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第71話 お家に帰るまでが課外授業!

ギリギリ、滑り込みで7/23に更新です!

ネット小説大賞13までに、辛うじて2.5章本編が終了です!それでは、今章の終幕を、どうぞ!

 ◆

 無事に悪い魔法使いを倒した私達は、植物園で戦った生徒達と共に、ポーション工場(プラント)の大会議室へと集められた。


 勿論、既に全員が治療を済ませている。

 例えば捕まっていた魔女達は、マギナさんの分身体がポーションとスクロールで治療をしてくれたのだ。私がグザヴィラにトドメを刺しに行くちょっと前に、マギナさんの分身体がワーム・ホールからゾロゾロとやって来たのは正直驚いた。とはいえ、彼女が『運命の楔』を分けてくれたお陰で、私の魔力は十分に回復できた。視界良好、呼吸も安定、それなりに派手な立ち回りをした割には、あの時感じた魔力枯渇の感覚は皆無だ。


 黒幕のグザヴィラとか言う魔術師は、渋谷でアラキーネの部下を捕まえた時の様に、巨大な水晶に封印されている。このまま魔法機関にしょっ引かれる運びだ。


 そう言えば授業で習った事だが…………凶悪な魔法犯罪者へは、一般人には行わない様な厳しい取り調べが待っているらしい。『魔法』という人智を大幅に超えた神秘の力は、あらゆる意味で不可能を可能にしてしまう。故に、一般人にとっては『やろうと思っても出来ないこと、やりたくても出来ないこと』が簡単に可能になってしまう力と言っても良い。


 例えば、銀行強盗なんかが良い例だ。

 一般人が強盗をする場合、凶器の用意や逃走手段の確保、後は銀行側のセキュリティ対策などなど、超えねばならないハードルが沢山ある。

 勿論、『他人の物を奪ってはいけない』という法律的・道徳的な大前提は存在する。多くの人はその大前提に則って、品行方正に世の中を生きている。だがそれ以外にも、『犯罪を起こすためのハードル』が、人の悪行を未然に防いでいる側面もまた確かに存在しているのだ。


 だが、魔法使いの場合は話が違ってくる。

 凶器となる攻撃魔法、逃走手段になり得る空を飛ぶ魔法、他にも様々な魔法が犯罪に使えてしまうのだ。

 魔法という超常の力は、人が銃を持つよりも凶行への引き金を軽くしてしまう。故に、魔法界には魔法界の『強力な抑止力』が必要になる…………というのが、授業で習った事柄だ。そろそろ期末テストも近いので、機会を見つけてはこうして教わった事を反芻して行かないとな…………。


 そして、(結果的にだが)私達が助けたエルフの少女は、魔法機関へ引き取られることになった。

 辛うじて一命を取りとめたが、まだ予断を許さない状態である。

 銀髪の少女はほんの少しだけ目を覚まし、虚ろな表情で一言、

 

「勇者さま……」

 

 と呟いて再び意識を失った。

 

 ……気のせいだろうか?

 あの時、エルフの少女は私に顔を向けていた。

 あの言葉は、私に言ったものなのだろうか?

 

 だとしたら、あまりに過分な称号である。

 誓って故意にやったわけではないが、下手をしたら氷漬けにしていた相手である。

 もし、何の罪もない少女がドリアード・マザーと同じ末路を辿る事になったら……想像しただけでも恐ろしい。

 助けられて本当に良かった。

 そして少女の命を救えたのは、聖と炎華のおかげだ。

 

 そして、おもむろに壇上へ立つ者がいた。

 他でもない我が不詳の姉、『雨海 沙織』だ。

 

「えー、暁虹学園の皆さん。今回は私たちを助けて頂き、誠にありがとうございました。

 工場の職員を代表して、皆さんにお礼を言わせてください」

 

 お姉ちゃんは、ここで深々とお辞儀をする。

 本当にここだけ見ると……非の打ち所がない才色兼備なお姉さんだ。

 

