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第63話 生徒と教師、『秘密』の時間

……温泉回から1日経過しましたが、なんかセーフっぽいのでこのまま続きを投稿していきます。


前回のほのぼのとした(?)温泉回とは打って変わり、ちょっと不穏なお話です。

そして、人によってはグロテスクに思える描写があります。何卒、ご容赦くださいませ。

(旅館の食堂にて)


「いただきま〜す!」


 他の生徒より遅めの夕食になってしまったが、無事に食事へとありつけた。


「………………」


 否、無事ではない。約一名、不満げに騒動の発端となった財閥令嬢に、不機嫌な目線を送る者が居た。


 菊梨花だ。


 彼女は私と同じく地方出身らしく、山の幸が好物との事だ。そして今日、A組生徒にはスペシャルメニューとして、キノコの天ぷらが振舞われていたらしい。だが、遅くに来てしまったアディラと菊梨花は、その天ぷらにありつけなかった。食べ物の恨みは恐ろしいく、普段真面目な副会長ですら不満を押し殺せていない。


 流石にマズいと思ったのか、アディラは茶碗蒸しと肉料理一切れを彼女に献上し、どうにか食卓の空気は平穏に戻ったのだった。


「お、セーラもご飯お代わりするんだ?」


「うん。だって旅館のお料理、美味しいから」


 私達は茶碗にご飯をよそい、テーブルへ戻る。山の幸を使ったお世辞抜きに料理は美味く、それ故にご飯が進むのだ。しかしキノコの天ぷらか……私も食べてみたかったな。このジメジメした梅雨時だ、さぞ活きの良いモノが入荷したんだろうなぁ。


 ……ん?

 ()()()……()()()()……?


「……お、おーい、セーラ?」


「へ?」


「バリシリアスな顔してたけど、なんか考え事?」


「あー……うん、ちょっとね」


 …………この感覚、以前の学内バイトの時と同じだ。

 心の奥底に引っかかるモノがある。それも、『未来予知』に由来するものだ。恐らく私は、温泉で気絶する前に未来を見た。だから目を瞑り、記憶を反芻する。


 思い出せ、脳裏に引っかかるという事は、恐らく重要な事だ。そして未来を連想させる事柄が、私の身近にある筈だ。


 キノコ、梅雨の季節……もしかしたら、最近見る『暗闇と湿度の夢』も関係が…………?


「…………ッ!?」


 未来のビジョンを思い出した私は、思わず目を見開き、息を呑んだ。


「蒼蘭ちゃん、本当に大丈夫?」


「あ……うん、大丈夫!それより、早く食べちゃわないと!」


 心配する友人に返事をすると、私は急いで夕食を済ませ、足早に食堂を出た。目指すは先生の部屋……胡桃沢博士の泊まっている部屋だ。


 ◆

「蒼蘭ちゃん?どうしたんだ、そんな血相変えて」


 保護者代わりの教員は、突然の来訪に目を丸くしていた。


「博士……私、また未来が見えました」


「ほう……それで、どんな光景が見えたんだい?」


「その前に……ここは一人部屋で、他に人も居ませんよね?誰かに聞かれることを恐れず、私は話をして良いのですよね?」


「ああ、勿論だ」


 私は大きく息を吐き、単刀直入に言った。


「私は明日、薄暗い空間に閉じ込められるみたいです。薄暗くて湿度の高い空間で、私は床に倒れ込んでいました」


「何……だと……?」


 博士の様子は、いつになく真剣だ。それを見た私は一瞬の躊躇を経て、予知で見た悍ましい出来事を告白する。


「私の他にも閉じ込められた人がいて……その人の身体から……露出した手足や頸から……『茸』の様な物が生えていました」


「…………」


 声こそ発しないが、胡桃沢博士は正に『苦虫を噛み潰した』様な表情をしていた。彼女の口にゴーヤでも入っているのかと錯覚する程だ。私だって、多分博士と同じ表情をしている。


 ……だが、真の本題はここからだ。


「私が見たのは、A組の担任と生徒数名……それと、私の目の前で倒れている人です。


 ()()()()()で、『瑠璃海 蒼蘭』が倒れていたんです。身体から、茸をびっしりと生やして……」


 思い出すだけで悍ましい光景だった。衣替えを経て、夏服に袖を通した女子高生達が、露出した腕や脚から、毒々しい見た目の茸を生やされていたのだから……。


 俯いた頭を上げて一度博士に向き直り、言葉を続けた。


「私の……蒼蘭ちゃんの姿に慣れるのは、『魔女っ子スーツ』を着ている私と、製作者である博士の二人だけ、ですよね?」


「……ああ、そうなるね」


「つまり、私の見た蒼蘭ちゃんは、胡桃沢博士が『蒼蘭ちゃんのスーツ』を着た姿。私の推測が正しければ、『貴女は私の身代わりになるつもりだった』と言う事になりますが?」


