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第5話 幼馴染み ——千石小百合視点


「なあ、君……西高だっけ? ヒマだろ? これから遊ばない?」



 私は男の人が苦手。

 今だって、こうやって腕を掴まれ、何かよくないことをされそうな予感がしている。 


 どうしよう? どうやって逃げよう?


 そう思って周りを見渡すと、見覚えのある男の子が見えた。

 細川光ひかる君。私の幼馴染みだ。


 光君が住んでいる家と私の家の距離は、だいたい歩いて十分くらい。

 親同士が仲が良く、私たちも一緒によく遊んでいた。


 幼馴染み。そんな関係で小学校中学校と過ごして同じ高校に進学した。

 彼はバスケに打ち込み、次第に会うこともなくなった。


 そのまま、なんとなく話さなくなって三年経ってしまった。

 彼はバスケ部で活躍し、私はその様子を横から眺めていた。


 私は親と遠出したときにスカウトされて読者モデルをはじめた。


 しかし長くは続かず辞めてしまった。

 同じクラスの友達にはもったないと言われた。

 自分に自信を持たない者がやるのも悪いと思ったのだ。


 読者モデルはいい経験になったのだけど、時々知らない人から声をかけられるようになった。

 女の子ならともかく、知らない男の人だとさすがに怖い。

 次第に私は男の人が怖くなってきて、できるだけ隠れるように歩くようになっていた。




「そうやって、つれなくしなくてもいいと思うけど? 彼氏でもいるの?」



 ——今だって、高校生とはいえ体も大きく力がある男子に腕を掴まれ動けなくなっている。


 光君に助けを求めようか?


 もし、私のことを忘れていたら?

 そもそも、迷惑をかけていいのかな?


 私が光君に頼るのを諦めようとしたとき。 

 絶望しつつある私に、聞き覚えのある懐かしい声が聞こえた。



「小百合、何してんだ?」



 その声の響きは、まるで天から届いたかのように私の心を震わせる。



「光君!」



 私は無我夢中で見知らぬ男たちの手を振りほどき、彼の元に走った。


 彼を怖いとは全く思わなかった。

 幼馴染みとしての付き合いか、それとも私の中にある彼の無邪気な笑顔がそうさせたのか。


 光君は、体もすっかり大きくなって、背も高くなっていることを改めて実感する。

 以前と変わらない穏やかな性格を懐かしく思う。


 男の子に告白されるたび、私の頭に光君の顔がよぎった。

 申し訳ないと思いつつもいつも断ってきた。



 でも、彼には、よその学校に彼女がいたんだっけ。

 私は知ったとき涙が止まらなかった。


 ——幼馴染みを取られた。


 喪失感とは別の、少し強い感情が私の中にあったことに、ようやく気付く。

 その正体は……嫉妬?


 もっと話を続けたら、その答えが分かるのかもしれない。


 その日、彼と一緒に帰る時いろいろな話をした。

 近況や家族のこと、友達のこと、自分のこと。

 随分話をしていないのに、まるで昨日まで仲良くしていたような、不思議な感覚だった。



「光くんは彼女いるんだよね?」



 私は確認する意味で聞いてみた。



「んー。いたけどちょっと前に別れて今はいないよ」



 光君は彼女と別れていた。

 悪いことを聞いたなという思いはあった。

 だけど、なにか胸のつっかえが落ちるような、喜ぶような感情が私の中に生まれた。


 ——最低だ。


 まるで別れたという事実を歓迎するような私の気持ち。

 光君はとても辛かったろうに……悲しかったろうに。


 その気持ちを思えば、私だって泣けてくる。

 でも、もう一人の私が……嬉しいと安堵している。


 ——私は最低な女だ。


 人の不幸を嬉しいと思ってしまった。


 光君には……もっと素敵な女性がふさわしいのかもしれない。

 こんな愚劣な感情を抱く私よりも、きっと良い人がいる。


 今後も、光君を側で見ているだけにしよう。

 少し距離を置いて。

 とりあえず、光君に彼女がいない今だけ、頼っていこう。



 たぶん私は、彼のことが好きなのだ。

 子供の頃からずっと。



「今さらだよね」



 だからこそ、できるだけ早く身を引こう。

 諦められなくなる前に——。


 でも、もう手遅れかも知れないけれど。


 それなら私はずっと、彼を胸に抱いて一人で生きていくだけなのだ。



お読みいただきありがとうございます。

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