1.3
「あなたは誰ですか? 私のオーナーかコンダクターはどちらにいますか?」
問いかけにジョニーは驚きと戸惑いが混ざったまま答える。
「俺の名前はジョニー・グラント。俺はただの通りすがりでオーナーだのコンダクターだの全く知らない」
彼女は微笑んだまま
「ではオーナーかコンダクターがどこにいるか教えてください。ジョニーさんが起動できたのなら近くにいるはずです」
と返す。
「俺が起きた時には周りには誰もいなかった。しかし、ここまでくるまでに俺やあんたのような耳当て人間は5人いた。そいつらのことか?」
「……アクティブドールのことですか? アクティブドールはオーナーにもコンダクターにもなれません。ジョニーさんは人間の干渉を受けずに起動したのですか?」
ジョニーは混乱した。自分を含む耳当て人間はアクティブドールという存在らしいが、『ドール』とつくからにはマネキン人形のようなものだろうか。しかし自分は人間であるし『起動する』とも言わない。彼女はきっと勘違いをしているのではないか。背後の窓に映る耳当てがついた自分の姿とPL-2003を交互に見比べた。
「待て、俺は人間……」
彼がそう説明しようとした時、
「さっきから何を話している?」
部屋の入り口に白衣を着た女が立っていた。この施設の持ち主だろうか、しかしながら豊満なバストが見えるくらい胸元が開いたセーター、左が短く右が長いズボンと研究者らしからぬ格好をである。ジョニーとPL-2003を交互に見ると、不敵な笑みを浮かべる。
「異常起動したドールが二体か……いい収穫ね」
女の背後にアクティブドールの男達が並ぶ。
「ガーデナー、奴らを起動した状態のまま確保せよ」
男達は早々に部屋に入ると二人を組み伏せた。
「ちょっと待ってくれ! 一体どういうことだ!」
ジョニーが激しく抵抗するも固く掴まれた腕は全く動かない。一方、PL-2003は抵抗することなく女の方を見据えていた。まるで自分に意思などないように。
「あなたのような良い子は好きよ。でも」
ねっとりとした女の目線が、PL-2003からジョニーに移る。
「悪い子も好き。ただただ従順だけじゃつまらないもの。だから、最後にとっておくわね」
左足に巻いたホルスターから手に収まるサイズの機械を取り出し、PL-2003に近づく。
「その子に何をする気だ!」
ジョニーの叫びを無視して女は機械からコードを引っ張り出すと、先端を彼女の耳当て下部に差し込んだ。すると描かれた青い円が緑に変色した。
「管理端末に接続しました。……オーナー及びコンダクターを葉室スミレに登録。……登録が完了しました。何なりとお申し付けください、スミレ様」
拘束が解かれたPL-2003は、コードを外し立ち上がると微笑んだ。耳当ての円はいつの間にか青に戻っている。
「次はあなたね」
スミレはジョニーにも嬉しそうに近づく。新しいおもちゃを見つけた子供と同じ足取りだった。
「やめろ! そもそも一体何なんだそれは!? それで何をする気だ!?」
「つべこべ言わない」
しゃがみ込み、彼の耳当てにコードを差し込んだ。威勢を張ったジョニーは糸が切れた人形のように地面にくずおれる。