 私の指摘に、天才技術者は少しの間視線を泳がせた。だが、予知の状況が状況である。あの場面で、博士が蒼蘭の姿でいる理由が他にない。


「参ったね、バレてしまったとは……」


「私が数日前に見た夢は、やっぱり予知夢だった。暗くてジメジメした空間にいたから、何も見えずに汗をかくだけだった……。それに気づいた博士は、私を庇うべく身代わりになろうとした、という事ですね?」


「ああ、その通りだとも。そして、今の蒼蘭ちゃんの未来予知で、今のままでは身代わり作戦が失敗すると理解したよ。今からでも、更に綿密な計画を練る必要が……」


「『胡桃沢 百花』博士、話はまだ終わっていません」


 私は彼女の言葉を遮って、辿り着いた()()をつく。


「アンタ…………()()()()だな?」


「…………え?」


「おやおや、随分とビックリしているじゃないの。()()()()()()()


「…………何の事かな?私は唯の彼女……沙織の親友でしがない研究者、そして単なる非常勤講師に過ぎないさ」


 ほぉ、白を切るってのか。だが、何の根拠もなしにこんな事言うと思うのか?


「『唯の非常勤講師』が、一生徒の為に身体を張って身代わりになるなんてあり得ないだろ?そこには『教師と生徒』以上の関係がある筈だ。例えば肉親、血を分けた姉弟(きょうだい)だから、とかな」


「いやいや、君は貴重な被検体だというのを忘れていないか?惺、君は後天的に魔女となった、貴重な貴重なサンプルだ。しかも、『時魔法』なんて超レアな魔法を扱える生徒だ。研究者であれば価値のある研究材料は逃したくないし、君が着ている『魔女っ子スーツ』だって、相応の研究予算が注ぎ込まれている。多少の危険を犯してでも、君の安全を確保したいと思うのは当然の事だと思わないか?」


「まぁ、その言い分には確かに一理あるさ。でも、問題はその『魔女っ子スーツ』なのよね……」


 私は自分の身体の質感を確かめる様に、服の上から軽く乳房を揉む。


「青っぽい髪に低身長な童顔巨乳美少女、銀髪でゴスロリな年下ヒロイン、そして赤髪で気の強そうな女子高生…………」


 今上げたのは、胡桃沢博士の魔女っ子スーツ三部作特徴だ。彼女達の身体には、実は共通点があったのだ。


「……揃いも揃って、我が不肖の姉が『ギャルゲーで真っ先に攻略しそうなヒロイン』と同じ特徴なのは、一体どう言う事なんですかね?一人だけならまだしも、三人……()()も好みが反映されてりゃ、『偶然』なんて言い訳は通らないよな?」


 私とて血を分けた(おとうと)である。姉貴が美少女ゲームをこよなく愛している事も、そしてどんなヒロインが琴線に触れるかなどは、嫌でも分かってしまう。傾向としては年下ヒロインが好みで、中でもお人形の様にこじんまりしたゴスロリ少女や、背が低いのに発育抜群なギャップを持つ少女、ツンデレ系後輩ヒロイン等が大好物である。


「フッ……あはははは!」


 博士は笑い出し、そして自嘲気味にため息をついた。


「あーあ、気づかれちゃったかー……まさか、こんなに早く見破られるなんてね」


 そういうと、博士は自分の首筋に手をかけた。鎖骨の辺りを指で弄ると、そこには薄い『皮』があった。

 本物の皮膚との間に指を滑り込ませ、スパイ映画のマスクの様に、彼女は『胡桃沢 百花』の()()()()()


 そこには俺のよく知る顔……蒼蘭ちゃんの中にある『今の私』とそっくりな美女がいた。彼女は頭を振ると、濡羽色の髪がふわりと舞う。彼女は正真正銘、私と血を分けた姉、『雨海 沙織』だ。


 姉貴の顔を見るのも数十日ぶりだが、相変わらずの『黙っていれば美人』っぷりだ。『弟時代』では彼女のルックスに若干の劣等感(コンプレックス)を抱いていたが、それが今や彼女の面影を宿す『妹』になったのだから、人生とは分からない物だ。そういえば、姉貴が着ているスーツはファスナー式じゃないんだ……。って、今はそんな事どうでも良い。


