表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
74/75

第74話 幕間 時の魔女との七夕デート!?

74話にして、何と初めてのデート回となります。

クロニカさんと聖ちゃんの夏祭り、どうか見届けて頂ければ幸いです。

◆◆◆

「私と一緒に『七夕祭り』に行きませんか!?」


 私は何を言っているのだろうか?

 目の前にいる『時の魔女-クロニカ』と私こと『白百合(しらゆり) (ひじり)』は一度学園で出会っただけの、ほぼ見知らぬ間柄だ。そんな彼女に突然こんな頼みをして、承諾される訳ないだろう。


(……でも、しょうがないよ)


 人肌恋しくなる季節というのは誰にでもある。私にとっては、それが7月なのだ。

 だが当然、理由はそれだけではない。


 私は、クロニカさんに惹かれる物を感じたのだ。

 迷子の少女、結衣ちゃんの事を本気で心配する姿。結衣ちゃんをどうにか慰められないかと悩む姿。そして結衣ちゃんが泣き止んだ時、幼い少女からの感謝の気持ちに、満面の笑みで応える姿。最後に、私に対して朗らかな表情で『お礼』を提案する姿。


 初対面では、クールで大人びた女性だと思っていた。かっこよさとミステリアスさを兼ね備えた謎の魔女、そう思っていた。だが、目の前で表情をコロコロと変える感情豊かなクロニカさんに、私は心を動かされた。


(やっぱり、()()()()()()()()()()()……)


 私は、好きな人の面影を宿すクロニカさんに甘えているのだ。この時期に感じてしまう孤独を、心の穴を、埋めて欲しいと。

 分かっている。彼女に頼むのは筋違いだ。客観的に考えれば、炎華ちゃんや蒼蘭ちゃんをお祭りに誘うべきだ。そもそも、今年だって去年までと同じように、私が我慢すれば良いだけの話だ。ほんの一ヶ月、31日間、何事もなく過ごせれば良いのだから。所詮、これは私の我儘(エゴ)でしかない。


 だから、


「ええ、勿論!一緒にお祭り、楽しみましょう!」


 クロニカさんからの答えを聞いた時、私は凄く驚いたし……とても嬉しかった。


◆◆◆

 私達がまず向かったのは、縁日の屋台ではなかった。

 浴衣のレンタルをしている呉服屋だ。どうやらクロニカさんは、このお店に用があるらしい。


「実は私、浴衣レンタルの予約をしてて……すぐ終わるから、少しだけ待ってて貰える?」


「はい、勿論です」


 私は待機するつもりだったが、店員さんに声をかけられてしまった。


「あら、二人とも凄い別嬪さんじゃない!折角だし、貴女も浴衣を着てみない?」


「えっと、私はただの連れで……」


「そう?でも、お店の浴衣に興味津々って感じだったわよ?」


 図星だ。流石は呉服屋の店員さん、中々に鋭い。


「でも、私は予約とかしてなくて……当日着れる浴衣ってあるんですか?」


「勿論!沢山あるわよー!」


 店員さんが店の奥から、幾つか浴衣を持ってきてくれた。私はその中で、藍色の浴衣を選んで袖を通す。


「わぁ、思った通り!貴女、凄い似合ってるわ!」


 背中をペシペシと叩きながら、店員さんはとても上機嫌だ。


「本当ね。聖、とっても素敵よ」


「!!」


 私は思わずドキッとしてしまった。

 自分の浴衣姿を褒められて嬉しかった、というのもあるが、それだけではない。

 そこには既に着替えを済ませていたクロニカさんがいたのだ。彼女の浴衣は黒をベースに、鮮やかなピンク色のアサガオをあしらったデザインである。黒髪美人な時の魔女には、とてもよく似合う浴衣だと思う。

