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魔女学園のTS生徒〜被検体の俺は美少女の皮を着せられ、魔女学園(女子校)へ編入する事に〜  作者: 海神 アリア
第3章 聖なる乙女の光と闇

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第3章3話 少女とメイドと魔女の家②

今回は前回とは打って変わり、メイドさん達による接客がメインです。メイド喫茶で繰り広げられる一幕を見守ってください。

 ◆◆◆


「さぁ、お入りくださいませ、えーこお嬢様♪」


 私は喫茶店のドアを開け、新たに迎えた『お嬢様』を席へご案内する。影子ちゃんを落ち着かせたり、路地裏で一悶着あったせいで、戻るのが遅くなってしまった。


「あ、茜ちゃん!良かった、何とも無かったんだね!」


「お、新しいお嬢様連れて来たの?あーちゃん、張り切ってんね!」


「あれ?聖ちゃんもほのちも、シフトは終わりじゃなかった?」


 私は店の時計と、目の前の友人を交互に確認する。


「んー、そうなんだけど……あーちゃん、中々戻って来ないからさ」


「心配だったから、茜ちゃんが戻ってくるまでもう少しお仕事続ける事にしたの。勿論、店長には許可を貰っているよ」


 レジの方を見ると、店長を勤めるステラさんが、ハンドサインで合図を送っていた。分かりきっていた事だが、この子達、良いヤツ過ぎないか?一応、『小夏川 茜』は今日出会ったばかりの初対面メイドだぞ?それなのに、私の身を案じてくれるとは、なんて親切な魔法使いなんだろうか。


「待っててくれたんだ。ごめん、心配かけちゃって」


「ううん、茜ちゃんが無事なら大丈夫」


「そうそう!それに、あんまお嬢様を待たせるのも良くないよね」


 そういうと、炎華は空いている席に影子ちゃんを案内する。


「こちら、メニューになります。ごゆっくり選んでくださいね、お嬢様♪」


 炎華に渡されたメニューを、影子ちゃんはパラパラと捲り始める。が、次第に彼女の表情が落ち込んで来た。それを見て、私はお嬢様の側に寄って小声で耳打ちをする


(どうかした、えーこちゃん?)


「ひゃあっ?」


「え?マジでどしたん?」


「いや、だって、茜ちゃん見たいな可愛い子が、いきなり顔なんて近づけたら……」


 そうだった。今の私は姉貴が気合いを入れてメイクした、都会の美少女ギャルだと言う事を忘れていた。ビジュの良いギャルにグイグイ来られたら、そりゃビックリするだろう。私だってそうだ。編入したての頃は、炎華のスキンシップやフレンドリーさに、内心ドキドキさせられていた。いかんいかん、気をつけなければ。


(ごめんて。それで、何かお困り事?)


(その……やっぱり私、帰るよ)


(え、何で?)


(……恥ずかしながら、待ち合わせが……)


 しまった、影子ちゃんに前もって言っておくべきだった。


(大丈夫!今日はあーしに奢らせて!)


(ええっ!?そんな、悪いよ!?)


(気にしなくて平気へーき!それに、影子ちゃんには色々と知って欲しいからさ。このお店の事とか、『魔法の世界』の事とか!)


 既に店までの道中で、影子ちゃんの身の上話は聞いている。家出少女にメイド喫茶のメニューは、確かにお財布には優しくない。しかし、だからといって傷ついている彼女を放っては置けなかった。それに、悪人に騙された彼女は、このままでは『魔法』に対して悪印象を抱き続けてしまうだろう。それは、余りにも悲しい事だと感じたからだ。


「聖ちゃん、ほのち、二人にお願いしても良い?」


 私は友人を連れて厨房に行き、お嬢様の事情をかい摘んで話した。


「……と言う訳で、お嬢様に『魔法の家』を楽しんで欲しいなって」


「なるほどね……そうゆー事なら任せて!あーしに良さげなアイデアあるから!」


「ありがとう、ほのち!あーしも、出来立てのお料理作るから!」


 頼れる友人からの協力を得られた以上、私も精一杯お持て成しをしないとな。


「待って、茜ちゃん。多分、多分だけど……茜ちゃんは影子ちゃんと居た方が良いと思うな。きっと、慣れない場所で不安だろうから」


「そっか……言われてみれば、確かにそうだよね」


 私一人では気が付かなかった視点から、聖はアドバイスをしてくれた。


「じゃあさ、あーちゃんとひじりんは、えーこちゃんの席に行っててよ。あ、ついでに、このお料理持って行って!」


 実家が食堂なだけあって、炎華の指示は的確且つ様になっていた。因みに、今の彼女はネイルをしていない。魔法の世界では、付け外しがとても簡単な『魔法のネイルチップ』が存在しており、原宿で炎華が訪れたのはそのお店だったのだ。


