2 伯爵家の姉妹
「シャーロット、帰ったの?」
「お姉様、ただいま帰りました」
シャーロットが屋敷に戻ると、姉リーディアに声をかけられた。
「あの令息、しっかり振ってきてくれた?」
「……はい」
「それはよかったわ。こっちは飽きたのに、しつこく連絡してきてうんざりしてたの」
「お姉様、もうこのようなことは止めて――」
「うるさいわね!!無能のあなたが私に指図できると思って?そんな暇あるならさっさとお茶の用意をしてちょうだい」
「……今、用意します」
「本当にとろい子ね」
「ごめんなさい」
蔑むような姉の視線。使用人のように扱われる日々。これがシャーロットの日常。
シャーロットは頭を下げて謝り、急いで姉のお茶を用意しに向かった。
◆◆◆
シャーロットの1つ上の姉、リーディア。
2人は小さな頃から顔立ち、瞳の色、背格好まで見た目がそっくりだった。見た目の唯一の違いは髪の色。リーディアの綺麗な金色の髪に対して、妹のシャーロットは少しくすんだピンク色の髪をしていた。
髪色以外そっくりな見た目の2人だが、その能力には昔からずいぶんの差があった。
姉は小さな頃からかなり優秀だった。
リーディアは教えられたことは1度でほぼすべてを覚えてしまい、家庭教師にも毎回絶賛されていた。
それ対して1つしか年の違わない妹シャーロットは何をしても平均を上回ることはない平凡な女の子だった。
決して出来が悪かったわけではなかったが、姉が優秀すぎたため、常に比べられ、“伯爵家の残念な妹”と言われ続けていた。
シャーロットは最初こそ姉のように優秀になって、誉められたいと頑張って勉強した。
しかしどんなに努力しても姉のようにはできなかった。リーディアが1度ですんなりできてしまうこともシャーロットは何度も繰り返しやらないとできるようにはならなかったのだ。
―――無理だ。どんなに努力したって、自分は姉のようにはできない。
ようやくそう悟ったシャーロットは頑張ることを諦めた。
その頃になると家庭教師や両親の期待や関心はリーディアのみに集中していて、シャーロットの勉強やレッスンがはかどっていなくても誰にも咎められなくなっていた。
そのうち優秀なリーディアの評判は屋敷の外でも有名になり、ついには国の第一王子の婚約者候補として名前が上がるようになった。
「さすがリーディアね!」
「私たちの自慢の娘」
両親は大喜びだった。
伯爵家には大変名誉なことだったからだ。
王子の婚約者候補は公爵家など上位貴族の令嬢がなるのが常だった。そこに伯爵家出身の令嬢、リーディアが入ったのだ。
それからというもの、王子の婚約者に選ばれるためさらに気合いの入った両親、とくに母親のリーディアへの教育熱は凄まじかった。
朝から晩までリーディアのタイムスケジュールは母親に管理され、年相応以上の勉強やレッスンを課せられていた。
毎日勉強、レッスンばかりでまるで自由になる時間がない姉に、シャーロットは次第に劣等感よりも同情心の方が大きくなっていた。
以前は姉妹仲良く一緒に遊ぶ時間もあったのに今は全くない。
両親や家庭教師は何をしても凡人程度のシャーロットには見向きもしなくなり、最初は寂しかったが、好きな本を読んだりお茶をしたり自由な時間が多くこれはこれで悪くないなと思うようになっていた。
平々凡々と育ったシャーロットに対して一度のミスも許されないような環境で育ったリーディアはどこに出しても恥ずかしくない完璧な淑女として育っていた。
しかし順調にいったのはここまでだった。リーディアではなく別の令嬢が婚約者として選ばれたのだ。公爵家出身だった。
これまで王子の婚約者に選ばれるため、娘を完璧な淑女に育て上げることだけに心血を注いでいた母は気落ちして元気がなくなり、流行り病であっけなくこの世を去ってしまった。
母を愛していた父も悲しみに暮れ一人領地に引きこもるようになり、王都の屋敷には姉妹だけが残った。
そしてその頃からリーディアの様子も変わっていった。
夜毎に遊び歩くようになったのだ。
それもなぜかシャーロットに変装して。
「お姉様、どうして私の振りをするんですか?」
「そんなの決まってるでしょ。完璧な淑女としての私の評判を落としたくないからよ」
意地悪な笑みを浮かべリーディアが言った。
「そんなっ、私だって―――」
「あなた、私が必死に勉強している間、楽してきたわよね?」
「そ、それは、私はお姉様のように優秀ではなかったから…」
「優秀でないならもっと努力しなくてはならなかったわよね?それなのにあなたは私の陰に隠れてなんの努力もしてなかった。あなたの分まで私は毎日できるかわからない量の勉強やレッスンを押しつけられていたのよ」
「……………」
「悪いのはあなたなのよ、シャーロット。今まで楽した分の報いを受けなさい」
上手く反論できなかった。
確かに姉の言う通り、シャーロットは優秀な姉の陰で、努力するのを諦めて好きなことをして暮らしていたからだ。
そのうちシャーロットは『今まで楽した分の報い』として使用人のように働くよう姉に命じられ、拒否することはできなかった。