「まず大前提として、私は見学に来てくれた生徒諸君、全員に感謝をしています。

 恐ろしい異世界の魔物と懸命に戦ってくれた人。その魔物を討伐してくれた人。

 討伐しないまでも勇気をもって立ち向かってくれた人。

 最後に、こんな怖い目にあっても、最後まで課外授業に参加してくれる人……。

 私は、素晴らしい後輩に出会えてとても感動しています。

 

 ……そして、この『大前提』を念頭に置いて、今からする私の話を聞いてください。

 そう、私の最愛の妹、『瑠璃海 蒼蘭』の活躍についてです」

 

 周囲が(にわ)かにざわめき立つ。

 

「は、え、ちょっと?」

 

 いやいや、この状況でカミングアウトすんの!?

 姉貴、倉庫からここに来る道中で『私が【胡桃沢 百花】だってことはまだ内緒にしておいて!』って言ったくせに、

 自分が『瑠璃海 蒼蘭の姉』だってことは明かすのかよ!?

 

「今回の事件、彼女の活躍がなければ犯人は捕まえられませんでした。見てください、これが彼女の活躍です!」


 そう言いながら、姉貴は懐からティアラの形をした魔術道具(マジック・アイテム)を取り出した。ティアラに嵌め込まれた水晶玉が、映画の様にスクリーンへ映し出される。


「これは記憶を現像させる魔術道具(マジック・アイテム)、そしてこれは、私の記憶を映し出したもの……。皆さんも見てください、蒼蘭ちゃんの勇姿を!」


 映し出されたのは、時魔法を駆使してドリアード・マザーの攻撃を掻い潜って接近する私。そして水魔法と時魔法の合体技、『極光が照らす(ガーデン・オブ・)白銀の庭(アウローラ)』を炸裂させた私が映し出されていた。


「おお…………おおおっ!!」


 一斉に室内がざわめき立った。


「あれが、時魔法……!?」


「めっちゃビュンビュン動いてるじゃん!?」


「え、てか時魔法で氷って作れるの?」


「よく分かんないけど……『ドリアード』の親玉を倒したんだ!凄い!」


 予想だにしない上映会により、周囲の生徒は凄く興奮気味だ。(さなが)ら、野球やサッカーの世界大会でも見ているかの様な盛り上がり様ではないか。そして、その熱狂度合いがそのまま、私への視線として向けられる。


「ちょっと待てえええ!!」


 私は思わず立ち上がり、姉貴の元へ駆け寄った。


「蒼蘭ちゃん、どうしたの?」


「『どうしたの?』はこっちのセリフだっての!

 え、何、これ何の時間?」


「え……?蒼蘭ちゃんの活躍をみんなに()()……情報共有する時間だけど……?」


「今、『布教』って言ったよね!?私はアイドルか何かなの!?

 それに、お姉ちゃん言ったよね?

『ここにいる生徒全員に感謝している』って!

 ここは、『みんなの力でピンチを乗り越えました』的な流れじゃないの!?何でこのタイミングで上映会をやった!?」


「『ソレはそれ、コレはこれ』ってヤツよ。どう考えても、一番の功労者は蒼蘭ちゃんな訳じゃない?その見届け人が、お姉ちゃんと聖ちゃんと炎華ちゃんのたった三人だけっていうのは、ちょっと少ないとは思わない?それに、蒼蘭ちゃんの『時魔法』はとってもレアな魔法なのよ?こうやってみんなで見た方が、『魔女学園のお勉強』にもなる筈よ。


 そ・れ・に、お姉ちゃんは蒼蘭ちゃんの凄いところを、みんなに見せたいの!どうしてだか分かる?」


「いや、分かんないけど……」


 すると、姉貴は徐にハンカチを取り出して、わざとらしく目元に当てた。


「だって……蒼蘭ちゃんが、学園で出会った魔女達の事、『凄い凄い』って褒めていたんだもの…………。特に、新しく出来た友達の事は、めちゃくちゃ褒めてたじゃない。お姉ちゃん的には、妹の交友関係が広がるのは好ましいよ?でも……なんか、可愛い妹を取られた気分になっちゃったんだもん!お姉ちゃんだって魔女だもん!凄いポーションとか発明したもん!いろんな生き物、魔法で生み出せるもん!」


