第8話 元カノと決別し幼馴染みの元へ向かう……。
一度、小百合から俺が拒否されどうなることかと思ったけど、幸いまだ小百合と一緒に帰る日は続いている。
そういえば、一つ聞いておかなければいけないことがある。
俺は……丁度小百合と再会した駅に着き、歩き始めた時に本題を切り出す。
「なあ、答えたくなかったらいいけど、小百合が好きな人って——」
誰? と言いかけたとき、ピンポンとスマホにメッセージが届く音がした。
「光君、何か連絡が来たみたいだよ」
「別にいいよ。今は小百合と話していたいし」
「重要なことかも。私のことはいいから、確認してみて?」
俺は小百合に促されるまま、スマホを確認する。
確かにメッセージが1件と表示されており、差出人は——絵里だった。
【ねえ、まだ帰ってないの? 今家の前だけど——会いたくなって来ちゃった】
俺はメッセージを確認して、一瞬の躊躇の後スマホを閉じた。
「光くん? 大丈夫?」
「うん。問題無いよ。たいした用事じゃないから」
「そうなんだね。で、あのね、今日友達の万莉ちゃんがね——」
しばらく後、再度スマホにメッセージが届いた。
またしても小百合が確認しなよと言い、俺はそれに従う。
【細川君? また、私としたかったらしてもいいから、早く帰ってきて……】
今度は迷わない。
俺はスマホを閉じ、電源を切った。
「光くん、ほんとに大丈夫?」
「うん。問題無い。俺は……小百合と一緒にいたい」
「私と? じゃあ……相手は——もしかして元カノさん?」
これが女性の勘というやつなのだろうか?
それとも俺を観察していれば誰でも分かることなのだろうか?
「う、うん……」
「返事をしてあげないと……返事を待っているんでしょう?」
「そうなんだが……今日は小百合と一緒にいたい。できれば、小百合の家で話したい」
そう言うと、ぱっと顔を明るくする小百合。
だけどすぐ真剣な表情に変わる。
「ダメ。ちゃんと話をしてきて?」
「……小百合? どうして?」
「分かってる……光くんは優しいんだって。だからね、なおさら——」
小百合はそこで言葉を詰まらせる。
彼女の中でも心が揺れているように思う。
でも、いつも俺を優先し、自分の気持ちを抑えてきた小百合が行けと言っている。
「分かった。一回話してケリを付けてくる」
「……うん。しっかりね」
「あのさ、小百合……小百合には、好きな人がいるって言うの承知で言うんだけど……」
「えっ?」
「俺、小百合のことが好きだ。元カノのこと全部ケリ付けておくから……俺のこと、考えてくれると嬉しい!」
小百合は顔を上げ、俺を見つめた。
口元がかすかに動く。
しかし、それが声になることはなかった。
俺は小百合が「私も好き」と口を動かしたように感じた。
これは自惚れじゃない。
あまりに嬉しくて……俺は泣きそうになる。
でもまだ早い。
「小百合は先に家に帰っていてくれ!」
俺は小百合に言い、走り出した。
全ては、ケリを付けてからだ。
俺の家の前着くと、首元にシップを貼った絵里が待っていた。
痣が増え、今では太ももなど隠せない位置にちらほら見えている。
「もう、やっと来た」
「絵里……。その姿は……?」
痛々しい傷が増えている。
顔は前みたいに腫れておらず、不思議と綺麗だったが。
「ねえ、細川君。また私を前みたいに——」
「ごめん、それは無理」
「どうして? もしかして——彼女でもできた?」
「いや、まだだけど。ただ、絵里より大切な人ができたから」
「やっぱり……本当だったんだ。でも、まだ付き合ってないんでしょう?」
そう言って、あからさまに胸を俺の腕にくっつける絵里。
俺は彼女をやんわりと引き剥がす。
「ごめんな。もう無理だ」
「どうして? 私じゃあダメなの?」
「そうだ。俺のことがダメだって別れたのは、絵里の方じゃないか」
「う……。そ、それはそうだけど」
「あの時、どれだけ辛かったか。本気で好きだったのに」
通行人が少ないの幸いだった。
俺の家の前なので、俺はできるだけ穏便に済ませたい。
こうやって言い合っているところは、あまり人に見られたくないな。
「それは、細川君が……頼りなくて」
「じゃあ、頼りがいがあるバスケ部の男の元に行けばいいじゃないか」
「どうしてそれを……それに、あの人は暴力を……」
なるほど、やっぱり絵里の傷は今の彼氏から受けたものだったか。
でも、そんな彼氏を選んだのは絵理なんだし。
「じゃあ、俺は何なの? そのカレシとつけられた傷を癒やす役目か?」
「そんなワケじゃないけど……細川君の優しさがやっとわかったっていうか……」
「今さら。もう遅いよ……。どうして付き合っている間に分からなかったの? 俺の何を見ていたんだよ」
だんだん腹が立ってきた。
きっと、この人は同じ事を何度も繰り返すのだろう。
俺のような役目をしているのは、俺以外にもいるかもしれない。
「っ。だから、今は分かるから……許して……」
絵里は泣き始めた。
しかしその涙を見ても、俺は心を動かされなかった。
今は……ただ一人、小百合のために。
俺はとっても冷たいヤツかもしれない。
「だから、もう無理だよ。全てが遅すぎた。もう帰ってくれ」
「細川……くん?」
「じゃあな」
「いやぁぁぁぁぁ。そんな……待って……!」
俺は、彼女に背を向けて歩き出した。
縋ってきたら振り払うつもりだったが……幸いそれはなかった。
早速、小百合と通話をする。
お互いに照れながら、でも少し嬉しくて、泣きそうな……そんな声で話した。
「全部ケリがついたよ」
「うん」
「今……どこにいる?」
「まだ駅だよ。待ってるね」
小百合はもう泣いているような声になっていた。
でも、それは決して悲しみによるものではなかった。
嬉しくて、喜ぶような。
しかし。
「……きゃっ?」
「ん? どうした?」
プツッ。
小百合との通話が唐突に切れてしまった。
何かあったのか?
嫌な予感がする。俺は小百合がいた駅に向かって走り始めた。
一体何事だ?
走っている最中、スマホに通話があった。
山本からだ。
「どうした?」
「千石さんが、どこかの生徒だと思うが、数人の男に連れて行かれるのを見た。とりあえず追いかける。川崎駅だ。細川も早く来い!」
山本の声だ。
それだけで、通話は切れてしまった。
いやな予感が的中した。
でも、山本の声に俺は励まされる。
川崎駅はさっき小百合と話していた駅だし、五分ほど走れば着くだろう。
なんとなく見当はついているが、誰であろうと小百合に手を出すヤツは許さない。
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