表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/71

第5話 魔法演習、そして襲いかかる試練

 俺は今日……試練を乗り越えた。

 具体的に言うと4限目の前、体操服への着替えだ。


 この女子校は生徒だけでなく、教員・用務員・学食や売店のスタッフに至るまで全員が女性だ。故に授業前の着替えは教室で行う。運動部には更衣室が設けられているが、放課後にならないと使えないのだ。


 席が端の方でよかった……。

 窓と教室背面の掲示板が作る角に身を隠し、俺は教室にいる女子生徒全員から目を背ける。そして、彼女らに背中と尻を見せながら着替えをする。

 この通り、俺は誓って他の女の子達の着替えを覗いていない。見えるのは窓と壁だけだ。女子達の声が背後で聞こえても、平常心だ。


瑠璃海(るりうみ)さんって、後ろからも胸が見えるんだ……」

 って声がしたかもしれないが、頭をブンブンと振って邪念を払う。そして着替え終わると、「私、先に行ってるね〜」と言いながら退散する。運動場に来た俺は体育座りで待機して、既に到着した生徒や後から来た生徒達に笑顔で挨拶する。

 これで良い、俺は男が持つ邪念に勝ったのだ。クラスメイトにかけた迷惑は最小限に留めた……多分。その筈。


 その後も試練は続いた。


 準備運動では腕を回したり、ジャンプして足を開いたり閉じたりといった動作がある。

 ……その時に胸部に備え付けられた重みが、ばるんばるん、ぶるんぶるんと震えるのは仕方ない。それは慣れ……てはいないがある程度耐えられる。何とか心を強く持つ事ができる。問題はクラスメイトだ。


 胡桃沢(くるみざわ)博士の元で運動の訓練は積んでいたが、それは彼女とのマンツーマン。他に人はおらず、『周囲からの視線』なんて物はなかった。

 瑠璃海蒼蘭(せいら)が身体を動かすたび、クラスメイトの視線を感じるのだ。動き易さを重視した、身体のラインにフィットした体操服。その中に押し込められた、極上の柔らかさを誇る魅惑の肌色フルーツ。それは周りの生徒たちの注目を、一身に惹きつけていた。

 周囲からの視線と感嘆の息が、自分の胸に注がれる。その状況に俺は……不誠実で不謹慎ながら、心拍数の上昇を抑えられなかった。血流は激しくなり、体温が上昇する。

 俺は最後の深呼吸で、大きく息をして酸素を取り込む。まだ動悸がしていたが、どうにか授業には臨めそうだ。


 ◆

「よし、次は2人1組になれ!対人形式の演習を行う!」


 この授業を受け持つのは担任の萌木先生ではない。黒髪のショートボブ、如何にもスポーツが得意そうな風貌をした体育教師だ。


 よし、これはチャンスだ!早速、(ひじり)と組んで接触を図ろうじゃないか。


「それと、非戦闘魔法の生徒はいつも通り見学する事!」


 すると何人かの生徒は、運動場の端に移動する。そしてあろう事か、聖もその中にいたのだ。


「え?白百合(しらゆり)さんも見学組なの?私、一緒に組もうと思ったのに……」


「……ごめんね、私の魔法は回復魔法なの。だから、対人演習には参加できないんだ……。

 でも、私はここで瑠璃海さんの事、応援しているから!」


 聖は笑顔で励ましてくれる。応援してくれるのはありがたいが……どうしたものか。


「どうしよう……誰とペアになれば……」


「あ、セーラちゃん!まだフリーっしょ?ならさ、あーしと組も?」


 困り果てた転校生に救いの手が差し伸べられた。


「あ、葡萄染(えびぞめ)さん。」


「も〜、『炎華(ほのか)』で良いってば!それと、さん付けも無しで!」


「えっと……じゃあ、炎華。私とペアになってくれる?お願いしても良い?」


「もっちろん!セーラちゃん転校してきたばっかだし、最初はあーしと演習しよ?」


 良かった。2人組みから溢れる事は無くなった。それに聖同様、炎華とも接触するつもりだったので願ったり叶ったりだ。

 1組ずつ順番に演習を行い、待機中の生徒は見学者同様にその様子を見守っている。


 この対人演習では、安全装置のブレスレットが配られる。それを装着すれば身体に薄いバリアが形成され、魔法で怪我をすることはない。同時に装備者の魔法出力にもセーフティがかけられる。相手を怪我させることも、怪我することも無くなる代物だ。

 そして最終組、炎華と蒼蘭の番が来た。


「瑠璃海さ〜ん、頑張れ〜!」


「番長、相手は転校生なんだし手加減してあげなよ〜!」


 周囲からは俺と炎華、双方に声援が浴びせられる。『番長』というのは、多分上級生を叩きのめした魔女ギャルに付けられたあだ名だ。


「『番長』は止めろし!昭和のヤンキーかよ?」


 本人はすかさずツッコミを入れる。

 まぁ炎華って呼べと言っている事だし、俺まで『番長』と呼ぶのは止めておこう。


「よし、二人とも位置についたな?

 それでは魔法演習……はじめ!」


 教員の掛け声で、演習が開始された。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