「いや、子供か!?」


「だから、蒼蘭ちゃんが自慢していた友達やご学友達に、お姉ちゃんは妹の事を自慢したかったの!『私の妹は、世界一可愛くて、世界一凄い魔女なんだ』って!!」


「だから、子供か!?」


 私は姉貴の頬を両手で挟み、こねくり回す。クソッ……この身長差だと背伸びしなきゃいけないじゃんか!


「なーにが『妹を自慢したい』だ!このシスコン!そんな私情丸出しの理由で集められたみんなの気持ちを考えろ!」


「ふぇぇ…………でも、蒼蘭ちゃんの活躍を知って貰うのは、絶対悪い事じゃない筈よ!」


「そうかなぁ!?本当にそうなのかなぁ!?」


 すると、私と姉貴のやり取りに、割って入る魔女が現れた。


「もー、『さっちゃん』。妹さんが居てはしゃぐのは分かるけど、そろそろお終いにしなきゃ」


 沙織お姉ちゃんを『さっちゃん』と呼んだのは、私達D組の担任、早苗先生だった。それを聞いた姉貴は、頬を膨らませつつも、すごすごと下がっていった。


「瑠璃海さんも、さっちゃんの気持ちを分かってあげて。きっと、久しぶりに会えて嬉しかったのよ」


「…………分かりました。取り乱して、すみませんでした」


 私は早苗先生と、工場の職員さん、それと集まった生徒全員に向けて頭を下げた。気のせいかもしれないが、殆どの人がホッコリとした表情をしていた気がする。何やら、『とても微笑ましい光景を見た』と、顔に書いてある様に思えた。


 ◆

(帰りのバスにて)


「時を止めた!?」


「ちょっと、炎華!声が大きいって!」


 帰りのバスでは寝ている生徒が殆どである。現に美雪も明里も、疲れたのかスヤスヤと眠っている。


「あー、ごめんごめん。ちょっと小声で話す様にするわ」


「じゃあ、私達が『ドリアード・マザー』のビーム攻撃を避けられたのは、蒼蘭ちゃんが……」


「信じて貰えないかもけど……私が時を止めて、二人を移動させたの」


 約束通り、親友二名にはあの時の状況を説明することが出来た。


「信じるも何も、あーしらの居た場所がズレてたのは本当だし、さっきの上映会でもセーラがいきなり足速くなったし……これもう、疑う余地なくね?無いよね?」


「今日の蒼蘭ちゃん、とってもかっこよかったよ!」


「いやー、そんなベタ褒めされると、なんか恥ずかしいというか、照れ臭いね……」


「えー、もっと堂々としちゃいなって!それに、よく聞くじゃん!『褒めて伸ばす』ってヤツ。だから炎華ちゃんは、セーラちゃんの事をいっぱい撫で撫でしちゃいまーす♪」


 そう言うと、炎華は私の頭をわしゃわしゃと撫で回した。


「でも、本当……私一人じゃ出来なかった事だから……それこそ、聖が私の魔力を回復してくれなかったら……」


 私の体温が急上昇する。

 理由は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()を思い出したからだ。


「あの……えっと、聖さん……」


「は、はい……」


 よく見ると、聖も顔が真っ赤だ。


「えー、なんて言うか、その……」


 マズい、言葉が続かない。

 え、ていうか、私は聖に対して何をするべきなんだ?謝罪か?それとも、感謝?或いは両方?

 考えがちっとも纏まらない。だが恐らく、()()()()にする事だけは避けた方が良い……筈……。

 あー、もう、正解がわかんねえ!