 だが何より、素材のレベルが段違いだ。例えば二重のまぶた、左目の泣きぼくろ、柔和な印象を見せる垂れ目、それらをはじめとした顔のパーツが美しい。更に艶を帯びた濡羽色の髪に、帯を締めることで強調される発育良好な乳房。『大和撫子』という言葉は彼女の為にあるのだと私は実感した。


「クロニカさん、綺麗……」


 無意識に溢れ落ちた私の感想に、クロニカさんは頬を赤らめた。


「そ、そう?面と向かって褒められると、ちょっぴり恥ずかしいわ……でも、ありがとう」


 モジモジとした仕草を取る彼女に対し、私はこうも思った。


(かわいい)


「コホン……それでは、店員さん。まとめて二人分のお会計をお願いします」


 クロニカさんは、ハンドバッグから財布を取り出しながら店員さんとレジへ向かった。


「そんな、私の分は自分で払いますよ!」


「良いの良いの。これは貴女へのお礼なんだから。お姉さんに任せなさい!」


 むむむ……そこまで言われてしまうと断り辛い……。そんなキリッとしつつも親しげな表情で、『頼れるお姉さん感』満載のオーラを出されてしまった以上、お言葉に甘えるしかない……。


「それでは、今回だけ!お願いします!」


 私は頭を下げて、クロニカさんに甘えさせて貰った。


◆◆◆

(神社の出店群にて)


「クロニカさん、何か食べたいものはありますか!?」


 浴衣の件でお世話になった以上、出店では先手必勝だ。


「うーん、そう言われても……色々な食べ物があって迷っちゃうわ」


 彼女は子供の様に目を輝かせながら、祭りの露天を眺めている。その気持ちは大いに分かる。夏祭りの出店ではつい色々と目移りする物だから。クロニカさんも例外ではなく、彼女も夏祭り特有の雰囲気を楽しんでいる事に、私は少し親近感を覚えた。


「焼きそば、焼きイカ、焼きとうもろこし、チョコバナナ、わたあめ……うーん……王道の焼きそばで!」


「分かりました!買ってきます!」


 私は早歩きで焼きそばの列に並び、


「クロニカさんは、神社の狛犬像辺りで待っていてください!」


 待ち合わせ場所を伝え、極力彼女を待たせない采配を行った。これで私も、彼女に浴衣のお礼が出来る。値段で言えば釣り合わないが、幸い出店は沢山ある。他のお店でも私が買いに行けば良いのだ。そもそも、お祭りには私から誘ったのだ。幾らクロニカさんからのお礼とはいえ、私が何もしないというのはダメだろう。

 そこそこ長い焼きそば屋の列に並んでいる間、私はそんな事を考えていた。


「お待たせしました、クロニカさん!」


「おかえりなさい、聖」


 待ち合わせ場所に辿り着いたら、そこには飲み物を手にし、フランクフルトの入ったビニール袋を提げたクロニカさんがいた。

 

「待ってる間、すぐ買えそうなお店で買っちゃった。聖、麦茶とラムネ、どっちが良い?」

 

 しまった、先を越された……! 

 クロニカさんも私と同じ事を、屋台の食べ物を奢る事を考えていた……! しかも、私が焼きそばを買っている時間で買えそうな物を購入していたとは……。

 

「……麦茶で、お願いします」

 

 呆気に取られていた自我を呼び覚まし、私はクロニカさんの問いへの答えを絞り出す。

 

「はい、どうぞ。焼きそばを食べ終わったら、二人でこのフランクフルトも食べましょう?」

 

「あはは……ご馳走になります……」

 

(これがスキマ時間の使い方……流石は『時の魔女』!)

