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片翼の小鳥  作者: Atyatya
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第十一話 老人の本音

「はっ、不老不死、ねぇ。」


 心底バカにした声音で、兄ちゃんは答える。内心、僕も同じ気持ちだ。老いず、死なず、なんて、生物としておかしい。そんなの、まるで……。


「おやっ? おやおやっ? もしや、不可能だ、などと思っておるのかのっ?」


 ニコニコとしながら、自分の得意な話を誰かにできる、という状況に興奮気味な老人が質問をしてくる。


「できるの?」


 その自信過剰ぶりに、つい、言って欲しそうな言葉を、果実を食べながら返してしまう。その言葉に老人は待ってましたと言わんばかりに、立ち上がり、器用に御者席から荷台の方へと歩いて来ながら話し出す。


「できるっ! わしは国王から直々に命令を受けっ! 長年、研究をしっ! 数十年前に不完全ではあるもののっ! 不老不死と言って、差し支えない者を作り出したっ!」


 その発言に僕は驚く。どうせ、理論上では、とか、あと一歩でとか、それらしいことを言ってくると思っていた。しかし、老人の話が本当ならば、実際に不老不死を作り出したという。ということは、


「もしかして、お爺ちゃんも?」


 この老人も不老不死なのではないか。そんなことを考える。しかし、それに首を振って否定する老人。


「いやっ! わしは不老不死ではないっ! 不完全なものに興味はないっ! わしが求めるは、完璧のみっ!」


 右手の人差し指を天に向けて突き上げる老人。


 数秒の沈黙。


 僕は、兄ちゃんがなにも言わないことを察し、苦笑いを浮かべ、わ、わー、すごーい、などと拍手を交えて場の空気を保たせる。


 温度差の激しい二人に囲まれているため、気を使って、思ってもないことを言うというのは、結構、疲れる。


 そんな僕の苦労も知らず、兄ちゃんは自分の聞きたいことを聞き出した。


「国王から直々に? あんた、高名な研究者か何かか?」


「うむっ! これでも、わしは知らない人がいないぐらい、有名な魔術師だったのだよっ!」


 胸をそらしながら、えっへんと息を吐く老人。そんな老人と同タイミングで、馬が鼻を鳴らす。それに気づいた老人が前を向き、御者席に戻って行く。


 どうやら、分かれ道をどちらに進めば良いのか、ポニーちゃん……馬なのにポニーって名前は変だが……とやらが、指示してもらおうと、老人を呼んだみたいだ。右に行けば今までと同じく、野原が続いている。左は、少し行けば森が広がっているのが見える。老人はポニーちゃんに指示を出し、左へと進む。


***


 夜。雲ひとつない空に浮かぶ月が、欠けてもなお、誰かを照らそうと木々に囲まれている僕たちに向けて光を届けてくれる。しかし、そんな優しい光を嘲笑うかのように、焚き火はゆらゆらと揺れ、熱と共に光を放つ。


 僕たちは老人の研究の手伝いをするため、研究所へと移動することになった。


 ご飯を食べ終え、水を片手に焚き火を眺める。じっと見つめていると、不思議と落ち着く。パチパチと弾ける音、メラメラという火の音、全てに癒される。


「そう言えば、まだ俺たちを助けた理由を、ちゃんと聞いてなかったな。」


 ボーとしていると、疑問なんかがフッと出てくる時がある。兄ちゃんもそうなのか、その疑問を口に出していた。


「ふむっ! 改めて問われると難しいのだがっ! ……昔の知り合いに、双子がいたんじゃよっ。」


 この場の雰囲気をぶち壊すようなテンションで話し出したと思ったら、急に昔を懐かしむ年寄りのように穏やかな口調になる老人。その目は、綺麗な星空は映さず、眩いほど輝いている、過去の思い出を映しているに違いない。少し目を細めていることが、その証拠だ。


