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悪役令嬢は安眠したい。  作者: まるめぐ
第一章
19/133

18 やっぱりウィリアム・マクガフィンは侮れない

「そうか、嘗めたのか」

「う、うん。落として欠けちゃった部分をね。捨てるのは忍びなくて……」

「…………」

「…………」


 室内に微妙な沈黙が訪れる。

 その間言わずもがなで私は居た堪れなかったけど、ウィリアムは妙に緩慢な動作で眉間を解している。

 ええいもう、気が済むまでどうぞごゆっくり揉んで下さいよ。

 うわーこいつ食い意地張ってんなーって引かれるのは仕方ないにしても、無言はやめてほしい。

 まあでも今は乙女心にダメージを食らって落ち込んでる暇はないのよ。

 だって嘗めちゃいけない物を嘗めちゃったんだもの!


「ね、ねえ私はどうしたらいいの? それを粉々にして下水に流しちゃえば大元消失で無効化されるとか?」


 私は哀れなチワワ犬のような目をしていたと思う。

 だけど途中でそれじゃいけないというか自分自身に癪だと腹が立った。


「何か適切な方法があるなら教えて。自分でできることはやるから」


 死んで堪るかと自身を奮い立たせ気丈にも顎を引けば、ウィリアムはさも意外そうにひらりと(まぶた)を瞬かせた。

 ふふん、昨日みたいにどうしようもなくなって鼻汁垂らして助けを乞うだけだと思ったら大間違いよ。泣き顔がかかか可愛いなんて思わせないんだから。

 打開策や回避策があるなら自分で試さず降参なんて、冗談じゃない。


「生憎、今更この飴玉をどうこうしても、既に取り込まれた分の発火魔法は働くだろう」

「そんなあ~。じゃあ緩和とか解除は?」

「できない」

「そそそんなあ~、じゃあ座して死ぬのを待てって言うの!? そんなのイヤーッ!」


 朝っぱらから伯爵令嬢らしからぬ形相で取り乱して右往左往していると、伸びてきたウィリアムの手が両肩を押さえた。


「落ち着け。死ぬわけじゃない。体内にある分は極々僅かだろうから、発動してもおそらくは内臓の一部に火傷をするとか高熱に見舞われるくらいだろう」


 私はもう何度目かの聞き捨てならない台詞に血相を変えてくわっと目を見開いた。


「内臓……って大変じゃない! 普通そんなとこに火傷しないもの。高熱にしたって楽観視できないわよ。上がり過ぎれば死ぬし!」

「ああそうだな」

「さらっとし過ぎ! ああでもそれよりそうなったら凄く痛かったり苦しかったりするのかな、私やっぱり死亡フラグ回避不能なの……!?」


 詰んだ……。

 第二の人生完全詰んだわこれ……。

 悲観して涙目になってふるふると頭を振っていると、ウィリアムが至って冷静な声で言う。


「だから少し落ち着けと」

「これが落ち着いていられるわけ? あなたは他人事だからそんな無神経なことが言えるのよ!」


 やっぱりこいつって人として冷めてるんだわ。

 だからって半泣きで八つ当たりしていいってことにはならないけど。


「君は死なない。――俺がいる」


 脱力した。


「あなたが居たって何がどうなるってのよ。解除できないんでしょう?」

「その点は捨て置く」

「捨て置く!?」

「そうだ。未然に防ぐ方法よりも事後にどうケアするかに重点を置こうと思う。内臓に怪我があっても治癒魔法で治してやるから安心しろ」


 そうだった。失念してた。彼にはそんな魔法も使えるんだったわ。


「ってちょっと待って。私が酷い思いするのは避けられないってことでしょ。そんなの全然嬉しくないわよ!」

「少し我慢するだけだ。痛みはすぐに消える」

「鬼畜ーッ!」


 腹が立ってポカポカ叩いてやろうと拳を振り上げれば、その両手首を軽々と掴まれた。


「どうとでも言え。俺は、――君を死なせない」


 思いのほか強い宣言と眼差しに、一瞬呆けたように相手を見据えた。

 ああきっと美形の殺し文句ってきっとこういうのを言うんだわ。

 でも迂闊(うかつ)にトキめいたら相手の思う壺よ……とか言ってるけど弱ってるせいかちょっとドキリとした。


「君には聞きたいことがあるしな」

「私に? 何を?」

「この件が片付いたら改めて話したい。それまではいい」

「え、いいのそれで? ここで聞いてくれれば答えるけど」

「重要事を目の前にして余計な事に気を取られてしまうのは避けたい。目下最優先すべきは君の命の安全だからな」

「まああなたがいいならそれでいいけど」


 でもそれって裏を返せば気を取られるくらい気になってるって意味よね。本当に何だろう?

