第57話 幕間 魔女っ娘スーツ(新作)②
今度は銀髪の女の子になった惺ちゃん。
果たして実験の結果は如何に…?
(再び地下の実験室)
「うんうん、リリアちゃんのスーツも特に問題なく機能しているようだね!」
このゴスロリな銀髪ツインドリル少女の名は『リリア』と言うのか……よし、覚えた。
「それで、リリアちゃんはどんな魔法が使えるんですか?」
「さっきの茜ちゃんとは真逆、『氷』の魔法が使える筈さ。さぁ、早速試してみてくれ!」
成程、氷の魔法か。確かに、炎よりは相性が良さそうだ。適性のある水魔法と似た存在だし、水タイプのサブウェポンといったら氷の攻撃だと、昔から相場が決まっている。
私は魔法系統学の授業を思い返し、記憶の中から氷の初級魔法の知識を引っ張り出した。
「では、行きます!」
幼い少女の声が室内に響き、私は自分の小さな手のひらに魔力を集める。水を冷やした物が氷である以上、普段使っている水魔法の感覚が役立つ筈だ。更に授業で習った事だが、『氷魔法は表面から冷やす事』が重要らしい。最初に氷の膜で型を作り、そこに魔力を流し込む要領だ。私はそれらの事を意識し、集まった魔力を解き放った。
「『アイス・ボール』!」
手のひらから放たれたのは、直径10cm程の球体だ。発射されたその球体は、空気抵抗で形を変える事は無い。固体の球だ。
つまり……
「やった、成功ですよ!」
ちゃんと授業を受けてて良かった!
……と思ったのも束の間だ。透明な球は床に落下すると、ガラスの様に粉々に砕け散ってしまった。
「ああっ、氷が!」
しまった……。冷却が足りなかった所為か、全然強度が足りてないぞ……。
「またしても失敗、ですか?」
「いや、違う。氷その物が出た以上、実験は殆ど成功と言っていい。砕けてしまったのは、君が氷魔法に慣れていないからだろうさ」
博士は私をフォローすると、満面の笑みでリリアちゃんの肩を叩いた。
「故に君は今日一日、『リリアちゃん』の姿で過ごして貰おうか?」
「何故そうなるんですか!?」
「いやいや、最初に言っただろう?蒼蘭ちゃんのスーツをメンテナンスするって。その間、リリアちゃんのスーツを着て、更なる使い心地を確かめて欲しいんだ」
「そういえばそうでしたね……。なら、私は部屋に居ます」
「何を言っているんだ?学園の女子寮や蒼蘭ちゃんの部屋に、知らない子が居たら騒ぎになるだろう?」
「なら、何処で過ごせば良いんですか?」
私の質問に、博士は髪をかき上げ得意げに言った。
「私は天才研究者、胡桃沢 百花だ!こう言う事態を想定して、既に手は打ってあるのさ!」
何だろう、すごーく嫌な予感がするな……。
◆
(所変わって、学園の中庭)
「〜〜〜ッ!」
周囲から向けられる困惑混じりな好奇の視線が、リリアちゃんの小さな身体に突き刺さる。休日であれ、学園内の施設には制服姿の生徒が殆どだ。故に、こんなフリフリのゴスロリファッションをした銀髪美少女なんて、目立たない筈がない。
例え袖に『見学者』の腕章を付けていたとしても、だ。
『博士の打った手』とは、こういう事だったのだ。『これなら何処からどう見ても、学園を見学に来た小学生にしか見えない』、との事である。ご丁寧にクマのぬいぐるみまで用意されて、幼い少女へのカモフラージュは完璧と言える。
(何、あの子……誰かの妹?)
(てか、メッチャ可愛くない?)
(分かる、外国のお人形さんみたい!)
周囲から聞こえるヒソヒソ声に、身体の体温が上昇する。派手な服装をしているせいか、いつもよりスカートの中がスースーしている……気がする。落ち着かなくて、つい私は身体をモジモジさせてしまうのだ。
「あ、居た居た!くるみん先生が言ってたの、多分あの子だよね?」
「うん。銀髪で黒い服を着た、ツインテールの女の子。多分、あの子が『リリアちゃん』だと思う」
「えっ……?」
聞こえて来た声に、思わず身を強張らせてしまった。中庭にやって来たのは、私もよく知っている学園の魔女。瑠璃海 蒼蘭の大切な友人である、白百合 聖と葡萄染 炎華だったのだ!