「まぁ、双子だと知ったのは、出会ってかなり、経ってからのことじゃったがっ。」


「その人は今、どうしているの?」


 僕たち以外の双子の話。それは僕たちの未来を示しているかのような気がしてくる。故に、その人たちがどうなったのかを、知りたくなる。


「死んだよっ。わしの知り合いだった弟の方は、姉と大きな喧嘩をして、そして、姉を助けようとして、自らその命を捧げたんじゃっ。」


 息を呑む音が隣から聞こえる。兄ちゃんも双子の話が気になっていたのだろう。しかし、その結末は酷いものだ。僕たちもこんなことになるのかなと、そう、考えさせられる。


 俯いてしまった僕の手の上に、兄ちゃんは自分の手を重ねる。兄ちゃんの顔を見る。そこには優しい笑顔がある。俺たちはそうはならない、と言った言葉が聞こえてきそうな、そんな表情。


「なーんてっ! うっそーっ!!」


 ケラケラと笑い、両手を顔のそばで振りながらいつものテンションに戻って、老人が言う。


 嘘? ……つまり、……えっと、……嘘?


 頭が混乱する。老人が何を言っているのかがわからない。それは兄ちゃんも一緒なのか、目を見開き、老人の顔を見ている。


「ぜーんぶ、作り話っ! 助けた理由は、研究に協力してくれる人材が欲しかったからーっ!! つまり、たまたまーっ!」


 一気に不機嫌そうな表情になる兄ちゃん。老人から顔を外し、横になって寝る体勢に入る。これは、本気で怒ってるな。これが不貞寝ってやつか。


 兄ちゃんは嘘だったと信じ込んでいるみたいだけど、僕はあの時の老人の表情が頭から離れない。本当に嘘なのかな、そう思い、老人の方へと目をやると、……いびきをかきながら寝ていた。とてつもない速度で寝ているため、真意を聞くことはできなかった。


***


 老人と一緒に、研究所を目指して数日が経った。今は、森の中の細い獣道のようなところを進んでいる。歩き始める際、荷台は老人の魔術で木よりも高く浮かされている。老人は本当に魔術師だったようだ。


 本当にこんなところにあるのかな?


 そう、疑ってしまうほどに、この道を歩き出してから時間が経っている。


「おい、まだなのか?」


 いい加減、痺れを切らした兄ちゃんが老人に尋ねる。あの夜の日以来、兄ちゃんの老人に対する言葉遣いが、適当になっている。


 そんな兄ちゃんの問いにフッフッフと、怪しげな笑い方をしながら返答する老人。


「見えてきたぞいっ!」


 前方を指差し、僕たちに注意を向けさせる老人。しかしそこには、今までと変わらず、森が広がっている。


 はぁ、というため息が聞こえる。僕も同じ気持ちだ。まさか、これも作り話じゃないだろうなと、そう言いたい。しかし、そのため息が許せなかったのか、プンスカと音が鳴りそうな程怒りながら、老人は続ける。


「あそこに、入り口があるじゃろうっ!!」


 そう言って、再度指を差す老人。その先をよく見てみる。すると、確かに積まれた土に扉のようなものが付いている。しかしそれは、落ち葉で隠すようにされており、一見しただけではわからない。しかも、僕たちは研究所と聞いて、建物を創造していた。そのため、実物と創造物の違いが激しすぎて、全く気づけなかった。


 僕たちはそのまま、老人の後に続き、扉の先へと進む。扉の先は下り階段が続いていた。どうやら、研究所は地下にあるようだ。灯りをつける老人。その後に続こうとするが、老人の影が邪魔で、階段がよく見えない。


 進めない僕の隣に兄ちゃんが来て、右手を握ってくれる。ゆっくり、ゆっくりと、兄ちゃんと一緒に階段を降りて行く。


 階段が終わると、広い空間に出てくる。その空間の先に扉がある。壁には穴のようなものが空いているのが見える。老人が立ち止まる。こちらに振り返り、ニッコリとした笑顔で僕たちに話しかけてくる。


「ようこそっ! 我が研究所へっ! これから君たちには実験動物として協力してもらうから、よろしくっ!!」


 その言葉の意味を理解する前に、何か、気体が噴出しているような音が聞こえる。


 直後、急に眠気が襲ってくる。抗いようのない、強い眠気。足がふらついているのか、視界がぐわんぐわんする。いや、足じゃなく、上体が揺れているのかもしれない。そんなことは、どうでも良い。早く意識を手放して、楽になりたい。そんな気持ちが出てくる。そして、そんな気持ちに抵抗もできず、意識を手放すーー。

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