 

 私は彼女の行動に、舌を巻く他なかった。


「ん?どうしたの、聖?」


「いいえ、何でもないです……あれ?」


 私は今更ながら気がついた。


「そう言えば、クロニカさんはどうして私の名前を知っていたのですか?私、クロニカさんに自己紹介しましたっけ?」


 ふと思い浮かんだ素朴な疑問に、時の魔女は待ってましたとばかりに余裕綽々な態度で答えた。


「ふっふっふ……『時の魔女』にして『宵闇の預言者』である私にかかれば、並大抵の事はお見通しよ♪」


「な、成程……!」


 蒼蘭ちゃんの予知魔法を何度も目にした私にとって、『時の魔女』の言葉には圧倒的な説得力があった。


「そうだ、焼きそば!これ、クロニカさんの分です!」


 彼女に購入した屋台グルメを差し出した。


「ありがとう、聖。それじゃあ、お言葉に甘えてご馳走になるわね」


 クロニカさんは割り箸を手に、焼きそばを口にする。


「あー、美味しい!やっぱり、お祭りのお店と言ったら焼きそばよね!」


 先程の大人びてミステリアスなクロニカさんはそこにおらず、屋台グルメとお祭りの雰囲気に舌鼓を打ち、無邪気に笑う可愛らしい魔女がいた。


 可愛い。そして恐ろしい。正に『ギャップ萌え』である。同性の私ですら、彼女の仕草にこんなにもドキドキしているのだ。並大抵の男の子であれば、彼女にハートを撃ち抜かれて、否、蜂の巣にされているのではなかろうか?

 いや、既に時の魔女は周囲の人間を虜にしている様だ。通りすがりの見物客が、皆クロニカさんに視線を送っているし、ヒソヒソ声も聞こえてくる。


(綺麗な人……!)


(何だあの子……めっちゃ可愛い!)


(あそこまで浴衣が似合う人っているんだ……!?)


 ……マズい、ちょっと肩身が狭いかも。

 私は目の前にいる大和撫子に圧倒されつつあった。聞こえてくるヒソヒソ声を誤魔化す為に、私も焼きそばを口にする。

 うん、美味しい。それに夏祭りで食べる『イベント感』が味覚をより引き立たせる。


◆◆◆

 焼きそばとフランクフルトを食べ、お腹が膨れたところで私達はお祭り巡りを再開する。夏祭りの屋台は、何も食べ物だけではないからだ。


「聖は、行きたいお店とかある?」


「いえ、今のところは雰囲気を味わうだけで楽しいです」


 輪投げ、型抜き、くじ引き、それとカブトムシを売っている屋台があった。とは言え、確かに興味は惹かれるが、お金を出してやりたい程でもない。かと言って、折角のお祭りだ。何か一つや二つくらい、クロニカさんと遊びたい気持ちもある。


(うーん、悩ましい……金魚掬いとか?でも、寮じゃ飼えないし……)


 私は思考を巡らせる自分自身に驚いた。夏祭りとは、こんなにも頭を使うイベントだったのか……!?いや、考えなさい、聖!ここでちょうど良い出店をチョイスして、クロニカさんにも楽しんで貰うのよ!どれだ……どれが良い……?


「ねぇ聖、あのお店に行かない?」


「へ?」


 クロニカさんに袖を引っ張られ、私は長考から意識を呼び戻された。彼女が指差したのは『射的』のお店だ。そして私の脳中で、パズルのピースがピッタリとハマる感覚が発生した。


「良いですね、射的!行きましょう!」


 私達は露店へ赴き、それぞれ弾を購入した。


「クロニカさん、欲しい物はありますか?」


「もしかして、何か取ってくれるの?」


「はい!」


 ここでクロニカさんが欲しい景品をプレゼント出来れば、今度こそ彼女へのお礼も出来るし良い思い出作りにもなる。


「ありがとう。でも、その気持ちだけ受け取っておくわ。射的の景品って、『欲しい物』を取るってよりは、『手に入りそうな物』を取るのが定石だもの」


「そうなんですか?」


「ええ。例えばあのゲーム機やエアガン、ああいう重たい物はまず取れないわ。だから軽めの物、あそこの駄菓子類が狙い目ね」


「ほへぇ……」


 私は夏祭りで射的をやった事がないので、こういう意見は参考になる。


「なんて得意げに言っちゃったけど、楽しむのが一番肝心よ♪」


 そう言ってクロニカさんは私に微笑んだ後、


「………………」


 無言で銃のレバーを引き、コルクの弾を詰めて、両手でしっかりと銃を支え、片目を瞑って駄菓子類に狙いを定めた。


(あ、これ本気(ガチ)だ。クロニカさん、ガチで狙ってる)


