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片翼の小鳥  作者: Atyatya


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第三十四話 主人公

「なんっ、で?!」


 寮母さんの前で打ちひしがれているエレノア。


「? 何かおかしなこと言ったかな?」


 彼女の反応に困惑する寮母さん。


「私はメイドですよ? 何でダメなんですか!」


「何でも何も、この寮は男子寮だから女の子は入っちゃダメなのよ。」


 困り顔でそういう寮母さん。


 それでもなおも食い下がろうとするエレノアを止める。


「エレノア。そういうことみたいだから、早く女子寮の方へ行きな。ミレイはもう行ってるよ?」


 この学園の寮は二つある。学園を中心にし、東側が男子寮、西側が女子寮になっている。


 ここは東にある男子寮のエントランス。


 そこで新入生を歓迎していた寮母さんに、女子の立ち入りが許されていないことを聞き、今に至る。


「うぅ。しかし! ……わかりました。」


 渋々ながらも納得してくれた様子のエレノア。


 そんな彼女を見て、ホッと胸を撫で下ろす。


「では、シエル様が女子寮にお泊りください。」


 僕は耳を疑った。


 彼女は一体何を言っているのだろうかと、思考が止まる。


 今ここで冷静なのは寮母さんだけだろう。その寮母さんは呆れながら口を開く。


「女子寮は男子禁制だよ。」


 その言葉を聞き、我に返る僕。


「そう、そうだよ。だからほら、ね? 早く行かないと。」


 そう言って扉を手で指し示す。


 しかし、エレノアはまたもや訳のわからないことを言う。


「大丈夫です。シエル様なら女の子として潜り込めます。」


 そんなわけないでしょ。


「そんなわけないでしょ。男子の制服着てるんだから。しかもそれ、私の前で言ったら意味ないでしょう。」


 僕の心の声と寮母さんが揃って否定する。


 ぐぬぬ、と悔しそうにしながら未だ帰らないエレノア。


 そんな彼女に痺れを切らしたのか、寮母さんが冷たい声で言い放つ。


「いい加減にしないと、この子を減点にするわよ。」


 僕をチラと見ながらそう言う寮母さん。


「っ! わかりました……失礼します。」


 そう言ってトボトボと扉に向かって歩いていくエレノア。


「ま、また明日。」


 別れの挨拶をしてみたが、気づいていないのか、返事がない。


 これが意気消沈と言うやつか。


 そんなことを思った。


 エレノアが出ていき、残されたのは僕と寮母さん。


 寮母さんが先ほどの冷たい声とは裏腹に、明るい声で語りかけてくる。


「ごめんなさいね、減点なんてしないから安心して。さあ、あなたの部屋は二階の一番奥よ。これが鍵ね。」


 そう言いながら鍵を渡される。


 減点とは、教師や寮母といった人たちが生徒に対して行う罰のようなものだ。


 生徒は皆、それぞれが学校側が決めた点数を持っている。それはどのように決まるのか、そして現在自分が何点持っているのかはわからない。ただ、この点数が無くなると、即時退学になるらしい。


 寮母さんは、僕の減点という罰をちらつかせることによって、エレノアを諦めさせたというわけだ。


「いえ、うちの者がご迷惑をおかけしました。」


 頭を下げ謝罪する。


 使用人の無礼は主人の無礼であるため、責任は僕にある。


「あなた、しっかりしてるね。きっといい貴族様になるよ。」


 そう言って朗らかに笑う寮母さん。


「さあ、早く部屋にいきな。今夜は歓迎パーティーだからね。」


 僕は寮母さんに背中を押し出された勢いで歩き出す。


 階段の前までくると、そこに一人の男子生徒がいた。


 高身長で赤みがかったブロンズの髪をした生徒、リースだ。


 リースはこちらを睨みつけながら、右手の人差し指を突きつけてくる。


「あんまり調子に乗るなよ、このモブが! 主人公である、俺の邪魔をするな!」


 急に怒鳴られ、脳がついていかない。


 彼は一体何に怒っているのだろうか。


「モブ? 主人公? ……何の話?」


 僕の問いを聞き、鼻で笑うリース。


 そして、質問の回答をしてくれる。


「いいか、この世界は俺を中心に回ってるんだ。つまり俺が主人公。これは俺の物語だ。そこにお前の出番はない。さっさと消えろ。」


 説明を聞いても要領を得ない。とりあえず、この場から消えて欲しい、ということなのかと思い、僕は階段を登り始める。


「彼女たちは俺の物だ。誰一人として手は出すなよ。」


 すれ違い様にそう言われる。


 彼女たちとは誰のことを言っているのだろうか。まあ、少なくともエレノアはその中に入っている事だろう。


 エレノアとミレイが彼を嫌う理由がわかった気がした。


 ただ、彼は自分に酔っているというより、自分が絶対に正しいと信じ込んでいるように感じた。その根拠が少し気になったが、今日はもう疲れた。早く部屋に行って横になりたい。


