エピローグ 幼馴染みに思いを告白して。
絵里に決別を告げた日。
スマホに絵里からメッセージが届いていた。
そのどれもが、会いたいとか、考え直して欲しいとかいうものだ。
俺は、どれも断ると返信をする。
しかしキリが無いので、もうやめて欲しい旨返信をした。
「今後、連絡してくるのはやめてほしい」
「やだ。どうして? 話を聞いてくれないの?」
「話を聞いてくれないのは絵里の方だよ。俺には好きな人がいるから。もう絵里には返事できない」
「そんな」
「じゃあ、これが最後にするし、アドレスは削除する。さよなら、絵里」
「やだ、やだああああ」
メッセージを送り終わると、絵里の連絡先を全てブロックし削除した。
連絡が来ることは、もうないだろう。
もし家まで絵里が来るようなことがあれば、厳しい対処をしていくしかない。
帰りの車の中で、父さんは仕事の話は気にするなといってくれた。
今後は直接やりとりするので、息子や娘を介すことは決してしないようにと念を押してくれたのだそうだ。
詳しいことは教えてくれなかったけど、仕事の面でもある程度区切りをつけるということのようだ。
次の日。
帰り際に、いつものように小百合を迎えに行く。
彼女のクラスメートたちは俺の姿を見ると、小百合に伝えてくれるようになった。
「小百合、彼氏が来たわよ」
「付き合ってないし……幼馴染みだよ」
そう言って、友達に挨拶をして俺の元にやって来る小百合。
同じやり取りを毎回していて笑いそうになる。
「光くん、おまたせ」
「じゃあ、帰ろうか」
「うん!」
どちらともなく、手を繫いだ。
すると、俺たちの後ろから声が聞こえる。
「あれでつきあってないって、嘘でしょ?」
幾度も聞く言葉にプレッシャーを感じてしまう。
絵里のことも片付いた。
いよいよ俺もはっきりすべきなのだろう。
☆☆☆☆☆☆
俺は次の休日に、小百合を呼び出した。
彼女は弾むように「いいよ!」と返事をしてくれた。
久しぶりに二人でショッピングモールに行き、買い物をしたり、食事をしたり、遊んだりして過ごす。
「光くん、こうやって遊ぶのも久しぶりだね」
「そうだな。また来よう……いつでも」
「うん」
俺たちは手を繫いだまま、歩き続けた。
ショッピングモールを出る。
そして帰りのバスに乗りって……降りてから少し歩く。
「光くん、どこに行くの?」
「うーん、ちょっと懐かしいところに」
「あ……。うん」
なんとなく察した小百合が頷く。
そこは、近所の海岸だった。
秋が近い夕方の海。
他の人はおらず、俺たち二人きりになった。
「ここ、本当は遊泳禁止なのに泳いだりしたなぁ」
「そうだね。もうそんな勇気はないよね」
「ああ」
告白なんて簡単なものだと思っていた。
多分、小百合も俺のことが好きで、自分ももちろんそうで。
言葉にすることで「つきあう」という約束をする。
ただ、それだけだと思っていた。
「小百合……」
「うん?」
隣で同じ方向を見ていた小百合の方に俺が向くと、彼女も向かい合ってくれた。
でも、小百合の瞳を見つめると言葉が出て来ない。
心臓が高鳴り、冷や汗をかいてくるのが分かる。
俺は緊張しているのだ。
俺は小百合との関係が変わるのが怖いのだ。
つきあうことで変わってしまうこと。
失うものがあることが。
「光くん、ちょっと寒くない?」
「あ、ごめん……帰ろうか?」
「ううん。私は平気だけど、光くんの顔色がよくないような気がして」
そうか。
小百合はいつも、こうやって俺のことをよく見てくれていたのかも知れない。
俺は、彼女の握ったままの右手を俺のコートのポケットに入れた。
「あったかい……」
「小百合の手の方が温かいかも」
「今はそうかも」
「なあ……」
変わることがあっても、小百合は、本質的なところは変わらないのだろう。
改めてそう思った。
何も怖がる必要は無いのだと気付く。
俺は言葉を絞り出した。
「小百合……大好きだ。付き合ってほしい」
俺はようやく、その言葉を発することができた。
「私も、光くんのことが……大好き」
「じゃあ……」
「うん、私でよかったら、お付き合いしてもらえると嬉しい」
「う、うう……うん……あーよかったああ!」
俺は緊張の糸が切れ、大きな声を上げてしまった。
そんな俺を見て小百合が少し笑っている。
「ふふっ」
「あ、笑ったな?」
「うん……だって光くん、ずっと怖い顔してたんだもん。緊張してたのは私もだよ」
「そ、そうか」
俺は小百合を引き寄せた。
「多分、光くんから見たら私は子供で……頼りないと思うけど頑張るから」
小百合は震える声でそう言って、俺を抱き締めてくれた。
子供というのは絵里と比べてそう思っているのだろうか。
経験があるとかないとか、彼女なりに感じていたのだろうか。
そんなこと、些細な事だし気にする必要なんか無いんだけどな。
少なくとも比べるようなことではない。
「小百合は自然にして欲しい。無理に合わせようとか考える必要は無いから。
それが、俺が好きになった……幼馴染みの小百合だから」
「あぁ……嬉しい……うん。わかった」
小百合はとても嬉しそうに頷いた。
瞳に少しだけキラリと光るものが見えたような気がした。
それがどんな気持ちなのか、未熟な俺にはまだ分からない。
「それで……その、結婚を視野に入れてつきあえたら」
「もう。光くんったら。気が早いよ?」
青臭い俺のセリフに、満更でもなさそうな小百合だった。
俺たちは、そのまま互いの温もりを感じて家路につく。
手を繫いで、昔こうやって二人で歩いていたことを思い出しながら。
互いの変化が、よいものとなりますように。
そう祈りながら。
お読みいただきありがとうございます。次話が最終話となります。
その後は、後日談を描いていく予定です。
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