第14話 渋谷へお出かけ!①
いっけなーい、遅刻遅刻!
私は、瑠璃海 蒼蘭。
ひょんな事から、魔女の学園に編入する事になっちゃった!
今日は学園で出来た初めての友達、聖と炎華と一緒に渋谷へ行くの!
でも私達は魔女だし、お出かけだってありふれたモノで終わる訳無いよね……。
私、一体どうなっちゃうの〜!
…………
……
ハッ!?
マズい、電車の中で寝ちまってた……。
渋谷駅は次か。危うく寝過ごして、本当に遅刻する所だった。
そして今日遅刻した場合、『良くない事』が起こる。そう、確実に。俺には分かる、否、視える。
外出手続きで予想以上に時間を食ってしまった所為か、或いは若干寝不足な所為か、バカみたいな夢を見てしまった。
この学園は全寮制であり、外出する際には目的地や帰宅予定時刻等を、事務所で記入しなくてはならない。
そして外出時には、専用の腕輪を渡される。これにはGPS機能が付いており、生徒の動向を監視するアイテムだ。
具体的には生徒が何処へ向かっているのか、学園外で理由なく魔法を使用していないか、そして男女間の過度な接触は無かったかを確認するための物だ。
俺は電車から降りると、駆け足で駅の改札へ向かう。
ローファーが地面を蹴る度に、乳房が揺れる。肩にずっしりとした負担が掛かり、自分の脳裏に一瞬イケナイ光景を思い起こさせる。が、頭を振ってその光景をかきけす。
聖と炎華が先に着いている筈だ。学園から一緒に行く事も提案されたが、俺は最近編入した身で初めての外出だ。初回のため、彼女らより手続きに時間がかかる。待たせるのも悪いので現地集合にしたのだが……、それが危うく裏目に出るところだった。
俺の未来予知によると今日遅刻した場合、近道をするために路地裏を通る。そこに学生らしき男が数人待ち構えていて、俺たち3人は攫われてしまう。
その未来を避ける為に、昨日はスマホで搭乗車両や乗換駅内のルートを調べていた。お陰で早い電車に乗り換える事ができた。他にも予定より20分早く起きて、学内事務所が開くと同時に手続きをするようにした。大分時間は取り戻せた。俺は少し余裕を持って改札を出て、待ち合わせのハチ公像へと向かった。
◆
「あ!蒼蘭ちゃん来た!」
息を切らせてやって来た俺を見て、聖は嬉しそうな声を上げた。
「まだ時間大丈夫なのに、早速お疲れなの?
ひょっとして、セーラはそんなに今日のお出掛けが楽しみだった訳?」
炎華は揶揄うような口調で、俺の肩をポンポンと叩いた。落ち着かせようとしてるのだろう。
「う、うん……
昨日は楽しみで余り眠れなかったし……」
これは嘘ではない。
地方から来た俺にとって、東京見物は楽しみにしていた事の一つだ。
この前助けてくれたお礼に、東京の街を案内させて欲しいと彼女ら2人から提案された時、俺は途轍もなくテンションが上がってしまった。
「どこ?何処行くの?
浅草?スカイツリー?お台場?」
多分その時の蒼蘭ちゃんは、すっごく無邪気に目を輝かせていたのだろう。聖と炎華からは、まるで遊園地ではしゃぐ子供を見守る親の様な目をされた。今思えば、ちょっと恥ずかしいリアクションだったかな……?
結局行き先は渋谷になったが、ここも憧れの東京スポットの一つだ。ガラス張りの駅ビル、交通量の多いスクランブル交差点、そして所狭しと立ち並ぶオシャレなカフェやアパレルショップ!楽しみにするなと言われる方が無理という物だ。
「蒼蘭ちゃんの私服、初めて見た……!
とっても可愛いよ!」
「そう……?ちょっと照れるな……」
聖に褒められて、何故だかとても嬉しくなる。
容姿を褒められたのはあくまで蒼蘭、外側の姿だ。彼女の皮を着た俺には関係のない事の筈なのに……自然と頬が綻んでしまう。
「まぁ、可愛いのは可愛いけど……
まさか『地雷系』で来るとはね〜!
セーラ、結構攻めた格好するじゃん!?」
「じ、『地雷系』?