「お待たせ致しました。先ずはこちら、オレンジジュースとサンドイッチでございます」


 私達は席に戻り、炎華から渡された料理を運んだ。このサンドイッチは予め作り置きをして、食料保存の魔法で鮮度を保っている。私がアディラ嬢との演習前に修行をつけて貰った時、マギナさんにご馳走になった時も、同じ魔法が使われていた。この喫茶店にあるのは、文字通り『魔法の冷蔵庫』と『魔法の温蔵庫』なのだ。


 そして、サンドイッチを目にした影子ちゃんの腹の虫は勢いよく鳴った。


「さぁ、召し上がれ、お嬢様」


「……やっぱり、頂けません」


 影子ちゃんは、俯いたまま声を絞り出した。


「どうして?」


「だって……私は、私が魔術道具(マジック・アイテム)を使った所為で!沢山の人が、きっと酷い目に……」


 彼女は嗚咽を漏らし、大粒の涙を流した。その様子を見た聖は、優しく彼女の頭を撫でる。いや、ただ撫でているだけではない。心を落ち着かせる優しい魔法、『リラクゼーション・オーラ』で、彼女が陥った深い悲しみを和らげようとしているのか。


「大丈夫。まずは、落ち着いて話を聞いてください、お嬢様」


「でも……でも私は……」


「だって、さっきの『悪魔騒動』では、死傷者は一人も出なかったんだよ?」


「ええっ!?」


 聖の言葉に、影子お嬢様は椅子から転げ落ちそうな勢いで驚いた。


「いや、そんな筈ないでしょ!?だって、あんな大きな化け物が三体も召喚されたんだよ!?」


「なんだい。あんた、知らなかったのかい?」


 まだ僅かに残っていた他のお客様、40〜50歳くらいのマダム系お嬢様が家出少女に声をかけた。


「この店の子達くらいの歳の子がね、街に現れた化け物をやっつけてくれたのさ!特に、あの『砂の魔女』は凄かったね!バカデカい悪魔相手に、ゴーレムで力比べを挑んだんだから!いやぁ、こんな若い子が大したもんだよ!こんな凄い魔法使いの卵が居るってんなら、まだまだ、魔法の世界も捨てたもんじゃないね!良いもん見せて貰ったよ!」


 そう言うと、そのお客様は影子ちゃんに水晶板を見せてくれた。スマートフォンと似た形状の魔術道具には、誰が録画したのかは分からないが、A組と悪魔との戦いが映像として残されていた。


