リトルシスター
今ここに義妹がいます
彼女はあなたの義妹です
彼女は私の義妹です
彼女は誰かの義妹です
そして彼女はみんなの義妹でもあるのです
義妹が何かを欲している
探し当てて与えなさい
義妹が何かに怒っている
一緒に怒りなさい
義妹が助けを求めている
手を差し伸べなさい
義妹が何かに泣いている
黙って彼女を寄せて慰めなさい
兄よ 姉よ すべての人類よ
あまねく銀河の星々の中で
彼女がおまえたちの義妹となったことを
涙を流して喜びなさい
世界から義妹がいなくなったとき
おまえたちは血のつながりでしか人を愛せなくなる
夫婦ですら子との血のつながりを介してでしか相手を愛せなくなる
義妹こそがおまえたちすべての人類がひとつにまとまる導なのだ
義妹こそがおまえたちすべての人類がひとつに集う唯一の標なのだ
しかし世界はこんなにも義妹への愛に溢れているのに
誰一人として彼女の姿を見たものがいない
なんと寂しいことか
なんと悲しいことか
確かに義妹はいるはずなのに
おまえたちは彼女を見ることができないのだ
おまえたちの目が曇っているのか
いや違う
彼女は神々しすぎるのだ
我々が太陽を直視し
その輪郭を正しく捉えることができないように
輝かしい彼女の姿を目に焼き付ける前に
おまえたちの視界はその輝かしさで塞がれてしまう
それでもおまえたちは彼女から目を離してはならない
彼女から目を背けることは彼女を一人にすること故に
彼女に寂しい思いをさせないように
おまえたちは常に彼女がいる場所に
光り輝き何も見えない場所に
顔を向き続けなければならない
私の義妹!
私たちの義妹!
誰も奪うことのできない
誰も独占することのできない
ただ一人の義妹!
おまえたちのその叫びは必ず彼女の耳に届く
愛すことを恐れるな
いつの日か彼女の姿を認めたとき
その笑みがどこに向いているのかを知るだろう
義妹はいつもおまえたちを見ているのだから
茨木のり子氏「敵について」からインスピレーションを得ました。