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悪役令嬢は安眠したい。  作者: まるめぐ
第一章
13/133

12 深夜の魔法使い3

 利用されるのが嫌?

 ああなるほど、この人プライド高そうだしね。


「まあねぇ、確かにああも簡単に水を操るとか、ちゅーしなきゃいけないとは言え治癒能力なんてあると、農家とか病院とかに引っ張りだこよね」

「……気が抜けるくらいに平和な発想だな」

「あらどうも、いいじゃない平和な方が。でもわかったわ、助けてもらった恩もあるから言わないでいてあげる。安心して」


 そう腹に力を込めて約束すれば、ウィリアムは不遜にも私の顎先を指で掬った。


「恩を感じてくれているなら、結婚してくれ」

「それとこれとはべ・つ!」


 内心のまご付きを隠しハエを払うように彼の手を手でのけてやったけど、意にも介してなさそうね。

 だけど秘密なのに、彼は私のピンチに魔法を使ってくれたのよね。

 魔法使いだって明かしてもくれた。

 正体が露見したのは私を助けるためになし崩しと言うか仕方がなかったのかもしれないけど、強引な口止めをしてくる様子もない。

 内緒にするって私の言葉を信じてくれたの?

 そう思ったら少し好感度が上がった気がする。


「その、一先ず服を着たいからちょっと出ててくれない?」


 私が一時的な退室を願えば、彼は意外にも文句も言わず従った。

 俺に遠慮せず着替えろ……なんて言われたらどうしようかと思ってたから良かったわ。

 私に疲労の色が見えたからか、話を早く進めたかったからかはわからないけど。


 長い髪を悠長に乾かすこともせず、吟味もせず手に取った新たな下着とブラックドレスに急いで着替えて再び部屋の扉を開ければ、彼は私が入室を促すまでもなく長い脚で進み入った。昼間も腰かけた長椅子に陣取って、そこが特等席とでも言わんばかりにね。発火場所に近いのに長椅子ってばまるで彼のために奇跡的に炎や水濡れを免れて無事だったみたいだわ。


「生粋の上級貴族ってもしかして皆あなたみたいなわけ? ホント何様俺様ウィリアム様なんだから」

「何だそれは」


 ウィリアムの我が物顔さに入口の所で呆気に取られていた私も、遅ればせながら彼の向かいの長椅子に腰を下ろした。家具の配置換えはしてないから間には昼間同様ローテーブルがある。でも今は無用のテーブルね。お茶やお茶菓子で持て成せる状況じゃない。


「まあいいか。さて、何から説明してくれるんだ?」


 鷹揚と言うよりは偉っそうな公爵家の王子様は、澄ました顔をこっちに向けた。

 そんな視線を受け止めて、私は居住まいを正して腕を組む。


「その前に、あなたこそ説明して」

「俺?」

「そうよ。どうしてこの時間にバルコニーに居たの?」


 実は彼が登場した時から頭の片隅でずっと疑問だったのよね。


 わざわざ深夜〇時近くの非常識な時間に、人の、しかもレディの部屋のバルコニーから入ってくるなんてどう考えてもおかしい。


 普通だったら不審者扱いで通報ものよ。

 この人魔法使いみたいだからもしかしたら検知の魔法か何かで私の窮地を察したのかもしれないけど、それにしたって彼の泊まっているローゼンバーグ家の本邸からこの離れまで来るには走ったって時間が掛かるはず。

 死亡フラグ発動の兆候が出てからじゃ間に合わないと思う。


 つまり、まるで潜んでいたとしか思えないくらいに到着が不自然に早過ぎる。


 潜むなんて言い方は犯罪者臭いから千歩くらい譲って良心的に考えて、ちょうどここに到着した直後だったとしても、どうしてバルコニーから突入なの、そもそもどうして私の部屋に来たのって話でしょ。彼にはアイリスの仕掛けた魔法の件はまだ話していないのに。


「どうしてって、そりゃあ――夜這いしに来たからだ。昼間は随分とつれなくされ、終いには部屋から追い出されたからな」

「ああそう夜這い、夜這いね、なら納得ね」


 美貌の青年は何でもないことみたいにさらっと口にした。

 極々普通の会話っぽくてだから私もついつい普通に返して……。


「――――ってなるかあああ!」

「適切なツッコミ御苦労様だな」


 やっぱり声だけはしれっとして言って、ウィリアムは意味深な流し目を送ってきた。

 ああくっそー、美形はそれでも絵になるわ!


