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プロローグ 親

こちらは前日譚です。

「はぁっ!」

 

 真剣で斬りかかる。

 だが、師匠はそれを難なく受け流す。

 木刀で、である。

 

「どうした?手を抜いてくれているのか?」

「そんなわけ……。わっ!?」

 

 すると、一瞬の隙をついて足をはらわれる

 

「まだまだだな。トール。そんなんじゃカルラに振り向いて貰えないぞ。」

「そ、それは関係無いですよ!」

 

 師匠に笑われてしまう。

 師匠は剣聖と呼ばれる武将で帝国の三神将と呼ばれる内の忠将トマスとして知られている。

 自分もそろそろ結婚する歳なのだが中々踏み出せずにいる。

 師匠は四十を過ぎた頃だが数年前に子供が生まれたばかりである。

 師匠に結婚についてどうこう言われたくは無い。

 

「……お?さて、今日はここまでにしておくか。」

「え?」

「トール!」

 

 師匠は小高い丘の方を見る。

 するとそこには街の酒場の娘、カルラが手を振っていた。

 密かに思いを寄せている女性である。

 慌てて身だしなみを整える。

 

「クロウももう来てるわよ!早く!」

「お、おう!今行く!」

 

 もう日も暮れ始めている頃だ。

 夕食時である。

 そっと師匠の方をちらりと見る。

 

「おう、行って来い。明日も遅れるなよ。」

「はい!」

 

 師匠に頭を下げてカルラの元へとかけていく。

 

「トマス様は良いの?」

「あぁ。大丈夫だ。さ、行こうか。」


 俺は彼女と親友であるクロウと過ごすこの時間がとても幸せだった。

 

「またひどくやられたわね。お父上が嘆かれるわよ。今日はやめとく?」

「いいや、疲れたからこそ馬鹿騒ぎしないとな!でも、あの人の強さは異常だよ。」


 明日もまた稽古だ。

 でも、皆と楽しむ事も大事なのだ。

 

 

 

 数年後。

 俺はカルラと奇跡的に結ばれた。

 三神将のうちの義将であった父が早世し、自分が後を継いで覚悟を決める為、告白したらなんと成功した。

 どうやら昔から両思いだったらしい。

 だが、問題は山積みだった。

 

「てめぇっ!」

 

 親友であるクロウに殴られる。

 カルラと夫婦になると発表してすぐにクロウに呼ばれたのだ。

 

「……痛いじゃないか。」

「当たり前だ!貴様、カルラを好きになったのは俺が先だっただろ!真っ先にお前に相談した!お前を信頼してのことだ!」

 

 クロウは同い年ながらも兄弟子であり、兄弟のような存在だった。

 絶対の信頼関係があった。

 

「俺はただ想いを告げただけだ。断られる覚悟だった。了承したのは向こうだ。」

「……ちっ!二度と顔を見せるな!」

 

 そのままクロウは去っていった。

 

「呼んだのはそっちだろ……。」

 

 口の中に広がる血の味を感じながらそう呟いた。

 親友であり、兄弟子でもあるクロウ。

 彼の実力は軽く自分を超える。

 これで決別してしまうことにもなるかもしれないが、いずれまた、共に戦える事を心から願おう。

 

 

 

 あれから数年がたった。

 あの後から本当にクロウは顔を見せなくなった。

 カルラとは大変仲良くやれており、つい先日身籠っている事が分かった。

 だが、幸せな一時はそう長くは続かなかった。

 飢饉が訪れたのだ。

 大規模な飢饉により民は飢えた。

 だが、帝国は戦争に備えて食料を備蓄しておきたいという考えのもと年貢を減らすことは無かった。

 

「皇帝を許すな!」

「アーロン樣の下へ集え!」

 

 皇帝のいる城の外には武装した無数の民衆が詰め寄せている。

 かねてから野心があった皇帝の遠縁にあたる貴族のアーロンがここぞとばかりに反乱を起こしたのだ。

 食料庫を襲撃し、民衆に配り、あっという間に支持を集めた。

 殆ど抵抗も出来ず皇帝派は最後の城へと追い詰められた。

 

「皇帝陛下、私が近衛衆を率いて時間を稼ぎます。トマス様とトール様とともにお逃げ下さい。」

 

 彼女は三神将の一人、猛将フレン。

 まだまだ若く、成人して間もないころからその才を認められ軍事総括である猛将に任ぜられた。

 

「いいや、ならん。」

「陛下!」

 

 皇帝陛下は首を横に振る。

 フレンは思わず声を荒げてしまう。

 

