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こっそりと

「や、やめてくれぇ!殺されるような事はしてないだろ!」

「黙れ。」


 眼の前にいた銀髪の男は容赦無く男を斬った。


「お、皇子!何を……。」

「……俺に意見するのか?」


 側近と思しき老人が諌めようと近づく。

 が、刀を向けられ止まってしまう。


「……兄上。」

「どうした?アルフレッド。お前は分かってくれるよな?」


 アルフレッドと呼ばれた男。

 前回の夢に出た人物と似ている。

 という事は、この夢は前回の続きか。


「ふむ、客人か。」

「……どうも。」


 気が付くと隣には銀髪の男が立っていた。

 心無しか眼の前の銀髪の男と似ている気がする。


「……そうか。災難だったな。」

「どうも、そのようで。」


 隣の銀髪の男と話す。

 

「兄上、いくらなんでもやり過ぎです。それでは人が付いてこない。」

「ならば置いていくだけだ。俺に着いてこれない者はいらん。」


 そうこうしていると眼の前の銀髪の男は踵を返して去っていった。


「この頃の俺はまだ若かった。弟の言う事を素直に聞いておけば良かった。」


 眼の前の光景には激しく口論している様子が見て取れる。


「ふざけるな!あんな奴にもうついていけん!いつ殺されるか分かったものじゃない!」

「待て!離反しようとすればそれこそ殺されるぞ!それにその発言が聞こえていたら殺されるぞ!もっと考えて発言しろ!」

「何だと!?」


 すると、その様子を見兼ねた黒髪の男が声を上げる。


「待ってくれ!兄上のことは私が何とかする!皆、どうか兄を支えてやって欲しい。」


 男は頭を下げた。


「アルフレッド様!そのような事をなさらないで下さい!分かりました!わかりましたから!」

「ありがとう。」


 すると、一人がぼそっと呟いた。


「やはり、アルフレッド様が後を継いだ方が……」

「静かにしろ。まだ早い。」


 一番後ろの二人の男がヒソヒソと話している。


「……この時から既に多くの者の心が離れていたのか。お前、これを見ているということは先祖返りの呪いにかかっているという事だ。結末は変えられんが心構えはしておけよ。」

「その先祖返りの呪いとは?前も聞いた気がするんですが……。」


 その言葉に男は疑問を浮かべる。


「前だと?お前とは始めて会ったが……。いいや、まさか……。まさかお前の名前は……。」

「……アルフレッド。アルフレッド・エルドニア。」


 その言葉を聞き、銀髪の男は驚く。


「まさか……。そんな事が……。」

「どういう事ですか?」

 

 すると、辺りが明るくなってくる。


「時間か。こんな事は初めて聞いた。お前の未来、どうなるかは全く予想がつかん。だが、お前が会ったもう一人の男と見た過去と今見た過去。そのどちらかに似た人生を歩むことになるだろう。……また会おう。……それと、あいつにあったらよろしくな。」

「……。」


 銀髪の男の最後の顔はどこか悲しそうだった。





「アル!こっちこっち!早く!」

「早過ぎますって!姉上!」

 

 あれから更に数年経ち文字も覚え、走り回れる位には成長した頃。

 私は姉と共に野原を駆けていた。

 姉と初めて顔を合わせたのは実は少し前のことで、その綺麗な銀髪には驚かされた。

 なぜなら両親や自分の黒髪とは全く似ていなかったからだ。

 突然変異なのか分からないが、どちらにせよ将来は美人になる事間違いなしと、一人納得していた。


(……まさかな。)


 ……あの夢の銀髪の男にも似ている気がする。

 まぁ、気のせいだろう。

 そして、セインによる絵本の読み聞かせ等により文字を覚えることの出来た私はいち早くこの世界の情報収集に務めた。

 というのも、少し気になることがあったからだ。


「姉上、早すぎます……。」

「アルが遅いの!」


 この頃は自分がタイムスリップでもしたのか、それとも異世界に転生したのかどちらか分からなかった。。

 それが気になったのだ。

 結果として答えは異世界転生だった。

 まぁ、何となく予想はついていた。

 まだ外に出たことがなかったので気候や植生などは分からなかったが付近で生活する者、父や母の服装や家の内装から想像はついていた。

 というのも名前は西洋風なのに服装や家の内装は中世の日本のようだったのだ。

 飾られていた甲冑も日本の甲冑のようだったからだ。

 最初こそ混乱したが、私は和風な異世界に転生したのだと理解した。

 

「あ、いた!」

「……おお!」

 

