものは無いだろう。


 彼女らは、この家で暮らす姉妹だった。

 年々魔法が衰退していくこの世界において、彼らの家系もまた没落の一途を辿っていた。このままでは、いずれ自分達の子孫は魔法が使えなくなるのは明白だ。

 故に、姉妹の両親は此度の儀式に踏み込んだのである。今の地球に於いて、人工的に生み出された『魔力生物』ではなく『生きている悪魔』を呼び出すのは至難の業だ。一切の人道を無視した場合、それを成し遂げられたなら紛れもなく『偉業』と言える程である。更に、あわよくば召喚した悪魔と契約を交わし、自分達の寿命と魔力を飛躍的に上昇させる目論見もある。


 姉妹は手足を縛られ、『悪魔への供物』として捧げられるのだ。本来、儀式の生贄は別に起きている必要はない。古代の魔術師はせめてもの慈悲として、魔法や薬で生贄を眠らせてから儀式に臨んでいた。だが、姉妹の両親達は違った。寧ろ、『人生の最期に、貴重な儀式を体験させてあげる』為に、手足と口は縛っていても、目隠しだけはしなかった。


 父親が嬉々として儀式の準備を進め、母親が怪しい呪文を唱える様を見せられるのは、贄にされる子供にとって地獄の光景でしかなかった。やがて魔法陣が強烈な光を放ち、姉妹はその眩しさに目を瞑った。


 …………。

 ……。


 少女達は、目を開ける事が出来ずにいた。

 部屋の中に充満した血の匂いと、微かに聞こえてくる咀嚼音が、彼女達の瞼を縛りつける。


(…………?)


 だが、すぐに少女達は、自分達の置かれた状況に違和感を覚えた。自分達はまだ生きている。オマケに、先程から『何かを貪る音』が聞こえているのに、自分達の身体はちっとも痛くないからだ。贄となる筈だった姉妹は、恐る恐る瞼を開ける。


「…………え?」


「お姉さん、誰……?」


 魔法陣の中に現れたのは、修道服に身を包んだ茶髪の少女だった。この悍ましい部屋には似つかわしくない可憐な聖女は、地に伏した姉妹を見て憐憫の表情を見せる。


「ああ、幼き子供達よ……。欲深い者らによって虐げられし小さな命よ……。ですが、もう大丈夫。貴女達に待ち受ける悲劇の運命は、この私がねじ伏せて見せましょう」


 茶髪の聖女は手にした杖を縛られた姉妹にかざし、杖が光を放つと縄が一人でに解けていった。


「それにしても…」


茶髪の聖女は地下室を見渡して、表情を少し険しくした。


「いけませんね、いけませんよ。風通しの悪い地下室で、生き物の死体を用いた儀式を行うなんて。子供達の健康を害したらどうするのですか」


聖女が再び杖を振るうと、室内にそよ風が吹き始めた。風魔法で地下室に新鮮な空気が送り込まれ、更に聖女は動物達の死体の側へ行き、贄となり生涯を終えた生き物へ祈りを捧げる。すると、動物達の身体は光の粒子となって、そよ風と共に扉の隙間から去っていく。


 その様子を、彼女らの両親は口を開けて眺めていた。それはそうだ。『悪魔を呼び出す儀式』を行った筈なのに、魔法陣に現れたのは、悪魔とは似ても似つかない美少女ではないか。


 否、冷静に考えれば、普通の女の子が突然地下室に出現する訳がない。ならば、この聖女の正体は一つしか有り得ない。


「もしかして君が、私達の呼び出した『悪魔』なのかな?」


 父親が恐る恐る、眼前の奇妙な雰囲気を放つ少女と対話を試みる。


「……はぁ?」


 先程まで姉妹の身を案じ、部屋の有様に眉をひそめて、換気や死体の処理や浄化を行っていた聖女は、あからさまに不機嫌な表情を見せた。


「初対面の()()を悪魔呼ばわりとは……。いけませんね、いけませんよ。やはりこの世界の大人は、野蛮で礼儀知らずですね」


 ため息混じりに吐き捨てると聖女は立ち上がり、漆黒のロングスカートの裾を持って一礼する。


「私は見ての通りの人間、しがない『聖女』でございます。我が名は『ショコラ・ヴァレンタイン』、名前が言いにくい場合は『シスター14(フォーティーン)』とお呼び下さいませ」


