1 出会い
まるで物語の中の王子様みたいだ―――
初めて会った侯爵令息エリアスを前にしてシャーロットはそう思った。
さらさらとした金色の髪、すーっと鼻筋の通った端正な顔立ち。
「シャーロット、なぜ最近会ってくれないんだ?僕は君とのことを真剣に考えていたんだ。近い将来婚約したいとも思っている」
少し熱を帯びた美しいエメラルドの瞳に見つめられ、シャーロットの鼓動はドクンッと跳びはねた。
こんな王子様のような人に思いを寄せてもらえるなんて!
世の妙齢の女性なら嬉しくてたまらない言葉を頂戴したシャーロットだか、答えはすでに指示されていた。
「ご、ごめんなさい。もうお会いすることはできません」
予期せぬシャーロットの返答にエリアスは瞳を大きく見開いた。
「なぜだ?」
「………他に、好きな人ができました」
「ほんの少し前まで君は僕に『愛している』と言っていたじゃないか。あれは嘘だったのかい?」
「申し訳ございません」
しばらくシャーロットを見つめ沈黙していたエリアスは「残念だ」と大きくため息をついた。
「……それにしても今日の君はいつもと全然雰囲気が違うね。なんと言うか、別人みたいだ」
怪訝な顔でシャーロットを見ている。
「これが本来の自分なのです」
「じゃあ、自由で知的で、物怖じせずはっきりとものを言う、私の好きだったシャーロットは偽りの姿だとでも?」
「………実は私、お酒を飲むと少々人格が変わってしまうんです。エリアス様が好意を持ってくださったのは本来の私ではありません」
「そんな話を信じるとでも………いや、まあ今となってはもうどうでもいいことか…」
眉根を寄せたエリアスは疲れたように片手で顔を覆った。
「君の気持ちはよくわかった。もうこうして会うことはないだろう」
しばらくの沈黙の後、エリアスはそう言うと、シャーロットの顔を見返すこともなく去っていった。
去っていくエリアスの背中を見えなくなるまで見つめていたシャーロットは、ふーっと大きく息を吐いた。
あんなに格好良くて、紳士的な人に好意を持たれて嬉しくない人なんているんだろうか――
エリアスが好いていたのが本当の自分だったならどんなによかったか――
でも違うのだ。
エリアスが恋していたのはシャーロットに扮した、シャーロットの姉だったのだから―――