 今、私達姉弟は密かに家を抜け出していた。

 両親から外は危険だから絶対に外には出るなと言われていたがどうしても見たい物があったのだ。

 

「はぁっ!」

 

 眼の前の柵の内側では甲冑を身に纏った者達が馬に乗り、的に向かって矢を放っていた。

 流鏑馬だ。

 

「すごい!ねぇアル?私達も出来るようになるかな!?」

「出来ますよ!いえ、絶対にやります!」

 

 この国の事情や大陸の情勢等はまだ詳しくは分からないが父が治めるこの領地はこの国でも有数の馬産地らしい。

 領地の兵は騎馬が主流でよく訓練が行われている。

 私自身も流鏑馬はしたことが無かったので大変興味をそそられた。

 セインと父の話を聞き、どうしても見たくなったのだ。

 この話を姉であるセラに話してみた所、言い付けを破って見に行こうと言い出し、半ば強制的に連れ出され、今に至る。

 セラはかなり活発で両親はさぞ手を焼いたであろう。

 だが、弟思いなのか、良くしてくれるので助かっている。

 兄弟がいなかった元の世界の私にとっては大事な家族の一人であった。

 

「……ねぇ、所でなんで敬語なの?なんで姉上なの?せめてお姉ちゃんって呼んでくれない?」

「……嫌です。姉上。」

 

 だが、どうしても家族という認識になれないのだ。

 見た目も家族の誰とも似ておらず、極みつけは銀髪である。

 家族は皆黒い髪なのだが、かけ離れている。

 そのせいか、それとも転生したせいか、家族という認識になりきれないのだ。

 

「なんで!?お姉ちゃんって呼んでよ!」

「嫌です。姉上。」

 

 肩を捕まれ、揺さぶられる。

 そんなことより今は馬を見ていたいのだが。

 そして、この時ふと転生前に見た夢を朧げに思い出した。


(そう言えば、あの時もセラって……。)


 セラの方を見る。

 あの時、断頭台にいた女性も似たような銀髪だ。

 しっかりとは覚えていないが確かに似ている。

 あの女性はもっと大きかったし、自分も大きかった。 

 あの夢が予知夢なのだとしたらあの結末が訪れるのはまだまだ先だろう。

 そんな事を考えていたが、セラは気にせず肩を揺さぶり続ける。


「なーんーでー!」

「見つけましたよ〜。」

 

 そんなセラの頭を掴む女性がセラの背後に現れる。

 笑顔が素敵(怖い)なセラの世話役、フレンだ。

 セインが私の世話役だとしたら、フレンはセラの世話役である。

 見た目こそ華奢だが、その体には無数の傷がついており、服で隠れてはいるが、筋肉も凄まじい。

 美人ではあるのだが、怖い。

 

「げ。」

 

 先程まで楽しそうなセラの顔が一瞬にして恐怖に包まれる。

 

「こんな所で何をしていらっしゃるんですか?」

「え、ええと……。」

「アルフレッド様。探しましたよ。」

「……セイン。」

 

 何とか言い訳を探そうとするセラを他所にセインも姿を表す。

 少し騒ぎすぎたようだ。

 

「館から出てはいけないとご両親から言われている筈。何故このような事を?」

「……。」

 

 セインの質問に対し、私は黙ってセラの方を指差した。

 

「アル!?」

「ひ、め、さ、ま?」

 

 フレンは武術も嗜んでいる使用人でとても怖い。

 その様相からは一介の使用人には全く見えないのだが。

 そして、その強さはセラが良くわかっている。

 何故かたまにセラのことを姫と呼ぶ。

 

「私の娘よりも年上だというのが不思議ですね。レインの方が言う事を聞きますよ?」

「……ぐ。」

 

 何も言い返せないと思ったのか、一瞬動きが止まる。

 が、すぐにフレンを指差し反論する。


「今に見てなさい!あなたの娘も同じようになるから!」

「はいはい。取敢えず帰りますよー。」

 

 セラはフレンに抱き抱えられ連れて行かれる。

 

「やだやだ!もっと馬見たいの!アールー!助けてぇー!」

「駄目な物は駄目ですよ〜。」

 

 暴れる姉上を抑えながらフレンはその場を後にした。

 

「さ、アルフレッド様。我々も。」

「……セイン。」

 

 私は馬を見ながら口を開いた。

 

「僕は、いつになったら馬に乗せてもらえる?」

「……近い内に必ず。領主様に話しておきましょう。」

 

 セラには悪い事をしたと思うが、ほんの少しでも長い間馬を見ていられたのだから感謝しなければ。

 だが、この時の私は将来馬に乗れるとただひたすらに心を踊らせていた。

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