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08 今後の予定

 俺は、誠心誠意、全力で罪を償うつもりだ。

 だから、可能な範囲での難題なお願いでも必ず引き受けるつもりでいた。

 それは目の前にいる彼女以外も例外ではない。

 そう、例外ではないのだが—————


 「・・・学校? 俺が学校に通う必要があるのでしょうか? もっと奴隷のように扱ってもらっていいんですが・・・」

 「君は私を何だと思ってるの・・・。こう見えても、私は「天霊勇者」なんだけど?」

 「いや、どう見ても「天霊勇者」にしか見えないのですが・・・」

 「あら、嬉しいこと言ってくれるのね。それは誉め言葉として受け取っときます」


 一目見た時から、彼女が「女神」のように大変美しく見えたのだから、誉め言葉以外の何ものでもないのだが、まあいい。

 俺は脱線した話を元に戻そうと、再び彼女に問う。


 「それで、どうして俺が学校に行く必要があるのでしょうか?」

 「何でって、そんなの一つしかないじゃない—————」


 すると彼女は手を放し、ビシッと俺の眉間に人差し指を向けてくる。


 「今の君の力じゃあ、罪滅ぼしするどころか人を傷つけちゃうでしょ? だから、力を扱えるように何かしらのきっかけを作りやすい環境が必要ってわけ!」

 「なるほど、それで学校に通えと・・・」


 彼女が俺を学校に通わせようとする理由は分かった。

 だけど、今の俺には学校に通うに届かない最大の問題がある。


 「俺、今お金持ってないんですけど・・・もし学校に通うなら両親に相談した方が—————」

 「ああ、それだけはやめた方が良いよ」


 俺の言葉を遮るように、彼女はすぐさま口を開く。

 先ほどの眩しい表情は跡形もなく消え去り、深刻そうな表情を浮かべている。


 「あの、何でやめた方が良いんですか? 学校に通うのって学費とか教材費とか色々掛かりますよね?」

 「確かに掛かってくるけど、今の状況的にもし帰ったら君、間違いなく殺されるよ」

 「こ、ころ!?」


 突然飛び出した不穏な単語に、つい動揺してしまう。

 それから彼女は、今起こってる状況を事細かく説明してくれた。


 「当たり前でしょ、君は一つの大国とそこの住民を皆殺しにした大悪党なんだから。恐らく、今頃は親の元で調査を行っているだろうね」

 「そ、それって! 俺の親が今、危険な目に遭ってるってことですか!?」

 「え、何でそんな話になるのよ」

 「だって、父さんや母さんも俺と同じ悪魔だと思われてもおかしくないじゃないですか!」


 俺が「聖霊解放石」を破壊した直後、なぜかシビアも悪魔の疑いを掛けられたのだ。

 シビアと同じくらい近しい間柄である両親も、悪魔の疑いを掛けられても別に不思議な話ではない。


 「あー、そういうことね。それなら心配しなくても大丈夫だよ」


 俺の言い分を理解した彼女は、すかさず言葉を綴る。


 「君の両親が異能調査したのは、多分四十年以上の前のことでしょ? その間に何も問題を起こしていないのなら、絶対に殺されたりなんかしないよ」

 「そ、そうなんですか・・・?」

 「そうだよ。まあ、君が戻ったらまた別の話なんだけどね」


 彼女の言う通り、今戻ったらそれこそ両親の身に危険が及んでしまう。

 だとしたら、俺は故郷に戻らない選択を必然的に取るしかないわけで、


 「ということは、頑張って学費を稼いで学校に入学しろ、ということですか?」


 学校に入学するには、それなりにお金が掛かってくる。

 無一文となれば、相当な労働時間を費やさなければならない。

 普通なら、悪夢のような現状に眩暈を起こしてその場で両膝を折ってしまうところだが、今の俺は普通とは違う。

 俺が犯してしまった罪に比べれば、労働という対価はあまりにも安すぎるからだ。

 初めての労働で不安なところは多々あるが、頑張って乗り切るしかない。

 だが、そう意気込む俺を彼女は否定する。


 「金銭面では何も問題ないよ」

 「え、いやいや、さすがに援助してもらうわけにはいきませんよ。自分が招いたことですし・・・」

 「え、私、援助するなんて言ったっけ?」

 「・・・・・・言ってないですね」


 罪を償っていく分には協力するとは言っていたが、金銭面での援助はするとは言っていなかった。

 完全に俺の早とちりだったようだ。

 そうだとしたら、何を根拠に彼女は大丈夫と言ったのか。

 すると彼女は、微笑むように目元を細めながら優しい声色を奏でる。


 「金銭面で何も問題ないって言ったのは、私の学校に優遇処置制度があるからなんだよ。中途入校の際に良い成績を残せたら学費も教材費もタダになるってわけ!」


 なるほど、いわゆる「特待生制度」みたいなものだろうか?

