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第22話 異邦の魔女と『アゲハ(Swallowtail)』の大魔女②

「もしかして、時間を止めたんですか!?」


 全てが静止したモノクロの世界で、俺はマギナさんに質問した。


「そう見えるかもだけど、厳密に言うと違うわ。これは私と貴女の精神が、肉体から分離・独立した状態なの。」


「え!?俺たち、幽体離脱してるんですか?それってかなり危険なんじゃ……?」


「安心して。魔法が終われば精神は戻るし、このまま天国へ連れて行かれるとかはないから。それに、私達の肉体に危害を加える者は居ない。現実世界だと、これは一瞬の出来事なんだから。」


 そう言いながら、大魔女は手招きをする。俺は彼女の側へ足を進める。硬直した蟲の魔女、アラキーネの元へ。そして、彼女に突き刺さった虹色の楔の元へ。


「さっき、マギナさんは『俺が打ち込んだ楔』って言ってましたけど、具体的にはどういう代物なんです?」


「そうね……簡単に言えば、『未来の分岐点』。そして、『並行世界を生み出す楔』と言った具合かしら?」


「並行世界を、()()()()

 並行世界って、『幾つも似たようで違う世界が、この世に沢山ある』っていう、あの?」


「ええ、そうよ。

 例えば今日、貴女達三人は誘拐される筈だった。その命令をしたのが、このアラキーネ。けど貴女の予知魔法で、貴女達は……もっと言えば『この世界』は違う未来を辿る事になった。

 その時、本来起こる筈だった未来は()()()()()()()()したの。その時に打ち込まれたのが、一つ目の楔ね。」


「つまり……俺たちが誘拐されちゃう世界が、沢山ある並行世界の中に存在するって事ですか?」


「その通り。そして並行世界が誕生する時には、莫大な魔力が生まれるのよ。楔が虹色に輝いているのが、潤沢な魔力を蓄えている証拠ね。」


「もしかして……この楔を魔力の電池みたいに使って、街を戻すんですか!?」


「飲み込みが早くて助かるわ♪」


「あ、ありがとうございます!」


「そして、楔はもう一本。貴女が、アラキーネの使い魔と戦った時の物ね。二本も有れば十分、街を戻してもお釣りが出るわ♪」


 ツインテールの少女は、嬉しそうに微笑む。


「でも、渋谷を元に戻すって……具体的はどうするんですか?物凄い回復魔法、とかですか?」


「それは、実際に『感じて貰う』のが早いわね。

 さぁ、私と一緒に、この楔を引き抜いてみて。」


 大魔女は俺の手を取った。恐る恐る、虹色の楔に手を触れてみる。

 次の瞬間、視界が変化した。高速道路のトンネルを抜ける様に、周りの景色が俺の周囲を駆け抜ける。摩訶不思議な空間を抜けた先は、渋谷の上空だった。


「わあッ!?地面が!?」


「落ち着いて、落ちたりなんてしないから。今の私達は精神体だから、重力なんて気にしなくて大丈夫!」


 確かに足場の感触こそないが、浮いた状態のままだ。

 俺はフワフワと宙に浮いたまま、改めて街を見下してみる。

 相変わらず景色はモノクロだが、一点だけ明確な違いがあった。


「ビルが、()()()()()?」


「そう、ここは並行世界。渋谷の街が壊されていない世界線。例えば、もし貴女達が『ただ攫われただけ』だった場合、街が破壊される事は無かったわね。」


「それは……」


 確かにそうかもしれない。俺の所為で、事態が悪化した事になる……のか?


「ああ、勘違いしないで!貴女を責めている訳ではないのよ。寧ろ、貴女は最善の選択をしたわ。私が貴女に遭う前に誘拐されていたら、とても良くない事が起こっていたに違いないわ。」


 マギナさんが、俺を励ましてくれた。


「コホン、さて……貴女の質問、具体的な方法について答えるとしましょう。

 ところで蒼蘭、貴女は『DNAの二重螺旋』って知っているかしら?」


「一応ザックリとは……。確か、遺伝子の情報は二つの螺旋で構成されていて、『片方が破損しても残りの片方がそれを補う』っていう物ですよね?」


「その通り、大正解!貴女の回答は百点満点の花丸ね♪」


 大魔女は拍手で俺の正解を讃えてくれた。


「そう……片方が壊れても、もう片方のお陰で治す事ができる。

 それはね、『世界』も同じ事なの。」


 え……はい?


「もっというと、パソコンとかのバックアップとも取れるわね。私達がいる『基本世界』から失われた物は、ある程度までなら並行世界の物を『バックアップ』として利用できるの。

 もし建物や人が沢山犠牲になったとしても、それらが無事な並行世界が存在するなら、基本世界はそれらのバックアップを元に修復できるのよ。」


 ……それって、物凄い魔法なのでは?

