表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/7

 そうこうしているうちに、沙織が用意したギターとベースがステージに立ってしまった。


「ほら、早く行ってきなさい」


 私を突き飛ばすようにステージに追いやった。その勢いのあまり、私は盛大に転んでしまう。ステージから見えた状態だったので、それを全生徒に目撃されてしまい、笑い声がポツポツと響いた。


(は、恥ずかしい。なんでこんな目に)


 私は俯きながら、スタンドマイクの前に立った。意を決して前を見る。


(っ……!?)


 全生徒が、私を見ていた。先ほどのバンドで昂っている生徒たちが、怪訝な表情で私を見ている。


 視線をこんなにもはっきりと実感するとは思わなかった。チクリチクリと、針が刺さるかのように痛い。


 私が一向にパフォーマンスをしないものだから、館内が静まり返っている。


 とてつもない緊張感であった。呼吸すらできない。冷汗が噴き出る。心臓が激しく脈打つ。


(そうだ。きらきら星)


 歌えと言われたのを、私はようやく思い出した。恐る恐るマイクに口を近づける。


「ぁっ……」


 私のか細い声が、私だけに届いた。マイクのスイッチが入っていなかった。私は慌ててスイッチを入れる。


「っ……」


 変な電源の入り方をしてしまったのか、マイクが盛大にハウリングした。聞き苦しい音が館内をつんざく。


(まずい。どうしよう)


 私は周囲を見る。生徒たちは先ほどよりも訝し気に私を見ていた。どよめきがこちらにも聞こえてくる。


「さっさとやれよーっ!」


 煽る者まで現れた。


 なんて勝手な奴らだろう。そもそも、生徒が二人死んでいるのに、どうして楽しもうとしているのか。


 私は生徒たちを見る。みんな狂っている。こんな奴らのために、私が身体を張って楽しませる必要があるのか。


 なんで私はここに立っているのだろう。環奈が死んで、解放されると思ったのに。


 環奈(かんな)とは、去年私をいじめていた生徒だ。環奈と沙織と取り巻き。その三人で私をいじめていた。環奈がその三人の中でリーダー格の存在だ。その環奈が、事故で亡くなった。


 いじめは一旦は止まった。しかし環奈が死んで少し日数が経った後に、沙織と取り巻きが私へのいじめを再開した。リーダー格の環奈が死んだことで、いじめはなくなると思ったのに。


 じろりと、睨むように私は生徒たちを見る。


 なんでこいつらは、助けてくれなかったのだろう。私がいじめられていることは、みんな知っていたくせに。


 私に何もしてくれなかった癖に、私に楽しませろと要求してくる。


「早くしろよ!」


 怒号が響く。なんて図々しい。本当にむかつく。


(全部ぶち壊しちゃおうかしら)


 そんな悪魔の囁きが、心の奥底から聞こえてきた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