黒い瞳のケイ • トラビス王の回想
ある日父が城下の町娘を連れて来た。
その者の名はケイ。
黒い髪 黒い瞳 白磁の肌
まるでいにしえの魔族のような少女だった
私と目が合うと ニッコリ微笑み 言った
「貴方の運命の選択を、一つ閉じさせていただきたいと思っております。」
運命?何を言っているのだ、
この娘になんの力があるというのか?
まさか、[預言者]
父は面白そうにニヤニヤと私を眺めている。
一体父は何を考えているのか
この娘をどう扱うつもりなのか
「なぁ トラビス
この娘は私に天使を授けてくれるそうだ
楽しみだろ」
そう言い 女の見事な黒髪に 口づけをする。
面白いオモチャを貰った子供のようにワクワクした父を間近に見て あゝ父はこの女に狂ってしまったのかと酷く落胆した。
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兄リチャードが死んだ
学園で男爵令嬢と共謀して婚約者の伯爵令嬢を貶めた。
無実の伯爵令嬢に罪を着せ娼館に売ったのだ
正気の沙汰じゃない。
兄は 「正義の為だったのだ!私は真実の愛を貫く 」と伯爵令嬢の名を叫びながら毒杯をあおった
兄は病死と発表された。
男爵令嬢は罪人として伯爵家に引き渡された。
「私はヒロインなのよ」と意味不明な事を叫んでいた。
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黒い瞳の彼女は、女の子を産んだ。
銀の髪 深い海の底の様な瞳に銀の煌めきを讃えた美しい赤子だった
彼女は言う
「この子は貴女の運命ではありません
無理矢理糸を紡がないようご注意を」
妹はコーネリアと名付けられた。
黒い髪の彼女は身分の低さから愛人として扱われ小さな離れを与えられた
そこで世捨て人のように暮らしていた。
コーネリアはいつも何かを見ていた
私と違う何かを•••
黒い髪の彼女は笑って言った。
「だから言ったでしょ!私は天使を産むって!」
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私はその後、立太子の礼をすませ 正式に皇太子と認められた。
兄の仕事を引き続き、父の弟であるアーサー王弟殿下と共に公務に専念した。
太陽王の生まれ変わりと噂されるほどの麗しい叔父。
輝くような金の髪、その眼差しだけで人の心を射抜けることが出来るのではないか思わせる程のカリスマ性。
叔父は高い能力を持っているのに 滅多に社交の場には出ない。
昔、私は不思議に思いアーサー叔父に問うてみた。
「叔父上 何故結婚されないのですか」
「私はね 私の姫を待っているのだよ。
神が私に与えてくれる 私の運命が回り出す時期を待っているのだよ!」
「ロマンチックですね でも私達は王族です。
そのような我儘を言ってよいのでしょうか?」
「そうだね、普通は駄目だろうね。
でも私は神と約束したのだ。だからいつでも神のご意志に添えるように 身辺を綺麗にしているのだよ」
「真実の愛ですか?今流行りの」
私はこの「真実の愛」には否定的だ。
庶民の娯楽としては面白いだろうが貴族としての秩序と義務には全くそぐわない考え方だ。
王族としてそんな事を言う叔父に不快感を覚えた。
叔父は言った。
「真実の愛いと運命は違うモノ。
真実の愛とは、その時 その場 その流れ で姿を変えていくものだが 運命は神が決めるもの。
そこには 私達の意図は全く入っていないのだよ」
最近になって叔父上の言葉は少し理解出来るような気がする。
兄は、熱に浮かれ周りが見えなくなって大勢の人間に迷惑を掛けた。
真実の愛?兄は一体何がしたかったのだろうか?
では父と黒髪の彼女 あれが「運命」なのか?
そんなものが私にも運命が用意させているのか?
なんだか空恐ろしい感じがした。
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