「ごめんなさい!」


 私がウダウダと考えている間に、先に聖に頭を下げられてしまった。


「え、いや、聖が謝る必要はないよね?て言うか、寧ろ謝るのは私の方じゃない!?」


「え、そんな事は無いと思うけど……?」


「いやいや、私がもっと強かったら……その……聖さんのお手を煩わせる必要はなかったと言いますか……聖が自分の……く、唇を安売りする事はなかったと言いますか……ていうか、本当に良かったの?私にその……キ、キ……キスとかしちゃって……」


「えっと……蒼蘭ちゃんの方こそ、嫌じゃなかった?私みたいな子と、キスだなんて……」


「嫌なわけあるか!!」


 思わず声を張り上げてしまった。


「ちょ、セーラ!みんな寝てるから、『シー』だって!」


 炎華は人差し指を口元に当ててジェスチャーをして、私を落ちつかせようとする。


「ごめん……つい……」


「ううん、大丈夫。気にしないで、蒼蘭ちゃん」


「ていうか、聖はどうなの?嫌じゃなかった?」


「そんな訳ないよ!それに私だって……誰にでもする訳じゃないし……」


「そ、そうなんだ……」


 危うく、都会の女子高生には『挨拶代わりレベルに友人とキスを交わす』文化があるのだと勘違いする所だった。


「あ、でもさ、セーラ。ひじりんの『魔力供給』の事、なるべくなら秘密にしておいてあげて」


「あ、うん……勿論、無闇に言いふらしたりしないから」


 聖にも迷惑がかかるし、こう言う事を軽々しく話すのは良くないよな。まぁ、そもそも言いふらす相手もいないのだが、私はそれなりに口は硬い方だ。多分。


「炎華ちゃん……気を遣わせちゃったね」


「もー、気にしないでよ、ひじりん♪」


 炎華は聖の頭も、私と同じ様に優しく撫でた。うーむ、やっぱり我が友人のギャル、『お姉ちゃん属性』の力が半端ではないな……。


 ◆

 そうこうしている内に、バスは学園の校庭へと入っていった。魔物との戦闘で疲れていたクラスメイト達も、流石にボチボチと起きはじめていた。


 A組とD組の生徒が校庭に集まり、点呼を取り、後は解散の流れになった。


「そうだ!アディラ、菊梨花!」


 私は二人のA組生徒を呼び止めた。


「どうしました、瑠璃海さん?」


「何か用かしら?」


「改めて、二人にはお礼を言わせて。私のお姉ちゃんを、助けてくれてありがとうございます」


 私は彼女達に頭を下げた。


「それと、これ、お土産コーナーで買ったお菓子。お礼の印として、二人に渡そうと思って」


「要らないわ!」


 令嬢の凛とした声色で、バッサリと断られてしまった。


「ナヴァラトナさん、何もそこまで強く断らなくても良いのでは?」


「…………だって、私は大した戦果を上げていないわ」


 アディラの口から、意外すぎる言葉が飛び出した。


「え、どうしたの?いつも自信満々のアディラらしくないじゃん」


「煩いわね!というより癪ね!貴女にそんな能天気な女だと思われていたなんて!」


「いや、そこまでは言ってないけど……」


 私の返答に、声を張り上げた令嬢は急にしおらしくなった。


「今回の事件では、セイラが決着をつけたわ。しかも、この前よりも更に強力な時魔法でね。一番の活躍を収めた貴女が、最大の功労者の貴女が、何故わざわざ私の所に赴くのかしら?」


「何でも何も……アディラだって、植物園のドリアードを倒したんじゃないの?菊梨花達と協力してさ。ねぇ、どうだったの、菊梨花?」


 いきなり話を振られた副会長は、少し驚いた表情をした後、静かに返答してくれた。


「瑠璃海さんの予想通り、ナヴァラトナさんの活躍が無ければ、あのドリアードは倒せませんでした。彼女が魔物の心臓部を攻撃してくれたからこそ、雷葉さんの一撃でトドメを刺す事が出来たのです」