「凄い……本当に悪魔をやっつけてる!あ、ゴーレムの子以外にも!刀や電気魔法で戦ってる子も居る!このギターの子は……音楽で仲間を強化しているのかな?」


 家出少女は食い入る様に、水晶板の映像を見つめている。


「だからさ、アンタも頑張んなよ?見たところ、アンタもこの子達と同じくらいの歳だろ?私ら見たいな年寄りじゃなくて、若い子達が魔法の世界を引っ張っていくんだよ」


 そう言うと、お客様は会計をしにレジへ向かった。そして、彼女が店から去ったのを見て、再び家出少女の腹の虫が鳴った。


「……本当に、食べて良いんですよね?」


「勿論!」


「……頂きます!」


 家出少女は、とてもお腹を空かせていた様だ。朝のうちに炎華と蒼蘭ちゃんが作った料理を、夢中で食べている。


「ありがとう、美味しい……とても美味しいよ……」


 涙を流しながらも、影子ちゃんは美味しそうにサンドイッチを食べている。良かった、お嬢様を無事に笑顔にする事ができた。


「そうだ、お嬢様。少し、お洋服を見せてください」


「へ?私の服?」


「裾とかちょっと破れてますね」


「あ、本当だ。何処かに引っ掛けちゃったのかも」


「では、僭越ながら……『リペア』!」


 聖の修繕魔法で、服の穴は綺麗に塞がった。


「凄い!服があっという間に直っちゃった!」


「でしょ?聖ちゃんは、怪我を治す回復魔法や、物を直す修繕魔法が使えるの!」


「うん!聖さん、ありがとうございます」


「ううん、これくらい、ちょっとしたサービスだと思ってくれれば大丈夫。それに、『貴女を魔法の世界に案内したい』って言う、茜ちゃんからのお願いだから」


「茜ちゃんが?」


驚くお嬢様に、私は笑顔で答えた。


「うん。だって、ここは『魔女の家』だよ?だったら、『魔法は怖くない』、『魔法って素敵な力なんだ』って思って欲しいじゃん?ま、あーしもマダマダ修行中だから、あんま偉そーな事は言えないケド!」


 私はテーブルに置かれたインテリアに、炎の魔力を注ぎ込む。この身体ではまだ炎を出す事は出来ないが、その元となる炎の魔力、燃料を注ぎ込む程度なら可能だ。だから、私は茜ちゃんの身体で、炎の魔術道具を扱える。例えば、このキャンドルに火を灯すくらいの事は可能だ。


「わぁ、マッチもライターも使わずに火がついた!」


「えへへ。でも、驚くのは早いよ。だって、今度はきっと、もっと凄い魔法だから!だよね、ほのち?」


 私は厨房から顔を覗かせる友人に、合図を送る。


「もっちろん!準備できたから、あーちゃんも手伝って!」


 私はギャル魔法コックの指示通り、キャンドルの火を消して別のテーブルへ置き、お嬢様の前には魔法陣の描かれた布を敷いた。


「『炎の魔法』にも色々あるのよ。例えば、あーしは炎だけじゃなくて熱も使えるの。だからこうやって、弱めの熱でコトコト煮込む事もできるって事!」


 炎華が持ってきたのは小さな鍋と、その中に溶かされたチョコレートだ。彼女は魔法陣を起動させ、その上に鍋を置いた。


「『メイドさんの真心蕩けるチョコレートフォンデュ』、召し上がれ♪」


「凄い、凄い!私、本当に魔法の国に来たみたい!」


「そう言われると、やっぱ『魔女冥利に尽きる』って思っちゃうよね。どう致しまして、お嬢様♪


 あ、大事な仕上げしてなかった!」


「そだね、ほのち。危なく忘れる所だった。ほら、聖ちゃんも一緒にやろ?今日のおやつタイムの時みたいに」


「うん、それじゃ、お嬢様も一緒にハートを作って……

『美味しくな〜れ、萌え萌えきゅん♡』」


「……きゅん♡」


 影子お嬢様も一緒におまじないをかけて、素敵な料理が完成した。


 ◆◆◆


「……どうして、こんなにも私に優しくしてくれるんですか?」


 チョコレートフォンデュを食べ終えたお嬢様から、私は質問を投げかけられた。聖と炎華は厨房でお皿を片付けている。私も一緒に片付けようとしたのだが、こうして呼び止められ、炎華からは『お話を聞いてあげて』と言われているのだ。


「んー、ぶっちゃけ理由は色々あるかな。えーこお嬢様が本当(ガチ)に困ってそうだったし、元々あーしが『悪い魔女』を追っていたのもあるし。お嬢様が悪い魔法使いから、あーしを庇おうとしてくれたってのも理由かな。それと、信じて貰えないかもだけど……異世界の王様と神の使いが、この世界を侵略しようとしているの。今日起こった悪魔騒動も、元を辿れば異世界に居る悪い魔法使いの所為なんだ。だから、今回の黒幕について出来る限り情報を集めたいって理由もあるかな」


 そう、私が何故、茜ちゃんの『魔女っ子スーツ』を着て、メイド喫茶のアルバイトをしているのか。端的に言えば、情報収集の為である。この喫茶店は、魔女達の情報交流を目的に、期間限定で開かれる店舗なのだ。我が恩師である大妖精は、定期的にこういった店を開いているのだとか。


