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悪役令嬢は安眠したい。  作者: まるめぐ
第一章
43/133

42 倒れたニコル1

「アイリス~、起きなよアイリス~」


 頬をぺちぺち叩いてくる何かがいる。


「ねえってばアイリス~。このまま眠り姫でいて爆発に巻き込まれて永遠の眠りに就くつもりなの~?」


 え、何よそれ……?

 爆発だなんて物騒ね。日本じゃほぼほぼ考えられない…………ん?

 眠い頭で考えていた私はバチッと音がしそうな勢いで上下の(まぶた)を押し開げた。


「ってここ異世界よ!」


 頬を押さえて慌ててガバリと身を起こした私は、天蓋付きのベッドから即座に出る。

 部屋をきょろきょろと見回してみたけどウィリアムの姿はない。


「あれ? ウィリアムは?」

「君を眠らせて早々に出てったよ~?」


 急に起き上がった私を器用に避けて、ベッドを降りたのに合わせてふよふよと後ろを付いてきた日記へ問えば、そんな答えが返った。

 ここに寝かせてくれたのはまあいいとして、やっぱり予告なしで魔法を使われたのは面白くない。加えて、ウィリアムは私が目を覚ますまではこの部屋に居ると思ってたから、姿がないのには些か肩すかしを食らった気分だった。


「はいこれ。ころころ転がってくから失くさないようにね~?」

「え? あ……魔法石。ありがと」


 日記からビー玉より少し大きい綺麗な球体を受け取った。

 そうだった。睡魔に呑まれる直前まで手に持ってたのよね。

 うっかり寝ている間に失くさなくて良かった~。日記もたまには気が利くのね。


「全くあの男ってば人に眠りの魔法を使っておいて、自分は早朝にもう活動開始してるとか何なの。こっちだって心配するってのよね、そう思わない?」

「男はカッコ付けなんだよ~」

「ホントその通りよ」


 悪口を言いつつ壁時計で時間を確認するとまだ午前中だったし、念のため日記に確認すれば、何日もぐーすか寝ていたわけでもなかったから安心した。

 けど、ウィリアムがいつ戻ってくるかはわからない。


「ねえ日記、彼が戻るまで待ってるよりは行動あるのみだと思うんだけど、どう思う?」

「どうって……まさかアイリス、本邸に潜入する気?」

「察しが良いわね!」


 息巻く私を日記はいつものスポンジ何ちゃらの半眼じゃなく、驚いたような目で見てくる。


「元のアイリスに負けず劣らず君も結構行動派なんだね~」

「うふふっこれでも伊達に前世持ちじゃないの。前バージョンには負けないわ」


 冗談めかしてウインクすれば今度はスポンジ何ちゃらの半眼をされた。

 これでもアイリスって美少女なのよ、ちょっとはドキッとするとかないの? まっでも紙に人間の色恋を求めちゃ駄目か。

 ニコルちゃんみたいにメイド服を着ようかと思ったけど、探す時間が惜しいしそもそも置いてあるかもわからないから定番の黒ドレスで行くしかないわね。

 ちょっと重たいけど我慢して日記を小脇に抱えて部屋を出る。


「えーどうしてボクまで~?」

「私のNPCなんだから当然じゃない。大体道案内もなしに行くと思ったの? 本邸に行ったらニコルちゃんの部屋の場所教えなさいよ?」

「ハイハイ」


 本当に役に立つのかはさておき、連れて行かないよりはマシよね。

 誰も居ない離れを一階まで下りて玄関に差し掛かった時だった。

 あら不思議、雑談をしていた日記が急に喋らなくなったじゃないの。


「ちょっと日記?」


 振っても叩いても顔と手足を消した日記はうんともすんとも言わない。

 これはもしかして誰かが近くにいるの?