「そうよ。私は……私一人では、あの化け物を倒す事は出来なかった。セイラ、貴女とは違ってね……」


「え、じゃあ、私と同じじゃん」


「はぁ!?なら、セイラのお姉さんが見せた映像は何なのよ!?貴女が一人で魔物を倒していた、あの映像は!?」


「いや、私だって、一人で倒した訳じゃないよ?そもそもお姉ちゃんが見せた映像は、お姉ちゃんが見ていた部分だけだし。お姉ちゃんが駆けつける前に、聖が私を治癒魔法で回復させてくれたの。それと、炎華がみんなを炎の魔法で守ってくれたから、私は思いっきり凍らせる事が出来た。そもそも、私達の方にあのドリアードまで増援に来てたら、絶対に勝てなかったわ。だから、私は!」


 改めて彼女らに、お土産のお菓子を差し出した。


「お姉ちゃんを助けてくれた二人に、お礼をしたいの。最悪の未来を変えてくれた、とても強い魔女達に」


「……要らないわ」


「え……?」


 ここは受け取る流れじゃないのか?

 そう考えていると、アディラは私に視線を合わせて、ビシッと指を差した。


「今回の()()なら、貴女の時魔法だけで十分よ!世にも珍しい、時魔法の映像だけでね!そのお菓子は、貴女のお姉さんへのお見舞い使いなさい!これ以上の『恩の押し売り』は、ナヴァラトナ財閥の一人娘には不要よ!今に見ていなさい!珍しい魔法が使えるだけの貴女よりも、私の方が何倍も優秀な魔女だって事、すぐに証明してあげますわ!」


「証明も何も……アディラは十分強いし、頼りになるじゃん」


「そういう事じゃないわ!全く、いちいち生意気な愛玩動物(マスコット)ね!ウサギはウサギらしく、愛想だけ振り撒いてなさいな!」


 な、何だとぉ……!?


「まあまあ、落ち着いてください、ナヴァラトナさん。そろそろ、私達もお(いとま)致しますよ。それと、瑠璃海さん。私もそちらのお土産はご遠慮します。是非貴女のお姉さん……沙織さんに渡してください。それと、沙織さんにもよろしく言っておいてくださいな」


 副会長はアディラ嬢を引き連れて、そのままA組寮へ引き上げてしまった。


「良かったのかな、これで……?」


「良いんじゃない?ラトナっち、ちょっと元気になったみたいだし」


「そうかなぁ……?」


 何だか私は、色々な魔女に目をつけられている気がするな……。


 ◆

(一方そのころ)


「良かったのですか、(あるじ)様」


 一足先に拠点に戻ったマギナと従者ステラは、仕事終わりの紅茶を嗜んでいた。


「何の事かしら?」


「生徒の皆様ですよ。主様もあの集まりに参加して、大々的に彼女達を労っても良かったのでは?」


「えー、でも私、今回は殆ど何もしていないわよ?大した事をしていない魔女が、頑張っていたあの子達の前に顔を出すのは流石に厚顔が過ぎるというものだわ」


「直々に彼女達を治療していたではないですか。生徒の皆様は主様に手当をされて、とても嬉しそうでしたけど?他にも、蒼蘭さんに助言をして、異世界人の転移を阻害して、更には工場の損傷も元通り。これで『大した事をしていない』は、流石に通らないのでは?」


「うーん……でも、やっぱり今の私が生徒達(こどもたち)の前に出るのはよろしくないわ。だって、この()()()()()()を見せたくはないもの」


 そうだ。皆が頑張っていた中、アゲハの大魔女はただ一人の活躍を、未だに反芻している。


 自分でも完全に予知出来なかった、『運命の鍵』の活躍を。


(あの時、私の余地が朧げになったのは、蒼蘭お姉様の『時魔法』が原因だったのね……。それも『時間停止』、『未来予知』よりも更に強力な魔法……)