 私は目の前にいる大和撫子が、凄腕の狙撃手(スナイパー)へ変貌する様を見た。真剣な表情をするクロニカさんもまた、ため息が出る程美しい。


 パシュン!


 銃声が響き、ピラミッド型に積み上げられたガムの箱を撃ち抜いた。弾が命中した一番上の箱が、景品棚の後ろへ倒れ込む。


「おお、お姉さん中々上手いな!」


「ありがとうございます」


 景品を渡す店員さんに、彼女は穏やかな微笑みで返答した。


「参加賞は確保できた事だし、次は欲張って少し大きめのを狙いましょうか」


 絶世の浴衣美人は再び狙撃手の仮面を被り、ビスケットの箱に狙いを定めた。


 パシュン!


 箱には命中した。しかし、小さくて軽いガムとは異なり、それなりの大きさを持つお菓子だ。一発では倒れない。


 パシュン、パシュン、パシュン!


 続け様に3発の弾が箱の上部を揺らし、遂に棚の奥へと倒れ込んだ。景品確保の瞬間、周囲がどよめく中、時の魔女が小さくガッツポーズをしたのを見てしまった。


(可愛い)


「さ、次は聖の番よ」


「は、はい!やってみます!」


 彼女のアドバイスを思い出す。狙いは軽めのお菓子等。それも、特に軽そうな奴だ。例えば、あのミニサイズのラムネ菓子だ。


「えいっ!」


 思い切って引き金を引く。だが、コルクの弾は景品の上を通過してしまった。


「あ、あれ?」


 再度コルクの弾丸を装填し、景品を狙う。

 しかし、続け様に放った二発の弾も、悉く外れてしまった。


 思う様に弾が飛んでくれず戸惑っていると、クロニカさんがアドバイスを送ってくれた。


「お祭りの銃でも、撃つ瞬間には反動が生じるの。だから、弾がブレない様にしっかり銃を押さえると良いわ」


「はい、やってみます!」


 残りの弾は二発。一呼吸置いてから弾を込め直し、再度引き金を引く。


 パシュン、パシュン!


 一発目はラムネを掠ったが、二発目でしっかりと命中した。


「やった、やりました!」


「おめでとう、聖!」


 初の景品獲得に、クロニカさんも一緒に喜んでくれた。


◆◆◆

 その後も色々と露店を見て回った。パターゴルフをしたり、スーパーボール掬いに挑戦したり、たこ焼きを二人で分け合ったりもした。


 楽しい。

 私は、クロニカさんと過ごす時間がとても楽しく、幸せな物だった。誰かと一緒に行く夏祭りが楽しい事は知っている。中等部の時に一度、炎華ちゃんとお祭りに行った事がある。あの時の夏祭りも、とても楽しかった。


 私達が最後に辿り着いたのは、笹の葉が飾られているエリアだ。そして、そこには短冊の入った箱と鉛筆が机の上に置かれていた。折角の七夕祭り、何かお願い事を書きたくなるのが人情というものだ。


(これでよし、と)