「『シスター14(フォーティーン)』……?」


 拘束から解かれた少女達は、眼前の奇妙な聖女が口にした言葉を復唱する。


「左様でございます、子供達よ。数字の『14』とは『幸せの数字』、幸福(フォーチュン)を招く数字なのです。さて、私はお二人のご両親と少しお話しがありますので、暫しお休みなさいな」


 ショコラは笑顔で答え、催眠魔法で姉妹を眠らせた。聖女の顔は宛ら慈悲深い女神の様であり、先程までの不機嫌極まりない表情からの変貌っぷりに、この家の主達は戸惑いを隠せずにいた。


「ま、待ちなさいよ……!悪魔は何処よ?私達が召喚した、『炎の悪魔-シャイタン』は!?」


「そうだ、儀式は確かに成功した!なら今、魔法陣の中に居るべきなのはシャイタンだ!聖女なんてお呼びじゃない!」


「成程、お探しの物は()()でしょうか?」


 シスター14の影の中から、ドス黒いスライム状の肉塊が這い出て来た。室内が薄暗い所為で今まで気が付かなかったが、グチョグチョと音を立てて蠢くソレは、先刻から部屋に咀嚼音を響かせていた張本人であった。そして肉塊は、『プッ』と音を立ててある物を吐き出した。


「ひっ!?」


「な、何だコレ!?」


 放物線を描いて足元に飛来して来た物を見て、夫婦はたちまち恐怖に青ざめた。何故ならそれは、()()()()()()()()()()()()だったからだ。


「うわああっ!!」


 悪魔と目が合った父親は、人外の怪物が浮かべている絶望の表情を見てしまった男は、その場で尻餅をついた。母親の方も悲鳴こそ上げないが、黒いスライムが再び悪魔の頭部を飲み込む様を、歯の根が合わずにただ眺めるしかなかった。


「ふぅ、ご馳走様でした」


 ハンカチで口元を拭う聖女ショコラに、この家の魔女は必死に声を絞り出す。


「あ、貴女、一体何者なの!?何の用があって、人様の家にズカズカと入り込んでいるのよ!?」


「理由は色々ありますが……一番は()()()()()()()悪魔の気配を感じたからですね」


「一体、貴女は何を言っているの……?」


「うーん……口で説明するより、実際に見て頂いた方が早そうですね」


 聖女は懐から水晶玉を取り出し、宙に浮かべた。水晶玉からは光が放たれ、地下室の壁に映像を投影し始めた。


 それは、街中で悪魔が暴れている映像だった。周囲の雑居ビルより巨大な怪物は、建物のガラスや道路を破壊している。だが、出現した三体の悪魔は光の鎖に拘束され、15歳の少女達による健闘の末、見事に討伐を果たされたのだった。


「……………………」


 上映が終わった後も、二人の観客は口を閉ざしたままだ。魔女と知覚者であるこの夫婦には、今の映像が陳腐なB級映画などではなく、『実際に起こった現象』だという事が直感で理解できた。やがて、我に返ったお客様はスマートフォンで調べ始める。ニュースサイトには『原因不明の事故』の記事が、魔女達が使う秘密の掲示板には『悪魔出没』の話題が存在している。


