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第28話 大魔女マギナの『ハードな』修行

 ◆

「ここが、地下の空間……」


 渡されたランプで、今居る場所を照らしながら呟いた。床も壁も、素材は土ではなく木だ。しかも叩いてみるとそれなりに強度があり、広さは体育館程度は確保されている。あの不思議な樹木は、立派な部屋まで作り出せる代物らしい。思わず、感嘆の息が溢れる。


「お気に召しましたか?」


 ステラさんが、俺に顔をずいっと近づけながら言った。普段表情が硬い彼女だが、どうやらルーン魔術に関する事柄には、多少顔も柔らかくなるようだ。


「ええ、とても凄いと思います。」


 言葉は月並みかもしれないが、俺は心からそう思っている。ステラさんはそれを聞いて、満足気なオーラを発しながら頷いた。


「さぁ、必要な物はしっかり運び込んだわ!」


 マギナさんは、既に亜空間(ワームホール)から様々な物を取り出していた。


「それじゃお姉様、早速はじめましょうか?」


 マギナさんは用意したベッドに腰掛け、ポンポンとマットレスを優しく叩いた。「こっちに来い」というジェスチャーだ。


「……?

 あの、修行とベッドに何の関係が?」


 俺はマギナさんの隣に腰掛けながら質問を投げる。


「良い?『魔力』は使えば使うだけ練度が上がる代物なの。運動をすれば筋肉が付く、それと同じよ。

 だから、体内の魔力を沢山消費してから休む。このサイクルが短期間で最も効率よく基礎魔力を向上させる方法なのよ。

 そ・し・て、蒼蘭お姉様には魔力を一気に使う方法があるわよね?」


「え、ちょ、ちょっ!?」


 抵抗虚しく、俺はベッドに押し倒されてしまった。


「せっかく『魔力の活性化』っていう、お姉様独自の体質があるのよ?

 思う存分活かして、いっぱい強くなりましょうね♪」


 幼い見た目の金髪妖精は、悪戯っぽい満面の笑みを浮かべた。有り余る発育を持つ蒼蘭の身体に跨り、服を脱がせながら……


 ◆

「んッ……ひゃうんッ……」


 妖精の小さな舌が身体を這うたびに、全身に快感が駆け巡る。

 既に首筋、耳、鎖骨がマーキングされている。そして今、彼女はブラジャーを肌蹴させた、蒼蘭の豊満なIカップの双丘を堪能している所だ。


「ふふふ♪蒼蘭お姉様、とっても気持ち良さそう♪

 ほら、隣を見て。」


 ベッドの横には、いつの間にか鏡が立てられていた。青髪の美少女が自分よりも小さな身体の美少女に、思うがままに蹂躙され、快感で頬を紅潮させている。その倒錯的としか言えない効果が、余計に脳内に快楽物質を放出させる。


「あ……ああ……」


「さぁ、お姉様。そろそろ起き上がって。

 この状態で、あそこの甲冑に魔法を打ってみて。」


 マギナさんに抱き起こされ、俺は一旦ベッドから立ち上がる。下着を着直し、的当て用の鎧の前に行く。


「……ッ、『ウォーター・ボール』!」


 手のひらから発射された水球は、普段の倍以上の速度で飛んでいく。的当て用に準備された鉄の甲冑は、音を立てて破壊された。


「威力も、桁違いだ……。」


「そうそう、その調子よ。ここは時の流れが違う空間だから、未来予知も発動し辛い。お姉様は魔力を全部、水の魔法に集中させる事ができるのよ。

 だからこの調子で、魔力をどんどん鍛えましょう?」


「では、蒼蘭さん。続けて隣の甲冑を攻撃してみてください。」


「わかりました、ステラさん。

『ウォーター・ボール』!」


 再び水の球が、物凄い速度で飛んで行く。

 だが、水は甲冑に当たる直前に弾かれてしまった。鉄の鎧を覆う、魔力のバリアに阻まれたのだ。

 よく見ると、甲冑の胸部にルーン文字が刻まれていた。


「予め、『守護のルーン』を掛けてあります。

 生半可な魔法では打ち破れませんよ?」


 北欧の魔女は僅かに口角を上げつつ、此方を試す様な言葉を掛けた。


「なら、『サファイア・ソーサー』!」


 回転する円盤型の水魔法だ。此方も普段より速度、回転、威力を増して甲冑に突っ込んで行く。

 が、それでもダメだ。魔法のバリアに、小さなヒビが入っただけだ。


「なら……あのヒビを集中攻撃すれば……!!」


 指鉄砲を構え、水魔法を装填する。


「『ウォーター・バレット』!」


 圧縮された水の弾丸が、高速で発射される。

 ヒビに命中し、魔力バリアの亀裂が大きくなった。


「お姉様、今の貴女ならもっと連射する事だって出来る筈よ!頭の中に思い浮かぶ、『拳銃』のイメージを再現してみて!」


 ここで、マギナさんがアドバイスを送ってきた。

『拳銃』……パッと思い浮かぶのは、コレだ!


