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片翼の小鳥  作者: Atyatya


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第三十六話 石の輝き

 僕はアトラの席の近くまで行くと、騒がしい教室内の中でそこだけ時が止まっているかの様な錯覚を覚えた。


「何?」


 僕が近くで何と話しかけようか悩んでいると、怪訝そうな目をしながらアトラから話しかけてきた。


「あ、ごめん。えっと、良かったらなんだけど、僕たちのパーティに入らない? 一人足りなくて。」


 僕が要件を伝えると、視線だけ僕に向けていたアトラは、首を動かし、エレノアたちの方を見る。


「あの足手纏いを外すなら入ってもいいけど、どうする?」


 こちらを試すような視線を向けるアトラ。


「その足手纏いと言うのが、誰を指しているのかは分からない

けど、誰一人としてそう思ったことは無いよ。」


 僕はありのままの気持ちを伝える。


 そんな僕の言葉に一瞬だけ驚いた表情を浮かべるアトラだったが、すぐに面倒さそうな表情に戻る。


「じゃあ、この話は無かったことにーー。」


「良いのですか?」


 アトラの言葉を遮るようにして、エレノアが割って入ってくる。


 アトラはエレノアの言葉の意味がわからないのか、不思議そうな顔をしている。


 僕もエレノアが何のことを言っているのか分からず、黙ることしかできない。


「どういう意味?」


 アトラがエレノアに意味を問う。


 そんな彼女に対し、エレノアは何かを企んでいるような笑みを浮かべる。


「あなたがここで断った場合、後から私たちに頭を下げて入れてもらうことになりますが、それでも良いのですかと聞いたのです。」


 そのエレノアの言葉を聞き、アトラが言葉を返す。


「私があなた達のパーティに入るとは限らない。他のパーティに入る場合、そうはならない。」


 アトラのいう通りだ。彼女が僕たちのパーティにしか入らないのなら、エレノアの言うことも理解できる。しかし、他にも人手不足のパーティはあるはずだ、そこに行かれてしまう可能性もある。


 しかし、エレノアは一歩も引かない。


「いいえ、あなたは私たちのパーティに入らざるを得ません。辺りを見渡してみてください。」


 そう言われ、アトラと僕は周囲を見渡す。


 そこにはパーティメンバー同士で語らっている生徒たちがいる。


「ほとんどの人がもうパーティを組み終わっています。もし仮に、まだ組めていないパーティがあったとしても、あなたは入れません。なぜなら、あなた方は嫌われていますから。」