 即ち、自分達が地下室でちっぽけな儀式を行っている間、時を同じくして強力な悪魔を三体も呼び寄せた存在がいたと言う事だ。夫婦はその事実に打ちひしがれた。


「ほうほう、これが先程行われた『儀式』の内容ですか。そして、こちらの本は呪術系の魔法、こちらは降霊術関係の魔導書ですね」


 シスター14は家主の自失など我関せずといった様子で、地下室の書物を読み漁っている。より厳密に言えば、魔法で何冊もの本を宙に浮かせ、そのままページをパラパラと捲っているのだ。速読が特技の聖女ショコラは、粗方の書物を読み終えた後、大きく溜息をついた。


「『人道を捨て去る事でこそ、より強大な魔術を行使できる』とでも言いたげな書物ばかりでした。

 全くもって嘆かわしい……自分達の子供を贄として巻き込む外道さにも、この様なお粗末極まりない儀式を有り難がる稚拙な精神性にも心底辟易します。最も、この家に伝わる魔術の程度を考えれば然もありなん、『落ちぶれるべくして落ちぶれた』と言ったところでしょうか?」


 怒りと失望が織り混ざった声色で、ショコラは侮蔑の視線を大人たちに向ける。


「ふ、ふざけるな!出会ったばかりの小娘に、好き勝手言われる筋合いは無い!」


「そうよ!魔法がどんどん衰える世の中で成果を上げるには、自分の子供を切り捨てるくらいの覚悟が必要なの!あの子達だって、普通に生きていれば体験出来ない『魔術の深淵』を体験出来たのよ!魔法使いの親として、当然の事をしたまでだわ!」


「よく分かりました。不快極まりないので、少し黙ってください」


 シスターが、がなり立てる夫婦に手のひらを向けると、先程悪魔を捕食したスライムが、身体の一部を鉤爪に変形させて、大人たちの顔面を切り裂いた。


「ぎゃああっ!」


「痛ッ、いやあああっ!」


 苦痛に悶える夫婦を、聖女ショコラは冷たい眼差しで見据えている。


「その程度の魔法使い、この世界にも()()()()()にも不要です。貴方達には何の価値も意味もない、そして精神衛生上大変よろしくないので処分致します」


「な……いや、待て、待ってくれ!君が見た魔導書はほんの一部だろ?この家には他にも色々な魔導書や魔術道具がある!」


「ええ、旦那の言う通りよ!この家にあるもの、全てあげるわ!だから、ね、私の命まで取らないで!」


 氷の様な殺意を向けられ、魔術師の子孫達は必死に命乞いをする。


「別に、この世界……地球に存在する魔導書に興味はありません。この家で得られた『知識』から、大体のレベルは掴めました。ハッキリ申し上げて、余りにお粗末極まりない。そして先ほどの映像、悪魔達と戦った少女達への反応で理解出来ました。貴方方は恐らく、私の欲する『知識』を持ち合わせていない」


 異邦の聖女、シスター14は失望の表情を浮かべて吐き捨てた。だがその直後、1ナノグラム程度の期待を込めて質問をした。


「一応、聞くだけ聞いておきますが……『運命因子の魔女』について何かご存知でしょうか?」


「う、運命因子……?」


「そうですね……『奇跡を起こす魔女』と言い換えましょうか?」


「…………」


 夫婦の無言の反応に、ショコラが微粒子程度には抱いていた期待が完全に消え去った。


「分かりました、もう結構です」


 冷ややかに言い放つと、聖女は床に魔法陣を出現させた。妖しく光その魔法陣の中からは、漆黒の生きる鎧(リビング・メイル)が召喚された。


「最後に一つ、供物を捧げてくださった返礼として、御二方に『知識』を授けましょう。先程お見せした『悪魔騒動』ですが……あの三体の悪魔は、私がこの世界の者に()()()()()代物でございます」


「貸し与えた……?」


「ええ。このリビング・メイルと同様、私が手中に収めた……正確には『食した』悪魔でございます。そして、一度食べた悪魔は、こうして使役する事が出来るのですよ。最も、この世界の人間には、リビング・メイルの様な上級悪魔は貸せませんが」


