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夜襲

「全軍!かかれ!」


 またあの夢だ。

 眼の前には大量の軍がひしめき合っている。

 ここからでははあの二人は見当たらない。


(あの旗……エルドニア家の……。)


 明らかに数がいる圧倒的に優勢な軍勢が差している旗は鷲を象った旗印。

 今も使われている自分達のエルドニア家の旗だ。


(あっちはシャムス帝国のか。)


 劣勢側は剣が描かれた旗印。

 シャムス帝国の物だ。

 資料で見たことがある。


「殺せ!」

「皇帝はすぐそこだ!」

「アーロンを殺せ!」


 そこで、聞き覚えのある名前が聞こえる。

 アーロン。

 現在の公王の名と一致する。

 

「アルフレッドを殺せ!」

「おい!それは俺達の大将の名前だ!アーロンと呼べ!」

「ちっ!ややこしい!改名なんかするんじゃねぇよ!クソ皇帝!」


 成る程。

 あの銀髪のアーロン皇帝は何故か名をアルフレッドに変えたらしい。

 しかし、何故あのアルフレッドと呼ばれた黒髪の男はエルドニア王家の旗を掲げているのだろう。

 アーロンの弟ならば姓はシャムスの筈。

 全て予測だが、あのアルフレッドは自分の先祖だと思っていた。

 ……駄目だ。

 全く予想がつかない。

 そうこうしていると、両軍がぶつかる。


「右翼!突撃!中央の後退を援護しろ!左翼は作戦通りに展開!」

(あれは……アルフレッド?)


 優勢な軍の中にあの黒髪のアルフレッドがいた。

 ならば、恐らく相手の軍にはあの銀髪の男がいるのだろう。

 帝国の軍を探すと、やはりいた。


「突撃!狙うはあの裏切り者の首だ!殺せ!」


 自ら先陣を切り、敵軍に突っ込んでいく。


「兄上!覚悟!」

「っ!アルフレッド!腕を上げたな!」


 突撃してくるアーロンの軍相手をアルフレッドがしている。

 アーロンとアルフレッドは一騎打ちに臨んでいる。

 良い勝負をしている。


「兄上!何故名を私の名前に改めたのですか!?」

「それは……お前の気にする所では無い!」


 激しい戦闘が続く。

 が、徐々にアルフレッドが押されていく。


「くっ!何故とどめを刺さない!?」

「……。」


 アーロンは答えること無く攻撃を続ける。

 確かに仕留められる時はあった。

 だが、アーロンは仕留めていない。

 一騎打ちはアーロンが優勢だったが、次第にアーロン軍は囲まれていく。

 個の戦闘ではアーロンが勝っていたが、ここは戦場。

 数には勝てない。


「……俺の負けだな。さぁ、殺せ。」


 アーロンはまだまだ余裕そうだが、武器を捨てた。


「……まさか、俺に殺されるために?」


 アーロンは動かない。

 そして、それを肯定と受け取ったアルフレッドは刀を構える。


「……さらばです。兄上。」

「あぁ。」


 アルフレッドは少し涙を流しながら首を刎ねた。

 

「……これが俺の最後だ。」


 気が付けば隣には、眼の前で死んだアーロンが立っていた。


「……何故アルフレッドに名を変えたんですか?」

「俺は民に嫌われていた。だから名を慕われていた弟の名と同じにした。心を入れ替えるという気持ちと、弟へ謝罪の気持ちを込めてな。まぁ、結果は何も変わらなかったが。」

「謝罪?」


 アーロンは頷いた。


「この頃、アルフレッドは俺の元を離れ、嫁の実家であったエルドニアという領地を治めていた。そこで同じ帝国の家臣達と共に独立を宣言し、俺と対立した。あいつの言う事を素直に聞いておけばこんなに人が死なずに済んだ筈なんだ。」


 眼の前のアルフレッドは天幕へ帰ろうとしている。


「あっ!」


 すると、突如として背後から襲われる。

 刀は肺を貫いている。

 後ろにいたのは側近の男だ。


「な……何故……。」

「全ては教主様の……。がっ!」

 

 側近の男が喋り終わる前に周りの兵に取り押さえられ、暴れるが、即座に殺された。


「アルフレッド様!」

「……すまんな……。もう、無理だろう。」


 兵達が駆け寄るも、出血が酷い。

 血を吐き出し、既に今際の際である。

 

「……兄上。」


 アルフレッドは目を閉じた。

 もう、死んだ。

 この速さ、恐らく毒が仕込まれていたのだろう。

 

「果たして、教主様とは何なのか。周りの者は聞こえていなかったようだな。」

「アルフレッドか。久しぶりだな。」


 気が付けば隣に先程死んだ筈のアルフレッドがいた。

 アーロンとアルフレッドは軽く挨拶を交わす。

 そして、こちらを向いた。


「良いか。先祖返りの呪いのせいで、お前は俺と弟の人生、両方の人生を辿ることになる。」

「私達兄弟の人生が合わさった複雑な人生となるだろうな。」

「先祖返りの呪い……。」


 その言葉にアーロンは頷いた。

 実は調べてもほとんど情報は出てこなかったのだ。

 トールが隠したのだろう。

 

「そうだ。先祖と同じ名をつけられた者はいずれその先祖がその身に宿るというものだ。」

「だが、その実は同じ人生を辿るという呪いのような物になっている。お前の家系に私の息子の家系と兄上の家系の血が混ざった奴がいるんだろう。アルフレッドという名をつけられたことにより、二人の先祖返りが行われたということだ。」