 瞬いて不思議そうに首を傾げる私が少し落ち着いたとみたのか、彼はようやく手を離してくれると、一度室内へと視線を巡らせた。


「一先ずはこの部屋に仕掛けられていた魔法具は全て見つけ出したから、安心して良い。飴の件は多少気に掛かるが、それ以外は大きな心配はないと思う」


 安心って、でもそれは魔法絡み限定よね。魔法じゃない爆薬とか爆弾があってもおかしくないんじゃないの? だって日記には飴ももう一着の発火ドレスも記述は一切なかったから、同じく書かれてないその手の危険物があっても何ら不思議じゃない。心配し過ぎって思われるかもしれないけど、念には念を入れて何ぼよね。


「ね、ねえもし科学的な時限式の爆発物なんかがあった場合は?」

「観念するしかない」

「そんな殺生なあ~~ッ」

「冗談だよ。探索系の魔法を駆使して何としてでも取り除く」

「そういう冗談ホント今はいいから!」


 部屋に仕掛けられた罠がこれで全部かまだわからないから、今夜も変わらず気は抜けない。だって爆発するかもしれないんだもの。魔法具をみても発動時間にきっちりしているようだから仮に爆薬があってもやっぱり深夜〇時に爆発するんだと思う。そして私はその場所に転送される。

 正直言えば、単なる爆発物ならこの一秒後だって爆発の可能性はあるけど、イレギュラーまで考えてたら怖くて一歩だって動けなくなる。賭けの要素もあるけど考えないようにした。


「あのー、ウィリアム様にお願いが……深夜〇時頃になったら様子を見に来てほしいんだけど」

「それは言われなくとも。出来るだけ君といるようにすべきだと俺もそう考えていたし」

「あ、そうなんだ? 何だか悪いわね」

「自分の未来の妻を護るのは当然だろう? 気にしなくていい」

「……ならないってば」


 さほど強い口調ではなかったからか、ウィリアムは上機嫌に唇の片端を持ち上げると、どこか揶揄(からか)いの気配を漂わせて身を屈めてきた。そうすれば必然顔が近くなる。


「そういうわけだから、俺もこの離れで寝起きする」

「…………はい?」

「聞こえなかったか? この部屋で寝泊まりする」


 しばし、開いた口が塞がらなかった。


「いっいやいやいやいや。そんなのまたメイド達がバーンとやって来ちゃうじゃない。冗談抜きで今度こそ扉が壊れそうよ……って、あれ? そう言えば今更だけどガラスも絨毯も直ってる。魔法でやってくれたの?」

「ああ。この部屋で快適に生活を送るためには、焦げ臭いのも隙間風が入るのも嫌だろう?」

「ハイハイそれはあなたがって意味でしょ」

「一緒に過ごす君も同じだろう。そんなにムキになるなよ」

「なるわよ!」


 頭くるわね。どうして私が我が儘みたいな言われようなの。

 不機嫌に押し黙ってしまえば、向こうはやれやれと息を吐き落とした。


「人の手で修繕するのは時間が掛かるし、この離れに不用意に業者の者を入れるのは、巻き込む危険もあるから宜しくないだろう? 責めるより感謝してほしいものだな」

「うっ、確かに本邸ごと吹っ飛ぶ最終兵器より前に、この離れが木っ端同然になる危険な仕掛けも施されているみたいだし、変に刺激したりしたら間違ってドカーンてことも……。そう考えれば助かったわ。ありがとう。でもそれとこれとは別よ」

「少々不可解なんだが、狙われている身で、君はどうしてそんなに詳しいんだ?」

「えっ……。そそそそれはまあ秘密の情報源があって」


 今度はウィリアムの方が無言になった。


「……アイリス嬢、君の命を護るためにも、もう少し詳しく情報を共有した方が良さそうだな」


 言外にこっちの不完全な情報開示を知って不満だと示したウィリアムは、大きく開いたままだった白シャツの前部分を留めると、昨日貸してくれたジレを身に着けた。勿論湿っていたのはすっかり乾いている。


「それじゃあ、こっちにも支度があるから一旦失礼するよ。朝食後にまた来る」

「えっちょっと勝手に決めないでよ!」

「ああそうだ、これらは俺が責任を持って処分する」

「ちょっと話聞けコラァーッ!」


 私の文句を流しつつ、回収した魔法具を持ってウィリアムはさっさと部屋を出て行った。

 処分してくれるのは助かったけど、全然気は休まらない。


 だって同室なんて、そんなの絶っっっ対安眠できないでしょ!!

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