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番外編 不能(前編) ——角田視点


 その日——。


 俺は細川の女……千石小百合とかいう女をとある駅で待ち伏せていた。

 以前同期のバスケ部員たちが出会った場所だ。

 その駅の近くは住宅街と工場が建ち並ぶ地域がある。


 工場の方には、俺らが悪さをする……遊び場があった。

 俺の叔父が持つ工場だ。

 許可は取っているわけじゃないが、別に構わないだろう。



 女が駅から出てきたと同期が教えてくれた。



「角田、あの女だ」


「細川はいないようだな」



 最近ずっと一緒に下校していたらしいが、幸い周囲に細川の姿が見えなかった。

 今日は絵里が会いに行くと言っていたし、丁度よかった。



「やあ、また会ったな」


「あなたたち、この前の……! いや、離して!」


「ちょっと話がしたくてな。細川についての」


「えっ?」



 細川の名前を出すと大人しくなる。

 この女にとって、よほど大切な存在なのか。


 最初は少し脅してそれで終わりにするつもりだった。

 しかし、俺が見た写真より実物は随分印象が違う。


 絵里と違った清楚さを感じさせる。

顔は高三というのに幼さを残している。


 スタイルは良く、スカートから伸びる足は細く白い。

 制服を整えて着こなし、お淑やかなお嬢様といった感じだ。


 こんな清楚系はあまり経験がない。

 絵里と違った良さがありそうだ。


 俺の欲情を刺激するのは十分な容姿だった。最上級の上玉だ。

 俺は心の中で舌なめずりをする。



「すまんな、こいつらは他の所に行かせるから、とりあえず場所を変えて話そう」


「ここじゃダメですか?」


「悪くないけど、体も冷えるだろう。それに、このままだと細川が危ないかも知れない」


「えっ……? で……でも」


「いいからいいから」



 俺はその女の腕を掴み引っ張る。

 抵抗はしているものの、細川の名前を出したのが効いたようで、反抗する力が弱まっている。


 いや、そもそも体力がないのだ。

 所詮は女。


 腕を引っ張り続けるとすぐに疲れが見えはじめ、次第に抵抗が弱くなっている。

 周囲に人影はなく、俺たちの邪魔をするものはいなかった。



「はぁ……引っ張らないで……ください。はぁ……はぁ」



 それに。

 引っ張ったことで乱れたブラウスを気にする仕草といい、胸元を隠そうとする仕草といい……ずいぶん初々しい。

 やはりコイツはまだ処女なのでは?


 あくまで想像でしかなかったが、下半身が疼くのを感じる。




「じゃあ、ここでゆっくり話そう」



 工場の一角に用意された休憩室に連れ込む。


 しかし書類などがあるわけではなく、少しがらんとしている。

 テーブルの他には椅子が数脚、そして部屋の隅に宿直用のベッドが置いてある。



「はぁ、はぁ……話すことなんて……」



 女は未だに抵抗しているが、もうほとんど力が入っていない。

 頬が少し赤くなり、汗をかいたのか、髪の毛がやや乱れていてその様子がそそる。


 俺以外には、バスケ部の同期が三人。

 こいつらは、サユリの体をなめ回すように見つめている。



「だから、話をするだけだって」



 いいつつも、女をベッドに突き飛ばすと、後ずさりしゃがみ込んだ。

 仲間にスマホで撮影させる。まずは一枚。


 カシャッ。


 シャッター音に反応し、それを睨むサユリ。

 次に女のブレザーを剥ぎ取った。



「きゃっ。何を——」



 上着がないと絵里ほど胸が大きくないのがよく分かる。

 とはいえ、標準よりは大きいだろう。十分な大きさだ。


 俺の視線に恥じらうその姿がたまらない。


 スカートからのぞく太ももや、シャンプーか何かの良い香りに混ざるわずかな汗が香る。

 それは、他の女との情事を思い出させた。


 すかさず腕を持っていたハンカチで両手首を後ろ手で縛り、靴を脱がす。

 そして写真を撮る。二枚目だ。


 この女はどんな具合だろうか?

