河童の消えた村 その9
家に着くと玄関口に祖母がいた。
「ただいま。」
僕は祖母に声をかけた。祖母はにこにこしていた。
「お帰り。いい話は聞けた?」
「うん。」
「良かったね。」
「じゃあ僕は自分の部屋で自由研究をまとめる作業があるから。」
「そうかい。頑張りなよ。」
「うん。」
そうして僕は2階の自室に向かった。部屋に入ると早速今日聞いた話を含めて収集した話をまとめた。ノートに今までの情報を時代順に書いて感想と分析も付記していく。ある程度進んだところでふと思った。最近はもちろんのこと親の世代の子供時代になると話が一切なくなる。父さん母さんの子供時代には本当に河童に関する話がないのか疑問に思った僕は祖母に聞いてみることにした。祖母は1階でのんびりテレビを見ていた。ニュースを見ているようだ。
「ばあちゃん。」
「なに?」
「河童についてちょっと聞きたいことがあるんだけど。」
僕がそう言うと祖母はテレビの電源を消してこちらを向いた。僕は祖母とテーブルを挟んで向い側に座った。
「で、何を聞きたいんだい?」
「父さんや母さんの子供時代に河童の話ってないの?」
「そういえばないね。」
予測していた通りである。そこで僕は気になることを祖母に聞いた。
「ばあちゃんが知っている一番最近の河童の話ってなに?」
河童の最後が気になるのである。締めくくりはその話にしようと僕は思った。
「そうだねえ。確か目撃談があったね。」
「どんな目撃談?」
「えーと確か川岸をコンクリートで固める工事じっと見ていたというのだね。」
「それだけ?」
「そうだよ。それ以来村に河童を見たという話はなくなったね。」
「この村から離れていったんだね。」
「そうかもね。」
「ありがとう。ばあちゃん。」
僕は祖母に礼を言うと立ち上り自室へと行こうとした。
「宿題頑張りなよ。」
祖母に応援され僕はうんと答えて振り向かずに部屋から出ていった。河童の伝承がなくなる。河童のことを時には畏れ時には親しむ。人間ではないが、どんな神様、妖怪よりもこの村の人々には身近だっのだろうと思う。時には愉快に時には神秘的に時には残酷な話が伝わる人外の神様や妖怪がいるとされた時代の名残だと考えられる。僕は階段を上がりながら河童に関する伝承がなくなるというのは神代の完全な終焉を意味しているように思えた。