 論より証拠と言わんばかりに、聖女ショコラは先程より小さい魔法陣を出現させる。その中からは、黒いスライムに捕食されたシャイタンが放り出された。新入りとなった悪魔は顔合わせだけ済まされ、再び魔法陣の中へ吸い込まれていった。


「それでは12回、私が先程与えた傷と合わせて合計『13回』になる様に切り刻みなさい」


 物言わぬ騎士は主人の命令を、携えた剣で忠実にこなしてみせた。我が子を贄に捧げた対価は余りにも大きすぎた。恐怖、苦痛、絶望、そして魔術の奥底を垣間見た事への僅かばかりの恍惚感に、遺体の顔は塗り潰されていた。


 ◆◆◆

(同一軒家、一階のリビングルームにて)


「ん……あれ?私、寝てた……?」


 姉妹の内、姉の方がソファーの上で目を覚ました。


「お姉ちゃん!!」


 先に目を覚ましていた妹が、起き上がった姉に抱きついた。


「良かった……ちゃんとお姉ちゃんも生きてる……!」


 涙ぐむ妹を、姉は優しく抱きしめる。だが、少し落ち着くと、否が応でも記憶が呼び起こされる。先程、自分達の身に降りかかった悍ましい出来事。そして、自分達を助けてくれた『シスター14』を名乗る少女の事を。


「何事もなくお目覚めになられた様ですね。おはようございます、無垢なる子供達よ」


 シスター14こと聖女ショコラは、リビングの中央で祈りを捧げていた。命の恩人である聖女の神々しさに、姉妹は思わず目を奪われてしまった。


「あ、あのっ……!あたし達を助けてくれて、ありがとうございました!」


「礼には及びません。貴女達の様に、不幸に苛まれる子供を助けるのが、聖女としての勤めですから」


 そう言うと、ショコラはこの家の長女を優しく抱擁する。


「し、『シスター14』さん?」


「妹さんからお聞きしました……。貴女が今、『13歳』である事を……」


 ショコラは慈しみの涙を流しながら、少女に語りかける。


「『13』とは不幸の数字、厄を招く数字なのです。だからこそ、大人達は子供が13歳になった時に支えなければならないのです。一年間、子供達が不幸に負けない様に、悲劇に見舞われた時に守ってあげられる様に。そして苦難に満ちた一年間を乗り越えて14歳を迎えた子供達へ、精一杯の祝福とこの世に生を受けた事への感謝を伝えなければならないのです。だと言うのに、あの大人達ときたら…………!」


 シスター14は、自らの人生を通じて学んだ事を、少女らに語り聞かせた。姉妹はショコラの手が震えているのを察知した。そして、聖女が両親の事を話題に出した事で、恐る恐る尋ねる。


「あの、お父さんとお母さんは……」


 その後に続ける言葉が見つからない。『無事ですか?』と聞くのは違う気がする。自分らを殺そうとした大人を心配するのは、流石に『お人好し』が過ぎるだろう。だが、『どうなりましたか?』と聞くのも、それはそれで回答が怖い。


 そんな少女の不安を察したのか、聖女は彼女らの目を見て、淡々と彼らの結末を告げた。


「死にました。貴女達の両親は、悪魔に取り憑かれていました。あそこまで心が汚染された状態では、私にはどうする事も出来ず、彼らの命は諦めるしかなかったのです」


 暫しの静寂が、リビングルームを包み込む。


『悪魔に取り憑かれていた』と言うのは勿論嘘である。これは姉妹を気遣った優しい嘘でもあり、『人間の持つ悪意は、悪魔の内面と何の差も無い』というショコラの持論でもある。


 少女達は、悲しんだら良いのか、悔やんだら良いのか、或いは喜んだら良いのか分からなかった。だが、例え悪魔に捧げようとした相手の死であっても、手放しに喜ぶ事は出来なかった。仮にも共に過ごした家族であり、簡単に割り切る事は出来なかったのだ。