 もう俺は止まれなくなっていた。



「角田、やっちゃおうぜ」


「そうだな、まずは俺が味見する」


「チッ、しょうがないか。じゃあ俺たちはゆっくり鑑賞させてもらうぜ」



 俺はサユリに近づいた。



「やだ……」



 ブラウスのボタンに手をけようとしたとき、バン! という大きな音が部屋に響く。


 音の方向を向くと、ドアを開け、学生服を着た男が部屋に入ってきたところだった。

 ここは知らぬ者が勝手に入ってくるような場所ではない。


 だとしたら……着いてきた? この女の知り合いか?

 どこかで見たことがある顔だが……。



「おい、こんな所に連れ込んで……どういうつもりだ?」


「お前こそ、無断で入ってくるとは、誰だ?」


「千石さん、もうすこしで細川も来る。今助け——」



 全部言い終わる前に近づき奴の顔面を殴る。

 先手必勝だ。


 手応えはあったが、やつは倒れなかった。



「山本君……!」



 サユリが叫んだ。やはり知り合いか。

 名前にも聞き覚えがあるが……。


 ドタドタと二人ほど男が入ってきた。

 状況が一変する。


 俺たちはにらみ合い、膠着状態になった。


 そこにもう一人……男が入ってきた。


 ——入ってきたのだが、次の瞬間俺は後ろに倒れて頭を打ち、衝撃で目が眩む。

 頭の痛みとは別に、股間に鈍い痛みが体を侵すように腹に伝わっていく。



「う……が……」



 な、なんだ?

 痛い。鋭い痛みと鈍い痛み、両方が俺を襲う。

 両手で押さえると多少は収まるが、焼け石に水で耐え難い苦痛が襲ってくる。


 怒りで頭に血が登るのを感じるが、激痛に思うように体が動かない。

 呼吸もうまくできず、やや苦しい。


 そういえば女はどうなった? 入ってきた男は?

 女がいた方向を見ると、細川が女を抱え俺を睨んでいる。

 俺は、コイツに倒されたのか?


 続けてウーという低いが聞こる。

 サイレンが鳴り響きパトカーらしき音が近づいてくる。

 いったい何が起こっているのか、俺が理解したのは警官に支えられパトカーに乗ってからだった。



 車の中でも苦しみは続く。

 警官が心配し声をかけてくれるのだが、腹が痛いとしか言えなかった。

 股間から伝わるのは、痛みと、また一方で麻痺したかのような違和感。


 俺は今、額に脂汗を浮かべて、とても情けない顔をしているのだろう。

 一体どうして……俺が女に欲情し、気を抜いたのがマズかったのか……?

 考えようとするが、痛みがそれを邪魔をする。




 警察署に着き、時間をかけてパトカーから降り話を聞かれた。

 まさか、あの程度で監禁や誘拐の容疑をかけられるとは思わなかった。

 だが、俺はまだ高校生だ。

 どうせたいしたお咎めはないだろう。

 ……そう思っていた。



 警察署で事情を聞かれ一晩を過ごし……翌日親に迎えに来てもらって、俺はさんざん叱られた。

 あの女……千石に対し手首を縛っていたことは事実で、それはかなり俺の状況を悪くしたらしい。

 だが、直接的な暴力などを振るっていないのがまだ救いだった。

 もう少しあの男たちが遅く、千石に手を出していたら間違い無く逮捕されていただろう。


 高校は一旦二週間の停学という連絡があった。

 大学推薦の話も全て立ち消えてしまった。


 さらに、警察からはまた呼び出しがあるということだ。

 俺は親の監視下におかれ、外出もままならない。



「クソっ」



 あの山本とかいう男や細川がいなければ……こんなことに……。

 女も俺のモノにできたかもしれないのに。

 悔しい思いが頭に渦巻く。


 復讐しに行こうかとも考えたが、しかし、体がイマイチ本調子ではない。

 このままでは返り討ちにされるのが関の山だろう。



 ピンポーン。



 インターフォンの音が聞こえる。

 俺の部屋のドアを開けやってきたのは絵里だ。

 久しぶりに見る顔だった。


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[一言] 脅迫と拘束しているから未成年者略取の誘拐罪or強姦未遂と退学?100%説教では終わらないわな。
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