「『ウォーター・バレット・リボルバー』!」


 指鉄砲の周りに、水の弾丸が六つ出現した。

 そのまま六連発、青色の弾を喰らわせる。先程亀裂を広げたお陰で、的が広がり当て易かった。六発全てがバリアの耐久を削ぎ、遂には守護のルーンを打ち破った。


「もう一度、『ウォーター・バレット・リボルバー』!」


 放たれた弾丸は鉄の鎧を次々に凹ませ、後方に勢いよく吹っ飛ばした。


「やった、ルーン魔術を突破した!」


 俺は喜びのあまり、無意識のうちにガッツポーズをしてしまった。とは言え、『ルーン文字』の魔法は太古の魔法だと歴史で学んだ。現代で使える者は殆ど居ない、とても貴重な技術だ。そんな(いにしえ)の魔法と曲がりなりにも一戦交えて、撃破する事ができたのだ。嬉しくなるのも仕方ない筈だろう。

 とはいえ、あまり驕るのも禁物だ。鎧に刻まれたのは、たったの『2文字』だ。植木鉢の時より明らかに少ない。さっきのは初歩の初歩、あくまで修行入門編だ。


「ステラさん、次の鎧を……ととッ!」


 足元がフラつき、尻餅をついてしまった。つい熱くなってしまい、魔力を消耗し過ぎたようだ。


「そろそろ休憩した方が良さそうですね。ご主人様、少し蒼蘭さんを休ませますね。」


「そうね。美味しい紅茶でも飲んで、リラックスしましょうか♪」


「その前に、すみません……。服を、下着姿のままで休憩するのは落ち着かないです……。」


 俺は、否、蒼蘭ちゃんは顔を真っ赤にしながら、大魔女に許可を求めたのだった。


 ◆

「出来ればこの修行中に、『オリジナル魔法』を習得したい所よね。」


 貰った魔力回復のポーションを飲んだ後、紅茶とサンドイッチで休憩をしながら、マギナさんが話題を切り出した。因みに、サンドイッチは食物保存用の魔法により、消費期限を長期間引き延ばしているらしい。有難いことに、修行期間中の食糧まで用意してくれていた。


「『オリジナル魔法』……とは?」


「魔導書に載っているような基礎的な魔法を、個人で応用して編み出した魔法よ。まぁ『オリジナル』とは言っても、師匠から口伝で教わるケースもあるから、定義は少し曖昧なのよね。」


「例えば、炎華が使っていた『熱情の口付け♡(キス・オブ・ファイア)』や『緋色に燃る炎の水車(ムーラン・ルージュ)』とかですか?教科書や図書室の魔導書には、あんな炎魔法は載ってませんでしたし。」


「ええ、その通りよ。基礎魔力を鍛えれば、炎華お姉様みたいなカッコいいオリジナル魔法が使える様になるわ。」


 それは……非常にワクワクする話じゃないか!

 正直、炎華が扱うド派手な炎魔法には憧れていた。炎の輪、焔の猛禽、そして極太熱線(レーザー)。正に『必殺技』という感じで、どれも()()をくすぐる魔法ばかりだ。

 そう、カッコいい魔法に憧れる心はちゃんと俺にもある。つまり、俺の心はまだ『女の子に染まってない』という何よりの証拠なのである。……というのは、取り敢えず置いておこう。先ずは修行あるのみだ。


「とは言え、『独自の魔法』ってどうやって形にすれば良いんですか?何か取っ掛かりになる物が無いと、アイデアの方向性も思い浮かびませんよ……。」


「あまり難しく考えなくて大丈夫よ。さっきの『ウォーター・バレット・リボルバー』だって、立派なオリジナル魔法よ。」


「ええっ!?

