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第45話 いざ共闘、『宝石の魔女』!②

 ◆

「行くぜェ、これが俺様の本気だァ!」


 ザリックが雄叫びを上げた瞬間、肌がヒリつく感覚に襲われた。

 魔力だ。

 彼の体内の魔力が勢いを増して、手にした得物に集まっている。


(…………ッ、来る!)


 最早予知する必要も無い程に、相手の敵意と殺気が最高潮に達する。この後繰り出されるのは、非常に高威力な技に違いない。


「『アックス・クエイク・インパクト』!」


 斧のリーチの外で、大男は武器を力任せに振り下ろした。俺とアディラは一瞬だけ目配せした後に、それぞれ左右反対方向へ飛び退いた。

 間合いの外で斧を振り下ろしたのだ。十中八九、剣士エレックと同様に風や衝撃波を飛ばす類の技だろう。


 俺の予想は的中した。

 が、予想が当たったのは『相手の動き』だけだった。大男の技の威力までは、予想がつかなかったのだ。


 轟音と共に、道路橋を支えるコンクリートの柱が砕ける。乾いた音がして、柱から欠片がボロボロと崩れ落ちていく。


「なッ……!?は、橋が!!」


 マズい!このまま道路橋が崩れれば、自動車やトラックが大事故を起こしてしまう!!


「柱を押さえなさい、『砂漠の傀儡(デザート・ゴーレム)』!!」


 アディラは柱に駆け寄りながら、大声で命じた。砂のゴーレムは大股で駆け寄ると、追加で生やしたのも合わせた計四本の腕で、柱をガッシリと押さえて崩壊を食い止めた。


「よ、良かった…………」


 ……いや、実際の状況は、俺が溢した言葉とは真逆である。

 どう見ても最悪だ。


 何故なら、アディラはゴーレムの維持に魔力を回さないといけない。他の魔法を併用すれば、ゴーレムの強度は落ちてしまう。普通の戦闘であれば多少作りが粗くても問題ないが、今回は橋の上にいる大勢の命に関わる問題だ。


 ならば当然、俺が斧使いの相手をする必要があるのだが……。


(……勝てるのか?こんな恐ろしい攻撃をする奴に……)


 人間業の範疇を逸脱したあの攻撃が、もし自分の身体に当たったら……?恐らくぶつ切りか、下手をすればミンチと化すだろう。考えただけでも恐ろしい。


 極論、攻撃を避けつつ戦うしか俺に道はない。とはいえ、どう攻撃をすれば良い?相手はアディラの魔法と真正面から拮抗できる筋力の持ち主である。

 正攻法では無理だ。

 なら、『隙をついた一撃』しか無い。とは言え、先程エレック達にやった作戦は、既に見られた以上通用するか怪しい。


(……ッ?

 いや、あるぞ!一個だけ方法がある!)


 足に当たった()()が、俺に策を授けてくれた。一か八か、分の悪い賭けだが、やってみるしかない!


「さて、そろそろケリつけようや、お嬢ちゃん達。

 そんでもって、お前らより強ェ魔女……『運命因子の魔女』の居場所を教えろや」


「『運命因子』……?

 聞き慣れない言葉だけど、決着をつけたいのは私も同じよ」


 俺は一歩、冒険者ザリックに近づく。

 相手もまた、こちらに歩みを進めてきた。


 その瞬間、水面が勢いよく弾ける。

 俺が水中で放った『ウォーター・ボール』が、川に捨てられた()()()を俺の方へ飛ばしてくれたのだ。


 プラスチック製の、エアガンである。


「この武器が手に入ったのは、私にとって幸運だったわ。これでこの勝負、私の勝ちよ!」


 一瞬の静寂。

 それを掻き消したのは、大男の笑い声だった。


「ダハハハハハッッ!

 お前さん、そんな武器で俺様を倒そうってか!?

