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第55話 妖精の誘い-魔法の世界へようこそ、お姫様♪

今回は前回とは打って変わり、惺ちゃんのお悩み相談がメインです。

「…ところで、私に相談したい事って何かしら?」


あー、そうだった…。元々私は、学園の創設者に相談しなきゃいけない事があったんだ。最初は数ある『聞きたい事』の中から勇者の話題をチョイスしたつもりだったのだが…想定外且つかなり重たいマギナさんの過去話が始まってしまい、この後に相談事をして良いのか甚だ疑問なのだが…。


「マギナさんの壮絶な過去を聞いた後に、個人的な悩みを話すのって気後れすると言いますか…大丈夫ですか?私、図々しい人間になっちゃいませんか?」


新米魔女の疑問に、アゲハの大魔女は『フフフッ』と笑って返す。


「な、何か変な事言いました?」


「いいえ、お姉様の初々しい気遣いが微笑ましくって、つい。ごめんなさいね。でも、気になさる必要はないわ。悩みを抱えたままだと、魔法の勉強にも障るでしょう?」


「分かりました。と言っても、上手く言語化出来るか怪しい悩みなのですが…」


マギナさんは、私の話にちゃんと耳を傾けてくれている。


「もう知ってる事でしょうけど、()、いや、私って、本当に女の子になっちゃったんですよ。それで、学園内での振る舞いや立ち回りと言いますか…どう言う『自分』でいれば良いのかなって…」


「今までだって、お姉様は『蒼蘭お姉様』として振る舞っていたじゃない?難しく考える必要はないのではなくって?」


「そう、そこなんですよ!以前の俺は女子校生活に馴染める様に、『可愛くて天真爛漫な瑠璃海 蒼蘭ちゃん』を演じていたんです。

でも、本当に女の子になった()は、どう振る舞ったら良いのかなって…」


「うーん…そもそも、お姉様は本当に『演じていた』のかしら?」


「えっ!?」


マギナさんは私の反応を見ると、イタズラ好きな少女の表情となった。


「だって私の学園…特にAクラス校舎の風景はお気に入りみたいだし、カラオケ屋さんで出来た新しいお友達の魔法も、心から『凄い』って思っていたでしょう?普段の授業も、心から楽しんでいる。歴史の授業も演習も、魔法陣の授業も…そうでしょう?」


「まぁ、それは確かにそうですが…」


「『魔法』という摩訶不思議な力は、使い方によっては恐ろしいことも出来るわ。そんな力に対して、恐怖ではなく『憧れ』や『楽しさ』を感じてくれるなんて、正に『魔女冥利に尽きる』というものだわ♪」


妖精は心の底から嬉しそうに微笑んだ。

確かに彼女のいう通り、私が魔法に対して抱く感情に偽りは無い。


「でも、ちょっと子供っぽいとか思われません?」


「あら?女の子はいつだって、夢見る素敵なお姫様よ?メルヘン、ロマンス、それらを愛する気持ちに年齢なんて関係ないわ。さしずめ貴女は『オズの魔法使い』の様に、ある日突然絵本の世界に迷い込んだ素敵なお姫様。『プリンセス-シズク』と言ったところかしら?」


「プリンセスって…止めてくださいよ…」


頬が熱を帯び、顔が紅潮しているのが分かる。


「どうして?女の子はいつだって、誰だってお姫様なのよ?」


「いや、普通に恥ずかしいし、照れくさいですし…。そもそも、本物のお姫様に言われるのは若干畏れ多いと言いますか…。第一、俺はまだ『女の子』として過ごす事への心の準備が…」


「え?普段からオシャレのお勉強や、可愛いお洋服が大好きなお姉様が?」


「ッ!?」


な、何故それを…!?

いや、そういえばこの妖精は…!


「まさか、私の心を読んだのですか!?」


「波長が合う人しか読めないけど、私とガッチリ波長が噛み合うお姉様の心は、分かりやすくて良いわよね〜♪」


「ぐぬぬぬ…!」


「でも、恥ずかしがる事はないわ。だって蒼蘭お姉様も惺お姉様も、着飾り甲斐のある美人さんですもの。ファッションやメイクにお熱になるのも、無理もない事だわ」


「…それなんですけど、本当に『女の子になった自分』を受け入れて良い物なのでしょうか?」


「どういう事?」


「女性だけが魔法を扱える以上、客観的に見たら『女の子になったメリット』っていうのが、確かに存在するじゃないですか。自分の身体が、より魔法を使うのに適した状態になった訳ですから。