 それに、私は元々マギナさんから、テスト勉強を見て貰う事への対価として、アルバイトの参加を言い渡されていた。何でも、この前の学内バイト以降、異世界人が残した強力なアイテムが色々な場所で横流しされているそうだ。故に当初は、アイテムの所在を聞き出す事を目的にしていた。だが、マギナさんは『悪魔騒動』の発生を予知した。故に予定変更、悪魔を呼び出すアイテムの所在、そしてそれを流通させたであろう『黒幕』の動向を探る事を主目的にしたのである。


 以上が、私がメイドさんになっていた理由である。また、茜ちゃんの姿になって居たのは正体を隠し、『蒼蘭ちゃん』を目的にした魔女を釣る為だ。今回の悪魔騒動は異世界人が引き起こした事、そして十中八九、その黒幕は『大賢者ラジエル』だとマギナさんは予想していた。確かに、今まで送り込んだ刺客が(ことごと)く返り討ちに遭っている以上、そろそろ痺れを切らして御本人が襲撃しに来る頃合いだろう。そして、彼女の目的は『運命因子』である瑠璃海 蒼蘭、つまり『(わたし)』である。この悪魔騒動は私を探す為、或いは誘き出す為に発生した物だと考えられる。ならば正体を隠し、黒幕の動向を逆に探るのが最適解と言える筈だ。


 ……因みに、何故私が『ギャル』になっていたのかというと、それは『験担ぎ』に他ならない。七夕祭りの日、原宿で悪魔を討伐したのは炎華と美雪、D組のギャルコンビである。彼女らは誰ひとり死者も怪我人も出さず、悪魔を瞬殺し召喚主を捕らえる偉業を成し遂げた。流石は都会の魔女ギャル、素晴らしい手際である。


 ならば、私もギャルになってしまえば、一連の騒動を起こした黒幕の情報を掴めるのではないか?


 私はその名案を思いつき、早速実行に移したのである。メイクは我が不肖の姉に、『何も聞かず、私をギャルにしてくれ!』と頭を下げるだけで良い。それだけで、姉貴はルンルン気分で妹をギャルにしてくれるからだ。


 見た目はこれでクリア、後は中身……即ち演技である。これに関しても心配は無い。私は日頃、鏡の前で色々な『魔女っ子スーツ』を着て、様々な女の子を演じている。当然、我が友人をエミュレートしたギャルだって演じた事もある。


『芸は身を助ける』とはよくいった物だ。実際、私は影子ちゃんと知り合えて、アディラ嬢達が討伐した悪魔の出所を突き止める事が出来たのである。もしかしたら、ギャルは縁起物なのかもしれない。いや、絶対そうだ。炎華達と一緒にいると元気を分けて貰えるし、こうして炎華を参考にした事で、情報収集も成功したのだから。


「……茜さんは、私と同じくらいの年齢なのに、世の為人の為に頑張っているんですね……。凄いです。茜ちゃんも、聖さんも、炎華さんも。優しくて、素敵な魔法使いです」


「いやぁ、それ程でも〜!って言いたいトコだけど……あーしは未だに修行中の身でして……」


「そんな事、無いですよ。カマキリの使い魔を倒した茜ちゃん、凄くカッコよかった!」


「そう?ありがと!」


 正直、褒められるのはとても嬉しい。私も着実に、強くなっているのだと実感できるからだ。


「それに強さだけじゃなくて、貴女はとっても優しい魔法使いですよ。学校にも家にも居場所が無くて、あまつさえ悪い事をした私の事を本気で心配して、慰めてくれるなんて」


「あー、その事ね……」


 私は目を瞑り、七夕祭りの事を思い出した。半ばパニックになって泣き止まない結衣ちゃんを、小さな子供を落ち着かせて話を聞いてあげた親友の事を。


「最近、友達から学ぶ事があってさ……。その子はどんな怪我でも治しちゃう、凄い魔法使い。そして、泣いている子供に寄り添って、話を聞いてあげられる優しい友達。そんでさ、あーしも友達みたいに、『誰かを幸せに出来る魔法使い』になりたいなーって思ったの。だから、もし影子ちゃんの目に優しいメイドさんが映っていたのなら……あーしも嬉しいな。ちゃんと、幸せを運ぶ魔女に近づけているって事だから」


 目の前の少女は、私の話す一言一句を噛み締めるように聞いてくれた。その後、堰を切ったように、今日出会った魔女が質問を投げかける。


「……あのさ、茜ちゃん!