二人の魔女は中庭のベンチまで来ると、座っている少女と同じ目線になる様に屈んで、リリアちゃんに笑顔で声をかけた。
「はじめまして、リリアちゃん。私は『白百合 聖』、胡桃沢先生からリリアちゃんの遊び相手を頼まれたの。よろしくね!」
彼女の口調も声色も、初対面の少女に向けられた物だった。私は瞬時に脳をフル稼働させて、この場面で『リリアちゃん』が発するべきセリフを模索した。
「えっと……は、はじめまして……。私は、『如月 リリア』って言います。この学校でお世話になってる、『瑠璃海 蒼蘭』の従姉妹です。よろしくお願いします、聖さん」
多分、第一声はこんな感じでいい筈だ。
だが『正体がバレてはならない』という考えが脳裏を過った所為で、咄嗟に私は抱き抱えたぬいぐるみで顔を隠してしまった。セリフは及第点でも、仕草がコレでは流石にマズいか……?
「……か」
「か?」
「可愛い〜〜ッ!
クマさんのぬいぐるみ、好きなの?」
……ほえ?
「あ、私はね、蒼蘭ちゃんのお友達なの。だから、そんなに恥ずかしがらないで大丈夫だから。
それと……やっぱり従姉妹だからかな?ぬいぐるみを抱えてリリアちゃん、蒼蘭ちゃんみたいに可愛いよ!」
なるほど、さっきのは『恥ずかしがっている銀髪美少女』に見えたのか……(あながち間違いでも無いか)。それと、聖は目の前に居るシャイなゴスロリ美少女がお気に召した様子だ。彼女の気持ちは大いに分かる。このリリアちゃんは、大いにオタク心をくすぐる容姿をしているからな。
「くるみん先生も、確かセーラの遠い親戚なんでしょ?この学園に集まってくるの、なんかエモいよね」
そう、炎華の言う通り、対外的には私と博士は親戚という事になっている。被験体である私は、必然的に博士との接触回数が多くなってしまう。が、極秘の実験である以上、周囲から私達が頻繁に会っている件について怪しまれる可能性もある。それを誤魔化す為の理由付け、という事だ。
「そうそう、あーしの名前は『葡萄染 炎華』。こっちの聖おねーちゃんと同じで、セーラのお友達!よろしくね、リリアちゃん♪」
「こちらこそ、はじめまして、炎華さん。それと、聖さん」
私はベンチから立ち上がって、ペコリとお辞儀をする。
「んじゃ早速、学園を案内しよっか?」
「待って、炎華ちゃん。蒼蘭ちゃんにも連絡したほうが良いんじゃない?」
「わー、わぁーッ!」
聖がスマホを取り出すのを見て、私はそれを大声で食い止める。
「どうしたの、リリアちゃん?」
「えっと……蒼蘭お姉ちゃんは今日外せない用事があるって聞いてて……最近忙しいって聞いてたから、日曜日ぐらいゆっくりさせてあげたいなって思うんです!そもそも、お姉ちゃんに連絡も無しに押し掛けた私が悪いので、蒼蘭お姉ちゃんを呼び出すのは悪いですよ!聖さんも炎華さんも、折角の日曜日なのに私の相手をさせるなんて、幾ら何でも申し訳ないですって!だから、私の事は気にしないでください!」
脳細胞をフル稼働させて絞り出した詭弁と言い訳を、リリアちゃんの小さな赤ちゃんで捲し立てる。
「んー、確かにリリアちゃんの言う通り、こないだのバイトでセーラもお疲れっぽいからね〜」
「そういえば、昨日も会わなかったよね。やっぱり、疲れてるのかな?」
二人がいい感じに、リリアちゃんの意図を汲んでくれた様だ。あともう一押しである。
「そうですよ!それに、蒼蘭お姉ちゃんだけじゃなくて、お二人にもお休みが必要な筈です!」
「あー、そこは気にしなくて大丈夫!」
炎華がリリアちゃんに目線を合わせて、マニキュアを塗った手で銀髪の頭を優しく撫でた。
「あーしらがやりたくてやってる事だし、気にしないで!それに、ちっちゃい子がおねーさん達に遠慮する事ナイナイ!炎華おねーちゃんと聖おねーちゃんに、ドーンと任せておきなさい!」
