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幼少期

「兄上、私にはやはり……。」

「情けない。情けないぞアルフレッド。」

 

 そう言いながら兄と呼ばれた男は罠にかかった兎を殺した。

 これは一体何なのだろうか。

 眼の前には見慣れぬ兄弟。

 片方は黒髪、片方は銀髪と髪色は似ていないが、顔立ちは少し似ている気がする。

 自分は一体何を見ているのだろうか。


「おや?珍しいな客人とは。」


 すると、真横にフードを被った老人とまでは行かない程の男性が立っていた。

 顔はよく見えない。


「その姿、前世があるのかな?」

「え?」


 自分の姿を見る。

 すると、その姿は死ぬ直前の姿と全く一緒だ。

 自分は転生したはずだ。


「これは夢の中。そして、私の記憶だ。」

「……。」


 静かに話を聞く。


「……この頃はまだ兄弟の仲は良かった。」

「この頃は?」


 その言葉に男は頷いて見せた。


「あぁ。自分自身としては兄弟を嫌いになった事は無い。だが、必要に迫られた時、君は愛する家族を殺すことが出来るかな?」

「愛する家族……。」


 ふと、転生前に見た夢を思い出す。

 あの断頭台の女性は家族なのか。

 だとすれば何故殺そうとしていたのか。

 あの時の自分は涙を流していた気がする。


「……。まぁ、君は私と同じ結末にならない事を願うよ。先祖返りだなんて言っているが、その実は同じような人生を辿るという呪いのような物。……と、言うことはその結末はもう変えられないのだがね。」

「一体どういうことですか?あなたの名前は?」


 男は少し笑ってみせた。

 眼の前の狩りをする兄弟を見た後、こちらを振り向いた。


「私はアルフレッド・エルドニア。君にせめてもの幸があらんことを」




 目が覚める。

 どうやら寝てしまっていたらしい。

 ……前世の予知夢もそうだが、不思議な夢を見た。

 アルフレッド……。

 今の自分の名前だ。


「アルー?何処にいるのー?」

 

 こちらの世界に来てから数年が経った頃。

 私は動けるようになってからすぐに状況の把握に努めた。

 取り敢えず異世界という事は分かった。

 前の世界に未練は沢山あったが、過ぎてしまったものはしょうがない。

 元の世界に戻りたいと願っても、柴山勝幸の体は死んでいる。

 無駄だろう。

 だから私は親から逃げ隠れ、書物を漁った。

 

「捕まえた!」

 

 が、私はすぐに諦める事になる。

 四つん這いで逃げ回ることは不可能に近いからだ。

 それに、実の母親とはいえ、美人に抱き抱えられるのは悪い気はしなかった。

 

「あら、本読んでたの?もう絵本読んで……。」

 

 母は私が読もうとしていた本を見、動きを止める。

 いや、考える事をやめたのだろうか。

 

「……まぁ、ただ遊んでただけか〜。」

 

 私が読もうとしていた本は絵本なんかとは程遠い分厚い、文字がぎっしりと詰まった本だった。

 まあ、文字が全く分からず、私は諦めたのだが。

 恐らく、歴史書か何かだろう。

 母も勝手に納得したようだった。

 

「カルラ!ちょっと来てくれ!」

「はーい!」

 

 因みに私の両親はとても仲が良い。

 両親は二人で一緒に子育てをしていた。

 とても仲睦まじい様子であった。

 母は私をイスに置き、その場を離れる。

 

「セラが泣き止まないんだ。どうしたら良い?」

「じゃ、セラは私に任せて、アルの事見ててくれる?」

「よし!分かった。」


 その言葉を聞いた私は急いで隠れた。

 正直に言うと、この時期は父が苦手だった。

 事あるごとにキスしようとしてくるのだ。

 元が二十代であった事もあり、ここで生きた年数を足すと恐らく同じ位の年齢だろう。

 同じ年代の男からキスをされても嬉しいはずが無い。

 まぁ、愛されるのは悪い気分では無かったが。

 

「あれ、アルー?何処だー?」

 

 因みに私にはセラという名の姉がいるらしい。

 確か、夢で見た断頭台の女性も同じ名だったような気がする。

 まぁ、今はまだ良い。

 それに、別々で育児されているようでまだ見たこともなかった。

 

「見つけたー!」

 

 テーブルの下に隠れようとした所を捕まってしまう。

 この後の事を想像すると嫌気が差す。

 段々と顔が近づいてくる。

 せめて、無精髭は剃ってほしい。

 

「トール様!何をしておられるのです!使用人のような事をせずに、当主の自覚をお持ちください!……使用人でもキスしようとはしないですし。」

「セ、セイン……。……駄目か?」

「駄目てす。」

 

 この時、私に救世主が現れた。

 この屋敷の使用人、セインである。

 使用人というか、小姓のようで年齢は十代半ばといったところだ。

 茶色がかった髪と整った顔立ちは元の世界ならさぞモテていただろう。


「わ、分かった……。アルは任せた。」

「畏まりました。お任せ下さい。トール様は執務にお戻り下さい。山程溜まっておりますので。」

 

 笑顔でセインが語りかける。

 この時、私はこの父がどういう人物なのか悟った。

 取敢えず駄目人間なのだろうと決定づけたのだった。

 

「さ、アルフレッド様。こちらへ。」

 

 最初はずっとアルと呼ばれていたので勘違いするかもしれない所だった。

 ……もし長くて呼びにくいとかだったらこんな名前にしなければ良かったのに。

 などと思ってしまった。

 セインに抱きかかえられベッドへ寝かせられる。

 こうなってしまうと私はどうすることも出来ないのだ。

 セインは私が眠りにつくまで付かず離れず見てくれるからだ。

 こうなったらもう諦めるしか無い。

 

「……すぅ。」

「……寝るのは早いんですよね。起きていたら動き回るから疲れるんでしょうか。」

 

 最初は寝たふりで逃げようとしたのだが、セインは私が寝ても油断せず見続けてくれる。

 そのうち、本当に眠ってしまうというオチだ。

 なので、無駄な抵抗はせずに寝ることにしている。

 セインにも悪い気がするしな。

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