表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/75

第35話 密着、瑠璃海 蒼蘭の学園生活!①

 ◆

 昨日、俺は胡桃沢博士から仕事が出された。

 内容は、『君が送る学園生活の一日を、レポートにして纏めるように』という物だ。

 と言うのも、『被験体』である俺が学園生活に馴染めているか、或いは被験体から見た学園生活はどういう物なのか、そうした事を把握する為らしい。


 中々、『研究者の助手』っぽい仕事じゃないか。こういうので良いんだよ、こういうので。エッチなコスプレ衣装を用意して、魔力の活性度合いを見るとかよりも、よっぽどそれらしい仕事だ。

 故に、俺も誠心誠意取り組もうと思う。取り敢えず、今日一日の出来事を纏める感じで行こう。


 ◆

「みんな、おっはよ〜!」


 朝のホームルームの10分前、俺は教室のドアを開け、満面の笑みをクラス中に振りまく。コミュニケーションにおいて、挨拶は大事だ。そして博士曰く、『今の君には、その強力な笑顔(ぶき)がある。食らわせればイチコロ、存分に活用し給え』との事だ。

 まぁ、実際蒼蘭の笑顔は効果的だと思う。何せ財閥令嬢が太鼓判を押す程の愛玩動物(マスコット)っぷりなのだから。可愛い女の子に笑顔で挨拶されて、悪い気はしない筈だ。


「瑠璃海さん、おはよう!」


「おっす、瑠璃海!」


 クラスメイトも挨拶を返してくれたので、俺は彼女らに手を振り、席へ向かう。俺も高校時代、もっとクラスメイトに愛想よく接しておけば良かったか?

 ……いや、思い上がるな、俺。可愛い蒼蘭ちゃんならまだしも、黒髪短髪で何処にでも居るようなモブが同じ事をしてどうなる?

 などと余計な事を考えていると、隣の席の聖が声をかけてくれた。


「おはよう、蒼蘭ちゃん!」


「おはよう、聖!」


 この友人もまた、笑顔で挨拶をしてくれた。


「どう?この学園にも慣れた?」


「んー、まだ1ヶ月も経ってないからね。正直、普通の学校とは色々違って、戸惑う事も多いかな。

 まぁ、新鮮でワクワクする気持ちも大きいけどね。」


「そっか。でも、楽しい気持ちもあるなら、きっと大丈夫だよ!

 もし聞きたい事があったら、何でも聞いてね。」


「ありがとう。その時は、頼りにさせて貰うから!」


 聖は編入した次の日から、俺の事を気にかけてくれている。校内に移動販売のパン屋が来ることや、購買のオススメ商品を教えてくれたのも彼女だ。聖の気配りには、誇張抜きに助かっている。


「うん。私で良ければ、いつでも頼ってね!」


 聖は俺に向かって、笑顔で返事をした。

 ……なんて良い子なのだろうか。優しくて傷も治療してくれて、漫画やアニメが好きだから話が合うし、さっきみたく笑うと可愛い。前にも思ったが、共学なら隠れファンが大勢できるだろう。自己評価が少し低い一面もあるが、聖に何度も助けられた俺には分かる。

 彼女は頼りになる魔女だ、と。

 彼女と早々に知り合えたのは、かなりの幸運だったと思う。


「おっはよーー!あー、間に合ったー!良かったー!!」


 ハイテンションな挨拶と共に、もう一人の友人である炎華が登校してきた。彼女はいつも、ホームルーム開始ギリギリにやってくる。その理由は恐らく……。


「あれ、ちょっと雰囲気違う……?


 上手く言い表せないが、炎華の醸し出すオーラが少し違って見えたのだ。


「お、セーラ気づいちゃった?この前買った新しいコスメ、試してみたんだ♪」


 炎華はオシャレに余念がない。定期的に髪型を変えたり、新しいメイク用品を使ったりしているのだ。身支度に時間をかけるタイプなので、朝の登校はギリギリになってしまうらしい。


「どうよ?イメチェンした炎華ちゃんは?」


 ギャルの魔女は、俺に感想を求めてくる。


「ちょっと大人びて、クールな感じになった気がする……かな?」


「ふむふむ、あんがと!」


「あと上手く言えないけど、『イケイケな東京の女子高生』って感じがする。」


「え、何それ?ウケる!」


 炎華は田舎っ子の感想に笑い出してしまった。


「いや、だって……、炎華のオシャレはこなれている感じがあるし、『都会の子』ってコンスタントに自分を着飾っているイメージがあったから、そう感じただけよ。

 渋谷の時だって、炎華と聖の私服をみて『あー、東京の子ってファッションも凄いなぁ』って思ったの。なんか、キラキラしている感じがしてさ。」


 月並みな感想かもしれないが、俺の本心だ。憧れの東京で暮らす女子高生は、着飾る姿も輝いて見えたのだ。


「えへへ、ありがと。

 でも、セーラだってメイクを覚えたらもっとキラキラできると思うよ?素材良いし!