「私の家はエルドニア家で、昔皇帝の一族と婚姻同盟を結んだときいたことがあります。」


 この二人の時代から一体どれだけ後の話なのかは分からないが、両国の因縁が無くなった頃の話なのだろう。

 すると、辺りが明るくなってくる。


「そろそろ時間か。良いか、俺達はお前の事をここから見守っている。次にいつ会えるかは分からないが、頑張れよ。」

「兄の初陣は無傷だった。私も無傷だ。安心しろ。だが、兄は人を斬り、私は斬っていない。覚悟だけはしておけよ。」


 私は静かに頷いた。

 その瞬間、辺りが光りに包まれた。




 いよいよ、戦だ。

 初陣だ。

 私達は今、戦場が良く見渡せる高台の上に陣を張っている。

 夜、敵がいるはずの山を見る。

 暗くて良く見えないが、あそこに敵がいるのだ。

 すると父上が近づき、話しかけてくる。

 

「アル。眠れんのか?」


 父が訪ねてくる。

 睡眠は取ったが、目が覚めてしまったのだ。

 あの夢について言うわけには行かないだろう。


「父上。いえ、そういうわけでは……。」

 

 父上は去る気配はない。

 親なりに心配なのだろう。

 

「……私に人が斬れるでしょうか……。」

「……無理に斬らなくても良い。その優しさがお前の長所だ。」

 

 父上は頭を撫でてきた。

 

「お前は軍を指揮して、双方互いに被害の少ない結果となるように努力しろ。自分が出来ることで最善を尽くせ。」

「……分かりました。」

「……さ、もう寝ろ。明日も早いぞ。」

 

 私は頷き、自分の天幕へ戻ろうとした。

 その時。

 

「敵襲!敵襲だ!」

 

 急に辺りが騒がしくなってくる。

 徐々に剣戟の音が鳴り響き、悲鳴も聞こえてくる。

 襲撃だ。

 警戒していなかったわけではないが、まさか戦の前に仕掛けてくるとは思わなかった。

 

「アル!セラの所へ急ぐぞ!」

「はい!」

 

 布陣したこの高台は広い。

 セラの天幕は一番中央にある。

 敵が到達するのはまだ先だろう。

 

「はぁっ!」

 

 すると、突如として天幕を破り、眼の前に刀が振り下ろされる。

 あと少し早ければ死んでいた。

 

「ふっ!」

 

 しかし、その男は刀を返す暇は与えられず、すぐに父上に殺された。

 その男は一瞬の内に絶命した。

 服装から山賊では無い様だ。  

 装備がしっかりしている。

 ……人が死ぬのを今、始めてみた。

 思わず、腰を抜かしてしまいそうになる。

 が、そんな暇はない。

 

「アル!行くぞ!既に敵は深くまで入り込んでいるぞ!」

 

 そのまま中央を目指す。

 至る所で味方が戦っていたが何よりもセラが大事なのか味方には目もくれずセラの元へ走った。

 うちの兵は優秀だ。

 そう簡単に死にはしないだろう。

 

「セラ!」

「お父様!ご無事でしたか!」

 

 セラの陣にはフレンとレインがおり、既に数名の兵が準備を整えていた。

 防御陣形を取り、態勢は万全であった。

 フレンの指揮だろうか。

 流石は猛将、フレンが状況を報告する。

 

「トール様、近くの者を救助し、再編成致しました。姫を逃すことくらいは可能だと思われます。」

「そうか……。」

 

 父上は暫く考えた。

 この状況、恐らくは私の想像通りなのだろう。

 

「アルフレッド。この状況、どう見る?」

「……先日お話した通りだと思います。」

 

 やはり、公王の手の者だろう。

 それを聞き、父上は覚悟を決めたようだった。

 

「……よし、アルフレッド。そしてレイン、フレン。お前達はここの部隊全員を連れて離脱しろ。城へと帰るんだ。」

「……トール様は?」

 

 フレンに先を越された。

 まさか今度は父上が殿を務めるとか言いだすのでは無いだろうかと心配になってしまう。

 

「俺は周辺の者を救助しつつどこかにいるであろうセインと合流してから離脱する。敵はセラの正体には気付いていない可能性が高い。なら、狙いは俺なのだろう。俺が囮になればお前達は難なく逃げられるはずだ。」

 

 策としては悪くは無い。

 確かに目的が父上ならばその策ならば自分達は離脱可能だろう。

 それに、もしこちらが本命だとしても精鋭がついている。

 人質として捕らえようとしても問題は無いだろう。

 父上も圧倒的に強い。

 そう簡単に負けることは無い。


「さぁ行け!時間は無いぞ!領についたら戦支度を整えておけ!俺もすぐに行く!」

「はい!父上もお気を付けて!」


 そのまま天幕を抜け出し、馬が止めてある場所へ行く。

 幸い、また馬房には被害は及んでいないらしい。

 コスモが無事で本当に良かった。

 

「姫、全員で行くには馬の数が足りません。皆で相乗りすれば何とか足ります。機動力は落ちますが……。」

「いえ、行きましょう!モタモタしてられないわ!囲まれる前に離脱するわよ!」

 

 そう言うと、セラは私の後ろに乗った。

 コスモは大丈夫だろうか。

 

「わ、私の後ろですか!?コスモが重そうにしてるのですが……。」

「……何?私が重いって言いたいの?」


 笑顔が怖い。

 仕方が無い。

 ここはコスモに我慢してもらおう。


「いえ、何でもありません。」

「ええ、よろしくねアル!」

 

 思わずため息をついてしまう。

 

「レイン、先頭は頼んだ!」

「はい!」

「フレン、後方から戦況の把握を頼む!部隊に指示を出すのも任せた!」

「畏まりました!」

 

 さて、ここを離脱出来るかどうかが正念場だ。

 二人乗りはコスモが可哀想だが、今は我慢してもらおう。

 後でご褒美をたくさん用意してやらないとな。

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