 僕は早足で部屋へと向かった。


***


 次の日。


 最初の授業は剣術だった。


「まずは生徒同士で模擬戦をします。ペアを作ってください。」


 と、試験の時の女性教師が指示を出す。身長が高く、薄い水色をした長い髪を一つにまとめている先生。名前を、カターナと名乗っていた。


 先生の声で男子生徒全員が僕を睨みつけてくる。


 おそらく、その原因はエレノアだろう。


 彼女は今朝から男子寮の前で僕を待ち、いつも以上に甲斐甲斐しく世話を焼いてくる。それも、とびきりの笑顔で。


「エレノアさん、元気になってよかった。」


 安心した表情を浮かべているミレイだが、僕は冷や汗が止まらない。


「俺と組まないか?」


 どうしようかと悩んでいる時、リースが僕に話しかけてきた。その顔にはいつも通り、爽やかな笑顔を浮かべているが、目が全然笑っていない。


「じゃあ、お願いしようかな。」


 しかし、リースは他の男子たちよりかは体裁を気にしている気がしたので、彼とペアを組むことにしたーー。


「組めましたか? では一組ずつ模擬戦をしてもらいます。観戦している方は自分以外の人たちがどの程度の実力を持っているのかをしっかりと見ていてください。」


 そう言って一組目を決めるカターナ先生。


「それじゃあ、あなた達からお願いします。」


 僕とリースに目を向けながらそう言う先生。


 指示に従い、集団から外れ、前へ出る。


 すると、クラスの男子たちから声が上がる。


「やれ! リース!」


「ぶっ殺せ!」


「調子に乗んなよ、平民が!」


 そんな声ばかり聞こえる。


 しかも女子からは、


「リース様ー、がんばれー。」


「リース様、怪我しないでー。」


「邪魔よ平民、リース様が見えないわ!」


 と言われている。


 完全にアウェーな状況と化している状態での模擬戦。


 これで勝ってしまったら、罵詈雑言が飛び交うような気がする。


 だからと言って、負けたら負けたで馬鹿にされる気がする。


 どうしようかと悩んでいると、よく通る声が聞こえてきた。


「シエル様! 勝ってください!」


「シエルさん、頑張ってください!」


 二人からの声援を聞くと、悩んでいたことがすぐに解決した。


「準備はいいですか?」


 先生の声に頷きで返す僕とリース。


 木剣を構え、いつでも動けるようにする。


「始め!」


 開始の合図がしたと同時に、勢いよく突っ込んで来るリース。勢いそのままに斬り掛かってくる。


 それをいなし、攻撃するが躱され、再び攻撃される。


 それを幾度となく繰り返す。


 そして、彼が攻撃をしようとする時、その攻撃を体を低くして躱しながら、リースの軸足を蹴り、体勢を崩す。


 前のめりに倒れたリースの頭の横に木剣を突き立てる。


「そこまで! 勝者、シエル!」


 その言葉に拍手をしてくれるのは、意外にも三人いた。エレノアとミレイは嬉しそうに、三人目である王女は感心したように拍手をしてくれる。


 しかし、その拍手を塗りつぶす勢いで声が上がる。


「汚ねぇ!」


「剣術の模擬戦なんだから剣術で勝負しろ!」


「卑怯者!」


 そんなことを言われる。


 しかし、それは予想できていた。


 僕はカターナ先生の方へと視線をやり、抑えきれなかった笑みを浮かべながら、


「って言ってますけど?」


 と言う。


 そんな僕に先生は、


「……君は、意地が悪いのですね。」


 と言いながら、騒ぎを止めてくれた。


 僕は少しの罪悪感を抱きつつ、やっぱり笑ってしまった。

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