 あれは、ちょっと自分なりに工夫を加えただけですよ?」


「その『自分なりの工夫』が、オリジナル魔法への第一歩なのよ。頭に思い浮かんだイメージを大切にして、色々と試して見るのが良いわ。

 まぁ、一つアドバイスをするなら……『自分の特技』を活かしてみたら?例えば、貴女はダーツや射的は得意かしら?」


「はい!……と胸を張れる程かは分かりませんが、その二つは結構好きです。」


 実際、ダーツも射的も好きだ。ピッチングとは違い、運動が苦手な俺でも『的に当てる』遊びが出来るのが気に入っている。


「やっぱりね。蒼蘭お姉様、自覚が無いかも知れないけど、射撃の才能があるわ。さっきの的当て修行の時、中々狙いが正確だったもの。その才能は、磨いて然るべき『原石』だわ。」


「あ、ありがとうございます!」


 嬉しいことに、大魔女に褒められてしまった。

 その時、俺の脳裏に一つの『アイデア』が思い浮かぶ。


「マギナさん。俺、『オリジナル魔法』のアイデアが思い浮かびました!

 ……水の魔法で、このアイデアが実現できるかは分かりませんけど。」


 俺は、マギナさんに耳打ちをする。


「ふむふむ、とても良いアイデアだと思うわ!それに難易度面の問題も、順当に修行を積めば十分実現可能ね!」


「本当ですか!?この修行で、俺は魔力の強化だけじゃなくて、必殺技まで身につけられるって事ですか!?」


「その通りよ。どう、俄然やる気になったかしら?」


「はい!

 なので、次の修行をお願いします!」


 この短期間で感じた事だが、マギナさんは教え方が上手い。教え子の適正を見抜いたり、修行の持って行き方の手腕が見事だ。それだけでなく、相手に足りない事をハッキリと伝え、残酷な現実を直視させる事もある。その後で良い所を褒めて、そこから弟子のやる気を見事に引き出している。流石は学園の創設者、恐るべし教育手腕だ。


「うふふ、それじゃあ……

 また、ベッドに戻りましょうか♪」


 ただ……こういう時の悪戯っぽい微笑みとかは、本当に『妖精』なんだなと思い知らされる。無論、修行の効率化の為なので仕方ないが。


 そう、修行の為だから仕方ないのである!何一つ、こう……後ろめたい事は……。

 いや、止めよう。変に自己弁護に走るより、その時間で少しでも鍛えるべきだ。


 ◆

 それからも、修行は続いて行った。

 水を様々な形に変形させる修行。

 形を保ったまま硬度を上げる為に、魔力を帯びたレンガを砕く修行。

 浮遊する的を用いた、命中精度を更に高める修行。

 様々な修行を行い、その都度大魔女により俺の……蒼蘭ちゃんの身体は弄られていったのだった……。


 だがその甲斐あってか、かなり魔力が鍛えられた。例えば、最初は撃破に苦戦したルーン文字の甲冑だが……


「『ウォーター・ボール』!」


 二文字までなら一撃で撃破できるようになった。魔法を連発すれば、五文字の強化でも突破は可能だ。

 それだけでは無い。俺は遂に『必殺技』を身につける事に成功したのだ!


「本当に、ありがとうございました!!」


 この二人には掛け値なしに感謝の感情しかない。


「後は、上手く実戦で使いこなすだけね。応援しているわ、蒼蘭お姉様♪」


「さぁ、そろそろ出る時間ですよ。この樹木はもうすぐ枯れてしまいます。」


 まさかの使い捨てタイプだった。

 俺達は修行で用いた備品をワームホールへ押し込み、外へ出た。


 ◆

「おや、瑠璃海さん。修行は終わりですか?」


 そこにはパイプ椅子に腰掛け、ランプの灯りで本を読んでいる菊梨花がいた。樹木があった場所には三角コーンが置かれており、黄色と黒のコーンバーで生徒達の立ち入りを防いでくれていたのだ。


「錫宮さん……ずっと待ってたの!?」


「いいえ、夕食時は奏姉妹と交代で見張りをしていました。まぁ、私が良かれと思ってやった事なのでお気になさらず。

 それよりも……ふむ、確かに魔力が上がっていそうですね。」


「見ただけで分かるの!?」


「何となく、直感ですよ。それと、私も明後日の試合自体は楽しみにしています。瑠璃海さんの実力、私個人としては気になる所でしたので。

 当日は、陰ながら応援しますよ。」


 三角コーン等の備品を片付けつつ、生徒会副会長は立ち去った。


 こうして、多くの人達の手助けを経て、俺はアディラとの決闘へと赴くのであった。

修行の成果は、アディラ嬢との決闘でお披露目です!

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