 私も……私も、今からでも、誰かに幸せを運べるような、素敵な魔法使いになれるかな?」


 それは、とても切実な声色だった。

 だからこそ、私は考えながら言葉を紡いだ。


「あーしもまだ修行中、途中経過の身だからさ、『えーこちゃんなら絶対なれる!』って自信を持って言う事は出来ないかな。


 でも、いきなりは難しくても、『近づく事』は出来る筈だよ。それが一歩ずつなのか、三歩ずつなのかは人それぞれだと思うけど……少なくとも、私を助けようとしてくれた影子ちゃんは、素敵な魔法使いの方を向いて、大きな一歩を踏み出したよ!それは私が保証する!」


 つい言葉に熱が籠ってしまった。

 でも、これは私の本心だ。影子が真剣に相談している以上、演じている『小夏川 茜』ではなくて『雨海 惺』としての本心を伝えるべきだと直感が告げていたからだ。


「ありがとう、茜ちゃん。私、頑張って素敵な魔法使いを目指すね!」


「応援してるよ、えーこちゃん!あ、何だったら占ってみる?えーこちゃんの未来」


 私は七夕祭りの時と同じ様に、タロットカードを取り出した。今回はテーブルの上にカードを広げて、入念に混ぜてから一つの束にまとめた。


「この中から一枚、好きなカードを引いてくださいな。あ、タロットカードは向きも重要だから、引いた後はひっくり返さないでね」


「う、うん。なら……この辺りかな?」


 影子お嬢様は、束から3枚のカードを取り除き、上から4番目のカードを手に取った。


「……ねぇ、このカードって、悪い運勢だったりする?」


 やや震えた声で彼女が見せてきたのは、13番目の大アルカナ、『正位置の死神』のカードだった。


「ううん、寧ろ逆!『正位置の死神』が示すのは『終わりと始まり』、『一つの区切り(ピリオド)』、そして『新しい人生の始まり』だからね!」


 私はタロットカードの意味を教えつつ、彼女にスマートフォンで検索した画面を見せた。私の言葉が、決して偽りで無いことの証明として。


「えーこちゃんお嬢様は今日、生まれ変わったって事!素敵な魔法使いへの第一歩を踏み出した事を、タロットカードが教えてくれているの。だから、自信を持って、えーこちゃん!」


「茜ちゃん……ありがとう。私、貴女と出会えていなかったら、きっと生まれ変われなかったと思う。本当に、ありがとう!」


 私は、メイドさんとしての本懐を成し遂げられた様だ。目の前のお嬢様の笑顔が、それを証明してくれている。


 その余韻を噛み締めている間に、聖と炎華が戻ってきた。


「あ、そうだ!折角だし、えーこお嬢様の魔法みせてよ!」


 炎華がそう提案すると、彼女は天井の照明を見上げた。


「私の魔法、『影の魔法』だから、室内だとちょっと使い辛くて……明かりの位置とか、考えないといけないの」


「あ、だったらさ!アレ、使ってみよ!それと、店長!少しだけ照明暗くしても良いですか?」


「他にお客様もいませんし、良いですよ」


 ステラさんから許可を得た私は、少しだけ部屋を暗くした。そして、魔法のキャンドルを手に持ち、再び火を灯す。


「これなら、良い感じに影を出せそうじゃない?」


「うん。それじゃ、いきます」


 彼女は蝋燭の灯りの前で、仔犬の影絵を作った。影子の手に合わせて、影の犬も口を動かす。


『ワンッ!』


「へ?」


 突如、店内に犬の鳴き声が響く。信じ難い事だが、声の主は()()()()()()()。そして次の瞬間、影の仔犬が壁の中から飛び出した。仔犬はそのままトテトテと足音を立てて、私達の周りをぐるぐると走り回った。


