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片翼の小鳥  作者: Atyatya
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第一話 環境

小説を書くこと自体が初めてなので、温かく見守ってやってください。

 レイテン王国の名前もないような小さな村


 まだ朝日も昇っていないような早朝、冷気が体を包み込み全身の筋肉が小刻みに震え、まるで笑っているかのように感じる。吐く息は白く、ほとんど感覚のない手は赤くなっている。鼻の奥からとめどなく溢れ出る鼻水をすする。おそらく鼻や耳までも赤くなっていることだろう。


 それは僕だけでは無く、前を歩く兄ちゃんもそうだと思う。


 しばらく歩くと川にたどり着いた。僕たちは持って来ていた2つのバケツを使って川の水を掬い上げる。川の勢いを遮ったため、水飛沫が手に飛んでくる。元々冷えていた手がさらに冷たくなるのを感じる。僕は急いで手についた水を服で拭い、すでに水を汲み終わっていた兄ちゃんの元へと向かう。


 兄ちゃんが2つのバケツの取っ手の部分に頑丈な木の棒を通す。そのバケツの間に入り、棒を肩の上に乗せる。兄ちゃんの後ろに1人分の隙間が空いている。そこに僕が入り、兄ちゃんと同じように肩の上に棒を乗せる。


 2人で、せーの、とタイミングを合わせながら立ち上がる。

僕たちの背は同じぐらいだからバランスを崩すことなく立ち上がれる。


 そして、来た道を戻る。バケツから水がこぼれないように慎重に歩く。そのため川まで来た時よりも遅い足取りで歩く。もしかするとそれ以外の理由もあったのかもしれないけど。


***


 あたりに少し明るさがでてきた。


 少し前から雪が降って、凍えていた体をさらに冷やしてくる。


 兄ちゃんの黒い髪の上に雪が積もっているのが見えた。それを見た僕は兄ちゃんに一緒だね、と自分の髪を見せるように少し俯いてそう言った。


 僕と兄ちゃんの髪の色は全く違う。兄弟なのに何故か兄ちゃんの髪の毛は光さえも飲み込んでしまうほど真っ黒な髪をしている。僕の髪は雪のように白いのに何故だろう。


 僕は兄ちゃんの黒い髪が綺麗で好きだ。黒い髪はこの村では兄ちゃんしかいない。僕も黒い髪が良かったな。


 兄ちゃんは少し笑ってそうだな、と答えてくれる。その目はどこか羨ましそうに見える。兄ちゃんも僕と同じようなことを考えているのかな。


 そんなやりとりをしていると、一軒の少し大きな家が見えてきた。屋根には少し雪が積もり、煙突からは煙が出ている。家には畑が隣接されいて、その奥には僕たちが暮らしている小屋がある。孤児院の少し奥に行けば、小さな家々が立ち並ぶ、村の風景が見える。


 僕たちは入り口を無視して、家の裏に回り込む。そこには扉があり、その中から家に入る。


 家の中に入ると外とは違い、寒さはあるけれど、風は入ってこないため、少しだけあったかいような気がする。


 僕たちは部屋の隅に置いてある大きな桶の中にバケツの水を入れる。バケツをいつものところにしまい、入って来た方の扉とは違う扉を開けて右に向かって廊下を進む。


 突き当たりを左に曲がるとそのあたりから少しだけ暖かくなっているのがわかる。暖かさの元を辿るように進むと右手に扉がある。扉の向こうからガヤガヤとした騒がしい音がする。その音もあってか、向こう側がとても暖かそうに感じてしまう。


 兄ちゃんがその扉を開け部屋に入る。扉が開いた瞬間、暖炉の火によって熱せられた空気が溢れ、体を包む。それが冷え切った体に心地よい。


 兄ちゃんに続いて僕も中に入る。


 ガヤガヤとしていたのは子供たちの騒がしい声だった。みんな寝巻きから着替え、複数の机を繋げて囲むように座り、朝食をとっている。皆が笑顔、またはおかずを取られたのか、泣き顔の子もいる。


