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 その囁きは、英二君の声に似ていた気がした。


 英二(えいじ)は去年、自殺した生徒の名前である。彼もまた私と同じく、沙織と環奈にいじめられていた。


 お互いにいじめられていた者同士、私たちは惹かれ合った。過酷ないじめにより絶望していた時に、ようやく希望の光が見えたような感覚であった。


 英二が自殺したのは、そんな頃であった。


 今思えば、違和感を感じるタイミングだ。もしかして、すぐに死んでしまいたくなるような、耐え切れないほどに苦痛ないじめを受けたのだろうか。


 もしそうなら、なんて可哀そう。そんな目に合わせた奴らが許せない。


(ぶち壊そう。全部)


 またも英二の声が聞こえた。いや、間違いなく私の心の声だ。しかし英二が後押ししてくれているかのような、そんな気がした。


 私は再度、周囲を見渡す。生徒たちはつまらなさそうに私を見ている。ステージ袖を見ると、沙織が笑いを押し殺していた。


 私の震えは止まっている。きっと恐怖よりも、怒りが勝っているのだ。もう、ぶち壊すことは決めた。


 きらきら星など、歌うものか。


 マイクに口を近づける。そしてそっと、息を吸う。


 吸っている間に、考えが過る。今から行う私の行動に、名前はあるだろうか。


 そうだな。言うなれば、これは自供、だろうか。




「環奈を殺したのは、私です」




 私の冷徹な声が、マイクに乗って、館内を一瞬で巡った。ヒソヒソ声が一斉に止んで、全員が私を注視する。


 今こいつは何て言ったのだと、誰しもが思ったに違いない。


「去年。環奈は事故に遭って亡くなったと警察は判断しました。彼女は歩道橋の柵に腰かけていたところ、バランスを崩して転落。タイミング悪く通行していたトラックに衝突して即死、とのことでした。しかし本当は……」


 私は一つ間を置いた。生徒たちがちゃんと聞いているか確認する。生徒たちは、食い入るように私の話を聞いている。


「私が突き落としたんです」


 ごくりと、息を呑むような音が聞こえた気がした。


「英二が自殺して、私は本当に絶望していました。そんな時、歩道橋の柵に腰かけている環奈を見かけたんです。それはあまりに危なっかしく、あまりに無防備でした」


 私は思い出すように、語る。


「そして丁度、トラックが走って来ているのも見かけたんです。環奈はスマホを弄っていてこちらに気が付いていない様子。だから私は、足音を立てないように近づいて、タイミングよく突き飛ばしたんです」


 ダァーンッと、人の身体とトラックが衝突した音を思い出す。気分爽快で、痛快な音だった。


「盛大に音が鳴り響きました。同時に、遠くに吹っ飛んでいく環奈を見たんです。それを見た私は、とても可笑しく思って、笑っちゃいました」


 憎らしい環奈が吹き飛んで、アスファルトに叩きつけられ、バウンドして、再度アスファルトに叩きつけられる。そんな情景を思い出し、笑いが込み上げてくる。

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