 というか、彼女の発言には一つ問題がある。

 それは説明するまでもなく——————


 「それ、良い成績残せなかったらお金かかるってことですよね?」

 「大丈夫、良い成績残せるように協力してあげるから」


 自信満々に大丈夫と言われても不安でしかない。


 「ちなみに、どんなことするんですか?」

 「基本は戦闘試験だよ。筆記試験とかはないよ!」 

 「不安しかねぇ・・・」


 戦闘試験とか生まれてこの方、ましてや前世でもしたことないのに良い成績を残せるはずがない。

 なら、頑張って労働してる方が断然良かった。

 だけど、そんな不安に満ちる俺を無視して、彼女は話を更に先へ進めて行く。


 「とりあえず、異能な力は封印しておきたいから剣術で試験に臨もっか!」

 「俺、剣なんて一度も振ったことないんですけど・・・」

 「大丈夫、私の知り合いに「剣舞の神継」と呼ばれてる人いるから、その人から教えてもらえばいいんだよ!」

 「不安でしかねぇ・・・」


 聞くからにやばそうな単語が、彼女との会話の中に含まれていた。


 「剣舞の神継」? 十中八九、剣術の達人だろ、それ。


 いきなりそんな大物に剣術を教えてもらっても、自分の身体がついていけるとは考えられなかった。

 でも、異能な力が使えない以上、剣術で試験に臨むしかないのも、また事実だ。


 ここは、わざわざ俺のために剣舞様を紹介してくれた彼女にお礼の一つでも言っておくべきだろう。

 そして俺が口を開こうとした矢先、またしても彼女が不安を煽るような事を言い始める。


 「アルセト=ゴードって言う名前だから、会う前にしっかり覚えておいてね」

 「アルセト=ゴードさん・・・ですか」


 何だか、かなり厳つい名前だな。

 俺は、アルセトさんの剣術訓練にちゃんとついていけるだろうか。


 「それじゃあ、指導者の名前も教えたところでさっそく向かいましょうか」

 「あ、はい、分かりました」

 「あ、そうだ!」


 再び足を前に踏み出そうとしたところで、彼女が何を思い出したかのように声を上げた。


 「どうしたんですか?」

 「指導者の名前を教えたけど、そう言えば君の名前まだ聞いてなかったよね」

 「言われてみればそうですね、俺の名前は—————」


 そう言いかけたところで、一瞬俺の中で迷いが生じた。

 というのも、もしかしたら「マコト」という悪魔の名前が世界中に広がってるのではないかと考えたからだ。

 外見が珍しいというのもあるので、大罪を起こした悪魔だとバレる可能性は十分にあり得る。


 でも、まあ、犯した罪を戒めるように「マコト」と言う名前で生きていくべきだろう——————


 「どうしたの? もしかして名前忘れちゃった?」

 「いや、そうじゃないんですけど・・・」

 「うん? 私から名乗った方が良い感じなのかな?」

 「いや、俺から名乗ります!」

 「あ、そう・・・」


 そして、俺はしばらくの間を置いてから自分の名前を名乗った。


 「——————俺の名前は、誠って言います」

 「マコト・・・・・・ねぇ、一つ聞いていい?」


 彼女は深く考え込んだ後、俺に尋ねてきた。

 まあ、彼女が何を言いたいのかは、ある程度予想がつく。


 「マコトって、もしかして日本から来た人・・・?」

 「まあ、そうですね。向こうで死んで、気がついたらこっちの世界に生まれ変わったみたいな感じです・・・」


 決して間違えたことは言っていない。

 不可解に向こうで死んで、気がついたらこっちの世界に生まれ変わってたんだから断じて間違えたことは言っていない。

 彼女は豹変したかのように、興奮気味に口を開く。


 「やっぱりそうだったんだ! 黒髪って言ったら「大和なでしこ」って感じだもんね!」

 「えっと、そういう理屈だと、あなたはアメリカとかカナダとか出身なんですか?」

 「かなり惜しいね。私は日本人とアメリカ人のハーフなんだよね〜」


 そして彼女は綴るように名前を名乗った。


 「名前は、美代里って言うの!」

 「ミヨリさん・・・それじゃあ、これからミヨリさんと呼ばせてもらいますね?」

 「もう、ミヨリさんじゃなくて、ミヨリでいいってば~」


 クスクスと笑う彼女は、この世の人とは思えないほど美しく、そして眩しかった。

 そんな彼女を見ても何とか会話できているのは、シビアという美少女幼馴染がいたからだ。

 前世の俺だったら、ろくに会話もできなかっただろうに。


 「それじゃあ、改めてよろしくね。マコト」


 そう言って彼女は手を差し出してくる。

 まあ、握手を拒否する理由もないだろう。

 俺は差し出された彼女の手を優しく握り返す。


 「こちらこそよろしくお願いします、ミヨリさん」

 「まあ、ミヨリさんでもいいか! それじゃあさっそく向かうとしましょうか!」


 そして俺は、なぜか彼女と手を繋いだまま目的地へと向かって行くのだった。




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