 彼女は自分が目にした光景を、何度も、何度も思い返す。長い間探し求めていた『可能性』が、漸くハッキリとした形で目覚めたのだ。興奮を抑えろという方が無理な話だ。

 しかも彼女の信頼を、それなりに勝ち取れている。マギナの助言に、蒼蘭が素直に従ったのが何よりの証拠だ。オマケに、彼女は目覚めたばかりの『時魔法』を(いたずら)に使うのではなく、『考えた上で』使いこなそうとしている。時の魔法と水の魔法の合わせ技、そしてその発想にはとても感心してしまった。


 掴み取った希望を胸にして飲む紅茶は、普段の何倍も深い味がした。


 ◆

(一方、胡桃沢ラボにて)


「し・ず・く〜ん♪お帰りなさーい♡」


 私こと沙織お姉ちゃんは、満面の笑みで最愛の妹を迎えた。そう、私はしず君と同じバスには乗れなかった。非常勤講師の『胡桃沢先生』は昨日の時点で帰った事になっているし、今の私は雨海 沙織、学園にとっては部外者なので仕方ない事ではある……。

 でも、本音をぶっちゃけると、お姉ちゃんも帰りのバスに乗りたかった!妹達と楽しいバスの旅をしたかった!でもそれが出来ない……なら、せめて笑顔で妹の帰りを待とう!と、私は結論づけたのである。

 それに今日は金曜日!しず君の都合が良ければ、お姉ちゃんと一緒に夕食を食べる日である。流石に惺も疲れているだろうから、無理に料理を作って貰うつもりはない。何なら、姉妹水入らずで外食なんてのもありではなかろうか!


「何で姉貴はそんなに元気なんだよ……。オークの大群と戦ったんじゃないのかよ……?」


「んー?疲れなんて、しず君の真心たっぷりの手作りポーションで吹き飛んじゃった!やっぱり作る人の心が込められているよね……きっと、飲む人の気持ちを考えながら作ったんだよね……」


「いや、()は姉貴が飲む事になるとは欠片も思ってなかったけど?」


「もー、照れちゃって♪でも、疲れが取れたのは本当だから!」


「そっか……そりゃ良かったと言うべきか……あ、そうだ。これ、お土産」


 惺が紙袋から、お菓子の箱を取り出した。何と、お姉ちゃんにお土産を三つも買ってきてくれたのだ!


「え、こんなに沢山、良いの!?」


「本当はアディラと菊梨花へのお礼のつもりだったんだけど……自分達よりも、お姉ちゃんに渡せってさ」


「おお……それじゃ後で二人には、お姉ちゃんからお礼を言わないとね。ほら、立ち話も何だしさ、座って麦茶でも飲みな」


 テーブルに用意した麦茶をコップに注ぎながら、妹に着席を促す。


「それで、どうだった?今回の工場見学は?」


 しず君が麦茶を飲み干したのを見計らって、私は感想を尋ねる。


「そうだな……魔物騒動は抜きにして、純粋な工場見学として考えると……


 正直、すげえ楽しかった」


 瞬間、お姉ちゃんの視界の明度が一段階上昇する。


「本当!じゃあ、特に何が面白かった!?」


「んー……敢えて言うなら、ポーション作りかな?でも、他の見学スポットも楽しかったよ。色んなことを体験できて、凄く勉強になった」


「そっかー、楽しかったかー!」


 更に視界が明るくなる。妹の表情を見れば、彼女の感想が正直なものだと分かる。お姉ちゃんも、自然と表情が緩んでしまう。


「んで、一連の見学スポットは、姉貴が発案したものって言ってたよな」


「うんうん!」


「そっか……まぁ、一応それに関しても、お礼は言っておくわ。ありがとう、お姉ちゃん」


 ……え?

 え、え、え!?

 もしかして、デレ期!?


「何て言うか、あの工場はお姉ちゃんが考えたものが色々ある訳じゃん?子供の頃の……春休みに遊んだ『秘密基地』の事、思い出してさ……。そういう意味でも、お礼は言っておきたくて、さ」


 ああ……この世界は、何と煌びやかな物なのでしょうか……!?