 その『銃』はタダのガラクタ、ソイツの弾が当たっても俺様は痛くも痒くもねェぜ!?」


「なら、試してみる?」


「……ほぅ?」


 ザリックはザブザブと水音を立ながら、歩みを進めてくる。俺に敢えてこのエアガンを使わせるかのような、余裕綽々といった雰囲気である。



 まんまと引っかかってくれた。

 冒険者達は、既に高校生達が使ったエアガンの事は知っている。発射されるのが(彼らにとって)殺傷力の低い弾である事も、銃の耐久性の脆さも。故に、藍色の少女が手にした武器が、一切の脅威では無い事も。だから相手は近づいてくる。棒切れを持った子供を、大の大人が恐れないのと同じ理屈である。


 だからこそ、その隙が命取りなのである。


「今だ!!」


 俺は照準を男の顔面に定めて、引き金を引く。


「うぼァ!?」


 ザリックは驚愕の叫びを上げ、攻撃の手を止めた。

 彼とて冒険者、目潰しを予想しない訳がない。実際、照準を合わせた段階では驚きもしなかった。


 叫びを上げた理由……それは、()()()()()()()が銃口から飛び出したからである。


 水だ。

 銃身にたっぷり溜まった川の水と、俺の水魔法。二つを併せて銃口から噴射させた。

 予想していない事が起こると、人は少なからず動揺する。河原でコイツら冒険者を見た時の俺も、演習でのアディラもそうだった。故に、思いもしなかった攻撃は見事に、ザリックの視界を奪う事に成功したのだ。


 これが最初で最後のチャンスだ。


 俺はすぐに斧使いの背後に回る。

 避ける間もないタイミングで、思いもしなかった方向からの一撃を、確実に浴びせる為に。


「『ウォーター・トルネード』!」


 背後且つ至近距離なら、この魔法が最適の筈だ。再び川の水、そして小石や砂利も巻き上げて、大きさと殺傷力を増した水の竜巻が襲いかかる。


「ぐぉッッ!?」


 苦痛と驚愕の混ざり合った声を上げ、ザリックはまともに攻撃を喰らってしまう。竜巻は男を押し流し、巻き上げた小石は彼の皮膚を傷つけていく。

 今ので、かなりのダメージを負わせた筈だ。


 その筈なのだ。


「へへへ…………今のは効いたぜ、水の魔女!」


 ザリックは倒れかけた身体を再起させ、背後にいる藍色の少女に斧を向けた。


「な、何で……?」


 気絶する程度の傷は負わせたつもりだった。だが、異世界からの客人は、その身体をまだ起こしたままである。


「バカめ、鍛え方が違うんだよ!伊達にCランクまで登り詰めちゃいねェ!俺たちはこのクエストで、もっと上を目指す!

 その為にも……俺に狩られろ、異世界の魔女!!」


 相手は再び斧を振り上げた。

 マズい、またあの衝撃波が来る!


 が、攻撃が放たれるより先に、凛と響く声がその場を支配する。


「右に跳びなさい、セイラ!!」


「!!」


 俺は条件反射で、指示通りに跳躍する。

 その時、ようやく気がついた。

 先程の『ウォーター・トルネード』で、冒険者ザリックは押し流されていた。


 ()()()()()()()()()()()()()()


 相手は蒼蘭ちゃんに、完全に意識を持って行かれていた。故に、アディラとの距離も、ゴーレムの蹴りも頭から抜け落ちてしまっていたのだ。


「グボァ!?」


 強烈過ぎるゴーレムキックが背中に直撃し、猛スピードで岸目掛けて吹っ飛んでいく。


「ちょ、ちょっと待ってくれぇ!!」


 着弾地点は剣士エレックと、意識を取り戻したばかりの盗賊ヘリックだ。三人の冒険者は、そのまま仲良く気絶してしまったのだった。


 ◆

(……………………)


 目の前で繰り広げられた異様な光景に、男子高校生達は圧倒されていた。

 当然ながら、彼らは魔法を認識する事ができない。

 それ故に、少年らの目には『華奢なお嬢様女子高生と、小柄で可愛らしい女子高生が、武器を持った暴漢三名を素手で殴り倒した』様に映ってしまったのだ。


「ありがとう、また助けられちゃったね」


「いいから、貴女はやるべき事をやりなさい」


 藍色の少女は相棒に礼を述べ、オレンジ色の少女は高校生らを指差して『やるべき事』の指示を出す。

 そして『セイラ』と呼ばれた少女は、拾ったエアガンを手にして彼らに近づいて来る。


(ヤバい、ヤバいヤバいヤバい!)


