1. 起きたら鏡になっていた
皆さんはじめまして。私はルフィア。
王宮でメイドをやっているどこにでもいる平凡な17歳。
唯一取り柄といえば、13歳から4年間も働いていてベテランには入るかなというところ。
実家は伯爵家とはいえ貧乏の二文字がつく、いわゆる名前だけの貴族。
そんな私たち一家は母と父、私と6歳下の弟で構成されている。
仮にも貴族の令嬢である私は本来なら後継ぎには弟がいるため、どこかに嫁ぐはずだった。
でも、私は少しでも家計を助けるために働く道を選んだ。
今ではそれで十分よかったと思っている。同じメイド仲間とおしゃべりするのは楽しいし。
それよりも。
私は一日の仕事が終わったあと、廊下を歩いて王宮内にある自室へと戻る途中だったはずだ。
だけどたしか、急に眠気が襲ってきて・・・・
あれ? むしむしして暑い? しかもシャワーのような音がする?
慌てて目(?)を開けてみると、目の前にはこの世の美を集めたような美青年がいた。・・・・・全裸で。
イヤァーーーーーーーー!! 露出狂が目の前でシャワー浴びてますよっ!!・・・ってあれ? 今叫んだはずだけど自分の声が聞こえない? よく考えれば、いつもあるはずの手と足の感覚もない・・・?
そして全身私の目に映る目の前の美青年・・・・よく見たら次期魔術師団長と期待の魔術師、バーラント様じゃないの!?
もしかして私、彼の家のお風呂場の鏡になってるのーーーーーーーー!?
なにがどうしてこんなことになった・・・?
♢ ♢ ♢ ♢
いやあ、あの時は本当にパニックになってしまった。
今まで目にする機会もなかった男性の裸がいきなり目に飛び込んできたんだもの。
そりゃ、パニックにもなるはず。
どういう経緯でこうなったかはわからないけれど、鏡になってしまったからにはこの状況は受け入れないといけない。
どうやらバーラント様は必ず朝と夜にシャワーを浴びるようだ。・・・・なんだか知ってはいけないものを知ってしまった気になるのはなんでだろう・・・?
変な背徳感を勝手に感じている私である。
最初こそ羞恥心を感じてはいたものの、それでも毎日裸を目の前で見せつけられていたら、いい加減慣れるというもの。今ではお風呂の鏡になったのをいいことに、毎日彼の体を鑑賞してはうっとりしている。
意外にも鍛えられた腹筋が割れていたり。私も遠目から見たことぐらいはあったけど傍目からはそんなに鍛えているようには見えない、隠れ細マッチョだったり。綺麗好きで、シャンプーは爽やかなシトラスの香りのを使っていたり。彼が通ったあとはいい匂いが漂ってるんだろうなあ・・・
バーラント様は、侍女やご令嬢たちにはとても人気がある。
彼は侯爵令息で将来有望な魔術師ということに加えて、銀髪にアイスブルーの目の冷たい印象を与えるが美しい顔立ちをした男なのだ。まさに氷の美貌。
つまり、とてつもない優良物件ということだ。だがその冷たい美貌のせいでどうも近寄り難い。本人が寡黙なことも相まって、みんなこっそりと眺めるだけになってしまっている。
今もその近寄り難い美貌とバランス良く鍛えられた美しい肢体を眺めながらきれい、美しい、カッコいいなどと心の中で連呼していると急にシャワーで泡を流していたバーラント様が素っ頓狂な声を上げた。
「はっ・・・・?」
バチバチッ
ばりん
と同時に雷が私の体を突き抜けた。どうやらバーラント様が魔術を放ってしまったらしい。
そして、割れた。・・・・当然だ。かなりの威力だったもの。
嗚呼、さようなら・・・
わたしのバーラント様鑑賞ライフ・・・・・
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