 見よ、私の目の前にいる、天使のはにかんだ表情!そして、彼女はお姉ちゃんとの思い出を覚えていてくれた!

 え、嘘、結構昔の話なのに、覚えていてくれたんだ…………。やばい、言葉では言い表せない、この嬉しさは!


「まぁ、そんでさ……お姉ちゃんの言葉じゃないけど、()()()()()()()()()()()()()()()()


 それを踏まえた上で、ちょっとお話があるんだわ」


 ……ん?

 ……あれ?

 なんか、しず君の表情が若干シリアスになった様な……?


「お姉ちゃん……胡桃沢博士が、『正体を私に黙っていた』件で、色々思うところがある訳よ。いや、別に黙っていた事自体を咎める気は無いよ?今のところだけど。お姉ちゃんにだって、色々考えとか事情とかあるのかもしれないし?そこは、おいおい聞かせてくれれば良いよ。正直、今日は色々あって疲れたから」


 ……あー、その事か。

 うん、勿論、おいおい話すつもりだよ。

 あれ?でも、そうなると……


「なら、しず君のお話って?」


 お姉ちゃんの質問に、妹の顔がより真剣なものになる。


「つまりさ、お姉ちゃんは赤の他人のフリをしながらさ、()()()()()()()()()()()()()()()()って事だよね?」


 ……………………。


 ………………………………。


「何だっけ?地雷系ファッションに、バニーガールのコスプレ……リリアちゃんのゴスロリファッションに、他にもちょくちょく寄越してくるよな?」


「いやー、それには、ほら、お姉ちゃんなりの考えや事情があってですね……」


「考え……?事情……?


 自分の欲求と趣味趣向しか存在しねえだろうが、この年下美少女偏愛脳のシスコン煩悩研究者!!」


 あれ?

 これ、マズい?ヤバい?

 せっかく上げた妹の好感度が、急激に下がっていく音が聞こえる……。

 そう言えば、さっきまで明るかった世界が、段々と明度が落ちている様な……。


「ん」


「え?」


 しず君がリュックからビニール袋を取り出した。彼女はテーブルの上でそれをひっくり返すと、中からは購買のおにぎりやカップ麺がドサドサと落ちてきた。


「これは……?」


「お姉ちゃんの晩御飯」


「……え?」


「私、しばらくお姉ちゃんには料理作らないから。期末テストもある事だし」


 そう言って、妹は私の自宅を後にした。




 ◆

 天才研究者は、哀愁に満ちた表情でおにぎりを食べている。薄暗い世界の中、たった一人で行われる晩餐会。彼女の背中から漂う悲しみのオーラは、何人たりとも寄せ付けない程に重い代物だった……。

【ちょっとした補足】

エルフの女の子は、ちゃんと生きてます。無事です。

銀髪エルフちゃんの負傷は元々あったもので、蒼蘭ちゃんの魔法では傷ついてません。大浴場の時とは正反対で、エルフちゃんに関しては全身無罪人間な蒼蘭ちゃんです。

補足は以上、です!



いや、本当にギリギリになってしまいました!

そして、書き溜めている間も更新を待ってくださった皆様、今回の更新で新しく目を通してくれた読者の皆様、本当にありがとうございました!

皆様の応援、そして私の小説に目を通して頂けた事実が、何よりの動力源です!


もしよろしければ、是非に関わらず、感想やお気に入り登録など、頂けましたらとても嬉しいです。特に、今章では各キャラクターの掘り下げや、戦闘シーンにも力を入れたつもりなので、読者の皆様がどう感じたのかを聞かせていただければ幸いでございます。


最後に、雨海姉妹の言葉を借りますが、『私の小説を読んで頂けた事実、これがまず大前提として嬉しい事』でございます!今回の章も、最後までお付き合い頂き、ありがとうございました!


最後とは言いつつ、数話ほど幕間を投稿してから第3章へ突入します。幕間、及び次の章に関しては、気長にお待ち頂ければ幸いです。

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