 大人数の蘇生に建物の修復、それを目の前の大魔女は行えるらしい。とても『凄い』という言葉では収まらない。正に反則級、神の御業といって差し支えない。


「ただ、この魔法は簡単に使える代物ではないのよ。

 まず、『修復したい物が存在する世界線』を見つけないとダメ。その為に、並行世界を行き交うこの子達がいるの。」


 手元に留まった、虹色のアゲハ蝶を指で撫でながらマギナさんは言う。


「次に、この『運命の楔』。若しくは、それに代わる莫大な魔力。例え目当ての世界線を見つけても、基本世界に投影させる力が無いと始まらない。

 ただ、この楔は本来見つけるのが困難なの。並行世界が自然発生した場合、いつ何処で世界が生まれるか分からない。運命の楔は、時間が経つと消えてしまうから普通の手段で見つけるのはとっても難しいの。

 で・も・ね?」


 マギナさんは宙に浮かび、俺の顔にずいっと近づいた。


「貴女の予知魔法……『運命に干渉する魔法』があれば、話は別。自覚が無いかもしれないけど……貴女は『運命の鍵』なのよ?」


「『運命の鍵』……」


 とても意味深なワードだ。俺の魔法が、そんなに()()と言う事か……?

 ……まぁ正直、嬉しい様な、ワクワクする様な気がしなくも無い。


「さて、説明は終わり。早速、基本世界に戻りましょうか?」


 マギナさんは、俺に手を差し伸べる。俺はその手を掴むと、再び世界が動き出した。今度はトンネルを後ろ向きに駆け抜けている様に、景色が後ろから前に移動している。


 ◆

「あ……れ……?」


 気がつくと、世界は色を取り戻していた。そして、俺はつい先程まで居た複合施設にいた。破壊された筈の建物は、普段通りの佇まいをしている。聖も炎華も、マギナさんも一緒だ。そして、蟲の魔女アラキーネも、だ。


「何が、起こったの……?」


「時間が巻き戻った、とか?」


 友人二名は、目の前の光景が信じられないとばかりに、辺りを見回す。


「何故……だ……?何をした、小娘!?お前の仕業だろう!?何の魔法を使った!?」


 そして、この光景を一番信じられないと思われるアラキーネが、声を張り上げる。


「何って……先程言ったでしょう?『妖精の手品』だって。」


「ほざけ!

 ……ッ、ふふふ、ならもう一度アレを呼び出すまでだ!」


 右ポケットに魔水晶が入っている事に気がついた蟲の魔女は、再び切り札を取り出す。


 だが、


「『光の短剣-カルンウェナン』」


 マギナさんが投擲した輝く短剣により、魔水晶は光の粒子となり、消えてしまった。


「なッ……」


 唖然とするアラキーネをよそ目に、妖精はそのまま飛び立ち短剣をキャッチする。そしてアラキーネの背後に回り込み、背中にカルンウェナンを突き立てた。


「えいっ♪」


「がはッ……」


 アラキーネは苦悶の表情を浮かべながら、膝を付いた。不思議な事に、背中からは血が流れていない。魔法の短剣だからか?


「貴様……私をどうするつもりだ?」


「ん〜?取り敢えず、色々情報を聞き出さないとな〜って考えている所。ねぇ、『異世界の魔女』さん?」


 マギナさんは、膝を付いたアラキーネの銀髪をかき上げる。


「「「……ッ!?」」」


 俺を含めた、三人の学園生徒は一斉に息を呑んだ。長い髪で隠されていた彼女の耳は、()()()()()。付け耳とか、コスプレ道具とかでは無い。本物の耳が、人間とは違う形をしていた。


「もしかして、本物の『エルフ』……なの?」


 聖が声を漏らす。質問というより、独り言に近い。

 何が何だか分からない。今日1日の内に色々な事があり過ぎて、脳の処理が追いつかない。


「失礼します、ご主人様。ご命令通り、この者らを捕らえました。」


 俺たちの背後に、突然人が現れた。

 ネイビーのミドルヘアをした、漆黒のローブに身を纏った女性だ。彼女の背後には大きな水晶が三つ、立ち並んでいた。

 中にはそれぞれ、俺たちを誘拐しようとした男が1人ずつ閉じ込められていた。


「あら、良いタイミング。お疲れ様、ステラ。」


 マギナさんは、従者と思しき女性に労いの言葉をかける。


「あれ……?」


 俺はその中の一人、リーダー格と思われていた革ジャン男が持つ()()()に気づいてしまった。頭髪の上部、そこには人間ではあり得ない物があった。


『狼の耳』だ。


 エルフ、獣人、そしてマギナさんが言っていた『異世界の魔女』という言葉……。


「マギナさん。」


 俺は大魔女に向き直る。彼女からは、色々と聞かねばならない事があり過ぎる。


「ええ、分かってるわ。貴女達には、色々と知って貰いたい事があるの。

 でも、取り敢えずこの者達を魔法警察に突き出す事からね。それと、ステラ。倒れている人達に回復魔法をお願い。」


 マギナさんは、俺の言いたい事を見透かしている様だ。


「ご主人様、手当はもう終わっています。もう少ししたら、目覚めるでしょう。」


「良かったわ。それなら、この人達の事も任せて良いかしら?私は後輩達を連れて行くから。」


「御意。」


 無表情のまま、ステラさんは頷いた。


「それじゃあ、お話は『秘密のカフェ』でしましょうか?可愛い魔女達のお喋りには、紅茶とケーキが欠かせないものね♪」


 妖精姿の大魔女は、とても嬉しそうに微笑んだ。

渋谷の話は次回、もしくは次々回で終わりです。

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