でも私の場合、それだけじゃ無いって言うか…自分を着飾る事もそうですけど、例えば『女子寮での生活』ですよ。今までは友人以外とは、最低限の関わりしか持たない様にしていたんです。だって、(おれ)は美少女の皮を被っているだけで、本当は男だった訳で。けど、それって結構疲れるし、相手は和かに接してくれるのに、こっちが距離を置く事に罪悪感を感じてて…」


「成程…今までのお姉様は、学園生活で自分なりに女の子達に気を遣っていた。或いは心の底に、男性の身でありながら女の子達と混ざって生活する事に罪悪感を覚えていた。けど、日頃からそう言うことをするのは、どうしても疲れてしまう。

でも今は自分が女の子になった以上、そうした煩わしい気遣いや罪悪感から、少しだけでも抜け出したい。でも、それは果たして許される事なのか、自分では分からない…。

お姉様の悩みをまとめると、こんな感じかしら?」


「そう、そうなんです!」


いやはや、心を読む魔法にはこんな使い方があったとは!上手く言葉に出せないモヤモヤした気持ちを、相手にスッと言語化して貰えるとは…初めて心を読まれて良かったって思えた。


「常日頃から、余計なストレスを溜めるのは良くない事だわ。蒼蘭お姉様は今日、新しいお友達が出来た時にどう思ったの?」


「え?そりゃ…嬉しかったですよ」


「そうでしょう?なら、自分の気持ちに従うべきだわ。私にだって、今すぐお姉様の性別を戻す事は出来ない。仮に出来たとしても、私の立場上すぐに戻す事はしたくない。だって、お姉様には魔女のままでいて欲しいのだから。

つまり、どうあれ魔女として生活する以上、もっと他の生徒達と積極的に仲良くしても問題ないわ」


「本当に大丈夫でしょうか?元々は男だった奴が、女の子達に混じってと仲良くするって…如何わしい人間じゃないですか?」


「あら?お姉様は如何わしい事をしたいの?」


マギナさんは手のひらを口に当てて、わざとらしいリアクションで驚いてみせた。


「いいえ!滅相もございませんッ!私は今まで通り、入浴は個室の浴槽を使っていくつもりですし、学園の生徒に手を出す様な事はしません!」


「そうよね。お姉様はどちらかと言うと…『如何わしい事をされる側』の人間ですものね?」


「なッ…!?」


「うふふ、冗談よ♪

さぁ、他に悩み事は無いかしら?この機会に、心に抱えている澱みを少しでも出しちゃいなさい」


「…では、最後に一つだけ」


私は大きく息を吸うと、最後の相談事に移る。


「私は、どうやら狙われているみたいなのです。異世界人からは『運命因子』とか呼ばれていて、運命を変える魔女とか何とか言われてます」


「ふむふむ」


「そんな私が、この学園に滞在していて大丈夫なのでしょうか…?私が居るせいで、皆が危険に晒される可能性が出てくるんじゃないかと、一抹の不安がありまして…。例えば、今からでも魔法機関で保護して貰った方が良かったりするのではないかと…」


「成程、不安になるのはごもっともね。

でも結論から言えば、貴女は学園に居た方が遥かに安全だわ」


「それは、何ゆえですか?」


「理由は色々あるけれど…まず学園に居た方が、魔法の腕は上達しやすいわ。日々の授業や、学友達との切磋琢磨、図書館をはじめとする学園の設備。蒼蘭お姉様は身を守る術を学びに、この学園へやって来たのでしょう?ならば初志貫徹、大いに学ぶべきだわ。それに、お姉様がもっと実力を付けてくれた方が、未来をより良い方向に変える事ができるのよ」


「世界の破滅を防ぐには、何より実力アップが必要。そういう事ですね?」


「ええ、その通りよ。とはいえ、余り無理をされても困っちゃうけど…。

コホン。二つ目の理由は、世界の免疫力である魔女達が、多く在籍している事ね。貴女も知っていると思うけど、世界へ振り返る厄災…この時代だと異世界人達へは、高等部1年生の世代が一番対抗できる力があるわ。

お姉様の周りには、頼りになる魔女がたくさん。そうでしょう?」


「確かに、その通りです。『頼り甲斐のある魔女達には、適度に頼るべき』、これは私が最近学んだ事です」


「そうそう、その通りよ。素敵なご友人に強方逞しい好敵手(ライバル)、そして愉快な仲間達。彼女達と一緒の方が、貴女は断然安全だわ。何より、お姉様は『彼女達と一緒に居たいと思っている』、そうでしょう?」


「それは…まぁ、はい…」


「それで良いのよ。彼女達と一緒に居て楽しいと感じるなら、そうすべき。魔法は精神状態と密接に関わるのだから、無理に自分の気持ちを曲げて環境を変えるより、学園に居た方がずっと良いわ。


…何より、()()()()()()()()()()()()()()()()()


「…ッ!?