 私は笹の葉に短冊を括り付けた。勿論、これで願いが叶うとは思っていない。それでも、これはかけがえのない一夏の思い出だ。


「聖、短冊付け終わった?」


「はい、終わりました」


「なら後は、織姫様と彦星様に願いを叶えて貰うだけね!」


「クロニカさんって、結構ロマンチックな人だったんですね」


 彼女が子供の様な無邪気さを見せたので、つい思った事を口に出してしまった。


「私達は『魔女』よ?魔女がロマンチストなのは当然よ。きっと、お星様は聖の願いを叶えてくれるわ」


 クロニカさんの優しい微笑みに、私も釣られて顔が綻んでしまった。ふと周りに視線を送ると、家族連れやカップルの見物客が、スマホを片手に写真を撮っていた。


 ……………………………………。


「ああああああ!」


「え、どうしたの聖!?」


「写真!写真を撮ってませんでした!」


 あーー、もう、私のバカ、馬鹿、FOOL(ばか)

 今日のお祭りで最高のシャッターチャンスが何回もあったのに!それに気付かずスマホを取らず、ただクロニカさんと過ごすだけで満足して、思い出を形に残す機会をみすみす逃すなんて!こんなミス、炎華ちゃんだったら絶対にしない!炎華ちゃんはこういう時、一緒に写真撮ろうって誘ってくれるし!それに炎華ちゃんが写真を撮っているのを見て、私も撮影しようって気にもなる事が何度もあったし!あぁ、今まで自分がいかに親友に助けられて来たかを改めて思い知らされる……。私は遠くの親友に、具体的には原宿で美雪ちゃんと夏服を買って、ネイルサロンで新作デザインを試しているであろうギャルの友達に思いを馳せる。


「折角の、折角のシャッターチャンスが……」


「そんなに落ち込まないで!それにほら、今日は『七夕祭り』よ!短冊でいっぱいの笹の葉が背景だなんて、これ以上のシャッターチャンスは存在しないわ!」


 クロニカさんの励ましで、私は心に活力を取り戻す。そして、落ち込んだハートに空元気という名のガソリンを注ぎ込んだ。


「そう、ですよね!今こそ、最高のシャッターチャンス!クロニカさん、ツーショットをお願いしても良いですか!?」


 こうなったら、今まで逃したチャンスを帳消しにするレベルの写真を撮るしかない!ならどうする?クロニカさんとのツーショットしかない!


「ええ、喜んで!自撮り棒ある?一応持っているけど貸しましょうか?」


「良いんですか!?ありがとうございます!」


 自撮り棒までは持ち歩いていなかったので、彼女の提案は非常に有り難い。私は借りた自撮り棒にスマホをセットして、クロニカさんと良い感じの距離感を探る。


「それでは、撮影いきますよー!はい、チーズ!」


 パシャッとシャッター音が響き、私達の浴衣ツーショットが撮影出来た。笹の葉をバッグに、そして提灯の灯りが幻想的な雰囲気を演出している。そして中央には浴衣を着た私達、まさに『七夕祭り』って感じの素晴らしい写真ではないか!


「次は私が撮っても良い?」


「勿論です!」


「なら提案なのだけど、折角だから射的でゲットした景品を持って撮影しない?」


「名案です!射的の思い出も、写真に残せますし!」


 私はラムネ、クロニカさんはガムとビスケットだ。私は片手で済むので、再び撮影係を買って出た。


 パシャリ


 再び思い出の画像が保存される。景品のお菓子を持っている所為か、先程よりもクロニカさんの笑顔が子供っぽい無邪気さを感じさせる物になっていた。


(最初に撮った大人びて優しいクロニカさんも良いけれど、無邪気で楽しそうなクロニカさんも良いな……)


 この後、何枚かの写真を撮った後、私達はスマートフォンで写真を共有した。クロニカさん曰く、トークアプリは使っていないとの事だったが、機種が同じ事が幸いした。これなら、メールやアプリを使わずとも直接写真を送受信できる!