「……両親を見捨てた私の事を、貴女達は恨んでいますか?」


 聖女ショコラは少女達に問いかけた。


「ううん、ショコラさんは……私とお姉ちゃんの事を助けてくれたから……シスターさんは良い人だから……」


 瞳から大粒の涙を溢しながら、妹はシスター14の行動を肯定する。姉の方も、涙を堪えながら頷いている。あの様な目に遭って尚、『両親は死んで当然だった』と簡単に割り切らない辺り、この姉妹は心優しい人間なのだろう。


(そう……この様な無垢な子供達こそ、救われるべきなのです)


「もしお望みであれば、私が働いている教会へお二人を預かって頂く事もできます。私は、貴女達姉妹が健やかに育つ事を望んでいますよ」


 聖女の言葉を受けて、少女達の瞳に希望の光が宿った。姉妹が負った心の傷は、あまりに大き過ぎた。だが、暗闇に堕ち行く心を、照らしてくれる存在が目の前に現れた。これを『奇跡』と呼ばずして何と表現出来るだろうか?少女達は、自分達の運命を変えてくれた聖女の提案に、甘えさせて貰うことにした。


 シスター14は普段孤児達にしている様に、姉妹に食事を取らせ、ベッドに寝かしつけた。()()()()()を救った聖女は、ホッと息を溢した。


(とはいえ、『運命因子』に関する収穫はほぼゼロですね……)


 先程地下室で捕食した悪魔も、魔導書から得た知識も、ショコラにとっては腹の足しにもならない。精々、この世界における魔術の平均値(アベレージ)を再認識した程度だ。街中に召喚された『ギガ・デーモン』も、運命因子そのものを誘き出す餌にはならなかった。警戒の矛先を逸らす事が出来たり、そこそこ腕の立つ者達を発見出来たりと成果が無い事もないが、本命が釣れない事には始まらない。


 それ以外の、この世界に蔓延る有象無象の塵芥など、ショコラにとってはどうでも良い存在だ。しかし、無垢な存在である子供達の命は必要以上に奪いたくないし、この姉妹の様な人間へは、救いの手を差し伸べたいと聖女は考えていた。


 かつて自分を救ってくれた、『大賢者ラジエル』のように。


 だからこそ、聖女はこの重大な任務を成功させて、恩人の期待に応える必要があった。悪魔騒動で目眩しをしつつ、『本命』の作戦を遂行する。それがショコラの任務だ。もう少し具体的に言えば、昨晩の内に接触した『シラユリ家』を利用した作戦。『シラユリ・ヒジリ』が抱える『闇』を通じて、運命因子の確保に乗り出す、という物だ。


 勿論、神に仕える聖女の端くれであり、そしてヒジリの()()であるショコラは、彼女の事も本気で救済するつもりである。


(そう……同じ『闇』を抱える者として、私が貴女を導きますよ、ヒジリ)


 聖女はそう考えながら、薄暗い部屋の中で祈りを捧げた。


 ◆◆◆

(同日深夜某時、『白百合 聖』の自室にて)


「んん……」


 私は、寝付けない身体で寝返りを打つ。季節の変わり目は眠りが浅くなりがちだが、寝苦しさの原因は初夏の暑さではない。自分の左胸に手を置くと、心臓が早鐘を打っているのが分かる。それは漠然とした不安、慢性的な緊張に由来するもので、その原因は今夜発生した『悪魔騒動』だ。


『近いうちに異世界人側から、"大きな動き"があるの。だから、どうか力を貸して貰えないかしら?』


 期末試験最終日の放課後、私達は『アゲハの大魔女』であるマギナさんから依頼を受けた。そして私は今日から、蒼蘭ちゃんと炎華ちゃん、そして今日知り合った茜ちゃんと一緒に、『魔女の家』でメイドさんをやりつつ情報収集に励んでいた。最も流石に初日では、これといって有益な情報は得られなかった。