「リリアちゃんはまだ小学生なのに、気配り上手な優しい子だね。でも炎華ちゃんの言う通り、私達がやりたくてやっている事だから!リリアちゃんと蒼蘭ちゃんに、良いところを見させてくれると嬉しいな」
大人で頼もし過ぎる二人の友人は、リリアちゃんの学園見学と、蒼蘭ちゃんの休日の二つを尊重している。……余りに精神性が自分とは異なる、遥か高みに居る天使の類が放つ暖かさだ……。
「それじゃ行こっか、『りあるん』♪」
「り、『りあるん』?」
「そ、『リリア』ちゃんだから、『りあるん』ね!今日からあーしと、りあるんはお友達!勿論ひじりんと、りあるんもお友達!良いでしょ!?」
このグイグイと来る距離の詰め方、流石は東京のギャルである。私の様な日陰者は舌を巻くしかない。
「う、うん!よろしくお願いします、炎華さん、聖さん!」
「『さん付け』はノーサンキューだってば!もっと気軽に呼んで?」
「じゃあ……『炎華お姉さん』と『聖お姉さん』で!」
「オッケー!それじゃ、お姉さん達と色々見て回ろっか!」
ふと聖の方を見ると、顔を紅潮させてポケーっとしていた。
「『聖お姉さん』……お姉さん……えへへ……良い響き……」
「ひじりーん、戻って来ーい!」
◆
図書館、植物園、そして魔法の練習場。午前中に色々な施設を廻った私達は、昼食を取るべく食堂へ入った。
「リリアちゃんは、どの施設が楽しかった?」
「一番は図書館です。街の図書館よりも広くて、分厚い本がズラーって並んでて凄い迫力でした」
私も一回入っただけで、図書館内部をじっくり散策したのは今日が初めてだ。しかもリリアちゃんの身体だと、あの大きな本棚が凄い迫力に思えてくるのだ。
「あれ、全部魔導書なんですか?」
「ううん、植物や動物の百科事典とか、歴史の本もあるんだよ。他にも、普通の文庫本や小説とかも置いてあるから、いつでも遊びにおいでよ!」
「あはは……ありがとうございます。他にも、薬草菜園も楽しかったです。まさか、園芸部のお姉さんから作物をお裾分けして貰えるなんて思いませんでした」
私は先輩方から頂いたスターフルーツ……に良く似た色をした『ムーンフルーツ』を思い出していた。魔法の世界の果物で、実った時の『月の形』によって、フルーツの形も違ってくる不思議な果物だ。半月型の果物なんて、生まれて初めてみた。それを先輩達は愛らしい銀髪少女の為に切りわけて、爪楊枝で試食をさせてくれたのだ。
その黄色い果実は、バナナの甘味とパイナップルの酸味を併せた様な味をしていた。ムーンフルーツを一口食べた時、口いっぱいに広がったのは至福の美味、そして……罪悪感の味だった。
「あの後さ、りあるんが『お礼にお手伝いさせてください!』って言った時はビックリしたよ!メッチャ良い子じゃん、りあるん!」
「いえ……そんなことは無いデス……」
そのつもりは無かったとはいえ、ちっちゃい女の子のフリをして、部活で育てた作物を頂いてしまったのだ。何かお返しをしないと、罪悪感で気が狂ってしまうではないか!
……そんでもって、リリアちゃんは植物の種や肥料の袋を倉庫まで運ぶお手伝いをしたのだ。小学生の少女でも持ち運べそうな小さな袋数個を、倉庫まで何往復かして運び入れた。本当に、『小学生のお手伝い』レベルの事だが……何もしないよりは断然マシの筈だ。
さて、休日はA組校舎の食堂が休みの為、特進クラスのバッジを身につけた生徒がチラホラ存在する。
例えば端っこの席に座り、談笑する生徒たちを観察しながら、スケッチブックに鉛筆を走らせる分厚い眼鏡の生徒。彼女この学園の生徒会長、『言葉 字実』。厳密には彼女の別人格、絵を趣味にしている『ペンネーム:ティスル』なる人物だ。
「あ〜、やっぱり休日の食堂は良いですな〜。モデルよし、仲良し度よし、コレは筆も進むというモノでござるよ〜♪」
一通りスケッチをし終えた絵描きは、ふと私達に視線を送る。
「おっ、新たなモデル発見!と思いきや、聖氏ではないですか!