そ、それはどういう意味ですか?」


「私の魔法、『多重並行世界(パラレル・)を飛び交う(ミラージュ・)幻影の蝶(スワローテイル)』には、お姉様の生み出す『運命の楔』が不可欠よ。予め楔が打ち込まれていれば、人間が死んだ事実でさえも、『無かった事に』できるわ。但し、『運命の楔』は創造主である貴女が死んだ場合、跡形も無く消えてしまうの。

言い換えると、並行世界を通じた事象の上書きでさえ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()の」


「そうだったんですか…。あの…そういう事は、もうちょっと早く教えてくれても良くないですか?」


私の言葉に、アゲハの大魔女は深々と頭を下げた。


「それは本当にごめんなさい。お姉様が死ぬ様な未来は暫く無かったから、後回しにしてしまったの。私も並行世界でのシミュレーションでお姉様に危機が訪れるなら、当然真っ先に知らせるつもりでいるわ。貴女の信頼を裏切るつもりは無かったの。だから、お姉様は無理をし過ぎない程度に、これからも協力して貰えると助かるのだけれど…お願いしてもよろしいかしら?」


「あ、いや、そこまで謝られなくても…大丈夫です。別にマギナさんを疑うつもりは無かったので。


…まぁでも、()はこれからは女の子として、『時の魔女』として堂々と学園生活を送れば良い訳ですね」


私の言葉に、妖精は椅子から立ち上がり、満面の笑みでこちらに手を伸ばした。


「ええ、その通り!そして、これも今まで言いそびれていた事だけど…。

改めまして。ようこそ、魔法の世界へ!私は妖精、『マギナ・ロイジィ・スワローテイル』。絵本の様な魔法の世界(ファンタジー)へ迷い込んたプリンセスの案内役、僭越ながら果たさせて頂くわ♪」


私も彼女に倣って立ち上がり、スカートの裾を両手で摘んでお辞儀をした。


「では此方も改めてまして、瑠璃海 蒼蘭…もとい、『時の魔女-雨海 惺』。妖精のお姫様からの歓迎、心から感謝を申し上げます」


私は、差し出された彼女の手を取った。すると、私の手には1枚のカードが握られていた。


「これは?」


「今回のお仕事に対する、私からの追加報酬よ。本当はトランプの様に、人数分のカードから選んで貰おうと思ったのだけど…贈り物の方からお姉様を選んだ見たいね♪」


妖精が指を鳴らすと、カードは一冊の分厚い魔導書になった!


「この本は?」


「水の魔法や時の魔法について、私が纏めた魔導書よ。時の魔法については…私もそこまで詳しく無いから、調べられた範囲の事を纏めただけになっちゃったわ。それでも、今のお姉様にとっては十分手助けになる本の筈よ!」


大魔女の直筆魔導書…だと!?

とんでもないレアアイテムじゃないか…!これ、数百万とか数千万円とかするんじゃないの…?ヤバい、ちゃんと施錠できる引き出しの最下部に仕舞っておかなきゃ…。


「それじゃ、私はそろそろ行くわね。楽しいお茶会だったわ、お姉様♪」


「いえ、此方こそ!美味しい紅茶、ごちそうさまでした!」


いつぞやの様に、帰り際の妖精は律儀に玄関から去っていった。それを見届けた私は、パラパラと魔導書を捲ってみる。表紙の裏側、窪んだ所に卓上ルーペが入っており、それを使うと英語で書かれた魔導書も読める様になった。

雨を降らせる魔法、湿気から水を生み出す魔法、加湿の魔法…水の魔法だけでも色々書いてある。他には、時の魔法について色々書かれている。


この贈り物は大切に使わせて貰おう。新米魔女の私は、魔導書を手に早速机に向かい勉強する事にした。

これにて、本当に第2章本編の終了です!

今回は主人公である惺ちゃん、そして沙織お姉ちゃんをはじめとする登場人物の掘り下げをメインにしました!生徒会の奏姉妹も当初ははチョイ役のつもりでしたが、折角だから活躍シーン書きたいな〜と思ってしまい、今回の章で活躍して貰いました。


TS、皮モノ、魔法バトル、そして女の子同士のイチャイチャを含んだ日常ストーリー……私が書きたいものを詰め込んだ本作ですが、お付き合い頂いた読者の皆様には、改めて多大なる感謝を申し上げます。この作品がエビフライ入りカツカレーになるか、それとも混沌たる闇鍋になるかは、私の力量不足ゆえにまだ分かりかねますが……。

これからも、どうぞよろしくお願いします。

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