 三人の不良、即ちエアガンの持ち主は震え上がった。先程自分らを襲った男達を殴り倒した少女が、自分達に何の用なのか?

 否、聞くまでも無い。『次はお前の番だ』という事に違いない、と彼らは考えた。

 冷静に考えれば、お嬢様学校の生徒がそんな事をする理由は無いのだが、襲われた挙句に目の前で非日常的な光景を見たばかりの高校生に、理路整然とした思考など土台無理な話だったのだ。

 少女が一歩、また一歩近づく事に、三人の不良は身体の震えを更に増していく。そして、藍色の少女が目の前に来た時には、既に不良たちの意識は無かった。口から泡を吹いて失禁し、白目をむいて気絶していたのだった。


 ◆

 あれ?エアガンを返そうと思ったのに……。

 気を失っているのか、この高校生達は?

 出血多量の所為か?だとしたらマズい!応急処置をしなくては!

 俺は岸辺に置いた鞄から、ポーションと包帯を取り出した。授業で習ったが、ポーションは飲まずに傷口付近に塗っても効果があるのだ。先ずは腕を切断された高校生の腕に、手早く包帯をを巻いてポーションをかける。包帯は淡く光り、出血も収まっていく。

 応急処置としては、こんなところだ。以前(ひじり)に聞いた話だが、回復魔法を使えば腕をくっ付けたり、生やしたりする事も出来るらしい。とはいえ後者は難易度が高い魔法で、彼女は前者しかできないらしい。まぁ、今回は切断された腕もある訳だし、やっぱり『聖が居ればなぁ』という考えが捨てきれない。

 残り二名の傷にもポーションをかけて、気絶した冒険者達は魔術ワイヤーで拘束する。アディラがスマホで救助要請をしているし、後は魔法機関に任せよう。


 俺は残り一人の高校生の元へ行く。彼だけは離れた場所にいて、傷も比較的浅そうだが、一応見ておかないとな。


「こんにちは。大丈夫でしたか、お兄さん?」


「あ、えっと……大丈夫です。僕はあの人達に、襲われた訳じゃないので……」


 そっか、なら良かった……。


「いや、良くない!貴方、怪我してるじゃない!?」


 俺は手の甲にある痣を発見した。


「これは、エアガンの弾!?あの高校生達に撃たれたの!?」


「あ、これは……大丈夫、大丈夫ですから!」


 彼は立ち上がって、この場を去ろうとした。


「待って、このまま放っておくと酷くなるから!」


 俺は高校生の腕を掴んで引き止めると、水で濡らしたハンカチを手の甲に巻いた。彼には悪いが、ひどい怪我でないなら、ポーションは節約したい。とはいえ放って置くのも忍びない。なので、冷やして応急処置をする。これで多少は治りも良くなるだろう。


