8 植物園にて
「それこの前の髪飾りだよね?まさか使ってくれるなんて、嬉しいよ」
今日、シャーロットはピンクの髪の毛を片側に緩く編み、先日エリアスに買って貰った髪飾りをつけていた。
「いえ、こちらこそありがとうございました。とても嬉しかったです。大切に使いますね」
「そう…」
「髪飾りの中央に3つはめ込まれた緑の石がエリアス様の瞳の色に似ていて綺麗だと思ったんです………あっ、でもエリアス様の瞳の方が何十倍も綺麗なんですけどね」
照れつつもそんなことを嬉しそうに話すシャーロット。
エリアスは隣を歩く彼女を見る。
――――本当にこんな安物の髪飾りを気に入っているのか?
そういえば仮の恋人を了承してから最初にシャーロットと出掛けた時、劇場を出た後、エリアスはどこかカフェに入るつもりだった。だがそこで、偶然目に入った庶民的な屋台。クレープの店だった。あそこでお茶を済まそうとしたらプライドの高いシャーロットなら怒るのではないか、そう思いわざと提案した。今の彼女が演技だとしたら、その皮を剥がしてやろうと思ったのだ。
ところがシャーロットはエリアスの予想に反し、目を輝かせながら自分が金まで払うと言いだして本当に焦った。
以前のシャーロットと違いすぎて、時々混乱する。
――――
――――――――
今日は王都の近郊で人気がある植物園に来ている。数年前に大規模にリニューアルされ、広い温室も整備された。一度来てみたかったところだ。
園内に入ると広い敷地内には様々な植物がセンスよく植えられていて、シャーロットは目を輝かせてそれらを見てまわった。
「わあ、この花、すごく可愛らしいですね!」
枝のように伸びた茎に並んだようにピンクのハート型の花がいくつも垂れ下がっている植物を見つけ、立ち止まる。
「ケロンソウだな。その形から心臓の涙とも呼ばれている。ピンクの色味が君の髪と似ていて綺麗だな」
隣で同じ花を眺めながらエリアスが言った。
「へ?きききき綺麗!?私の髪が?」
エリアスの発言にびっくりしたシャーロットは素っ頓狂な声を上げる。
「ああ。なぜ、そんなに驚いているんだ?」
「そんなこと初めて言われました。私の髪はくすんだピンク色なのではっきりしない野暮ったい色だと言われてて」
姉リーディアが、自分の美しい金髪に比べて、シャーロットのくすんだピンク色はとても野暮ったく汚い色だとよく馬鹿にしたように言ってくる。
「そんなことはない。綺麗だと思う」
「あ、あ、ありがとうございます」
そんなことを美しいエリアスに真顔で言われて、シャーロットは顔が沸騰したように熱くなった。
その後も、広い園内を植物を眺めながら移動する。
「これは面白いかたちの植物ですね」
「キリギリソウだね」
「これも――――」
「――――――だね」
エリアスはシャーロットが気になって足をとめた植物をどれも丁寧に教えてくれた。
「すごいです。エリアス様はなんでもよくご存知なんですね」
「そんなことないよ………それに、君なら知っている植物も多そうなのに」
以前、姉リーディアが変装したシャーロットと付き合っていたエリアス。姉リーディアは頭がよく、物知りだ。植物の名前などもある程度詳しいかもしれない。
そういえばエリアスは以前シャーロット(姉扮する)の知的な部分が好きだと言っていた気がする。
本当のシャーロットには無い部分だ。
ツキンッと胸が痛んだが、それを誤魔化すように慌ててシャーロットは言った。
「そ、そんなこともないです。そ、それに素面だと頭の回転も遅くて……」
「普通、逆だと思うけど」
「そうですよね…………
あっ!これなら分かりますよ!花の蜜を吸うと甘いんですよね」
低木にピンクや白の小ぶりの花がいくつも咲いている。
ようやく見知った花を見つけたシャーロットは嬉しくなり、思わず花をひとつ摘むと、口をつけてスッと花の蜜を吸った。
「うん、甘いで…す…」
振り返ると目を丸くしてシャーロットを見るエリアスが立っていた。
(やらかした…)
「す、すみません。はしたなかったですよね」
シャーロットの住む屋敷の庭にこの花が咲いていて、庭の掃き掃除をするときなどこっそりとこの花の蜜を吸っていた。忙しくて食事ができず、空腹を紛らわしたいときなどに。
「あっいや……しかし、植物園のものを勝手に摘むのはよしたほうがいい。係員に見つかれば注意されるだろう」
「そうですよね。ごめんなさい。気を付けます」
当たり前のことを言われ、シャーロットは恥ずかしすぎて体を縮ませた。
これでは恋人同士というより、子どもと保護者だ。
間抜けすぎて、恥ずかしくてエリアスを見ることができず、下を向いていると、
「フッ」
急にエリアスの笑ったような声が聞こえ、思わず顔を上げる。
「君にはときどき驚かされるな」
ふわっと柔らかく笑ったエリアスの顔に目が釘付けになる。
いつも冷静で笑顔も作りもののように美しいエリアスだが、今、目の前にいる彼の笑顔は柔らかくて少しだけいつもより幼く見えた。
シャーロットはまたカアッっと顔に熱が集まるのを感じた。
ある程度園内を歩き、少し疲れてきたところでシャーロットはエリアスにベンチに座るよう促される。
「何か飲み物を買ってくるよ」
「ありがとうございます」
飲み物を買いに離れていくエリアスの背中を見送る。
優しくて気遣いも出来て、王子様のように整った容姿をもつエリアス。シャーロットは社交の場にでることがほぼなかったので知りはしないが、エリアスはかなりモテるに違いない。そういえば、期間限定の恋人を了承してくれたときも、女性避けに使わせてもらうと言っていた。
おまけに先ほどの少し幼くも見えた柔らかい笑顔。普段の冷静で整った顔とのギャップにシャーロットはノックアウト寸前だった。
じわりじわりとまた頬が熱くなり、シャーロットは思わず頬に手をあてる。
「あなた、あんなことをしておいてよく外を出歩けるわね!!」
突然の険しい声に慌ててシャーロットは振り返った。
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