表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/74

第1話 蒼石(サファイア)の転校生

 東京の某地区に存在する暁虹(ぎょうこう)学園。

 その日、学園中の高等部はいつも以上に賑やかだった。何故なら、転校生がやって来るからだ。

『普通』の学校でも、『転校生』という存在はある種のイベントと言って差し支えない。ましてや、この学校では滅多にお目にかかれない存在だからだ。盛り上がりも一際大きくなる。


 時は5月の終わり、場所は高等部の1年D組。朝のホームルームを控えた教室では、転校生の話題で持ちきりだった。

 教室はワイワイ、ガヤガヤと騒がしい。


 窓際の最後尾に座る「白百合(しらゆり) (ひじり)」も、新たなクラスメイトの事が気になっていた。口にこそ出さないが、黒髪のおさげ髪を指で弄ったり、眼鏡の位置を直したりと落ち着きがない。

 心ここに在らずな理由はもう一つあるが…どの道今朝のホームルームを終えれば全て解決する。


「は〜い、皆さんおはようございます!」


 ガラガラとドアを開け、緑色の髪をした女性教師が入って来る。彼女の名は「萌木(もえぎ) 早苗(さなえ)」。D組の担任である早苗の声色は、聞いているだけで安らかになる。クラスの生徒達は『日光浴をする花のようだ』と担任を形容している。


「おはようございます!」


 皆が一斉に挨拶をする。それを聞いた早苗は早速本題に入る。


「え〜、皆さんもご存知の通り、今日からこの教室に新しい仲間ができます。それでは、瑠璃海(るりうみ)さん。入ってきてください!」


 担任の声に呼応するように、1人の女子生徒が入室する。


 聖は息を呑んだ。担任の側に立つ、少女の美しさにだ。

 彼女は腰まで伸びた藍色の髪を携え、瞳はサファイアの様に透き通った蒼色だった。肌の艶、顔のパーツも全て整っており、制服の袖やスカートの裾からすらりと伸びた手足も美しい。そして、制服の胸部を押し上げる圧倒的な発育を誇る乳房。そして発育とは裏腹にやや低めの身長と童顔。同性ながら、彼女の容姿全てに目を奪われてしまっていた。


 他のクラスメイトは歓声を上げる者、聖同様に息を呑む者と反応は様々だった。

 担任の早苗は黒板にチョークを走らせ、転校生の指名を綴った。そして、転校生に自己紹介を促す。


「それでは、自己紹介を。自分の名前と、使える()()を皆さんに紹介してください」


「はい」


 教室内に透き通る様な声が響いた。


瑠璃海(るりうみ) 蒼蘭(せいら) と申します。使える魔法は、水属性の魔法です」


 そう言うと彼女は掌を天井に向けながら、腰の高さで身体の前に差し出す。

 彼女の手のひらに水が渦巻き、瞬く間に球体となった。


 教室からは「お〜」と言う声が上がる。


「この教室に馴染めるよう、頑張ります。皆様、よろしくお願いします」


 蒼蘭は自己紹介を締め括り、ペコリとお辞儀をした。

 教室の皆は、拍手で転校生を歓迎する。


「それでは、瑠璃海さんは白百合さんの隣に座ってくださいね〜」


 早苗は穏やかな声で、転校生に着席を促す。

 蒼蘭は隣に座る聖に、ニコッと微笑みかけた。


「よろしくね、白百合さん♪」


「あっ、はい…よろしくお願いします……」


 聖は少女の笑顔に、顔を赤らめてしまった。

 無理もない。人形の様な可愛らしさと宝石の様な美しさを兼ね備えた彼女の笑みは、異性であれ同性であれ虜にしてしまうのだから…。


 ◆

(な、何とか自己紹介が終わった〜)


 着席した蒼蘭は、周囲に気づかれないように肩を僅かにすくめた。

 彼女は内心…否、『内身』では冷や汗ダラダラであった。


(『俺』は憧れの東京で、夢のキャンパスライフを送る筈が…

 あの『博士』の被検体になって、まさか女子校に通学する事になるなんて…)


 そう、『瑠璃海 蒼蘭』とは仮の名前…それどころか仮の『姿』だ。

 本当の名前は『雨海(あまがい) (しずく)』、本来なら今年の春から始まった大学生活を満喫中の…男子学生・・・・だ。


 彼はひょんな事から魔法の世界に足を踏み入れる事になり、この学園に編入する運びとなった。主な任務は男性の魔女化実験の被検体だ。そして直近のサブクエストとして今夜、隣に座る聖に襲いかかる危機から救出する事を要請されている。

 故に彼女と今日中に、ある程度の仲を深める必要がある。そして博士のアドバイス通り、満面の笑みで愛想良く声をかけたつもりなのだが……。


「……」


 黒髪の少女は、顔を赤くして俯いてしまった。

 博士からは、「今の君の容姿なら、笑顔だけでも大抵はイチコロさ♪」と言われていたのだが……必ずしも良い方向には進まないのだろうか……?


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