「何で夜這いなんて?」

「君と結婚するためだ。手っ取り早くたぶらかそうかと」

「は!?」

「俺の男の魅力に絆される可能性に賭けようと思った」

「何じゃそりゃあああ! 自意識過じょ……ぅでもないけど、話し合いするって言ったでしょ!」

「平行線が目に見えてるだろう?」

「うぐっ、そもそもそんな姑息な手を使ってまで結婚したいとかどうかしてる!」

「アイリス嬢、そっくり同じ言葉を返そう」

「うぐっ」


 ああもう元祖の方の悪行を引き合いに出されると、体は同じなだけに反論できない。

 それに今の私の顔付きの顔面偏差値はお笑い芸人の変顔レベルで大変な事になってそうよ。

 折角の良い素材なのに……。


「本当にあなたの中でどういう風が吹いちゃってるの? アイリスに興味なかったのに」

「以前はな。でも急に興味が湧いた」


 興味って何、益々意味不明なんですけど。

 私だろうと元のだろうとアイリス・ローゼンバーグの持つ外面的な一切は何一つ変わっていない。


「中身が前と違うからと言えば伝わるか?」

「は……」

「君を知りたい。君というアイリス・ローゼンバーグを」

「え……私……?」


 偽りではなさそうな声音と存外真面目な双眸に、こっちも神妙な面持ちになってしまった。

 しばしお互いに無言だったけど、ウィリアムから注がれる眼差しには、私の何かを探し出して暴こうとするかのような不思議な熱を感じて、ドキリとした。


「――話を戻そう。君は魔法使いに会いたいと言っていたな」


 戸惑っていたら、脚を組みかえたウィリアムからそれまでの会話をあっさりとどこか遠くに蹴られた。

 何よ、今の冗談だったの……?

 腹立たしくなったけど、予期せず妙な雰囲気になりかけてたからホッとはした。


「ええ、会いたいわ」

「それは何故なんだ?」


 直球で尋ねられて、その勢いに何となく気圧される。

 答えずにいたら、再度問うでもなく彼は話を続けた。


「炎魔法で燃え落ちたドレスの他にも、君はその場から動けなかった。束縛魔法も重ねられていた」

「もしかしてそれも解いてくれたの?」

「いや、ドレスを剥いだら勝手に解けた。おそらくは要となるドレスに付随した連動魔法だったんだろう」

「ほーなるほどー」


 魔法使用の云々にはまだ詳しくないけど、それでも素人が聞いても筋が通っている説明に感心していると、椅子から身を乗り出すようにしたウィリアムが膝の上に肘を置いて、その先で両手の指を組んでみせた。


「――君は誰かに命を狙われているのか?」

「それは……」


 ええ、ええ、前の自分に狙われてるわよ。

 両手に花ならぬ死神って感じで身の危険がわんさと纏わり付いてるわよ。

 けど言えない。故・元祖ちゃんが魔法自殺を画策してま~すなんて、口が裂けても言えやしない。だって魔法に関わったら牢屋行きなんでしょ?

 そこをどうにか伏せたまま協力してもらうのが一番なんだけど、すぐには上手い誤魔化しを思い付かない。

 でも明らかに図星を指された顔で続く言葉を言い淀んだ様子をどう捉えたのか、彼は両目を猫のように細めた。

 そしてあたかも肩から余計な力を落とすように一つ息を吐く。


「魔法使いが必要なら、ここにいる」

「へ?」

「俺が力になろう」


 別段声を張られたわけでもないのに、私の心に届いた力強い言葉だった。

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