 けれど私がチラシ配りに行った茜ちゃんを待っている時、具体的には『悪魔騒動』が発生した時間に、形容し難い『悪寒』が私の背中を襲ったのだ。風邪とかじゃない、どちらかというと精神的な緊張……或いは、『これから悪い事が起こる』という不吉への予兆みたいな感覚だった。


「ん………」


 私は寝返りを打つ。未だ心臓は激しく動いている。実を言うと、私が寝付けない原因は『漠然とした不安』だけではない。


(メイド服の蒼蘭ちゃん、可愛かったな……)


 そう、今日から私は、メイド服に身を包んだ蒼蘭ちゃんと共に働く事になったのである。


 そして考えても見て欲しい。クラスで気になる女の子がいて、その子が普段着ないような、可愛い服に袖を通しているのだ。自分の、至近距離で。こんなもの、感情を揺り動かされるに決まっているだろう。


 しかも、相手は蒼蘭ちゃんだ。髪型は普段と違うツインテール、表情は普段以上に天真爛漫、そしてお人形の様に可愛らしい容貌に持ち前の良好な発育が『メイド服』という最強装備を引っ提げて顕現したのだ。その上、彼女はシフトの後半で、『細やかなイメージチェンジ』として伊達メガネまで装着したのだ。多分蒼蘭ちゃんは『ちょっとしたアクセント』として身につけたのだろう。普段眼鏡をかけない彼女にとって、それこそ胡椒や七味程度の味変のつもりだったのだろう。


 が、『眼鏡っ子蒼蘭ちゃん』の破壊力はかなりの物だった。七味どころか、海老の天ぷら3本に匹敵するレベルの味変、否、豪華トッピングである。そんなスペシャルな代物を目の前にして、心がときめかない訳がないではないか!


 付け加えて言うなら、今日の午後に来てくれたヘルプのメイドさん、『小夏川 茜』ちゃんにも心を動かされた。今日の私はまだ、お客様の料理に『美味しくなるおまじない』をかけるのに慣れていなかった。


『それじゃ、私と一緒におまじないをかけよっか☆」


 茜ちゃんはそう言って、私と一緒におまじないをかけてくれたのだ。2人でハートを作ったり、シェイカーを一緒に振ってくれたり、接客に慣れてなかった私はヘルプのギャル系メイドさんにとても助けられた。


『お疲れ様、聖ちゃん、ほのち!また、次のシフトで会おうね!』


 仕事終わりに見せてくれた彼女の笑顔が、やけに印象的だった。思い返せばここ最近、私は笑顔が素敵な女の子に縁がある。蒼蘭ちゃん、リリアちゃん、茜ちゃん、そして、クロニカさん。上手く説明出来ないけれど、私は()()()()()()()()()()()()()()()


(あー、もう、寝れない!明日もお仕事なのに!)


 悶々とした気持ちが収まらず、私はベッドから起きて冷蔵庫のドアを開けた。そして睡眠導入用のポーションを飲み、自分自身に『リラクゼーション・オーラ』をかけて、やや強引に精神を落ち着かせる。時刻は午後11時過ぎ、流石に日付が変わるまでに眠らないとマズい。蒼蘭ちゃんや炎華ちゃんに、寝不足な自分を見せる訳にはいかないからだ。私は再び横になり、少しずつ重くなってきた瞼を閉じ、微睡の海の中へ漸く沈む事ができた。

謎の聖女、『シスター14』こと『ショコラ・ヴァレンタイン』。果たして、彼女はどう言った動きを見せるのか、是非見届けてくださいませ。


そして、心が休まらない聖ちゃん。確かに彼女は、短期間の内に色々な女の子と知り合いになっていますね……。

つまり、聖ちゃんはハーレム作品の主人公だった!?(ダイナミックすっとぼけ)


…という冗談はさて置き、次回は日曜日投稿予定です。また、第3章の感想などありましたら、例えば今までと違う作中の雰囲気についての感想やメイドさんが可愛いとかの感想がありましたら、是非お気軽にお聞かせ願います。

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