 その一番端っこ、暖炉に最も近いところにメガネをかけ、白い服に身を包んでいる大人の男、園長先生がいる。園長先生は元気に騒ぐ子たちを微笑ましそうに見ている。


 その光景を僕は羨ましそうに見ていたが、そんなところを見られるとまた怒られるから、早めに園長先生に話しかけることにした。


「園長先生、朝の水汲みが終わりました。」


 僕の声に気づいた園長先生がこちらを見る。先ほどまでは温かみのある目をしていたが、僕たちを認識した時、一気に冷めた目になる。この人は僕たちをみるときはいつもこういう目をする。他の職員さんたちも同じような目をするが、この人のこの目が一番怖い。


「そうですか、では掃除もお願いします。」


 いつものように淡々と決まった言葉を返してくる。丁寧な口調はたぶん癖なのだが、僕たちを人として見ていないような、そんな距離感を感じる。


 いつもの言葉を言われたら、いつもしていることをすればいい。踵を返し、扉に向かって歩き出す。もう少しこの暖かい空間にいたかったけど、仕方ない。怒られる前に早く出よう。そう思いながら歩いていると兄ちゃんが動いていないことに気づいた。振り返り、兄ちゃんの様子を伺う。兄ちゃんが意を決したように小さく息を吐き、園長先生に話しかける。


「こいつだけでも、もう少しここに居させてくれないか?」


 僕は驚きのあまり、口を開けて固まってしまった。


 兄ちゃんは基本的に園長先生と話さない。だから僕が代わりに園長先生と会話をする。それなのに兄ちゃんから園長先生に話しかけて、僕をもう少しここに置いてくれって言っている。いつもはそんなことしないのに。


「さっきまでこの寒い中、外に出て水汲みに行ってたんだ。そのくらい、いいだろ?」


 兄ちゃんの言葉に園長先生は表情を変えずこちらを見ている。そう、表情はかわらず真顔のままだ。しかし、目が、先ほどまでもかなり冷たい目をしていたのに、さらに温度が下がっていくように感じる。


 まずいっ。


 そう思い、兄ちゃんを止めに入る。


「兄ちゃん、僕は大丈夫だから早く行こ? ね?」


 腕を掴み、少し引っ張りながら話しかける。その掴んだ手を兄ちゃんは、掴まれていない方の手でそっと握ってくる。


 冷たい、だけど暖かい手。


 兄ちゃんの顔を見ると、悲しそうな目をして僕を見ている。


「こんなに冷え切っているのに、大丈夫なわけないだろ。」


 兄ちゃんの言っていることは何一つ間違ってない。こんな状態で、今汲んできたばかりの冷たい水を使って掃除なんかしたら……、考えるだけでも嫌になる。それでも園長先生を怒らせるより、幾分かましだ。


「本人がそう言っているのです。尊重してあげなさい。」


 園長先生はまた、淡々と感情のこもっていない声でそういう。その反応が頭にきたのか兄ちゃんが食い下がろうとした瞬間、園長先生が言葉でそれを制した。


「これ以上わがままをいうのなら、直接、暖炉でその手を温めて差し上げますが?」


 直接とは本当にそのままの意味だろうというのは、今の声色を聞けば誰でも理解できる。兄ちゃんもそうだったのか、恨みがましい目を向けるが、クソっと一言吐き捨てたあと、僕を追い越して扉に八つ当たりでもするかのように音を立てて出ていく。


 そんな兄ちゃんを見て、僕も後に続くように急いで園長先生に頭を下げて兄ちゃんを追う。


 機嫌が悪そうに前を歩く兄ちゃんの後ろをついていく。


「兄ちゃん、園長先生に歯向かったらダメだよ。この前それで大変な目に遭ったじゃん。」


 以前みんなと同じご飯を食べたいと言ったら、文句があるのなら食べなくていいと言われ、数日間何ももらえなかったことがある。そのあと何度も謝って何とかご飯をもらえるようになったが、毎日2回だったご飯は1回になり、量は減り、腐りかけのものを出されるようになった。


 そのことを思い出しながら兄ちゃんにそういう。でもっ、と怒鳴りながらこっちを見てくる兄ちゃんに、僕は微笑みを向ける。


 兄ちゃんのその優しさは素直に嬉しい。でも、やっぱり園長先生には逆らったらダメなんだ。そんな意味を込めた微笑みだった。


 兄ちゃんはそんな僕の意を汲んでくれたのか、悪い、と言って、いつの間にか止まっていた足を再び動かしだす。


 冬の掃除も、これが初めてではない。いつも2人で力を合わせて何とかして来た。今日も、そしてこれからも、2人で乗り越えてみせる。

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