その4
ひだまり園は
ごくごくふつうの
保育園。
ぞうぐみは、お兄さんお姉さんのクラス。
今日私はお手伝いに入っている。
……………
「ももちゃん、お絵描きしてるんだね。」
「うん。そう。」
横に座って、遊びの様子を見守る。
きうちゃんの手には、
オレンジ色のバケツが、ハンドバッグのようにかかっている。
「マッチ、マッチはいりませんか?」
「マッチ、マッチはいりませんか?」
ももちゃんはチラリときうちゃんを見る。
その距離1メートルちょっと。
「マッチ、マッチはいりませんか?」
「マッチ、マッチはいりませんか?」
きうちゃんが横を通るタイミングを見て、
ももちゃんが手を止める。
「あ!私、マッチ買います!マッチください!」
………………
「…。」
きうちゃんがももちゃんの耳元に
そーっと来る。
「…本当は、マッチは誰も買いません。」
「あっ、…そうなんだ。…じゃあ、いりません。」
お絵描きに戻るももちゃん、
黙って頷くきうちゃん。
…………………
「マッチ、マッチはいりませんか?」
「マッチ、マ…ッチ…。」
ロッカーの横に立ち、天井を眺めるきうちゃん。
そろそろクライマックス…の予感。
………………
ドタ!
オレンジバケツには、ハロウィン模様の
コウモリが描かれていた。
「先生!きうちゃん、倒れたよ!」
ももちゃんが、心配して、私の肩を揺する。
「あ、あのね…。」
めろくんがパズルを手に
横のテーブルに座りながら言う。
「あれは、死んだだけ。」
「あ、ううん。ももちゃん、ちょっと今は…。」
「ふう♪」きうちゃんは立ち上がり、前髪を横に流していた。
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