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悪役令嬢は安眠したい。  作者: まるめぐ
第一章
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59 塔での真実

 メイド達は私に用事だったのかしら。なら先回りして部屋に戻ってた方が良かった?

 ああでも私が居ても居なくても、部屋に行くならウィリアムのお昼寝タイムの邪魔になるわね。はあ、何かごめんウィリアム。

 そんな事を思いつつ背凭れが欲しくなって傍の木に背中を預けた。

 そっと目を閉じれば、(まぶた)の裏には日暮れに近い陽光が木漏れ日となってゆらゆら揺れる。人間暖かな場所で楽な姿勢でいると、頼まれなくても眠くなってくるものよね。散々寝たのに人体って不思議。

 ああいい気持ち~。でも暗くなって涼しくなる前に部屋に戻らないと風邪引いちゃうから、マジ寝だけはしないようにしなきゃ。

 あとどれくらいここに隠れてればいいかなーなんて考えていると、聴覚がガサリと近くの茂みを掻き分ける音を捉えた。

 薄らと瞼を開けその方向を見やれば、無理に茂みを突っ切ってきた焦り顔のウィリアムが傍にドンと振動が響く強さで膝を突く。


「大丈夫かアイリス!」

「……へ?」


 目を白黒させていると、彼の目に(いぶか)りが生じた。


「具合が悪くなったんじゃないのか?」

「え? ううん、ただ眠くて」


 ウィリアムはポカンとして一瞬無防備な顔を晒した。だけどすぐに表情を戻すと片手で自らの額を覆って深い溜息を落とす。


「何だ……何ともないならいい」


 もしかして勘違いされちゃった?


「ごめんなさい。ホントに何ともないから」

「そのようだな。メイド達が部屋に押し掛けてきて目を覚ましたが、君が居なくてとても焦った。これでも結構捜したんだぞ」

「あ、やっぱり私の部屋に行ったのね」

「知っていたのか」

「ええ、ちょっと見掛けて……」


 この肯定は明らかに私が避けて隠れました~って白状してるも同然で、多少気まずい。


「ホホホ、私に何か文句でも言いに来たのかしら?」

「俺に用事だったみたいだ。どうにか本邸の方に連れ戻そうって意気込んでいたな。俺が昼以降ずっとこっちに居座ってたのが駄目なんだと」

「ああ、彼女達ニコルちゃんとあなたの応援隊だものねー」

「正直もういい加減にしてほしいんだがな。それにもう追い返したから安心してくれ」

「あ、そうなの、ありがと」


 思わず乾いた笑いが漏れた。

 でもこの人お昼くらいからずっと居てくれたんだ?

 いつぞやみたいに長椅子に横になって体を休めてれば良かったのに、人の心配ばっかなんだから。


「ところでどうして黙って出て行ったんだ。起こしてくれて良かったのに」

「えーと、忍びなくて」

「まさかその出歩くのに非常識な恰好でいるのも、俺を起こさないようにって思ったからか?」

「え、まあ……あなたお疲れモードみたいだもの」

「あのなあ、俺はそんな(やわ)じゃない」

「呆れた。そうやって自分は何事もなく平気ですーみたいな態度頂けないわ。ホント迷惑だからやめて」

「迷惑だって?」

「そうよ」


 ウィリアムは明らかに気分を害したようだけど、それはこっちもだわ。


「ニコルちゃんから聞いたの、あなたのこと」

「……そうか」


 別段驚くでも得意気になるでもなくウィリアムは淡々と返してきた。


「ちょっと、だからそのスカした態度は何なのよ。あなたってホント馬鹿」

「何だと?」

「だってそうじゃない。塔から飛び降りた私を救ったのは一から十まで鳥さんみたいな言い方して手柄を全部譲ったでしょ。そんなあなたの自己満足嬉しくないわよ。私それ聞いた時疑いもせずああそうなんだって納得しちゃったじゃない!」


 あの時、不死鳥を助けたいって願って実際にそれが成功した後、細い意識で落ちながらも私はウィリアムに抱き締められているような気がしていた。


 それが勘違いじゃなかったって知った時は……複雑だったけど正直嬉しくもあったわ。


 ニコルちゃんが一番乗りで本邸に駆け付けた時、ウィリアムは無傷の私を護るように抱きしめたまま、近くの外壁に背を凭れていたみたい。

 不死鳥はその時には一旦精霊界に帰っていたらしくてその場にはいなかったみたいだけど、ウィリアムは自己治癒魔法を使えないくらいに体力を消耗していて酷い有り様だったって聞いた。体中あちこち酷く火傷してたってニコルちゃんが言っていたわ。

 その原因なんて一つしかない。


 この人は無謀にも、私に続いて塔から飛び降りて私を捕まえてくれた。


 不死鳥も私を包み込んでくれたみたいだから、その時炎の羽毛に彼だけ焼かれたのよ。

 魔法で落下の衝撃から護ってくれたのもきっと彼。

 不死鳥に私を任せて傍から離れても良かったのよ。そうしてくれてたら怪我なんてしなかったはずなのに、この人はそうしなかった。

 魔力が枯渇同然の状態で私達を浮かせながら超強力な不死鳥の炎を防御しようだなんて、いくら何でも考えなしが過ぎるわよ。


「人的被害はなかったって言ってたお父様はそこまで知らないみたいだったし、ニコルちゃんから聞かなかったらずっと知らずにいたじゃない。私に感謝もさせてくれないわけ? 助けてもらったのに、私を恩知らずにしたいわけ?」