 今までの日記の行動パターンからその法則を導いていた私が立ち止まった矢先。


 バーンと玄関扉が乱暴に開かれた。


 こんな風に扉の強度とか建て付けを考えずに開くのは、勿論彼女たちしかいない。


「え……ど、どうしたのあなたたち?」


 びっくりして戸惑った私の目の前には、ニコルちゃん付きのメイドたちがはあはあと肩で息を切らせて立っている。数人の手には食事の載ったトレーが。


「ああ、私の朝食……じゃないもう昼食よね」

「はい。ウィリアム様の従僕から言伝てを頂きましたので、仕方がなく」


 初対面時から一番偉そうだったリーダー格のメイドがしれっとして言った。

 ……仕方がないとか本人に言うなんて、ホントふてぶてしいくらいに正直ね。

 でもハッキリ言って食欲がない。自分でも空腹なのは気付いてたけど食べようって気にならなかったのは懸念すべき事案が大き過ぎて気持ちの余裕がない証拠だわ。

 だけど脱走場面を見られなくてよかった~。

 一応離れにも門があって、そこには見張りがいるらしいから、どこか木に登ったり生垣に穴でも開けて抜け出そうって思ってたのよね。そこを見られたらアウトだった。


「ところでウィリアム様はどちらに?」

「彼なら本邸の方に行っているはずだけど」


 彼女たちの運んできた量を見るとなるほど二人分だわ。

 私の言葉にメイドたちは何故か驚きに顔を歪めた。


「そんな……行き違い……。本当に本邸の方に? 嘘ではございませんね?」

「本当よ。見かけてない? まあそりゃ本邸はここよりも建物自体が大きいだろうし、人一人見かけなくても不思議はないとは思うけど」

「皆、すぐに戻るわよ!」


 リーダーの号令に従ってその他のメイドが「はい!」と揃った返事を上げて踵を返す。トレーを手にしたままで。


「えっちょっと私の食事は!?」


 ハッとしてトレーを持っていた数人の子が戻って来て、玄関脇の小さなテーブルに全部を置くとまたわらわらと去っていこうとする。


「待って待ってあなたたち! どうしたの? 何かあった?」


 ただならぬ雰囲気だったから思わず外まで追い掛けると、最後尾のメイドが泣きそうな顔で教えてくれた。


「ニコルさまがお倒れに……っ」

「え? ニコルちゃんが!? 具合は?」


 そこまで尋ねたところでリーダーメイドが「お黙りなさい!」と鋭く叫んだ。


「す、すみません!」


 教えてくれた十代半ばだろう若いメイドが慌てて謝ったけど、うっかり私も「すいません」って言う所だったわ。だって剣幕が半端なかったもの。あと若そうなのに貫禄も。


「この方に余計な事を告げなくて宜しい。どうせニコル様を貶める策ばかりお考えでしょうからね!」

「は、はいすみません! 以後気を付けます!」


 すっかり恐縮して頭を下げる年若いメイドの姿を視界に収める私は、自然と険しい表情になっていたみたい。私の方を見ていた他のメイドたちが何だか気まずげな顔になった。


「勝手に決め付けないで頂戴。以前はどうあれ、私はニコルちゃんを貶めようなんて思ってないわ。一体彼女に何があったの? ちゃんと教えなさい」


 私からのはっきりした命令に、一瞬反論を言い淀んだものの、強気にもリーダーメイドはこっちに進み出て立ちはだかるようにした。


「その言葉を信じろと仰るのですか?」

「あなたに信じてもらわなくてもいいわ」

「なっ……!」

「だから早く言いなさい? ニコルちゃんに何があったの?」


 少し待ったけど、誰も何も答えなかった。


「さあ皆急いで戻るわよ。とんだ無駄足でしたしね」


 しかも何と失礼にも私を無視して、更には嫌味まで口にしてそのまま立ち去ろうとするじゃない。

 さすがにこれにはカッチーンときた。人を纏める者としてどうなのよその態度。


「止まりなさい」


 声を荒らげたわけじゃないけど、良く通った。

 超絶上からなウィリアムを真似たからかしらね、ホホホッ。


「ニコルちゃん――ニコルは、あなたたちのじゃなく、私……わたくしの妹よ? しかも離れに捨て置かれていようとあなたたちとわたくし、どちらが身分が上かは当然わかっているわよね? わからないのなら一から叩き込んで差し上げますわよ、このわたくしが直々にね」


 台詞の中の「わたくし」という部分を殊更強調してやった。

 ついでに邪悪にほくそ笑みもした。


「わかったのなら、わかった者からこっちに来て並びなさい。わたくしに話しても無駄かどうかはあなたたちが判断する事じゃないわ。ニコルのためにもね」


 ピッと伸ばした人差し指で示したこっちってのは私の側のスペース。

 今は物理的にも感情的にも対峙する立ち位置にいるメイドたちの意思を目に見える形で表明させるってわけ。へへへ誰が裏切り者か明確に……ってそうじゃないそうじゃない。

 別に私に心酔して欲しいわけじゃない。そんなのはこっちから願い下げだし。

 情報さえ得られてこっちに有利に事が運べばいいだけよ。

 一人も寝返らなければそれはそれで勝手にしようかしらって感じだけど、きっとこの小さな賭けは私の勝ちだ。


 ニコルちゃんのため。

 身分の上下。


 きっとそこの部分で彼女たちは大なり小なり心が揺れるはず。

 今まで自分はそこまで性格が悪いとは思ってなかったけど、何だこれなら私も悪役令嬢を普通にできそうね。まあ余り嬉しい発見じゃないけども。

 案の定効果はあった。

 使用人として染みついている性なのか、彼女たちはおずおずと一人また一人と、敢えて不機嫌丸出しで腕組みする私の横に並んだ。年長のメイドもとうとう私の鋭い蔑みの視線に堪えかねてか一番最後にはなったけど観念した。でも意地なのか動かずその場で控えるようにやや頭を下げただけでこっち側には並ばなかったけど。

 そうして齎された情報に、私の心には暗澹(あんたん)たるものが広がった。


 ――ニコルちゃんは何らかの悪しき魔法の影響で倒れた。


 何らかの……だなんて、彼女が現在積極的に関わっていて、尚且つ本邸にも関わる良くない魔法なんて私には一つしか思い浮かばない。

 ああそうか、だから彼女はウィリアムの前に姿を見せなかったのね。

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