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33 お見舞い

 



 エリアスが退出し、客室にはシャーロットとリーディアふたりきりになった。


 微笑を張り付けていたリーディアがスッと真顔に戻り、握っていたシャーロットの手を離すと、大きなため息を吐いた。


「本当にとろい子ね」


「お姉様…一つ間違えばお姉様が襲われてたかもしれないんですよ」

「私はそんなヘマはしないわよ。そんなことより貴女のせいで、せっかくハロルド殿下といい雰囲気で踊っていたのに台無しよ」

「………」


「まあでも出来の悪い妹を心配する健気な姉の姿も見せられたし、ハロルド殿下にも印象づけれたと思うわ。婚約者に選ばれるのも時間の問題かしら」


 ふふふ、とそれは楽しそうにリーディアは微笑んだ。



 ◇




「シャーロット具合はどう?」


 王城から伯爵家へ戻ったシャーロットのもとにエリアスはあれから何度も見舞いに来てくれた。


「痛みももうほとんどないです。綺麗なお花、いつもありがとうございます」


 エリアスは見舞いの度に色とりどりの花束を用意して持ってきてくれる。



 幸いなことに額の怪我は大したことはなく、医師には傷跡も前髪で隠してしまえばわからないくらいになると言われた。


 それでもエリアスはシャーロットをあの日、暗がりにひとり残してしまったことを悔い、何度も謝ってくれた。


 エリアスのせいではない。気に病まないでほしい。と伝えつつもシャーロットは罪悪感からでも彼が自分に会いに来てくれるのが嬉しかった。



「そういえばリーディア嬢は―――」


 最近エリアスは見舞いに来ると必ず姉リーディアのことをシャーロットに質問していく。


「姉妹の仲はいいのか」とか、「リーディア嬢は普段何をしてるの?」「ダンスは昔から得意なの?」とか。


 シャーロットはその度に胸が少し痛んだが、なんでもない振りをして質問に答えた。


(ひょっとして、エリアス様はお姉様のこと…)


 そもそもエリアスが好意を持って交際していたのはシャーロットに変装したリーディアだった。だからエリアスがリーディアに再び好感を持ったとしてもなんら不思議はない。

 リーディアはシャーロットと違って完璧な淑女と評判の令嬢なのだから。


「また来るよ」

「はい」




 客室の窓から外を覗くと、ちょうど帰宅するエリアスをリーディアが見送っている姿が見えた。

 何を話してるかわからないがにこやかに談笑している。貴族らしく上品で優雅で、端から見てもお似合いのふたりだと思ってしまう。


 姉の方は今は舞踏会で顔を合わせた第二王子に関心がいっているようだが、今後のことはわからない。

 シャーロットが子爵家へ後妻に入った後、エリアスはリーディアと―――

 そもそも見舞いなどと理由をつけてエリアスは本当はリーディアに会いたくて来ているのかもしれない―――

などと、よくないことばかり考えてしまう。




「シャーロット!エリアスが帰ったなら早く起きて片付けてちょうだい」

「はいっ」


 客室のベッドに座っていたシャーロットはリーディアの声にさっと立ち上がった。

 エリアスが帰宅した後、客室を掃除して本来の自分の部屋に戻るのが最近の日課だ。さすがにエリアスを今シャーロットが使っている使用人と同じような狭い部屋に案内するわけにはいかない。だからシャーロットは彼が来たときだけ客室で療養しているふうに装っていた。


 ちなみに本当のシャーロットの部屋はもうずいぶん前からリーディアの大量の荷物に占領されている。


 そして実はシャーロットはもう起き上がっても全然平気なくらい回復していて、既に使用人に混じって屋敷の仕事をしていた。

 だから本当はエリアスにはもう大丈夫だから来る必要はないことを伝えなければならなかった。でも会えるのが嬉しくて、会いに来てほしくて、なかなか言い出せずにいた。




 ある日、領地からシャーロットたちの父親ベルナルドがやって来た。


「シャーロット」

「あ、お父様」


 ベルナルドはシャーロットの顔を見るなり眉間にしわを寄せ、ため息を吐く。


「全くお前は次から次へと問題を引き起こしてくれる。嫁入り前に額に傷をつくるなんて呆れてものも言えない…だが、安心しろガルガモット子爵は目立たないものであれば額の傷など気にしないと言ってくださった。寛大なお心に感謝するんだな」

「………はい」


 娘が襲われて怪我をしたというのに心配する言葉ひとつかけてもらえない。シャーロットは肩を落とした。


 いっそ子爵がシャーロットの額の傷を嫌がって後妻の話がなくなってしまえばよかったのに。でもその場合、子爵に借りた大金を返済しなければなくなり、伯爵家は立ち行かなくなるだろう。



「嫁ぐ日も正式に決まった。三週間後だ。準備しておけ。それまではもう屋敷の敷地から出るなよ」

「…はい」



(三週間後…)


 エリアスの顔が浮かんだ。今度こそ本当にお別れだ。


 シャーロットは子爵の後妻に入ることよりもエリアスに会えなくなることが堪らなくさみしいと思った。


 もう会いに来なくていいとシャーロットが言ったらエリアスはどう思うだろう。ほっとするだろうか、それとも内心リーディアに会えなくなると残念がるだろうか。








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