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22 公爵令嬢のお茶会(3)

 



「何をしている?」


 立っていたのはエリアスだった。

 冷めた目でシャーロットと密接距離にいる令息を見ている。


(エリアス様、どうしてこちらに?)


 さらにエリアスの後ろから侯爵家副執事スチュアートも現れた。

「昼間から逢い引きとは良くやりますね」


「あっ…」

(勘違いされたろうか)

 シャーロットは顔を青くする。

 実際は名前も知らない令息から一方的に言い寄られていただけだが、傍から見れば親密な関係に見えたかもしれない。



「ヨルトー子爵令息様ですね?確か先日婚約されたばかりでは?この様なこと相手方に知られたらどうなってしまうか」


「ち、違うんだ!一方的に彼女から誘ってきて困っていたんだ。助かったよ。これで失礼する」


 スチュアートの言葉にサッと顔を青くした令息はシャーロットから離れ、逃げるようにして去る。

 その途中、エリアスが令息を引き留め、何事か耳元で話したが、令息はさらに顔を青くしコクコクと頷くと走って立ち去った。



 力が抜けたシャーロットはヘナヘナとその場に座り込んでしまう。思った以上に恐怖を感じて緊張していたようだ。


 座り込むシャーロットにエリアスが近づいてくる。彼が何を考えているのか表情からはよくわからない。



 勘違いされたろうか。

 いつかのエリアスの言葉を思い出す。


『君の恋愛に口を出す気はないが、他に交際したいもしくは遊びたい相手が出来たらさすがに外聞が悪いからその時は僕らの関係を解消してからにしてくれ』


 シャーロットは途端に不安に襲われる。


 違う男性と隠れて遊んでいると思われたかもしれない。関係を解消したいなどと言われたらどうしよう。


(―――嫌だ。まだエリアス様の恋人(仮)でいたい)



「大丈夫かい?」

「は、はい。ありがとうございました……あの、エリアス様…決して私から誘ったわけではなくて…」


 早く誤解を解かなければと慌てるが、上手い説明ができない。これでは余計怪しいだけだ。これだけ悪評の多いシャーロットの話なんてそもそも信じてもらえないかもしれないが。


「…わかっている」

「へっ?」

「見たところ君は今素面だろう。素面のシャーロットはこんなことできない。だろ?」

「エリアス様…」


 信じてもらえるなんて思わなかった。エリアスの優しい言葉に思わず涙腺が緩む。


「立てるかい?」

 エリアスに手を貸され、シャーロットは足に力をいれて立ち上がろうとしたが、うまく力が入らない。


「すみません。腰がぬけてしまって。もう少し休んでから行こうと思います。先に――――」

「少し失礼するよ」

「えっ!?あ、あのっ、きゃっ」


 エリアスは軽々とシャーロットを横抱きに抱き上げた。


「僕が動けない恋人を置いていくような人間だと思ってるの?」

「い、いえ、でもお、重たいですし。人に見られると騒ぎになってしまうかもしれません」


「全然重たくないし、僕たちは今恋人なんだから騒ぎになっても全然問題ないよ」



 もうすでにシャーロットの心の中は大騒ぎだった。

(大変!私、エリアス様にお姫様だっこされている!!)


「いえ、で、でも……ではせめてスチュアートさんに運んでいただきますので」

 シャーロットはエリアスの後ろに控えているスチュアートをすがるように見た。


「……なんで僕は駄目でスチュアートは良いの?」


 少しだけムッとしたようにエリアスが尋ねる。


「エリアス様は美しすぎて、お顔が近くにあると恥ずかしくて私、熱くて全身が発火してしまいそうなんです!!このままじゃ燃えてしまいますっ!」


 見上げると至近距離にエリアスの整った美しい顔がある。もうドキドキしすぎて全身が恐ろしく熱い。今ならおとぎ話のドラゴンのように火だって噴けそうだ。


「なんだ、そんなことか。恥ずかしいのなら僕の肩で顔を隠しているといい」

 フフッと笑ったエリアスの笑顔は破壊力抜群で、それ以上直視がでぎず、シャーロットは慌てて顔を伏せた。


 そのままエリアスはシャーロットを運んでいるとは思えない身軽さで歩いていく。

 その間、シャーロットは汚れたドレスを着替えに行く途中迷子になったこと、先程の子爵令息が何か勘違いをして近寄ってきたことを話して聞かせた。


 しばらくすると、ざわざわと人の声が聞こえてきた。どうやらお茶会の会場の庭まで戻ってきたようだった。シャーロットは恥ずかしくて顔を伏せたままでいた。



「エリアス?どうしたの?」

 ロゼッタの声がする。


「ロゼッタ。茶会中にすまない。公爵様に渡す書類があって寄ったんだ。シャーロットが体調を崩してしまったようだから連れて帰るよ」


「まあ、大変。すぐに部屋を用意するから少し休んでいったら?エリアスも――」

「いや、すぐに帰るよ。今日は人の出入りも多いし、彼女も落ち着かないだろう」


「……優しいのね、エリアス」


 エリアスは何かを見透かすようなエメラルドの瞳でロゼッタを見た。


「ロゼッタ。次回こういう場に彼女を招待するようなときはぜひ僕にも声をかけてほしい。僕の可愛い恋人に()()()がつかないか心配なんだ」


 そう言うと、エリアスは横抱きにしたままシャーロットの頭に優しくキスを落とした。


 キャー

 周りでそれを見ていた令嬢たちが叫ぶ。



(えっ!?なに?ちょっと待って今…)

 シャーロットは俯いていたので何をされたのかわからなかった。

 それでも頭に何かが優しく触れる感触があった。

 エリアスが何かしたのだろう。令嬢たちが悲鳴を上げるような―――


(例えば頬擦りとか……キ…キキキスと…か…)


 プシュー

 そこまで考えるとシャーロットはキャパオーバーで、思考が停止した。熱すぎて頭から煙が上がっている気がする。


(むむむ無理~)





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