 嫌われている、という言葉を聞き、エレノアを睨みつけるアトラ。


 目で射殺さんとばかりの視線を向けられても、動じないエレノア。


「さあ、どうされますか? シエル様の誘いに乗るか、それとも、後から頭を下げて入れてもらうか。私たちはどちらでも構いませんよ?」


 煽るようにそう言うエレノア。


 そんな彼女の態度に舌打ちをするアトラ。


「チッ。わかった。入れば良いんでしょ?」


 投げやりな返答をするアトラは、言葉を続けた。


「ただし、あんた達が使い物にならないと判断したら、私は一人で行動する。」


 言うと、僕たちとは反対の方へと顔を逸らしてしまう。まるで、話は終わりだと言わんばかりに。


「わかった。そうならないよう、努力するよ。」


 僕はそう言い残し、ミレイとマリヤが待つ席へと戻った。


***


 遠征当日の朝。


 僕たち一年生は学園のグラウンドに集められていた。


 そこには馬車が幾つかある。これに乗って隣町まで行くのだろう。


「よし、全員揃ったな。それじゃあ、パーティごとに馬車に乗れ。出発するぞ。」


 マット先生がそう言うと、馬車に乗り込んでいく生徒たち。僕たちもそれに続き、馬車に乗る。


 学園が用意した馬車なだけに、豪華では無いにしても、それなりの物のようだ。


 僕とエレノアが乗ってきた馬車なんかよりも、余程高価であることがわかる。


 まず、僕とミレイが入り、左右に分かれて座る。僕の隣にエレノアが座り、その隣にマリヤが座る。そして、ミレイの隣、と言っても一人分、間を開けてアトラが座る。


 御者のおじさんが扉を閉めてくれ、少しすると出発する。


 休憩を何度か挟み、あたりが赤く染まり出した頃、ようやく隣町に到着した。


 今日はこのまま、この宿に泊まるらしい。男子は一階、女子は二階に、一人一部屋とってあった。


 僕はその一つの部屋に入り、ベッドに腰掛ける。


「それで、何であたり前のようについてくるの?」


 そう言いながら入口の方へと目をやると、そこにはエレノアが立っている。


 モジモジと落ち着かない様子のエレノア。そんな彼女は意を決したように話しかけてきた。


「シエル様。少し街を歩きませんか?」


***


 エレノアの提案を受け、宿から抜け出し街中を歩く。


 夕方特有の騒々しさが心地よい。


 屋台で買った串焼きを食べながら会話をする。


「何だか、こうして二人でゆっくりするのって久しぶりだね。」


「……そうですね。」


 俯きがちにそう答えるエレノア。


 何か気に入らないことでもあったのか、いつもと様子が違う。そんな彼女を心配して声をかける。


「エレノア? 大丈夫?」


 そんな僕の問いに少し驚きながら返事を返すエレノア。


「え? あ、はい! ……少し緊張しているだけですので。」


 そう言って微笑むエレノア。


 そんな彼女を見ていると、ふとあの日のことを思い出してしまう。


 エレノアの母親であるエミラさんが亡くなった時は、こんなふうに彼女が笑っている事を想像できなかった。


 どんな悲しみも、時が経ってしまうと、だんだん色褪せてくるのかもしれない。そう思うと、寂しくもなるが、それでも、エレノアが今笑っていられるこの時を僕は守りたいと思う。


 じっとエレノアの顔を見ていると、不思議と微笑みが溢れる。


「エレノア、ありがとう。これまでメイドとして僕を支えてくれて。これからも、迷惑をかけると思うけど、よろしくね。」


 唐突に感謝の気持ちが口をついて出る。


 そんな当然の言葉に驚いた表情を浮かべるエレノア。


 だが、僕の伝えたいことを理解したのか、彼女も微笑みを浮かべながら答えてくれる。


「はい、これからもよろしくお願いいたします。シエル様。」


 僕とエレノアは無性に可笑しくなり、お互いに笑い合った。


 しかし、徐々に周りの人数が増えているにも関わらず、立ち止まってそんな事をしていたら、誰かにぶつかられても文句を言えない。


「うわ。」


「おっと。」


 僕は一人の女性とぶつかり、転びそうになる。


 そんな僕を支えてくれる女性。


「ごめんねー。大丈夫?」


 明るく元気いっぱいの声で話しかけてくる女性。


 髪は長く灰色で、ツインテールにしている。背中には大きな鎌を携えている。おそらく冒険者であろう彼女の左目の下にはスペードの刺青が入っている。


「はい、平気です。」


 僕が答えると、女性冒険者は、よかったーと言って僕に衝突した訳を話してくれる。


「いやー、お姉さん集合場所に遅れそうで急いでたからさぁ。本当にごめんよー。」


 そう言いながら懐に手をやり、懐中時計を取り出す女性冒険者。すると、そこから石のようなものが落ちるのが見えた。


 その石は黒く光り輝いていて、とても眩しい。


「うそ……。」


 そう呟く女性冒険者。


 数秒経つとその石は砕け、光を失う。


 やっと辺りを見渡せるようになると、女性冒険者の顔を見る。すると、そこには驚愕の表情が張り付いている。


 しかし、それも一瞬のことで、すぐに歓喜の表情を浮かべる。


「君! 名前は?」


 唐突に名前を聞かれ答えあぐねるも、肩を掴まれ、キラキラした目で見られると、答えざるを得ない。


「シ、シエルです。」


「そうか、シエル君か! それじゃあ、お姉さん急ぐから! シエル君、死なないようにねー!」


 そう言って去ってしまう女性冒険者。


 一体何だったのだろうか。


 疑問に思うが、考えても仕方がない。


 もうそろそろ暗くなるため、早く宿に戻ることにした。

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