「わ、影のワンちゃんだ!」


 聖が手を伸ばすと、仔犬は彼女の手に顔を擦り付けた。


「おぉ……少し冷んやりしてる」


「ねぇ、聖ちゃん、影子ちゃん。私達も触って良い?」


「勿論。この子は噛んだりしないので大丈夫ですよ」


 私は聖と同じ様に、仔犬の頭を撫でてみた。聖の言う通り、手に涼しい感触がある。影だから、温度が低いのだろうか?それに、何だかクセになる触り心地だ。


「普通のワンちゃんと違って、フサフサした感じじゃないけど……何かモチモチでフニフニしてて、手触りがメチャ気持ち良いね」


「はい、この子は影ですので」


「それに可愛いじゃん、この子。えーこちゃんの魔法、とっても素敵な魔法だよ」


「そう……かな?」


「あーちゃんの言う通り、可愛い魔法じゃん。ほら、『お手』」


 炎華の手のひらに仔犬が手を乗せると、ギャルメイドさんは嬉しそうに頭を撫でた。


 ちょうどその時、喫茶店のドアベルが鳴り響いた。私のお師匠様が帰って来たのだ。マギナさんからはカマキリ使いの魔女が応援を呼んでいた事、ソイツらは路地裏に仕掛けられたルーン魔術のトラップに引っかかった事を知らされた。


 また、影子ちゃんは事件の参考人として魔法機関に引き取られる事と、もし彼女が望むなら、機関直轄の教育プログラムを通じて魔法の勉強が出来ることも伝えられた。それを聞いた影子ちゃんは、魔法の勉強に対して乗り気になった様だ。


「私、茜ちゃん達みたいな素敵な魔女になれる様に、頑張って勉強するよ」


「うん!応援してるよ、影子ちゃん!」


 そして私は、お見送りを買って出たステラさんと共に、店を出る影子お嬢様を笑顔で見送った。


(お疲れ様。今日はとても助かったわ、茜お姉様)


 マギナさんからの褒め言葉、否、褒め念話を頂いた。彼女と波長の合う人間、例えば(わたし)に対しては言葉を発さずに会話が出来るのだ。


(いえいえ、これくらい……実際に悪魔と戦ったアディラや菊梨花に比べたら、私の労力なんて微々たるモノですよ)


 だからこそ、私は今回の任務を必ず成功させなければいけなかった。A組の皆が身体を張って魔物を退けた以上、私も成果を上げなければ彼女の苦労が水泡に来すからだ。その結果、何とか捜査の取っ掛かりは確保する事が出来た。裏組織の魔女達には、是非ともアイテムの詳細な出所や今回の黒幕の情報を喋って頂きたいものだ。


 そして、その過程で知り合った少女について、私は思いを馳せる。

 私は、彼女の助けになれただろうか?

 悪意に晒され、悪事に加担させられた心の傷は、少しでも和らげる事が出来ただろうか?

 或いはひょっとして……こういう考え自体が、余計なお世話だったりするのだろうか?


(大丈夫よ、惺お姉様。貴女は今日、確かにあの子の助けになれた。お姉様には、今日の貴女自身を称賛する権利があるわ)


 お師匠様に心を読まれた私は、自分の顔が紅潮するのを密かに自覚した。


「それと、二人とも。今日はありがとう。一緒に、影子ちゃんのお持て成しをしてくれて」


「ううん、私達がやりたくてした事だし。それに、茜ちゃんの『あの子に魔法の世界へ案内したい』って気持ちは素敵な事だと思うから」


「そうそう、えーこお嬢様も楽しそうだったじゃん。それに、あーし達は今回が初めてじゃないし。『魔法の国』に、誰かを案内するの」


「え?」


「いや、なんかさ……あーしら魔女達や魔法の世界の事、『絵本の中の世界みたい』って目をキラキラさせる子が居るのよ」


 ……ん?


「うんうん、茜ちゃんの気持ち、何だか()()()()()()()()()()()()()


 …………。


 あ、これ、もしかしてマズいヤツか?

 正体バレる流れか?


「茜ちゃん、確か蒼蘭ちゃんと知り合いなんだよね?」


「え、あ、うん!あーしと蒼蘭は知り合い、お友達!」


「そっか……きっと似た者同士なお友達なんだね」


「あー……うん、ヨク言ワレマス……」


 聖が勘違いしてくれたお陰で、何とか、何とかバレずに済んだみたいだ。必死に笑いを堪えるマギナさんを尻目に、私はテーブルを拭いて今日のバイトの締め括りに入った。

メイドさん達とお嬢様の一幕、いかがでしたでしょうか?

次回はまた金曜日投稿予定で、暫くは金曜日&日曜日のサイクルで投稿予定です。

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