……ところで、そちらのお嬢さんは?」
聖は表情に若干の呆れを浮かべつつ、知人に私を紹介する。
「……この子は蒼蘭ちゃんの従姉妹で、リリアちゃんです。今日、この学園を見学しに来たんですよ」
デッサン中はご機嫌だったティスル氏は、聖の紹介に冷や汗をかいて固まってしまった。硬直した手から鉛筆を取りこぼす。
『ゴンッ!』
次の瞬間、彼女はテーブルに自信の頭部を強かに打ちつけた。
「まさか来客がいたとはね……完全に油断したよ。休日とはいえ、お見苦しい所を見せてしまった。すまないね、リリアちゃん」
頭部に加えた衝撃で、彼女は『生徒会長』の人格へと切り替わった。これは二度目の光景、だが『リリアちゃんにとっては』初めての光景だ。対応を、リアクションを間違えてはならない!
「えっと……頭!頭を凄い勢いでぶつけてましたけど、大丈夫なんですか!?」
実際、こうも頭をゴンゴンぶつけて大丈夫なのかは心配だ。
「気にしないで、リリアちゃん。いつもの事だし、こういう時は私の魔法で……」
聖が字実会長の額に手をやると、淡く光って額のアザが治っていった。
「ほら、元通り」
「すごい!蒼蘭お姉ちゃんから聞いていたけど、これが回復魔法なんですね!」
リリアちゃんっぽいリアクションは意識したが、正直な話、回復魔法というのは何度見ても凄いと思う。
「……コホン、お騒がせしたお詫びと言っては何だが、昼食はこの私、『言葉 字実』にご馳走させて欲しい。何か、食べたい物はあるかな?」
「では、お言葉に甘えちゃおっか、リリアちゃん?」
「良いんですか?なんだか私、魔女のお姉さん達に親切にされてばっかりで申し訳ないですよ……」
「気にしないでくれ、リリアちゃん。これは我らの学園への歓迎も兼ねているんだ。『魔法を学ぶなら是非、暁虹学園へ!』ってね!」
そこまで言われてしまった以上、頑なに断るのも違うだろう。
「では、お言葉に甘えさせてください!」
私は子供らしく、無邪気に返事をした。
◆
「どう、りあるん?ハンバーグ、美味しい?」
「はい、とっても!」
「でしょ?あーしもハンバーグ定食、時々食べるんだよね」
こんな風に談笑しつつ、私達は昼食を終えた。
「さて、折角だから私の魔法も見ていって貰おうかな」
字実会長はカバンから、魔法陣の書かれたスクロールを取り出して、水の入ったコップの下に敷いた。私達が授業で書いた物とは大きく異なり、幾つもの魔法が組み合わされた複雑な構成になっている。
「『術式魔法』を極めれば、自分が扱えない属性の魔法も扱う事が出来るんだ。例えば右下の『小魔法陣』、ここに魔力を流し込む。すると、隣接した小魔法陣に描かれた『術式文字』が、魔法の属性を決定してくれる。魔力というエネルギーの形を、この術式が形作ってくれるんだ。その後は外側の大魔法陣をなぞる様に、魔法の造形、力、継続時間といった要素を記した小魔法陣へ魔力を巡らせると……」
コップの水が魔法で押し上げられながら、パキパキと音を立てて凍りつく。驚いたのが、凍る前に水が徐々に形を変えて、ソフトクリームの様に渦を巻いている事だ。
「すごい!形を変えながら凍らせてる!」
「ふふふ、そうだろう、凄いだろう?」
リリアちゃんのリアクションに、字実会長は凄く満足気だ。
「そういえば……りあるんってどんな魔法が使えるの?」
「一応、氷の魔法が使えます。でも、中々上手く固まらなくて、苦戦しています……」
「ふむ……なら少し、外に出てリリアちゃんの魔法を見せてくれないか?何かアドバイスできる事が有るかもしれないからね」
この予期せぬ提案には、私も本心から驚いた。
「良いんですか……?」
「困っている魔女が居れば、助けるのが生徒会長と言うものさ!」
見ず知らずの見学者にも親切に接する、字実会長の『生徒会長』としての片鱗を私は垣間見た。
◆
私達はA組校舎の校庭にやって来た。
