1.2
今いる建物の構造についてわかったことは何点かある。一つはワンフロアに部屋は四つで、その全てがなんらかの機械が並ぶ研究室のような体裁であること、そして
「またいたか、耳当て人間」
ジョニーと同じようにパジャマに黒い円が描かれた白い耳当てをつけた人間が、必ず部屋の中央にある台の上で眠っていた。
「今度はずいぶん若い奴だな」
眠っている少女に近づく。体格や顔つきに幼さが残っているが、特段変わったところがない普通の少女だった。ふと彼は彼女の手を握った。
「ん?」
柔らかな手触りと感触が伝わるも、人間の体温より冷たく感じる。ジョニーは微妙に感じ取った違和感の正体を探るべく、今度は少女の脈を測る。
「死んでいる……」
強張った表情のまま目線を少女の手首から顔に向ける。彼女は依然として安らかな顔をして眠っているが、その顔の裏にどんな出来事があるかは計り知れない。彼は優しく
「……今度は沢山の人間に看取られながら逝けるといいんだが」
と言い彼女の頬に触れる。すると、耳当てに描かれている円が黒色から青色に変化し
「PL-2003の起動プログラムを実行します。各駆動機関の動作確認……正常。伝送速度……正常。緊急出力装置……正常。出力を標準レベル3に固定します」
と丸みと甘みの帯びた高い声が部屋に響いた。死人がいきなり喋り始めたことに、ジョニーは驚愕して少女から距離をとった。
「CPUの動作確認……正常。メモリへのアクセス速度……正常。すべてのチェック項目に異常はありません。起動します」
そして少女は徐に目を開き、起き上がると
「おはようございます。PL-2003はただいま起動しました」
と微笑んだ。ジョニーはただただ固まって見つめるしかなかった。