「……重要なのは、このままだと姉貴まで危険な目に遭うって事だ」


「そうね……こうなったら、しず君にはもっと離れた場所で待機して貰った方が……」


「姉貴!」


 俺は思わず声を荒げる。


「俺が言ってるのは……『俺の身代わり』なんて危険な真似は止めてくれって言ってんだよ!」


「やだ」


「はぁ!?」


「だって、(おとうと)を助けるのがお姉ちゃんの一番の役目でしょ?」


「あのなぁ……それで姉貴まで茸塗れになったら意味ねぇだろ!?だから、もっと別の手段を……()()で協力するとかさ!」


「それは、出来ない」


「……何でだよ」


「お姉ちゃんはずっと……しず君が危険な目に遭っているのに、助けてあげられなかった。この前だって、しず君が元気を無くした時に、お姉ちゃんは励ましてあげられなかったから…………。だから今度こそ、お姉ちゃんに全部任せて!」


「………………」


 私は懸命に、紡ぎ出すべき言葉を探す。

 姉貴は賢いクセして、変な所で頑固な事がある。目の前にいる天才を説得させるには、それ相応の根拠・理屈が必要だ。『姉に危険な事をさせたくない』なんて有りふれた感情論では、彼女の首は左右にしか動かない。


 考えろ、考えろ、考えろ。

 私だって、多少の修羅場は乗り越えて来たんだ。私と、頼れる仲間と、それと…………


 そうだ、思い出した!


「姉貴、すぐ戻ってくるから待ってろよ!?」


「え、しず君?何処行くの?」


 私は部屋を飛び出し、自分の部屋へ駆け込んだ。


 ◆

「あ、蒼蘭ちゃん戻って来た」


「……セイラ、少し話があるわ」


 部屋に戻るなり、ルームメイトが声をかけてきた。


「ごめん、急用があるから5分だけ待って!」


 私はリュックの中身を漁り、『課外授業の栞』を取り出した。


 ()()()()()()()()()()()、それがアゲハの大魔女からの伝言だ。

 本当異世界絡みの危機が迫っているなら、マギナさんだって何か察知しているに違いない。なら、何かしらのコンタクトを取ってくれる筈だ。

 それにあの時、彼女は私の部屋で話していた。『運命の楔』を生み出せる私が居なければ、未来を変える事が出来なくなる、と。そして、私が死ぬ様な未来が見えなかったから、その事を伝えるのを後回しにしていたのだ、とも。つまり、私やお姉ちゃんが命を落とす未来が待ち受けているなら、マギナさんが直接アクションを起こす筈である。それをしないと言うことは、今回の危機は『十分に打開可能なもの』だと言う事では無いだろうか?

 そりゃ勿論、この考えは楽観論なのかもしれない。或いは歴史に名を残す様な魔女にとって、私の存在はそこまで大きい物では無いのかもしれない。だが、私を一ヶ月間も鍛えてくれた彼女の事を、わざわざ自分の辛い過去を明かしてくれたマギナさんの事を、そして『彼女が信じる私の事』を信じたいと思った。その一心で、私は栞の冊子を開いた。


 すると開いたページから、虹色の蝶がふわりと舞った。アゲハ蝶の身体が光り輝くと、一つの封筒に姿を変えた。シーリングスタンプを剥がして封を開けると、手紙と写真がそれぞれ一枚ずつ入っていた。

 これは、アゲハの大魔女からのメッセージだ。私は早速、手紙を読む。


-------------------------------------------------

 この手紙を読んでいるという事は、栞のあとがきにある私のメッセージを覚えていてくれたのね。真面目な生徒は大好きよ、蒼蘭お姉様♪


 さて、これから起こる未来についてのお話しだけれど……今回、私は細やかな手助けしか出来ません。


 いけない、いけない。こんな書き方をしちゃうと、きっと不安にさせてしまいますね。でも、安心して。今回の危機もまた、蒼蘭お姉様の力で乗り越えられる物だから。


 ……厳密に言うと、貴女は私でも正確には予知できない、『とても凄い事』をこれから引き起こすの。お姉様が引き起こす魔法と、その正体が何なのか、それを突き止める事が出来れば、もっと先の未来で起こる危機だって乗り越えられる。私はそう考えたから、今回の件を蒼蘭お姉様に解決して欲しいの。

 でも勿論、油断は禁物です。未来とは移ろいやすい物、自分の力を過信してしまっては、変えられる未来も変えられないわ。


 とは言えお姉様は、私からの助言や手助けを求めて栞を開いたのよね?ならせめて、お姉様からの『信頼』には応えないと、ね。


 手紙と一緒に、未来の写真を念写した紙を送ります。今回の事件を解決する、大きなヒントになる筈です。

 それともう一つ。私の大切な人、700年前の勇者様が教えてくれた事を伝えます。


 “困難を乗り越えるのに必要な事は、知恵と勇気と冷静さ、それから諦めない心だ。

 そして……ぶっちゃけ一人で全部やるのは大変だから、頼れる仲間は存分に頼れ!"


