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片翼の小鳥  作者: Atyatya
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第十五・五話 復活

 屋敷の一室に二人の男が立っている。


 この部屋はレンの執務室で、ここで書類の整理や受領などを行なっている。そんな部屋でレンは、暗くなった外を窓を通して見ていた。新月のため、星々が綺麗に見える、そんな空を見上げている。


 その後ろ、机を隔てた先で、執事であるローウィンは主人が喋り出すのをじっと、黙って待っている。


「ローウィン、気づいたか? 神聖力が溢れ出している以上に、ありえないことが起きた。」


 主人が何のことを言っているのかを理解することは、長年の付き合いであるローウィンには簡単なことだ。


「はい。神聖術師が魔水晶に触れた場合、通常、白く発光します。しかし、シエル様が触れた水晶が出した色は、純粋な白ではなかった。」


 ローウィンが自分の聞きたいことを正確に理解している、ということを確認したレンは、その言葉の先を話し出す。


「ああ、少し、緑を帯びていた。緑は風魔術の色。……魔術適性は一人一つが当たり前だ。こんなこと、普通じゃない。」


 主人の言葉に首肯で返すローウィン。


「このことは他言無用だ。いいな。」


「かしこまりました。」


 そう言って執務室から出ていくローウィン。そんな執事を見送るレン。扉が閉まり、部屋には自分しかいないことを確認すると、


「……不老不死の実験、か。シエル君は失敗したと思っているようだが、そもそも、どういった実験が行われ、どのような結果になるのかは、誰にもわからない。」


 神にも等しい力ゆえに誰もその領域には辿り着いていない。そのため、シエルの受けた実験が不老不死に繋がっているのか、そして、最後の実験は本当に失敗だったのかは誰にもわからない。


「……シエル君、君は何を成し、どのような人物になるのかな。すこし、楽しみだ。」


 理知的な顔からは想像もできないほど、子供じみた笑顔を浮かべるレン。自分の子供が、これからどんな成長を遂げるのかを想像しながら、レンはグラスを傾ける。


ーーー


 研究所内。


 声がする。俺を呼ぶ声。泣いているのか、声が震えている。


 起きなければと思うが、体が動かない。俺が、そばで守ってやらないと。


 動け。


 動け!


 動け!!!


 そんな思いが通じたのか、視界が鮮明になり、体が動くようになる。体を起こし、辺りを見渡す。しかし、そこには誰もいない。強烈な痛みを引き起こす注射をしてきた老人も、自分とそっくりな弟もいなくなっている。


 そういえば、意識を失う前、老人が光の粒になって消えていくのを見た気がする。おそらく、実験は失敗したのだろう。不老不死の研究の結果、自分を消滅させてしまっては元も子もない。


 老人は死んだ。では、俺の弟はどこに?


 そう思い、弟のいた場所を見やると、そこには大量の血痕。それを見た瞬間、記憶の奥底に無理やり押し込んだものが再び脳裏で再生される。


 そうだ。あの時、弟も俺と同じように心臓を刺され、そして、……死んだ?


 死体は無い。けど、老人の死体も存在していないことを考えると、弟の死体が無くなっていてもおかしくはない。そんなことを考えた瞬間、腹の底からドス黒い感情が湧き上がってくるのを感じた。そのドス黒い感情はどんどんと上がっていき、頭にまで到達すると、復讐という言葉が浮かんでくる。弟の仇を取るために、原因を作った奴を殺す。俺たちが受けた苦しみを何倍にもさせて、そいつに味合わせてやる。


 しかし、肝心の相手がいない。この感情をぶつける相手はすでに死んでいる。しかし、一度出てきた復讐心は容易にはなくならない。血が上った頭で考える。正常な思考をできていないことは自分でもわかっているが、それでも考えることをやめられそうもない。そして、一つの答えが出てくる。


「……国、王?」


 それはかつて、老人が言っていた言葉。自分は国王の命令で不老不死の研究をしていると、そう言っていたことを思い出す。つまり、そいつが元凶。そいつが居なければ、俺たちがこんな目に会うことはなかった。弟も、死なずにすんだ。


 上っていた血が下がり、冷静さを取り戻していく。しかし、それでもなお、復讐心は消えない。


 冷静な頭で考える。どうすれば、国王を殺すことができるのかを。今の俺では力が足りない。それならば、まずは力をつけることが先決。そうと決まれば、こんな所で時間を無駄にはできない。


 立ち上がる俺。そこで、ふと気がつく。俺がここに来た時、両の手足を縛られていたな、と。視線を下げ、自分の手足を確認した時、声を失った。


 ロープは鋭利なもので切られ、地面に落ちている。


 そして、俺の手足は白く、細長い……骨になっていた。

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