「包帯、さっき切らしちゃった。だから、コレで我慢してね」


「あ、でも……コレは君のハンカチじゃ……」


 高校生は顔を真っ赤にして、呟くような声を出す。

 ここで俺は気がついた。成程、彼にとっては『美少女に手当てをされている』って状況なのか。

 まぁ、この高校生は散々な目にあった訳だし、これぐらいの慰めがあっても良いだろう。


「ううん、気にしないで」


「あの、さ……何で、見ず知らずの僕に、こんなに親切にしてくれるの?」


「う〜ん、難しい質問だね……」


 本当に難しい質問だ。

 例えば俺が『正義の味方』なら、『誰かが困っていたら、助けるのは当たり前!』なんて台詞を決めポーズ付きで言っただろう。


 だが、俺は違う。

 そもそも今回の仕事だって、受けた理由は『自分に自信を付ける為』だ。要は自分本意。そんな人間が、正義の味方染みた言葉を吐ける筈もない。

 その一方で、襲われている高校生を助けた時には、当初の動機は頭に無かった。兎に角、この高校生達を助けるべきだという考えで行動した、気がする。

 ……何つーか、凄い半端者なヤツだな、俺って……。



「ごめん……正直に言うと、私にも良く分かってないな。君たちを助けたい気持ちは確かにあったけど、『何か大きな事を成し遂げたい』っていう自己満足な理由もあってさ…………」


「そんな事……ないと思う。少なくとも僕を手当てして、あの暴漢から僕といじめっ子を助けてくれた君の事を、『自己満足』だなんて表現したくない!」


 彼は真っ直ぐに、こちらを見て言い切った。


「そっか、ありがとう。なんか、照れくさいね。

 あ、そうだ!手を出して」


「へ?」


 素っ頓狂な声を出す高校生の手に、カバンから出したキャラメルを握らせる。昼休みに購買で買った物だ。一個なんてケチ臭い事は言わず、箱ごとくれてやる。


「今日は色々大変だっただろうから、そのお見舞い。甘い物でも食べて、元気出して!」


 蒼蘭ちゃんの笑みも添えて、不運に見舞われた高校生に、細やかな幸せをプレゼントする。


「あ、あのあのっ!お、お名前、君のお名前は!?」


「私は『瑠璃海(るりうみ) 蒼蘭(せいら)!貴方は?」


「えっと、優斗。『小鳥遊(たかなし) 優斗(ゆうと)』です……」


「そっか、よろしくね。

 あ、そうだ。目とか大丈夫?エアガンって、目に入ったら失明したら大変だし!」


 俺は頭部の怪我を見るために、優斗の前髪をかき上げた。

 そして彼の顔を見た瞬間、何か嫌な予感が頭を過った。


「ねぇ、変な事を聞くけどさ……

 君の家族、誰か怪我をしてなかった?」


「え?えっと……今朝お母さんが、額を扉にぶつけてたけど……」


「おでこにさ、()()()()()()()()()()()()()()()()


「…………!!

 ど、どうして君がその事を……?」


「ごめん、それは答えられない。でも、最後にもう一個質問させて!

 君のお母さん、今日は百貨店やショッピングモールで買い物する予定はある?」


「そういえば、朝はショッピングモールのチラシを見てたな。何かのセールがある見たいな事を言ってたような……」


「ありがとう!ごめん、私はもう行くね!もうすぐ警察や救助の人が来るから、その人達に保護して貰って!!」


 点と点が繋がった!予知で見た火災の被害者、その中に優斗に似ているおばさんが居た!おでこにデカい絆創膏を貼ってたから、その人の顔が頭の片隅に残って居たんだ。そして先程、小鳥遊少年の顔を見て、俺は被害者の顔を思い出したのだ!


 場所は完全に絞り込めた。ショッピングモールだ。そして、そこに一番近いのは俺たちだ!

 だが、今アディラは川から動けない。救助が来るまで、ゴーレムを動かす訳には行かないからだ。


 なら、俺一人でも行くしかない!


「アディラ、みんなに連絡して!異世界人が起こす事件は、ショッピングモールで起こる!この子は予知で見た被害者の子供で、話を聞いたの!」


「何ですって!?なら、私達が一番近いじゃない!」


「だから、先に私一人だけでも行くね!少しでも、被害を抑えないと!」


「ちょっと、待ちなさい!応援が来るまで待った方が良いでしょう!?」


「ダメ、予知の火災が18時ピッタリに起こるとは限らない!もっと前から黒い炎が出るかも!だから私が、何とかして止めないと!」


 アディラの制止を張り切って、俺はショッピングモールへ駆け出した。

多分、蒼蘭ちゃんに手当てして貰ってお菓子まで貰えた優斗君は幸せだったでしょう。

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