 そう、『自分の力だけ』を過信する事は良くない事。でも、貴女の周りには、頼りになる人が沢山いる筈よ。その人達と力を合わせて、どうか今回の危機を、見事に打破してください。


 P.S. 蒼蘭お姉様のお姉様にも、"よろしく"と伝えておいてね。

--------------------------------------------------


 同封された写真を見ると、私が予知した風景とほぼ同じ物が写し出されていた。異なるのは写真の視点が私ではなく、完全な第三者である事だ。その証拠に、倒れている蒼蘭ちゃんの正面には、私の予知では見えなかった『沙織姉貴』が同じく倒れていた。

 ここから分かるのは、姉貴は自分の姿を模したスーツを私に着せていた事。そして、私が見た未来を、マギナさんも予知していた事だ。


 か細い希望のつもりだったが、アゲハの大魔女は俺に応えてくれた。どうやら、悲観し過ぎる程の状況ではないらしい。ついでに、私がこれから大魔女もビックリなミラクルを起こして、事件を解決するのだとか。


「……ラ、…………きなさい、……イラ!」


 ……正直、過大評価も良いところじゃないか?欠片も実感が湧いてこない。いやまあ、まだ起きていない事に実感も何も無いんだが……。


「コラ!いつまでも私を無視してないで、こっちを向きなさい、セイラ!!」


 アディラの声で、ハッと我に返る。


「あ……ごめん、気が付かなかった。それで、何か用?」


「『何か用』も何も、色々あり過ぎるわよ。でも先ずは……」


 アディラがバツが悪そうに、この旅館で売っているお土産-すもも饅頭を差し出した。


「これは……?」


「……温泉でのお詫びよ。その……逆上せるとは思わなくて……ごめんなさい」


「アディラ……大丈夫、ありがとう」


「それはそうと、さっきの蝶々は何だったの?」


「あー、それは……」


 私は数秒、あの悍ましい予知について、話すのを躊躇った。だが、このままでは未来は変わらない。それに、確か彼女らは被害に遭っていなかった。だから、意を決して相談を持ちかける。


「私、また悪い未来を見たの。そして……私のお姉ちゃんが危険な目に遭うかもしれないの!さっきの蝶々は、マギナさんからの手紙を運んできてくれた!マギナさんからのアドバイスが書かれていたけど……この未来を変えるには、皆の力が必要になるの!」


 私はルームメイトに頭を下げた。


「研究所で働いているお姉ちゃんを……私は助けたい!だからお願い、力を貸してください!」


 下げた私の頭を、優しく撫でる手があった。


「確か蒼蘭ちゃんのお姉さんは、蒼蘭ちゃんを慰める時に、こうやって頭を撫でてくれたんだよね?」


「聖……」


「勿論、力になるよ。だって、蒼蘭ちゃんに頼って貰えて嬉しいから!」


「聖……!」


 ああ、この子は何て親切な魔女なんだろうか……!きっと前世では、シンデレラにドレスやガラスの靴をあげた善性の魔女だったに違いない。


「当然、あーしも手伝うよ!友達との楽しい課外授業、台無しになんてさせないから!」


 続いて炎華が協力を申し出てくれた。そして最後、アディラ嬢も手を差し伸べてくれた。


「『家族が危ない』って言うんなら、仕方ないわね。この柘榴石(ガーネット)の魔女が力を貸してあげるわ!感謝なさい!」


「ありがとう、聖、炎華、アディラ!」


 協力者を得た私は、再び『博士』に電話をかけた。


「博士、もう一度『お姉ちゃん』と話がしたいので、博士の部屋に()()()()()貰えますか?」


『……もう呼んであるから、入っておいで』


 電話から返ってきたのは、私のよく知るお姉ちゃんの声だった。


 ◆

「まず、皆に紹介します。こちらが私のお姉ちゃん、『雨海 沙織』です」


 部屋に入ってすぐ、私は友人らに姉の事を紹介した。


「もしかして、新型ポーションを開発した人?」


「はい。私がその研究者ですよ、白百合さん」


 知的さを感じさせる微笑みを織り交ぜて、姉貴は返答する。生徒の前だからか、普段より大人びた印象を醸し出している。


「あーしらの事、知っているんですか?」


「ええ、葡萄染さんに、白百合さん、それとナヴァラトナさんよね?貴女達の事は妹から聞いています。蒼蘭は、とても良い友人に恵まれたみたいね」


 今日の姉は何処に出しても恥ずかしくない、お淑やかで大人なレディである。目の前の淑女は、決して妹に研究と称してコスプレをさせたり、弟の小学生時代に運動会で手作りの旗を振り回して応援したり、合唱コンクールで奇声にしか聞こえない歓声を上げながらペンライト振ったりはしないだろう。