この格好、そんなに変かな?」
少なくとも爆弾めいた物騒な格好ではない筈だ。
ピンク色のブラウスに黒いスカート、黒くて少し厚底のローファーに胸元には黒いリボン。
このコーデは、保護者代わりの胡桃沢博士に用意して貰った物だ。
何でも「イケイケな都会っ子女子高生の間で流行っている格好」だとか。
実際、昨日鏡で全身を確認した時は「すごく可愛い服」だと思った。それで凄くドキドキして、昨日はそれで未来予知が発動してしまったぐらいだ。
「そんなに危ない格好なの……?」
「あー、ゴメンゴメン!
『地雷系』ってのはファッションの名前で、所謂『メンヘラ系』とか『病みカワ系』のファッションの事!
別にコーデ自体が変とか、そういう訳じゃないから!」
炎華は慌てて否定する。
「私、メンヘラとかヤンデレに見える?
この服、東京で流行っているって聞いたんだけど……?」
「大丈夫だよ、蒼蘭ちゃん!
……そうだ、一緒に写真撮ろう!
3人で映ってる写真を見れば、浮いてないって分かるから!ほら、炎華ちゃん!自撮り棒貸して!」
聖は炎華から、半ば分取る様に自撮り棒を受け取ると、スマホを取り付けて撮影の準備をする。
「はい、撮るよ!」
「オッケー!セーラ真ん中ね!あーしらの服と見比べて見て!」
左右から女子高生に挟まれてしまった。
厚底のローファーを履いていても、今の俺は彼女らより身長が低い。若干圧倒される感覚があり、戸惑いながらもスマホに向けて笑顔を作る。
炎華はベージュ色の半袖シャツにデニム、聖はキャラ物の半袖パーカーにチノパンというコーデだった。
率直にいって、2人とも可愛い。物凄く可愛い。都会の女子高生はこうやって自分を着飾るのか、と思わず感嘆する。
そして、そんな彼女らに挟まれている写真の少女。藍色の髪とは対照的に、頬は真っ赤ではないか。照れ笑いをするピンク色と黒色の服を着る、愛らしい女の子が画面に映っていた。
……え?
これが、俺……?
「ほら、遜色ないでしょう!?」
「不安にさせるつもりは無かったんだって!
ごめん、セーラ!」
「あ、うん。気にしてないから、大丈夫だよ!」
凄い不思議な感覚だ。
皮膚を一枚脱ぎ捨てれば、俺は何処にでもいる普通の男子学生なのに……。
年下の女子高生に混ざって写真を撮るなど、一生縁がない事の筈なのに……。
遜色ないレベルで溶け込んでしまっている。凄まじい背徳感だ。
しかもその一方で、『今の自分が2人と並ぶぐらい可愛い容姿をしている』という事実に、倒錯的な愉悦を覚えてしまう……。
いかん、しっかりしろ!
聖も炎華も、今日は好意で渋谷を案内してくれるのだ。そんな彼女らの前で、自分自身の容姿や状況に快感を感じるな……!
「それじゃあ蒼蘭ちゃん、早速行こう!」
聖は俺の手を取って、最初の目的地に案内してくれる。
「うん!
あ、少し早めに着いた訳だし、近道をしないできちんと大通りを歩いて行きましょう?」
「そだね!
セーラは東京に来たばっかだし、渋谷の街並みを見ながらのんびり行こ!」
よし、とりあえず予知で見た危険は去ったな!
「そうだ、忘れない内に蒼蘭ちゃんの携帯に写真送るからさ、トークアプリの番号を交換しよう?」
「良いの?ありがとう!
えっと、このQRコードを写真で読み込むんだよね?」
「そうそう!
あ、あーしとも交換してよ!」
「炎華もありがとう!」
アプリの番号交換……これも何だか女子高生っぽいな。
「ほら、蒼蘭ちゃんにさっきの写真送ったから。
届いているか、確認して。」
「うん、ちゃんと届いて……るけど、何か変なの映ってない?」
写真には何か白くて細長い、虫みたいなのが映り込んでいた。
「うーん、写真のブレかな?
ま、こう言うのはアプリで編集して消せるから大丈夫!
後で炎華ちゃんが、上手い事修正してあげましょー!」
「ありがとう、炎華!それじゃ、その時はお願いね!」
俺たちは再び歩き出す。
今度こそ、無事にお出掛けスタートだ。
書ける時にこうして、ちまちまと更新させて頂きます。