「まずは氷魔法の一番の基礎、物を凍らせる初級魔法『フリーズ』から始めよう。コップやバケツの水を凍らせるのも良いが……、『物が凍る』という事象を理解するには、こうした方が良い!」
会長はスクロールを取り出し、魔力を流し込む。するとスクロールは青く光り、空中に『ウォーター・ボール』が出現した。どうやら会長は本当に、スクロールさえ用意していれば色んな属性の魔法を扱えるらしい。
「さぁ、早速実践だ!」
「はい、『フリーズ』!」
私の手のひらから、魔力を帯びた冷気が発せられる。冷気は浮遊する水の表面を、ゆっくりと固めていった。
「そのまま、『ウォーター・ボール』が凍っていく様子を目に焼き付けるんだ。話を聞くに、リリアちゃんはまだ『どれだけの魔力で、どれだけの時間凍らせれば良いか』がまだ掴めていない。
だが、コツさえ掴んでしまえば簡単だ。そして、そのコツは『体感』するのが一番早い!もっともっと、じっくりと凍らせるんだ!」
「分かりました!」
もっと冷却の時間を長く、長く。魔力の出力も、少し上げて、水の球が凍る様子を観察する。
「よし、ストップだ!」
会長の合図で私は魔法を止めた。氷となった球体は、地面に落ちる。だが、その球は砕けなかった。氷の魔法で、しっかりとした強度を保っていたからだ。
「やった、上手く行った!」
「やったね、リリアちゃん!」
「やったじゃん、りあるん!」
リリアちゃんの喜びに応える様に、二人のお姉さんが駆け寄って、銀髪の頭を撫で回した。
「え、えへへへへ」
「うんうん、今の感覚を忘れない様にするんだ。『自分の魔法について理解する』。基礎的な事ではあるけれど、これが意外と重要なんだ」
成程……私は氷魔法について、『魔法で物を凍らせる』事への理解が足りなかったのか。
「ありがとうございます、字実お姉さん!」
「なに、リリアちゃんがコツを掴めたならお安い御用さ。さぁ、復習としてもう一回やってみようか!」
再び会長がスクロールを使い、水の球体を宙に浮かせる。
(よし、大体のコツは掴んだ。要は、時間をかけて凍らせる事を意識すれば……ん?)
ここで私は『ある事』を思いついた。
「字実お姉さん、試したい事があるんです。思いっきり魔法を使ってみても良いですか?」
「良いとも。なら、私は少し離れていようか?」
「ありがとうございます。では、念のためお願いします!」
会長が十歩ほど後ろに下がったのを確認して、私は実験を開始する。
(右手で氷魔法の『フリーズ』を、そして左手では……練習したての『時魔法』!
凍るまでの時間を加速させる!)
すると、今度は一瞬で氷の球体が出来上がった!
(やった、実験は成功だ!)
「今度はあっという間に!?リリアちゃん、飲み込みが早いね!」
「りあるん、やるじゃん!」
「あ、ありがとうございます……あわわっ」
足腰から力が抜け、リリアちゃんは尻餅をついてしまった。やはり、時魔法は魔力の消費が激しい。リリアちゃんの小さな身体で扱うのには、少々向いてない様だ。
「ほら、立ち上がって。リリアちゃん、みんなにご挨拶だ」
「『みんな』、ですか?」
会長が示した方向を見ると、いつの間にかA組の生徒達が集まっているではないか!
だが、愛らしいゴスロリ銀髪少女と、美人な生徒会長。この二人が魔法の練習をしていたのだ。注目を集めない方がおかしいというものだ。
私は呼吸を整えて、A組のお姉様方の前に出た。
「はじめまして、魔女のお姉さん達。そして見守ってくださり、ありがとうございました。私は『如月 リリア』、学園のお姉さん達みたいな素敵な魔女を目指しています。よろしくお願いします!」
ほぼ勢い任せで自己紹介を終え、お辞儀をする。素敵な魔女のお姉さん達は、愛らしい銀髪美少女を大きな拍手で出迎えてくれたのだった。
氷の魔女である筈のリリアちゃんは、恥ずかしさ照れ臭さ、そして『自分が小学生の身体で、周囲に小さい子として可愛がられる』という倒錯的な状況に、身体中の温度をグングン上昇させてしまった。
今回の幕間は、後一話で終わりの予定です。