「……集まってくれた事には感謝しています。でも正直、時間も取れる手段も限られているわ。その上で、『学園の生徒を巻き込む事はしたくない』と言うのが正直なところね」


「お姉ちゃん。私だって考えなしに、皆へ応援をお願いした訳じゃないから」


 私はテーブルの上に、マギナさんからの手紙と予知の写真を置いた。


「これは、『アゲハの大魔女』からの贈り物。マギナさんからの手紙を見るに、勝算自体はあるみたい。

 それと、予知の写真。被害に遭った生徒の中に、聖達は居ないわ。だから、彼女達なら身体に茸は生やされない。こんな事をしでかす悪党を、一緒にやっつける人材としてうってつけよ」


 写真を見た友人らが、一斉に息を呑む。


「この悍ましい光景には、心底吐き気がするわね……。セイラ、気は保ててる?」


 アディラの言葉には、正直驚かされた。まさか、掛け値なしに私の事を心配してくれるとは。


「正直、私も目を背けたくなる光景だけど……」


 私は姉へ視線を向け、言葉を続ける。


「血を分けた姉妹の危険なら、それを直視するしかないでしょ。なけなしの知恵で策を考えて、最後まで無様に足掻くつもりよ。まぁ、私一人だとそういう事しか出来ないから、頼もしい魔女達の力を借りる訳だけど」


「そう、『往生際の悪さ』は健在って訳ね。安心したわ」


「何よ、悪い?」


「いいえ、滅相も無い。最後の最後まで足掻き続けるのは、セイラの数少ない取り柄じゃかったかしら?」


 おうおう、言ってくれるじゃねえの、アディラお嬢様よ?


「……手紙は読み終わったわ。大魔女様は、どうしても蒼蘭ちゃんに解決して欲しいみたいね……。()()()()()()()()()()()()()


 手紙から顔を上げた姉貴は、随分と険悪な表情を浮かべている。


「お姉ちゃんが私を心配してくれているのは分かるよ。でも、この前の電話でも話したでしょ?私は、私の意思で戦うんだって。友達や家族が危険に晒されるなら、そんな運命、捻じ曲げてやる!」


 私の啖呵を聞いて、お姉ちゃんが私を見る表情が変わった。決して、無茶や無謀だけで話をしに来た訳じゃない、それを少しは分かってくれたようだ。


「蒼蘭ちゃん、沙織さん。私、この写真で気になった事があるんです」


 今度は聖が意見を出してくれた。


「見たところ、被害に遭っているのはA組の生徒ばかり。だから、魔力の高い人を優先して標的にしてると思うんです。それなのに……アディラちゃんが狙われていないのって、少し不自然じゃ無いですか?」


 言われてみれば、確かにその通りだ。加えて言うと、私は身体に茸を生やされている予知では『脱力感』も味わっていた。あの茸は恐らく、魔女の魔力を吸収して、自身の糧としているのだ。

 だからこそ、アディラが標的にされていない理由が分からない。彼女は以前の魔力測定でも、好成績を収めたときいている。A組をターゲットにしているクセに、何故その中でも実力の高い彼女を標的にしていない?

 他のA組生徒とアディラとの違い、それが分かれば対処のヒントになる筈だ……。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 かくして私たちは色々と対処法を話し合い、そして姉貴の協力を取り付ける事が出来た。時間が少ない以上、取れる手段は限られている。だが、それでも、このメンバーなら十分に立ち向かえる。頼れる学園の生徒に、稀代の天才研究者、そして曲がりなりにも『運命の鍵」である私なら、きっと。

今回の話では具体的な作戦会議内容を伏せてますが、ちゃんと次回以降で順次明らかになります。ご安心ください。


【ちょっとした注釈】

胡桃沢博士の『魔女っ子スーツ』がファスナー式じゃなくて頭部と胴体が別々な変装マスク形式だったのは、顔だけ沙織お姉ちゃんに戻って虹彩認証をスムーズに突破する為です。沙織お姉ちゃんは天才研究者なので、ポーション工場内の全ての設備に入る事が許されているのです。

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