「此度の民衆の不満は明らかに私が原因だ。お前達の意見を聞かずに一人で決めてしまった私の間違いだった。」

 

 陛下はまだ若く、自分よりも少し歳が行っている程度だ。

 先代の皇帝陛下が早世してしまい、若くして皇帝の座についたのだ。

 

「陛下、間違いは誰にでもあります。それを糧に次に活かせば良いのです。」

「……トール。お前の言う通りだ。だが、私に次は無い。次を許してくれるのはお前達くらいだろうさ。」

 

 その言葉に反論が出来ない。

 確かにこの状況からもう一度やり直すのは不可能だ。

 

「だが、お前達にはまだチャンスはある。まだ遅くない。革命軍側に降るのだ。そうして、生き延びよ。」

「陛下!それは出来ません!我々は三神将。帝国の為に尽くす為に生きてきました!」


 すると陛下は少し笑うと、肩に手をおいた。

 

「そうだ。お前達は帝国に忠義を尽くす将達だ。私にではない。トール。お前の妻はもうすぐ子が生まれるのだったな。」

「は、はい。」

「つい先日、私の妻が子を生んだ。女の子で名はセラフィーナという。トール、お前の子は双子だった。そういう事にしろ。」

「陛下!?それはつまり……。」

 

 陛下は頷く。

 

「そうだ。私の娘をお前に預ける。三神将と共に皇帝にふさわしい人間に育て上げろ。そして、いつか帝国を再興してみせよ。」

「……陛下。」

 

 すると、暫く黙っていたトマスが口を開いた。

 

「その話、断ります。私は最後までお供いたします。」

「トマス?それは……。」

「近衛の役割である忠将が寝返ったとあらば、何かがあると疑われましょう。ご安心下さい。我が剣技はトールが受け継いでおります。忠将としての心構えも我が息子、セインに徹底して教え込みました。息子がトールの元で経験を積めば良き将になるでしょう。」

 

 その言葉を聞き、陛下は暫く考える。

 

「……分かった。すまんな。最後まで頼む。」

「陛下!私も……。」

 

 フレンが前に出るが陛下は首を横に振った。

 

「いいやフレン。お前はまだ若い。お前のその才は今後まだまだ磨き上げられていくだろう。トマスの息子と共にトールのもとで鍛えて貰え。そして、セラフィーナの事を守ってやってくれ。セラフィーナが大きくなったら女で頼れるお前が必要になるだろうからな。」

 

 フレンは俯き、肩を震わせる。

 そして、無言で首を縦に振った。

 

「さて、トール。セラフィーナをよろしく頼んだ。名はそうだな……。セラとでも名乗らせておくが良い。」

「……わかりました。必ずや私が帝国を再興致します。」

 

 その後は、セラフィーナを預かり、フレンと共に革命軍へと降った。

 トマスが残った事で疑われる事はなく、セラフィーナもトマスの近衛兵とフレンの兵達によって秘密の抜け道を使い、別ルートで自分の領地へ向かった。

 私達が降った直後に城へと民衆が攻め寄せ、瞬く間に火の手に包まれた。

 剣聖トマスは皇室に伝わる名刀を地面に何本も刺し、敵を斬って刃こぼれしては地面から抜き、敵を次々と切り倒して行ったそうだ。

 数百人を斬った頃、疲労と刀の在庫が切れた頃を見計らって一斉に攻めかかり、討ち取られたとのことだった。

 皇帝陛下も抵抗すること無く、自ら首を取れと言ったそうだ。

 ここに、革命は成功した。

 

「……アルフレッド。この子の名前はアルフレッドだ。」

「アルフレッド?良い名前ね。」

 

 生まれたばかりの子を抱き抱える。

 

「いいや、アルフレッドはエルドニア王国最後の国王の名前だ。」

「……そう。」

 

 この国に伝わる伝説がある。

 先祖の名前をつけるとその子には先祖の霊が宿ると。

 幼少期は問題無いが、とあるタイミングでまるで人が変わったかのように、まるでその先祖が乗り移ったかのような行動を取るという。

 

「この子には帝国の再興を成し遂げる為に頑張って貰わねばならない。最後の国王はそれは見事な人物だったそうだ。例え伝説だろうとそれにすがるしか、彼の力を借りるしか無い。この子には辛い思いをさせてしまうな……。」

「……ええ。だから、私達でいっぱい愛してあげましょう。」

 

 カルラと共に子を抱き抱える。

 すると、子は目を覚ました。

 

「……アル。おはよう。」

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