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第18話 不可視の攻撃②

今回もバトルシーン&流血描写ありです。

予めご了承ください。

「本当だ……、あーしのスマホにも写っている!」


 炎華は蒼蘭と同様に、自分のスマホで写真を撮った。

 彼女のスマホにも白くて細長い虫、スカイフィッシュが映り込んでいた。


(蒼蘭ちゃんが、また私達を助けてようとしてくれているんだ……)


 友人が正体不明の攻撃を見破ってくれた。

 未だ窮地ではあるが、それでも自分の心が軽くなるのを聖は実感していた。


 ◆

「チッ……

 それが分かったからって、何が変わる訳でもねえ!」


 革ジャン男が吠える。

 そして、彼は自分に装着した『腕輪』にある、ダイヤルを回し始めた。


「お前らも、腕輪の力を使え!出力最大だ!

 スカイフィッシュ、死なない程度にコイツらを痛めつけろッ!」


 男の号令が発せられると、空間に大量のスカイフィッシュが現れた。

 否、現れたというより、『見えるようになった』と言うべきだろう。今まで見えていなかっただけで、店内の一角は白い魔力生物で埋め尽くされていたのだ。

 ハッキリ言って、絵面は最悪だ。

 だが今の状況も、最悪な事には変わりない。


 ……落ち着け、落ち着いて状況を整理するんだ。

 自分に言い聞かせて、心を落ち着かせる。


 本来、魔法を『見る』だけならまだしも、『扱う事』は男性には不可能な筈だ。

 となると、男達の魔法は身につけている腕輪による物だろう。

 なら、あの腕輪を取り上げてしまえば…?

 魔法の道具を没収して、止めるなり壊すなりすれば、この窮地は脱出できる。その後で男達を魔法警察なり学園なりに突き出せば良い。


 問題は、()()()使()()()()()()()()()()()()()という点だが……。


 姿を現したスカイフィッシュが、一斉に耳障りな騒音を奏で出す。

 歯医者のドリル音、発泡スチロールが擦れる音、黒板やガラスを釘で引っ掻く音、至近距離で聞く蚊の羽音、この世に存在するありとあらゆる不快音をゴチャ混ぜにした、地獄の協奏曲だ。


「きゃあああああッッ!」


 堪らず俺たちは耳を手で塞ぐ。だが、それでも不快音が和らぐ事はなかった。


「はははははは!!

 スカイフィッシュの羽音は、手のひら程度の障害物なら貫通するんだよ!!」


 パーカーの男は、とても嬉しそうに叫んできた。

 他の男も、同様にご機嫌なようだ。


「ほらほら、どうした?

 こうやって痛めつけられるのも、お見通しって事かぁ!?」


 再び手の甲や二の腕に、痛みが走る。

 白い虫が、俺の身体に喰らい付いていたのだ。

 今、俺は『蒼蘭の皮』を着ているが、同時に『今の身体』と一体化した状態だ。だから傷付けられれば血も出るし、出血を放置すれば貧血にもなる。


 それにしても、相手は抵抗する術のない女の子を甚振るのが、大層お好きらしい。

 ……凄く、物凄く胸糞悪い気分だ。

 痛みだけでは無い。男達への嫌悪感が、腹の中で渦巻いている。


 だが、打つ手が無い。

 何もできない。

 自分の無力感さに、嫌気がさす。


「もう……止めてください!!

 言う事を聞きますから、お願いです!!」


 悲痛な叫びを上げたのは、聖だ。

 目に涙を浮かべながら、男達に懇願する。


「私の友達を、これ以上傷つけないで……ください……」


「ふーん。まぁ、良いか。

 それじゃ、俺たちと一緒に来てもらうぞ。

 勿論、お前のお友達も一緒にだ。」


「分かりました。

 でも、最後に……友達と写真を撮っても良いですか?」


「撮るだけなら良いよ。

 ……その写真は、直ぐに消してもらうけどな!」


「はい、それでも構いません。

 最後に、思い出を作るだけですから……。」


 聖は俺と炎華に手招きする。

 そして、肩を寄せ合う様に、互いの身体を近づけた。

 中央の聖はスマホを持ち上げて、腕を伸ばす。

 そして、アプリを起動した。


 カメラではなく、メモ帳のアプリだ。

 そこには、このように書かれていた。


【私が回復魔法で、二人が『魔法を使えるように』する!

 でも直ぐにスカイフィッシュの騒音が襲ってくるから、二人は何とか魔法で防いで欲しいの!

 もし『音を防ぐ』手段があるなら、私の作戦に乗ってくれるなら、右手でピースをして。無理そうだったら、左手でサムズアップのポーズを取って。

 正直、魔法が使えるようになれるかは『賭け』だから……。】


 俺は聖を挟んで、炎華と顔を見合わせる。

 そして頷き合い、()()()()()()()()()()()()()


 賭けに乗った友人二人を見て、聖は一歩後ろに下がり……。


 両手を自分の両耳に叩きつけた。


「はぁ!?」


 予想外の行動に男達は全員、驚愕し、困惑した。

 聖の耳からは血が出ており、鼓膜が破れている事が分かる。

 それでも意に介さず、聖は続けて魔法をかける。


「リラクゼーション・オーラ!」


 精神を安定させる、回復魔法の一種だ。

 彼女は鼓膜を破る事で聴覚を遮断し、敵の騒音を認識から外したのだ。しかも、聖は治癒魔法使い。破損した鼓膜は後で治す事が可能、という訳だ。

 騒音により掻き毟られた精神が、急速に安定するのが感じられた。

 分かる。今なら問題なく『魔法が使える』。


「ウォーター・ボール・ギガント!」


 俺は巨大な水の球を出現させた。


「はああああああッ!!」


 炎華は全身に炎を纏った。


 反撃開始だ。


「フンッ!