 メイクに興味でたら、あーしが幾らでも教えてあげるから。その時は炎華先生に頼っちゃってよ!」


「あ、ありがとう。」


 俺はなんだか、こそばゆい感じになってしまった。

 友人二人との雑談を経て、朝のホームルームを迎える。俺の学園生活は、毎日こんな感じの始まりである。


 ◆

 さて、学園の授業だが、どうやら急遽カリキュラムが変わるらしい。少しずつ、より魔法に比重を置いた授業へと移り変わるようだ。


 一時間目は『魔法基礎学』の授業だ。

 これは読んで字の如く、魔法の基礎知識を幅広く学ぶ授業だ。


「はい、先ずは先週の復習からはじめますよ〜。」


 担任の早苗先生が、ゆったりとした声色で授業を進めていく。


「魔法、或いは魔術と呼ばれる力には、大きく分けて二種類存在します。では、その二つはどういった呼ばれ方をしているでしょうか?それぞれの簡単な説明も込みで……瑠璃海さん、答えてください。」


 おっと、いきなり当てられてしまった。だが、問題ない。先週の授業終盤に出た話であり、これはマギナさんから教わった事だ。


「はい!

 それらは『体系化魔法』と『オリジナル魔法』です。前者は魔導書に載っている様な魔法で、『魔法系統』さえ合っていれば誰でも扱える魔法です。中でも、初級から中級といった、比較的扱いが簡単な魔法は『汎用魔法』とも呼ばれています。後者については、その魔女本人しか扱えない『固有魔法』や、その一族が代々受け継いで来た『家系魔法』などに分類されます。これらは基本的に、第三者が扱う事は不可能とされています。」


 付け加えると、『系統』とは所謂『魔法の属性』の様な物である。例えば俺は『水』。炎華は『炎』、聖は『回復』といった具合だ。


 そして、並の魔女には一つの系統の魔法しか扱えない。勿論長い時間をかけて、数十年単位で研鑽を重ねた魔女ならば、複数の系統の魔法を扱える。だが、少なくとも学生の内はほぼ不可能だ。


 例えば、炎系統の初級魔法『ファイア・ボール』。この魔法は、炎華にとっては簡単な魔法だ。だが、俺や聖には扱う事ができない。無論、俺には『回復』の初級魔法、『ヒーリング』も使えない。

 それは聖と炎華も同じで、彼女らは水系統の初級魔法、『ウォーター・ボール』を扱う事ができない。それぐらい、様々な魔法を扱うのは難しい事なのだ。


 だから、『瑠璃海 蒼蘭』の水魔法と『雨海 惺』の予知魔法を、一つの身体で扱っている今の俺は例外中の例外なのである。まぁ、過去には『極稀なケース』で複数系統の魔法を扱う生徒も居たらしいので、『蒼蘭ちゃんもその一人なのだろう』、という事になっている。俺が(外見上は)史上初のケースで無くて良かった。過去の生徒のおかげで『何事にも例外は生まれるものだ』という認識が学園にはあり、俺もそこまで怪しまれずに済んでいる。


 その代わり、『期待のスーパールーキー』として見られている面もあり、プレッシャーを感じる事もあるが……もうこれは諦めよう。


「はい、その通りです。よく出来ましたね。」


 早苗先生が正解の判定を押してくれた。

 よし、一先ずはOKだ。


「さて、その二つの魔法ですが……『オリジナル魔法』の方が、『体系化魔法』よりも強力です。

 その理由については、分かりますか?」


「理由、ですか……?」


 やっべぇ……分かんねぇ……。


 マギナさんは『オリジナル魔法は切り札になる』って言っていたけれど、その理由までは教わってなかった。というより、俺が『そういう物なのか』と、ざっくりとした理解で止めてしまっていた。


「すみません、分かりません……。」


 俺は正直に答えた。


「気を落とさなくても大丈夫ですよ。

 ここからが今日の授業範囲ですからね〜。」


 早苗先生はそう言うと、黒板に板書をはじめた。


「魔法とは、扱う人の心や精神と密接に関わっています。そして既存の魔法に一工夫加えて、魔女個人が持つ感覚・センスを反映させたのが『固有魔法』です。

 固有魔法の方が魔女の深層心理と密接に結びついているので、体系化魔法よりも強力になる、という訳ですね。」


 成程。そういう理屈だったのか。


「『家系魔法』も似たような仕組みですね。魔女にとって、感性が最も近いのは『同じ血筋の人間』ですからね。

 そして、個人の感性や感覚を『心象』として魔法に込めて、更に突き詰めていったのが『魔術衣装(マギア・クロス)』と呼ばれる魔法です。」


 ふむふむ、魔術衣装(マギア・クロス)は固有魔法と同じ仕組み、その延長線上にある技術なのか。つまり、固有魔法の開発が魔術衣装(マギア・クロス)への第一歩と言う事になるのだろうか……?


 俺はシャーペンを走らせ、ノートに板書を写す。

 流石に二度目の高校生活だ、俺には分かる。


 これ、テストに出るやつだ。


 その後も早苗先生の授業は進んでいき、無事に一時間目が終了した。

 正直、新米魔女の俺にとっては、覚える事が多くて大変である。だが、大魔女は俺にこう伝えた。


『この学舎で魔法を研鑽する以上、過度に驕る事をせず、学び続ける事を忘れないように』


 俺はこの言葉を思い出し、次の授業に集中する為の準備をした。ペットボトルの麦茶を飲んで、水分を補給する。その後トイレを済ませ、10分休憩の終わりには、頬を両手で軽く叩いて気合いを入れ直す。


 さて、二時間目以降も頑張りますか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