 詰りの色を濃くして、人差し指で句読点ごとにウィリアムの胸を突いてやった。

 彼はやめろって不快にするでもなく、私からの咎め立てを黙って受け入れている。


「もし一歩間違えば、もしニコルちゃんの到着が物凄く遅かったら、私よりもあなたがどうなってたかわからなかったのよ……ッ」


 涙が滲みそうになったけど、ギリリと犬歯を剥き出すようにして食いしばった。一日にそう何度も泣いてられないわ。


「そんなつもりはなかった。君がそんな顔をするだろうから言いたくなかったんだよ。変に気に病むだろ」

「だからって……!」

「それに、無様にへばってましたなんて、好きな相手に知られたくない。カッコ付けたいお年頃なんだ」

「お年頃って……。でも、え? 好きな相手……って?」


 キョトンとする私へとウィリアムは片眉と片頬を器用にヒク付かせた。

 話の流れ的に誰を指しているのかわからなくはないけど、私に迫ってくるのってちょっと雑に言えば体裁を整える必要があるから私の身柄が必要ってだけで、ついでに言えば私が元のアイリスじゃないとか言い出したから興味が湧いただけでしょう?


「だってあなた前にこの婚約婚姻は王族の義務って言い切ってたし、友情的な何かくらいは芽生えてるかもしれないけど、恋愛感情はさすがにないって思ってた。……違うの?」


 真剣に悩んだ私の前で、ウィリアムは何故か半笑いで脱力した。しかも両手まで地面に突いて項垂れる。


「……そうだった。君はこっちの思惑の遥か斜め上を行く人だった」

「え、だ、大丈夫? ……っていうか遥か斜め上って、それ私が見当違いなことしかしないって意味? 失礼しちゃうわね」

「でもそこがまた楽しいんだけどな」

「どこが楽しいのよ! 全く、変な人ね。やっぱり無理が祟ってるんじゃない。早く部屋に戻って休んだ方がいいわよ」


 私の気遣いに気を取り直したのか何なのか、彼はようやく顔を上げると私の隣に腰を下ろした。


「戻らないの?」

「ちょっと休息」

「あのねえ、疲れてるなら早く部屋に戻りなさいってば! さっきの日記とのおふざけだってまだ赦したわけじゃないのよ。くっ付いてこないで」

「断る。君が一緒なら戻る」

「ちょっと、小さい子みたいな我が儘言わないで頂戴」

「我が儘、か。そういえば生まれて今まで、誰かに我が儘なんて言ったことはなかったな」

「そうなの? あなたどれだけ大人びた子供だったのよ」


 澄ました顔付きで妙に大人な振る舞いをする幼いこの人の姿を想像したら、何だか微笑ましくなっちゃったわ。ついつい怒りも忘れてくすりとしちゃって慌てて手で口元を押さえれば、庭先の臨時お隣さんは勘良く察したのか「諸事情で大人びるしかなかったからな」って柔らかな微苦笑を浮かべた。

 ……正直馬鹿にされたとでも思ってムッとするかと思ったから、胸を不意撃ちされた気分だわ。


 だけど諸事情って?


 何でもない草木を眺め、小さくないけど小さいって自身に言い聞かせた動揺を紛らせつつ、まあここも多少はのんびりできるし彼を無理に戻らせなくてもいいかななんて譲歩する。向こうの方もそこは察したみたい。

 黙って三角座りに座り直した私は、両膝の上に腕を組んでその上に頭を載せてウィリアムの方を見つめた。


「ねえ、ありがと」

「……そのことはもういいよ。こっちこそさっきは悪かった」

「私も、そのことはもういいわよ」

「いいのか?」

「いいの。ありがと」

「だからそれはもういいと…」

「別のありがとうよ」

「何だそれは……」


 ウィリアムは公の晩餐の席で何かキテレツな料理でも食べたように微かに顔をしかめた。

 きっと彼からしたら意味不明だろうけど、これは言うべき感謝の言葉なのよ。


「魔法石のことよ」

「俺が渡した?」

「そう。鳥さんも確かに私を癒して現世に繋ぎ止めてくれたけど、でもやっぱり一番はあなたの魔法石のおかげなの。魔法石の強力な治癒のおかげで意識を消失しないでいられたから、鳥さんのために魔法も使えて結果的に助かったのよ。魔法石がなかったらそういう道筋は辿れずにとっくに死んでたと思う。だからあなたには本当に感謝してるのよ。だからのありがと」


 真摯(しんし)に告げる私へと、ウィリアムは「なるほど」と口にしつつ、どこか私を責めたいのを堪えるような目をした。後戻りのできない際どい綱渡りをした私を叱りたそうね。もしかすると私が魔法石を求めた真意に辿り着いたのかもしれない。

 だけど彼はその刺々した気配も解いてどこか労うのにも似た色を浮かべた。


「皆のためだからって、もうあんな向こう見ずな真似は二度とするなよ。けどまあ君が勇敢だったから最小被害で済んだ。そこは国家級の称賛に値する」

「……私だってあんな体験二度としたくないわ。だからあなたにもその言葉をそっくりそのまま返すわ。無茶しないでよね。……心配、させないで」


 最後は褒めてくれたウィリアムとは違って終始不満に口を尖らせれば、彼は瞬きを挟んでから少しだけばつの悪そうな笑みを形作った。

 無茶した反省はしてるのね。よしよし。

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