 こうして、互いのスマホで撮影した写真を共有し、私達の最高の七夕祭りは幕を閉じた。


「あー、とっても楽しかったわ!誘ってくれて、本当にありがとう、聖!」


「そんな、お礼なんて!寧ろ、私がお礼を言わなきゃですよ。クロニカさんが居なかったら、一人でお店を回るだけでしたから」


「そっか、なら良かったわ。聖もお祭り、楽しかった?」


「はい、勿論です!色々なお店を巡るのも楽しかったですし、何より今日は、クロニカさんの色々な一面を見られましたから!」


「『色々な一面』……?」


「初対面のクロニカさんは、カッコよくて大人びていて、何処かミステリアスな雰囲気がありました。でも、それだけじゃなくて、優しい所とか笑顔が素敵な所とか、色々な表情のクロニカさんを見て親近感が湧いたと言いますか……」


 私は言葉を止めた。

 クロニカさんの表情が、一瞬強張ったからだ。


(あっ……マズい、今の失言だった!?)


 知り合って日の浅い相手に対して、流石に馴れ馴れしすぎたかもしれない。幾ら蒼蘭ちゃんに似たオーラを感じるからって、クロニカさんとも同じ距離感で接して良い訳がなかったか……?


 が、私の心配はすぐに杞憂だと分かった。

 彼女は自分の手のひらで頬を挟み、モニュモニュと捏ねくり回した後、キリッとした表情になったからだ。


(かわいい)


 いや、本当に可愛い。そしてやっぱり、蒼蘭ちゃんに似ている。世界にはそっくりな人が三人いるらしいが、どうやら外見だけではなく『魂』にも当てはまる話のようだ。私はまた一つ賢くなった。


「どうやら頬も気持ちも緩みに緩んでしまった様ね。だらしのない所を見せたままで終わるのは、『時の魔女』の沽券(こけん)に関わるわ」


 そういうとクロニカさんは、カバンの中からタロットカードを取り出した。


「お祭りの最後に、私からのプレゼント。貴女の運勢を占うと同時に、幸運の訪れを願う細やかな贈り物よ」


 彼女はタロットカードを数回に分けて混ぜている。山札を二つに分けては、その内の一つを上下逆さまにし、テーブルを使わない『空中リフルシャッフル』で混ぜ、それを繰り返す。手品師宛らの指使いに、私は思わず見入ってしまった。


「さぁ、この束の中から一枚、好きな場所のカードを取って」


 占い師に促されるままに、私は山札を無作為に二分し、残った山札の一番上を選んだ。


(これが、私の運勢を暗示するカード……)


 ただカードを捲るだけだと言うのに、何だか緊張してしまう。いや、無理もない。今、私の未来を占っているのが、他でもない時魔法の使い手なのだから。


 深呼吸をして、カードを表にする。


「正位置の……『恋人』……!?」


「あら、素敵なカードを引き当てたわね。それとも、このカードが聖を選んだのかしら?」


 クロニカさんはカードを握っている私の手を取り、目を瞑った。


「『恋人』のカードは、友情や恋仲といった人間関係を表すカード。そして仕上げの御呪(おまじな)い。貴女を取り巻く素敵な人達、或いは新たな出会いが、聖に幸せを届けてくれますように……」


 クロニカさんは私の手を握り、祈りを捧げている。そして彼女の手が離れ、時の魔女は黒曜石を思わせる瞳で優しく微笑んだ。


「このカードは聖にあげるわ。素敵な友人との再会を願って。もし貴女が望むなら、そのカードに念じると良いわ。貴女の願いに応じて、『時の魔女』がきっと駆けつける……なんてね♪」


 最後に悪戯心を含んだ笑顔で、クロニカさんの御呪いは幕を閉じた。



 今日の私は、最初から最後まで、クロニカさんにドキドキさせられっぱなしだった。私は今夜の思い出を、そして彼女との『縁』を悠久のものにしたいと思い、『恋人』のカードを大切に握りしめた。

七夕デート編、いかがでしたでしょうか?

この初のデート回に対して肯否関わらず、感想、評価等々頂けますと幸いです。


願わくば今回、アオハル的な風情を感じて頂けたのなら幸いです。


また、2.5章幕間は次で最後となります。

今少しお待ちくださいませ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