ソリッド
この記録は、とある女性の取り調べの内容である。
その女性は殺人を犯し、1985年に逮捕された。同年、女性は留置場で何者かによって殺害された。
女性を殺害した犯人は、2020年現在、不明である。
「名前、住所、えー……あと生年月日と……なんだこれ、あぁ、備考欄か。まあ、とりあえず答えて」
「……水水 水子と申します。1955年、生まれた日は……いつだったかしら。確かに覚えていたのだけれど……忘れてしまいました。あと住所でしたっけ? 住所は……ありません、家は取り壊されてしまって」
「あぁ、そう。というか、水水……これ苗字? みずみずって読むんだね、そのままだね」
「珍しい苗字でしょう? でも私の両親は、何故かさらに私の名前に水の字を入れて……」
「まあ、それはおいといて。今回、水子さんが何故逮捕されたのか、分かる?」
「私、人を殺したんだもの。逮捕されて当然だわ」
「誰を殺したの」
「昔、同じ学校に通ってた……同級生。私より可愛い子で、素敵な子だったわ。性格も良くて、とてもいい子で。私も大好きだったの」
「なんで殺したの? えーっと……ホテルの舞踏会で……?」
「はい、トイレで……彼女の耳に隠し持ってたアイスピックを刺して……」
「アイスピックはどこから?」
「カウンターで盗んだの。直前にお酒を飲んでて。氷を頼んだ時にバーテンダーさんが使ってたから」
「何のお酒?」
「バーボン」
「で……もう一回聞くけど、なんで殺したの?」
「あの子、舞踏会でドレスを汚されたの。無作法な男が居てね。その男が彼女をトイレに連れ込もうとして、わざとお酒をドレスにかけたの」
「トイレで……汚れを取るとか言って?」
「そう、染みになっちゃうからって。彼女も押しに弱いから、ついて行っちゃったわ。その様子を私はカウンターで見てて、心配になって見に行ったの」
「それで?」
「彼女、男の人に乱暴されてたわ。だから私、普通にトイレに入るフリをして邪魔したの。そしたら男はアッサリ逃げちゃって。彼女は泣いてたわ。よほど怖かったんでしょうね」
「……で、水子さんは……どうしたの?」
「彼女を慰めたわ。もうずっと私が傍にいるから、大丈夫だからって」
「うん、でさ、さっきから俺、なんで殺したのって聞いてるんだけど……全く見えてこないんだよね。彼女を殺す理由が」
「あら、今言ったじゃない。ずっと、私が傍にいるからって」
「……えっと、ごめん、意味が……」
「だから、刑事さん。この女、ずっと私と一緒に居てくれるって言ったのよ」