 少しの間、魔法が使える様になったからどうだって言うんだ!?

 またコイツらの羽音で、精神を蝕んでやれば……」


 男は急に、静かになった。

 それはそうだろう。


 もう、俺たちの耳に()()()()()()()()()のだから。


 俺が出した水の球体は、攻撃のためではない。

 巨大な水球で、『顔を覆う』ためだ。

 直径は約1m。耳と球面の距離は手のひらの厚さ以上に、充分に離れている。

 また、距離以前に、空気と水では性質が違う。音は水面で遮られ、四方へ飛び散ってしまうのだ。

 そして、『フィッシュ(魚)』と名前がついているが、スカイフィッシュとは虫の一種だ。故に、水中では呼吸も身動きも不可能。


 故に、魔法を阻害する音は()()()()()()()()


 一方の炎華はもっとシンプルだ。

 全身が燃えており、轟々と火柱が立っている。

 と言うより、彼女自身が火柱となっている。

 空中のスカイフィッシュは次々に焼け落ちていき、彼女の耳に届くのは、炎の鼓動が殆どを占める。


「何……だよ、それ……

 こんなの、こんな事あり得るか!?

 この腕輪さえあれば、簡単な仕事だった筈だろうがぁッ!?」


 完全に予想外の展開に、人攫い達は分かりやすく慌てふためいている。


(サファイア・ソーサー!)


 水中なので、魔法の名前を叫ぶ事はできない。

 が、それでも問題は無い。心の中で叫んでも、魔法は使える。


 水の円盤は回転する刃となって、革ジャン男の右腕を切り飛ばした。腕輪を付けた方の腕が身体から離れ、床に転げ落ちる。


「ぎゃあああああッ!?」


 苦悶と驚愕の声をあげて、男は苦痛に顔を歪める。


(ウォーター・トルネード!)


 今度は全長2m程度の、水の竜巻を出現させ、相手にぶつけた。


「ぐぎゃ、ゴボボボボ!」


 水に飲まれた男は、そのまま後方へ吹き飛び、そのまま伸びてしまった。


緋色に燃る炎の水車(ムーラン・ルージュ)!!』


 すぐ近くで、炎華が魔法を発動したのが分かった。

 豪炎の車輪が、空中にいる魔法の虫を次々に焼き払い、黒パーカー男とラガーシャツの男に突っ込んでいく。


「「ぐわああああ!?」」


「まだまだ!

 ひじりんとセーラを虐めた分は、キッチリお仕置きしてやるんだから!

天翔る気炎の猛禽ブレイジング・ラプター!!』」


 燃え盛る炎の鷹が出現し、二人の人攫い目掛けて突っ込んでいく。燃え盛る猛禽の翼は男達を包み込み、咎人を炎で愛撫する。


「「があああああ…」」


 燃え盛る景色の中で、罪人は気を失った。

 炎華は手のひらを口元で筒状にし、「ふぅッ」と息を吹いた。瞬く間に炎は消え、残ったのは気絶した男二人だった。

 回復魔法をかければ、充分治る程度の負傷だ。


「二人とも、やっぱり凄いね…。」


 無事に敵を片付けた俺たちを見て、聖が駆け寄ってきた。


「いやいや、凄いのは聖でしょ!?

 それより、耳は大丈夫なの!?私の声、聞こえる?」


「大丈夫だよ、蒼蘭ちゃん。

 もう鼓膜は、とっくに回復魔法で治したから。」


「そう…良かった。」


 俺は、ホッと胸を撫で下ろした。


「ありがとう、聖。

 貴女のお陰で、私も炎華も助かったわ。

 ……自分の鼓膜を破るなんて、そんな勇敢な事、私にはできないよ。」


「ううん、蒼蘭ちゃんが相手の魔法を見破ってくれたからだよ!蒼蘭ちゃんって、本当に凄い魔女なのね!」


「そ、そうかな?

 人攫い二人を相手した、炎華の方が凄いと思うけど?」


「いやいや!今のはセーラが魔法の正体を、バシッと当ててくれたのが勝因でしょ?セーラが言い当てなかったら、あーし達やられてたよ!?」


「あ、ありがとう。

 でも、炎華も頼りになるのは本当だよ?」


「そ、そう?

 えへへ、あんがと♪」


 窮地を脱した俺たちは取り敢えず、切り抜けた喜びを噛み締めた。


 だが、それも長くは続かない。店内の奥から、軍服らしき衣類に身を包んだ、謎の女性が近づいて来たからだ……。

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